【17】
これはジーン視点です。
女性の好みが似ている親子ですね。
メイは興味があることと必要なことしか頭に入ってこないタイプだ。今回は必要だったので、ウィリアムとエドワードの行動について調べ上げた。別に彼女が調べ上げたわけではないが、彼らは王子なので記録くらいは残っている。それを閲覧したのだ。
ギルバートはセアラを連れて、友人の双子の王子に話をしに行った。メイが同行したが、ウィリアムはけろっとしたものだったらしい。まあ、彼女の推察が当たっているかも不明だが。尻尾をつかませない。
てきぱきと対応策を打ち立てるギルバートたちに、ウィリアムはシーウェル公爵の私兵の長はロジャー・ギボンという軍師だと教えてくれた。同時に、ウィンベリーの方からも情報が上がってくる。メイの言う通り、領地のシズリー公爵家の本邸に、シーウェル公爵の使者を名乗る人物が現れたらしい。それなりの規模の軍も確認できたそうだ。メイの指示で、待機を命じられている。
「構うことはない。あちらの主張が不当なのだから」
メイの主張は、これに尽きた。
「さすがメイさん! すごいですね!」
はきはきと嬉しそうに言うのはブルーノだ。ジーンはすごいを通り越して、少し彼女が怖い。
そして今、彼らは宮殿にいた。無事にギルバートの主張が認められ、軍が派遣されることになったのだが、シズリー公爵家のことだということでまず、ギルバートが召喚された。彼は共同管理者として妻のセアラと、作戦参謀としてメイを連れて行くことにした。軍を借りるとしても、実際に作戦を考えるのはメイになるだろうから、正しい判断である。だが、それにジーンとブルーノが同行する必要はないと思うのだ。いや、ブルーノは喜んでいるが。
「軍側の司令官はジーンさんのお父さんなんですね」
「うるせぇ。黙ってろ」
「理不尽!」
ブルーノがショックを受けた表情になる。ジーンの不機嫌の理由は、このあたりにあった。オスカーが王立軍側の責任者なのである。だが、彼を連れてきた理由も理解できる。息子が世話になっているシズリー公爵家の関することなので、彼は好意的なのだ。
「で、どうする、メイ」
「私?」
ギルバートに話を振られて、メイが自分を指さす。お前しかいないだろう、というのがジーンたちの意見であるが、口には出さなかった。ここでメイの機嫌を損ねたくない。
「お前、軍の指揮をとれるか?」
「……理論は知っているけど、とったことはない」
当然である。メイは元貴族令嬢だが、十二歳の時に爵位を返上している。ある方がおかしい。
「指揮の方はお任せください。方針を決めてくだされば、作戦を立てられますので」
オスカーが自分の息子と同世代のギルバートとメイに対して、丁寧な口調で言った。オスカーは将軍なので、率いる部隊は一個旅団になる。その規模四千人。この規模の作戦を、さすがのメイも立てたことはないはずだ。
「……メイ」
「…………相手はオーダー本部の位置を把握している。その近くにまで、進撃しているだろう。だとしたら、戦場に設定できるのはこの範囲内になる」
メイの指が地形図の一部をぐるっと囲んだ。ギルバートが顔を上げた。
「俺の屋敷は?」
「本邸が襲われたら、そこで全面戦争だね。仕方がないからお前の私軍を動かせ」
「容赦ねぇな。その時は指揮を頼む」
「私は本部の方へ向かう」
「薄情者! またいとこだろ!」
漫才のようなギルバートとメイのやり取りに、どう反応していいかわからない様子の周囲。
「まあ、ウィンベリーの本邸が襲撃されたら、それは完全に貴族統治法違反だ。その場でお縄になる。たぶん、オーダーの方を襲っている間に、本邸の方を押さえてしまうつもりなんだ。幸いというか、今本家の人間は全員、王都にいるけどね」
さらりと言われてギルバートが「お、おう」とうなずく。
「本邸を襲ったら言い訳できないけど、オーダーならまだいいわけが通る……だから、オーダーで対処するしかないのだけど」
メイが部屋の中をうろうろしだす。慣れているギルバートとセアラがちょっと場所を開ける。うろつくくらいなら大丈夫だ。
「……あちらは恐らく、軍をいくらかに分けて待機させているから……」
ここで突然壁に手をついたメイは、そのまま勢いよく額を打ち付けた。軍人たちが「!?」と驚きの表情を浮かべて引く。こんこん壁に額を打ち付けながら、メイがぶつぶつつぶやいている。
「……なあ、あれ、大丈夫なの?」
「あれくらいなら可愛いもんだぞ」
さりげなく参加していたエドワードがギルバートにささやいているのが聞こえた。その間にも、メイはぶつぶつつぶやいている。
「一番多いのは水に浮かんでることだな。王都に来てから何回か通報受けてるし。最近は落ち着いてたんだがなぁ」
そう。最近は落ち着いていた。たぶん、ジーンがメイの部屋で寝落ちしたあたりからだ。かなり落ち着いていたので、逆に違和感があった。自他ともに認める変人なのだ、彼女は。
「ええ……まあ、頭いい人って変な人が多い気はするけど」
「まあ、頭はめちゃくちゃいいぞ、たぶん」
メイを気に入った様子を見せていたらしいエドワードだが、さすがにこの奇行には引いている。これを受け入れられなければ、メイをそばに置くことは不可能だ。
「メイさんには悪いですけど、ちょっと安心します」
などと言うブルーノも結構ひどいが、気持ちはわからなくはない。おそらく、精神的負荷をかけられて奇行が現れているのだと思うが、つまり今は彼女の頭がフル回転していると言うことで。彼女の頭脳を知っているジーンたちはなんとなく安心してしまう面もあるのだ。
「よし。やはり、オーダーに防衛戦を敷かせて、一か所に集めた敵を撃破しよう」
「……しかし、そちらは対人戦に慣れていないでしょう」
おそらくエドワードと同じくメイの奇行に引いていただろうに、オスカーはいたって普通にメイに話しかけた。わが父ながら、強い。
オスカーの指摘は尤もだ。実際、ジーンやメイはもちろん、ブルーノですら小隊一つ分くらいの戦闘力はあると思われるが、対人戦に慣れていないのは確かである。
「わかっています。問題ありません。けん制できればいいんですから。幸い、対人戦に慣れていなくとも、襲われてもパニックにならない精神力くらいはあるでしょう」
普段からグールと戦っているからな。
「だけどメイ。今、お前がいなくて大混乱だぞ」
ギルバートが言った。メイは「それもわかっている」とあくまでも冷静だ。紙を何度もちぎるという奇行は現れているが、先ほどよりはインパクトが少ない。
「だから、ジーンとブルーノを先に帰す。少なくとも私の指示を受けたジーンが城へ戻れば、混乱は収まるでしょ」
「えっ。でも護衛は?」
「ナンシーを呼びつけろ」
セアラが心配しているのは、通常の護衛の方ではなく、グール退治の護衛の方だ。王都にも討伐騎士は派遣されているが、シズリー公爵家にかかりきりではない。王都は人が多い分、グールも紛れ込みやすいため、これまでメイが同行のついでにグールを斬っていた。ジーンとブルーノがいなくなる、メイがウィンベリーのことにかかりきりになると、グールの襲撃が増えると予想したのだろう。
メイはこともなげに王都の近郊にいるナンシーを呼びつけろと言った。彼女は十二人会議のメンバーではないが、おそらく腕だけならばメイより上だ。人格に少々問題はあるが、彼女はメイの言うことならよく聞くので問題ないだろう。というか、オーダーのメンバーはメイの言うことを聞くように刷り込まれている。
一通りの対応策を話し合い、ジーンたちはギルバートに従って退出した。ぼんやりしていたのか、メイがドアにぶつかる。周囲にはほとんど被害は出ないのに、自分はやたらと傷つくメイの奇行である。
「ジーン」
父に呼び止められ、無視もできずに足を止めた。ギルバートが「後で追いついて来いよ」と言ってジーンをオスカーに差し出した。彼らは先に行ってしまう。
「……なんだよ」
そっけない息子の態度にも、オスカーはめげない。
「いや……アイリスの見舞いに行ってくれたそうだな。ありがとう」
「別に……俺の母親だし」
ただ、自分が見るのが辛くて避けていただけだ。もう少し頻繁に様子を見に来てもいいかな、と思った。オスカーは「そうか」と笑った。
「しかし、やはりお前は私の息子だな」
「んだよ突然。当然だろ」
面倒くさくは思っているが、ジーンは別に、オスカーを嫌っているわけではない。これだけ顔が似ているのに、親子じゃないと言い張る方が無理がある。
「いや、私に女性の好みまで似てしまったなと思ってな。レディ・メアリを見ていて、アイリスも変わった娘だったことを思い出した」
そりゃあ、この時代に女性ながら学者などをしていた母は変わった人だろう……ではなく。
「はあ!?」
ジーンの大声に、他の軍人やエドワードがこちらを見た。オスカーは気にせず言った。
「レディ・メアリが好きなんだろう」
「は?」
「いい娘さんだと思うぞ、私は」
「は!?」
しっかりやれよ、と言わんばかりにオスカーは息子の肩を叩き、エドワードに話しかけに言った。そのエドワードは面白そうにジーンを眺めていた。金縛りの解けたジーンはその場でよろめいた。メイの奇行にオスカーがあまり動揺しなかった理由が分かった。母で耐性があったからだ……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
兵法の常道としては、各個撃破のような気がする。ヤン提督がそんなようなことを言っていた気がする。




