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その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第4章【7月・夏の夢(王都)】
39/124

【15】












「お待たせ。ハワードも連れてきたわ」


 夫を連れて、ティナが戻ってきた。いつの間にかいない、と思ったらハワードを探しに行っていたらしい。品の良い紳士はメイを見て驚いた表情になった。

「またティナがからかっているのかと思ったが……久しいな、メイ」

「ご無沙汰しております、サー・ハワード」

 立ち上がって一礼すると、ハワードは「そう他人行儀にするな」と笑って言った。メイの隣にいたレニーが突然立ち上がる。


「え、姉さんでかくない? さすがに同じくらいにはなってると思ったのに!」


 残念ながら、レニーはメイの顔半分ほどまでしか身長がなかった。十五歳ならこんなもののような気がするが、レニー的にはショックだったらしい。


「スラッとしててかっこいいわよね!」


 好意的なのはティナだ。レニーはメイを見上げたまま憮然としている。


「でかすぎだよ……兄さんもでかいし。せめて姉さんと同じくらいの身長が欲しい……」


 参考までに身長を聞かれたので、五フィート九インチ前後だと座りながら答えた。これにジーンも驚いていた。

「お前……上背が高いな」

「お前にしては言い方に気を配ったことは評価してやる」

 周囲に背の高い男が多いからあまり目立たないが、メイは成人男性と同じくらいの背丈があるということを忘れてはいけない。今日も連れ立っているジーンが六フィートを越える長身なので、メイがあまり目立たなかったのだろう。だが、実際はハワードより背が高い。

「ノエルもクリスも背が高かったからな。レニーも伸びるだろう」

「そうだな。俺も二十歳越えるまで結構伸びたぞ」

 ハワードとジーンがレニーに向かって言った。確かにジーンも五年前と比べればかなり背が伸びている。メイは自分も同じように伸びたのでよくわからないが、身長差が埋まっていないということはそう言うことだ。

「じゃあ期待しとく」

 身長をできるだけ高くする方法はいくつかあるらしいが、どこまで伸びるかは本人の体次第なので、これは何とも言いようがない。


「本職とは関係ないって言っていたけど、ならどうして王都に来たのか聞いてもいいかしら」


 寄り付かなかったでしょ、とティナ。まあ、寄り付かなかったのは事実だ。怖かったからだが。

「シズリー公爵夫人のお供です」

「ああ、なるほどね」

「今の公爵はいとこだったか?」

 うなずいたティナに続き、ハワードに尋ねられてメイは「またいとこですね」と訂正した。

「俺ってそう言うの知らないんだけど」

「大丈夫だ。ルーも知らん」

「そうなの? 姉さんと兄さんって一歳差だよね」


 正確には十四か月差であるが、まあ似たようなものか。


「私も調べたから知っているだけだよ。基本的に、興味がないと頭に入ってこないから、もし両親に説明されていたとしても覚えてない」

「メイ……」

「そう言うところがノエルと似てるんだよな……」

 リッジウェイ夫妻が感慨深げに言った。メイの中身はどうも父に似て見えているようだ。まあ、たまに言われることではある。

「家系図ってあるの?」

「あると思うけど、探さないと出てこないだろうね。爵位を売り払ったとき、一緒に処分したから。たぶん、王立公文書館に収められてると思うけど」

「……それだけの処理を、姉さんは俺より小さいころにやったんだ」

 唇を尖らせ、視線を下げてレニーが言った。十二歳のころの話である。

「必要があったから手配しただけだよ。実際に私がやったわけではない」

「むう」

 なぜすねる。ジーンがメイとレニーの姉弟の様子を見て笑った。リッジウェイ夫妻も微笑ましげである。

「メイの才能は、男爵令嬢で収まるよりも、今の場所の方が大いに発揮できているのでしょうね」

 ティナが少し困ったように言った。確かにそうなのかもしれない。メイも男爵令嬢でいるには自分が変わっていることを理解している。


「オーダーでの姉さんってどうなの?」


 レニーがジーンに尋ねた。我関せずとばかりに話を聞くばかりだったジーンは、尋ねられて少し驚いた様子を見せる。それから軽く笑みを浮かべた。

「そうだな。弟のレニーには悪いが、変人というのが一番しっくりくるな」

「……」

 ツッコもうにもその通りなので何も言えないメイである。クッキーを一つほおばる。さすがリッジウェイ商会。おいしい。


「だが、すごい女性だ、お前の姉は。信用がある……という言い方が正しいのかはわからないが、いると安心感があるな。必ず何とかしてくれる、って言う」


 それがプレッシャーだったりするわけだが、今頃アイヴィー城があれているだろうな、と思うと、ジーンの言葉もあながち間違っていないわけだ。

「なんだかんだ言って面倒見がいいしな。聞いたら答えてくれるし。慕われている、と言っても間違いではないだろうな」

「ふうん……」

 レニーはむっつりと相槌を打った。姉に対して含むところがあるので、反応としてはこんなもんだろう。ティナが微笑む。


「なんだか安心したわ。ちゃんとやってるのねえ、メイ」


 ティナが母親のような物言いで言った。まあ、ルーシャンとレニーの養母なので、メイにも気を配ってくれるのだろう。レニーはジーンに今度は兄のことを尋ねている。

「兄さんは?」

「メイより朗らかで愛想がいいし、正直メイよりなじんでるんじゃないか」

「否定できない……」

 紅茶に口をつけながらつぶやいた。ルーシャンは少なくともメイより社交的なので、メイよりなじんでいる。

「兄さんだもん。俺たちを置いて行った姉さんとは違う」

「レニー」

 たしなめるようにハワードがレニーを咎めたが、メイは首を左右に振った。


「いえ、いいんです。レニーの言うことは正しい。私はルーとレニーをお二人に押し付けて、逃げたんです」


 時がたち、客観的に自分の振る舞いを見ることができる。対処は間違っていないと思っているが、弟二人を置いて行ったのは事実だ。

「メイ……」

 ティナが困ったように眉をひそめた。レニーはと言うと、じっと姉を見つめた。

「父さんと母さんには、育ててもらったし感謝してるし文句もないけど、でも、俺としては一緒に連れて行ってほしかった」

 思わずメイは目をしばたたかせた。大きく瞬きして、それから頬を緩ませた。

「ああ……そうか」

「たぶん、兄さんも同じだったと思う」

「そうだね」

 ルーシャンの方が、年が近い分、そう思ったかもしれない。


 すっかり長居してしまったリッジウェイ家をお暇し、メイはジーンと並んで歩く。夕暮れ時で、辻馬車を捕まえようかと思ったが、歩いてもさして変わらないだろうという結論を出した健脚の二人である。

「お前の弟、どっちもしっかりしてるな」

「姉が頼りないからでしょ」

「姉ちゃんに迷惑かけたくねぇんだろ」

「なるほど?」

 ジーンのツッコミになんとなく首を傾げつつ、言った。

「結局、私にも付き合わせたね」

「いや、もともと俺が連れ出したからな。お前の兄弟に会えて面白かったぞ。お前だけ俺の両親を知ってるってのも不公平だろ」

 こういうところが、雑だが優しいな、と思うのだ。メイは、ジーンには他よりも心を開いている自覚がある。

「そうかもね。私もジーンの家族全員に会ったし、お前も私の家族全員に会ったわけだ」

「そういうことだな」

 そう言って笑うジーンを見上げ、メイはちょい、とジーンの手に触れた。ジーンは大げさなほど驚いて手をひっこめた。

「な、なんだ?」

「……何ってこともないけど」

 ただ、ちょっと手をつないでみたいな、と思っただけである。ちょっと思っただけなのであきらめることにして、メイは別のことを口にした。

「今度、ルーを連れてレニーに会いに行ってみようと思う」

「いいんじゃねぇの。……俺も、親父と話してみようかな……」

 そうつぶやくジーンに、メイは目を細めた。なんとなく優しい気分になりつつ、シズリー公爵邸に戻ると、議会に出席していたギルバートが戻ってきていた。顔を合わせるなり、彼は叫ぶ。


「大変なことになった! どうしよう!?」


 何が?















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


にしても、この章、長い! だけどそろそろ話が進むかと。

ちなみに身長は、メイ:5フィート9インチ(約175センチ)、ジーン:6フィート(約184センチ)、レニー:5フィート5インチ(約165センチ)。ついでにルーシャンは6:フィート3インチ(約190センチ)です。



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