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その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第2章【6月・十二人会議】
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【5】

引き続き、メイ視点。

前回読まなかった方も、メイが公爵夫人のお供で王都に行くことになった、くらいわかっていれば読めると思います。













 メイが本部を離れるとなると、アーノルドに仕事を引き継いでおかねばならない。作戦行動に関してはそれでいいが、メイには戦力としての一面もある。基本的に本部から離れたところにはいかないが、救援の必要があればメイ自身が出向いてグールを斬っていた。つまり、作戦参謀と戦力がいなくなるわけだ。

 十二人会議があるので、代わりに一人残しておくことにして、それよりも引継ぎだ。


「メイ」


 シャーリーに声をかけられ、メイは目を開いて起き上がった。ばざん、と水が揺れる。また服のまま水につかっていたのだ。今回は噴水だ。人が通りかかって悲鳴をあげられることもあるが、今回は先にシャーリーに見つけられたようだ。

「もう。やるなら風呂にしなさいよ。あと、服を脱ぐとか」

「裸で入れと?」

 あと、水面が広い方がいいのだ。かすかに揺れる水面を見ていると落ち着くし、考え事に集中できる。シャーリーも小言は言うが、自殺未遂に走られるよりはましだと思っているはずだ。本気では止めに来ない。

 シャーリーが持ってきたタオルで髪と体をぬぐう。服は着替えるしかないのでそのままだ。魔力で多少乾かすことはできるが。

「なんだ。何か問題でもあった?」

「ああ、引継ぎの方は大丈夫よ。でも、セアラ様の侍女が待ち構えてるのよね」

「すでに意味が分からないな」


 ひとまず着替えてから城に泊まっているセアラに話を聞きに行こうとすると、その前に侍女につかまった。

「王都に行くのですから、髪を整えましょう」

「マジか」

 傷んでいたのでバッサリ切られた。腰近くまであった髪が、肩甲骨を覆うくらいの長さになっている。各方面から不評だった魔法刺青は、さすがに貴族社会に向かないので自分から外した。これがないと、メイの肉体防御力が著しく下がる。


 貴族名鑑と付随する資料を渡されるが、その前にセアラだ。文句を言ってくれようと探し回るが、その前に疲れたので休憩することにした。なお、シャーリーは引継ぎ資料をまとめるのにかかりきりだ。


「姉さん!」


 大声で呼ばれてびくっとした。当たり前だが、メイを『姉さん』と呼ぶのはルーシャンだけだ。ルーシャンが、ニーヴとセアラと共に手を振っていた。どういう状況だ、それは。

 ルーシャンに懐かしいね、と言われて、そういえばこういう格好も久しぶりだな、と思う。バッサリ切られた髪はハーフアップ、格好はブラウスに青いスカートだ。上にいつもの長めのカーディガンを羽織っている。

 ニーヴがにこにことメイの隣に座り、メモを見せてくる。『可愛い』と書かれたメモに、メイは反応を帰せずに肩をすくめた。

「何か言いなさいよ。可愛いかは人による、なんて可愛くないわよ」

「別に褒められてうれしくないわけではない」

 真正面に座ったセアラにそう言い返す。一人取り残されたルーシャンが戸惑っているので、手招いて座らせる。セアラとニーヴの間に彼は座った。周りが女性ばかりで、ちょっとかわいそうだろうか。

「というか、なあに、その分厚い本」

「あなたの侍女に押し付けられたんだけど」

「あら。髪はお願いしたけど」

 やはりセアラの指示だったらしい。まあ、侍女が独断でメイの髪を切りに来るとは思わないが。


「出立まで日がない。私に覚えられるわけないだろう」

「え、姉さん、どっか行くの?」


 ルーシャンに言われて、そういえば彼には話していなかったと思い出す。一緒に住んでいるニーヴには昨日言ったのだが。

「……いや、ちょっと王都に行ってくる。留守の間、ニーヴを頼んだ」

「それは任されたけど……え、姉さんが? でもそれで髪を切ったんだね」

 その方が似合ってるよ、とルーシャンは笑う。ニーヴもうなずいた。メイは貴族名鑑を覚えるのをあきらめて頬杖をつく。

「そういえば、服の丈が足りない。男装でいいか」

「いいわけないでしょ。男装でいいなら、あなたの弟を連れて行くわ」

「やめてくれ」

 冗談なのはわかっているが、セアラが真面目な顔で言うのでメイもため息をついた。

「久しぶりにスカートなど着たから、自分の背が高いことを忘れてた」

「私もそこまで気が回らなかったわ……ま、ついてきてと言ったのは私だから、その辺は何とかするわよ」

 正直自分で用意できないので、セアラに丸投げすることにする。ここで再びルーシャンが口をはさんだ。

「あの、姉さんと公爵夫人、仲いいですね?」

「友達よ」

「セアラが嫁いできてからの仲だなぁ」

 正確には、セアラがまだギルバートの婚約者だったころからの仲だ。ギルバートが自分の頭の良い婚約者の少女に、同じく頭の良い年の近い少女、としてメイを紹介したのが始まりだった。セアラは、貴族令嬢にしては頭が良すぎた。同じくはみ出し者の自覚のあったメイとは、よく気が合った。その気安さもあって、彼女はメイを同行させたいのだろうと思う。


 すっとニーヴがルーシャンに『身分を越えた友情』と書いた紙を見せる。セアラが覗き込んで、「そうそう」とうなずく。どうなのだろうな、とメイは思う。セアラに気を使われている気がする。それを口に出さない分別くらいは、メイにもあるが。

「というか、姉さん友達いるんだね……」

「メイ」

 弟に心配される姉に、セアラが笑いを漏らす。メイは「さすがに怒るぞ」と言ったが、正直怒り方が分からない。

「私もルーシャンがオーダーに来てくれてよかったと思ってるのよ。前よりメイの雰囲気が和らいだわ」

「これで?」

 さすがにルーシャンの頭を分厚い貴族名鑑で叩いた。弟じゃなかったら刀の鞘でどついている。ニーヴが頭をさするルーシャンの頭を撫でた。仲がいいな。


「楽しそうだな、お前ら。メイは化けたな」


 いや、元に戻ったのか? とルーシャンの背後に立ったギルバートが言った。ニーヴがペコっとお辞儀をするのを見て、ルーシャンが振り返る。

「あら、ギル。どこ行ってたの?」

「アーノルドのところ。メイがいないと話が進まないことに気づいた」

「進むだろう。私がいないと機能しないってまずいぞ。わかってる?」

「お前、もうちょっと柔らかい口調でしゃべれないの」

 ギルバートがツッコむ。ルーシャンが誰この人、という目で訴えてくるので、メイは口を開いた。

「リアン・オーダーの保護者、シズリー公爵ギルバート殿だ」

「公爵じゃん! 初めまして」

 かしこまってルーシャンが挨拶をする。名乗るルーシャンを見ながら、セアラが尋ねてきた。

「そういえば、メイとギルが遠縁の親戚ってことは、ルーシャンも親戚なのね」

「そうなの!?」

 ウィンザーを名乗っているといろいろあるが、ルーシャンは子供のうちにリッジウェイに改姓してしまったため、巻き込まれてこなかったのだろう。


「三代くらい遡れば親戚らしいけど、うちの家系図がないから詳しいことはわからない」


 探せば出てくると思うが、そこまですることではないと思う。気が向いたらやろうと思う。


「メイの弟かぁ。似てないなぁ」


 それは聞き飽きた。


「知ってるか。私とお前、小さいころ顔を合わせたことあるんだぜ」

「そうなんですか……」

 メイもギルバートと初対面の時言われたが、あいにくさすがのメイも覚えていないので、ルーシャンも覚えていないだろう。

「姉さん、他に隠してることある?」

「話していないことはあるかもしれないな」

 胡乱にルーシャンににらまれたが、メイはしれっとして言った。ギルバートが「お前ぶれないな」とあきれている。

「とにかく、お前も話し合いに来てくれ。お前とジーンを引っこ抜くから、戦力が足りないんだよなぁ」

「戦力不足は悩ましい問題だな……」

 作戦を立てようにもとれる方法が限られてしまう。つぶやきながらメイは立ち上がる。続いてセアラも立ち上がった。

「私も行くわ。ルーシャン、ニーヴ、またね」

 ルーシャンは軽く頭を下げたが、ニーヴは手を振る。どこかで育て方を間違っただろうか、とちょっと悩んだ。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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