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その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第4章【7月・夏の夢(王都)】
38/124

【14】











「それで、母君はどうだった?」


 言いたくなければいいけど、とメイはジーンと並んで歩きながら尋ねた。ジーンはわずかに顔をしかめる。

「……俺のことが分かってなかった」

「……そう」

「親父と間違えてた。お前、入ってこなくて正解だったぜ」

 メイは無言でジーンの背中を叩いた。ジーンは苦笑して「ありがとな」と礼を言ってきた。


「あんなに小さい人だったんだな……俺は、お袋を置いていっちまったんだ。……親父のことも」


 メイが、弟二人を置いて行ったように。まあ、メイの上の弟は姉を追ってきてしまったけれど。


「……まあ、死ぬ前にわかってよかったんじゃない? お互いに」

「……おう」


 なんだか重い空気になってしまった。だが、軌道修正する話力はメイにはない。


 ちなみに今、メイの要望で主要通りを歩いている。王都ロンディニウムのメイン・ストリートだけあって、人通りが多かった。時期的に各地から人が集まっている時期でもあるが。

「そういや、お前の下の弟って何してんだ?」

「何って、まだ寄宿学校に通っているはずだけど」

 メイの下弟は、五歳下になるので今十五歳だ。まだ寄宿学校に通っている年齢である。尤も、ルーシャンは飛び級に飛び級を重ねて十五歳のころには大学に通っていたはずだが。

「寄宿学校か……俺もオーダーに入らなきゃ、放り込まれてたはずだが」

「ああ……一応ジーンもいいところのお坊ちゃんだもんね」

 当時、オスカーは近衛連隊に所属していただろうが、身元のしっかりした子息だったわけだ、ジーンは。中産階級の子息がそう言った高度教育機関に放り込まれることは珍しくない。

「ジーンなら放り込まれていても、それなりにうまくやっただろう」

「どうだろうな。反抗期真っただ中だ。……お前も、男爵令嬢のままだったら中等教育学校に入ってたんじゃないか?」

「……どうだろう。私は学校になじめなかったと思う」

 これはメイの奇行の目立つ性格が問題というより、教えられる勉強の内容による問題の方が大きいと、本人は思っている。彼女自身がセアラたちに話したように、両親はメイを教育するのにかなり苦労している。学校の勉強はなじまないだろうと思われた。


「……なんとなく、想像できるな」


 ジーンが苦笑した。まあ、誰が見ても集団行動になじまなそうだな、と思うだろう。リアン・オーダーでそれなりにうまくやれているのは、周囲が彼女の行動を容認していて、彼女が結果を残しているためだ。要するに、発言力の問題。

「それでもお前、頭いいもんな。学歴がすべてじゃないってことだ」

「そう言うってことは、ジーンはいい学校に行けと言われてたんだ?」

「まあ、うちは親父もおふくろも大学まで行ってるからな」

 母のアイリスに至っては博士の称号を持っているらしい。すごい。


「あら? メイ? メアリ?」


 メアリという名はこの国にありふれているが、明らかにメイに向かって話しかけられたので、そちらを向いた。

「……リッジウェイ夫人」

 人のよさそうなご婦人は、メイが弟二人を預けた女性だった。ティナ・リッジウェイという。彼女は微笑んでメイに駆け寄ってきた。


「奇遇ねぇ! 全然会いに来てくれないから寂しかったわ。すらりとしていていいわね。格好いいわよ」


 最後に会ったときは視線は同じくらいだったので、ティナはメイを見上げてそんなことを言った。

「お久しぶりです。お買い物ですか?」

 メイが尋ねると、ティナは「市場調査よ」といたずらっぽく笑った。

「誰かさんが事業を預けていったからね、大変なのよ」

「それについては感謝しています。ありがとうございます。ルーとレニーのことも」

 ティナは困ったように微笑んだ。淡々とした口調のメイに、以前まで見られた笑みが見られないことに気づいたのだろう。


「ところで、こちらの男性は? 恋人かしら?」

「いえ、同僚のジーンです。ジーン、こちらティナ・リッジウェイ夫人。ルーの養母になってくれた方」


 置いてけぼりだったジーンを思い出して紹介する。ジーンは強面に笑みを浮かべてティナに挨拶をした。風貌から少し警戒していたティナも、その礼儀正しさに安心したように笑みを浮かべて握手をした。なんだかんだ言って、ジーンも育ちが良いのだ。

「二人とも、背が高くて素敵ねぇ。王都観光?」

「いえ、仕事です」

 メイの仕事を知っているティナはちょっと不安そうになった。大丈夫だ。別にグールが出るわけではない。

「……本職とは別件ですが」

「どういうこと? そういえば、ルーシャンは元気かしら。手紙は来るけれど、会えていないのよね」

「元気です。夫人によろしく、と言っていました」

「頼まれたなら訪ねてくれなきゃ!」

 ティナは笑って言うと、メイとジーンに時間はあるか、と聞いた。確かに今は休み中だが。


「ちょうど旦那もいるの。顔を見せてやってちょうだい」


 押しが強かった。基本的に年上に敬意を払うジーンと、リッジウェイ夫妻に弟と家の事業を押し付けた自覚のあるメイは、ティナの誘いに目を見合わせ、結局うなずいた。一応、シズリー公爵家に連絡は入れておこう。


 リッジウェイ家は王都内に存在する。一等地だ。ほかにも港近くにも家はあるが、そちらはどちらかと言うと商売用。ティナの夫でリッジウェイ商会の会長ハワードなどは、そちらにいることの方が多い。だが、今は王都が社交シーズンであるため、戻ってきているのだろう。


「ねえ、見て見て。メアリを拾ってきちゃった。ハワードはいるかしら? レニーも呼んでくれる?」


 リッジウェイの屋敷に着くなり、ティナは楽しそうに使用人に指示した。ジーンはちょっと引き気味で、「でかい家だな……」と言った。家というか、屋敷だな。

「メイは来たことがあるんだよな?」

 こそっと聞かれて、うなずく。王都の屋敷よりも、港近くの屋敷の方がよく顔を出した。来たことがある、と言っても、二度ほどである。

「お帰り、母さん」

 温室の隣の応接間に案内され、ティナと話をしていると、少年が一人やってきた。この屋敷にいる少年は一人だけだ。

「ただいま、レニー。見て見て。お姉さん拾ってきちゃった」

「……拾われてきた。久しぶり、レニー」

「姉さん……」

 レニーもメイも、ルーシャンのような朗らかな性格をしていないので、沈黙が降りる。いや、かつてはもう少し社交的だった気もするが。


 メイとルーシャンは似ていないが、レニーはメイと少し似ていた。父と母の顔を足して割ったらこんな感じだろう、という可愛らしい系の顔立ちである。やや母親よりの顔をしていると思われる。淡い茶髪に明るい青の瞳をしていた。当たり前だが、前に会ったときよりも背が伸びて大人っぽい顔立ちになっている。

「その人だれ? 姉さん、結婚すんの?」

「しない。彼は同僚のジーン」

「……落ち込んでるけど」

 慣れてくればレニーはやや毒舌である。はっきり言う、と言った方が正しいか。レニーに言われてジーンを見ると、なるほど。落ち込んでいた。

「……友人の方がよかった?」

「……もうそれでいい」

 あきらめたようにジーンが言う。彼が求めているものはわかるが、それはメイには差し出せない。少なくとも今は。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


リッジウェイ夫妻は、メイの両親の友人夫婦。商人仲間です。子供がいなかったので、ルーシャンとレニーを快く引き取った心の広い人たちです。


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