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その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第6章【11月・生きたい】
60/124

【9】











「ニーヴ、聞こえているな。ジュリアンと共に核を狙え。グールの動きを止める」


 それ、言っちゃって大丈夫なの。ルーシャンはそう思ったが、黙っておく。後から聞けばいいのだ、後から。

 さて。グールの襲撃時にはアーノルドに連れられてスパイ狩りをしていたらしいニーヴだが、今はきっちり戦力に入っている。これまでは待機だったようだが、メイが待っていた狙撃手がそろったために指示が降りたらしい。

 再び魔術師たちの攻撃。人数が減っているため、飽和攻撃にも限界がある。メイは聖性術師もまとめて飽和攻撃の攻撃手に使っている気がした。実際、そうなのだろう。たぶん、メイの本命はジーンだ。控えとしてジュリアンとニーヴだろうか。これで、三つの核は破壊できる。


 何より、全員がメイの言葉を疑うことなく即座に実行できているのが大きい。情報の伝達速度は速い方がいいのだ。そして、グールもそれをわかっている。


「ナンドモ同じ手ニ引っかかるカ!」


 グールがメイを狙って飛び上がる。というか、さっきから思っていたこのグールは飛べるのだな。グレアムが二つある(と思われる)見えない触手を切り落とした。メイは素早く刀を鞘走らせると右手を大きく引いた。多少攻撃を食らうことは承知のうえで、目の前まできたグールの首の核を正確に貫いた。右手だけでは力が足りなかったのか、両手で押し込んでいる。グールが向かってくる勢いもあったから、完全に突き刺さった。間髪入れずに額の核を銃弾が、左胸の核をニーヴの矢が貫いた。

「!」

 声こそ出なかったが、ルーシャンは歓声を上げた。だが。

「アマク見るナ! 小娘!」

「姉さん!」

 グールがメイの頭を両手でつかんだ。握りつぶそうと言うのだろうか。このグールは正しくわかっている。メイの驚異的なのは力ではなく、その頭だ。


「このバカ! よけろよ!」


 壁を駆けあがってきたジーンがグールの両腕を切り離し、メイの手を上から握って刀を引き抜かせた。ついで魔法攻撃が飛んできて、グールはその場を離れる。ジーンはそのままグールを追って下に飛び降りる。これ、さっきも見たな。


「ね、姉さん!」


 ひとまず、頭の様子を見る。大丈夫そうだ。怪我はない。頭がおかしいのは元からだ。

「あいつ! 核を壊されても死ななかった!」

「三つ以上の核があると言うことだろう。ルー、私は下に行く。お前は巻き込まれないように気をつけろ」

「は!!?」

 止める暇もなく、メイはその場から塀を乗り越えて、ジーンと同じように下に飛び降りた。危なげなく着地し、戦線に参加する。

 肋骨も折れてるし、腕も応急処置なんだぞ、と思いつつも、先ほどに比べて明らかにグールを押しているのが分かった。メイやグレアムに比べて、ジーンは圧倒的に強い。だが、この二人はジーンと合わせてその間隙を埋めるくらいの力量がある。特にメイは攻撃を組むのがうまいのが、素人のルーシャンから見てもわかった。


 先ほどは焦ったが、メイが下に降りたと言うことは、彼女はもうグールを追い詰める気なのだ。メイが指揮をとらなくても、勝てる段階にお膳立てができている。そういう段階なのだ。

 メイの剣技は舞っているようだ。後から聞いたが、メイの剣術は基礎にのっとっている。正統派の剣術なのだそうだ。単純な剣術という範囲なら、メイより美しいものはいないそうだ。

 だが、今は戦いである。対グールである。正統派だからこそ、動きが察知しやすい。普段、メイはそれを自分の頭脳でカバーしているが、今はジーンとグレアムからフォローが入る。ジーンとグレアムがそれぞれ首と左胸の核を貫く。メイの抜刀はもう一つの核を傷つけただけに終わった。位置が悪い。いくらメイが男性の平均身長ほどの長身だとは言え、上部ある核は狙いにくいだろう。

「サスガニ手立てガなくなってキタか!」

 嬉々としてグールが笑う。一旦メイは大きく飛び退って体勢を立て直した。その左手が上がる。


「いいぞ! やれ!」


 通信機越しではなく、彼女の生の声が聞こえた。まあ、ルーシャンが二階層目にいたからかもしれないが……とにかく、その一言を合図に、待機していた魔術師や銃士たちが一斉に砲撃しだした。メイお得意の飽和攻撃である。これだけ打ち込まれれば、逃げ場などないに等しい。

 メイは少し離れているが、ジーンとグレアムは爆撃の中だ。見えないが、爆炎の中戦っているのだと思う。一分近くの飽和攻撃がやみ、煙が薄らいできたところに、メイがグールに肉薄した。正眼で振り下ろした刀がグールの頭を捉えたが、核からは巧妙にそらされている。そのままグールに横ざまに殴られて吹っ飛んだ。

「姉さん!」

 降りたいが、降りたらメイにキレられるだろう。邪魔をすることにもなる。なので、下にいる彼らに任せるしかない。

 ガッ、と額の核を撃ち抜いたのはニーヴの矢だ。グールがそれを引き抜こうとするのを、ジーンが腕ごと斬り捨てる。ジュリアンの狙撃が首と左胸を撃ち抜く。グレアムの槍が駄目押しとばかりに首を貫いたのが見えた。


 だが、先ほど三つの核を破壊してもグールは倒せなかった。メイはこともなげに言っていた。「三つ以上の核がある」と。どこにあるんだ?


 再びメイが接近し、刀を振るった。抜刀で切り裂いたのは、グールの左足首だった。ニーヴが間髪入れずに狙ってくるが、これも外れる。

「小娘ェェエエ!」

 グールが方向を上げた。どこか女性めいた優美な姿だったグールは見る影もない。倒せなくても、核が壊され続ければ、多少なりとも再生能力は落ちてくるらしい。ガキッと音がして、折れたのはジーンの剣だった。そのジーンは自分の剣を手放すと、メイが投げた彼女の刀を空中でつかみ、グレアムと示し合わせたようにグールの前後からそれぞれ核を貫いた。ジーンが正面から左胸、グレアムが背後から頭だ。オーバーキルのような気がするのはルーシャンだけだろうか。


「オマエだけでも殺シテやるゥ!」


 得物のなくなったメイが狙われるが、彼女は魔術師だった。触手のようなものは魔法で無理やり引きちぎられる。と、思ったらニーヴの矢が援護に入っていた。女性陣に気を取られている間に、ジュリアンが最後の左のかかとの核を破壊した。ピシっ、とグールの体にひびが入る。それを見てジーンとグレアムが飛び退った。

「コノ……人間どもガ……!」

 そう、ルーシャンには聞こえた。それにかぶせるようにグレアムが叫んだ。

「爆発するぞ! 伏せろーっ!」

 ルーシャンは慌ててその場に身を伏せた。本当に爆発した。大爆発だ。まほうの飽和攻撃など目ではない規模だった。爆心地に近いメイは無事だろうか。

 爆発が収まったころを見計らって塀から顔を出した。下を覗き込むと、グールがいたあたりが砂の山になっている。視線を動かすと、ジーンがメイをかばってくれたようで彼女を抱き込んでいる。むしろ、グレアムが直撃を受けて伸びていた。

 ジーンがメイの刀を構えて立ち上がった。そのメイはさすがに立ち上がれないらしく、ぺたりと床に座り込んでいた。二人とも、グールが復活してくることを警戒している。前科があるので、周囲も静まり返っていたが、たまった砂はぶち抜かれた壁から入ってきた風に流されて散るだけだ。これは。


「作戦終了」


 わあっ、と今度こそ歓声が上がった。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


なんか先週くらいに、似たようなシチュエーションの鬼を狩る大正時代のアニメがあった気がしますが、メイをかばうジーンを書きたかったんです…。ところで、あの後吉原はどうなったんでしょうね…跡形もなかったですが…。


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