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その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第9章【6月・誰がための戦い】
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【14】














「レディ・メアリ、避難が終わりました。後はお二人だけです」


 国軍の兵士に声を掛けられ、メイはうなずいた。メイが確認できる範囲でも残りはメイとエイミーだけだ。と言っても、メイは知覚魔法は使えないのだが。

「……カートライト将軍は?」

「森の戦場の方へ向かわれました」

 メイはその兵士を見上げた。兵士もメイを見ていた。随分と背の高い兵士だ。成人男性の平均身長ほどの上背のあるメイが見上げなければならない。


「レディ、失礼」

「下がって!」


 メイはエイミーをかばうように後ろに下がった。当然だが、今日の目は武装していない。近くに水もない。メイは強力な念動力の持ち主だが、それはほぼ流体操作に振り切れている。

 兵士に剣を振りぬかれ、エイミーが悲鳴を上げた。メイは「ごめん!」と叫ぶと、エイミーを担ぎ上げた。


「きゃあ! 痛!」


 どうやら鼻をぶつけたらしく悲鳴が上がる。悪いが我慢してほしい。


「何々? どういうこと?」


 離宮に入ってからはエイミーをおろし、あらかじめ聞いていた避難先に向かう。エイミーが不安そうにメイの手を握った。


「軍の中も一枚岩ではないということですね」


 宮廷が一枚岩ではないように、軍内部もそうなのだろう。オスカーがどうなったのか心配である。本当に森の方へ行っているのだろうか。

 ウィリアムとエドワードがいる限り、あちらはあまり心配しなくていい気がする。むしろ、メイたちの方が危険だ。

 安全な建物の中に避難するのは安心だし、間違ってはいない。だが、退路が必要だ。メイは去年、旧本部内でグールと戦っているが、その時もちゃんと退路は残していた。退路は大切なのだ。


 この離宮内では、退路が確保できない。閉じ込められる可能性が高い。戦史を見ても、増援のない籠城戦は悲惨である。メイがこの離宮の見取り図を把握していないのも理由の一つではあるが。

「と、とにかく、王妃様たちと合流した方がいいわよね」

 何とか落ち着こうとエイミーが早口に言った。メイは「そうですね」と冷静に返す。エイミーが眉を顰める。

「戦い慣れすぎてない?」

「エイミー……私の身の上を知っていますよね?」

 いまさらなことを言われてメイは思わず尋ねた。エイミーが目をしばたたかせ、「そういえば、そうだったわ」とつぶやいたとき、王妃が避難している部屋に到着した。

「外の様子はどうですか」

 守られた部屋に到着した二人に、王妃は開口一番そう尋ねた。

「襲われました。この離宮、もう囲まれていると思いますよ」

 メイがさらりとそういうと、同じ部屋にかくまわれていた令嬢たちがひっ、と息をのんだ。王妃は目を伏せる。

「なぜ、そう思うのです?」

「討ち易きを討つのは、戦術の常道です、王妃陛下」

 この集められた令嬢たちの中にも、敵方と通じている者がいる。王妃もそれをわかっているのだろう。だから、絶対に敵ではない、と信じられるメイを最後に残した。


「つまり、わたくしが討たれる、と言うのですね、アストレア」

「不敬よ!」


 ウィリアムの婚約者アビゲイルだ。王妃に向かって、狙われている、と言うのは不敬になるだろうか。まあ、反逆罪になりかねない、とは思う。

「やめなさい、アビゲイル。アストレアの言うことは、おそらく正しいでしょう。男であるウィルやエドを排除するより、わたくしを狙った方が簡単なのですから」

 それに、王妃は革新派の頂点にいると思われている。彼女から、社会の刷新が行われていると思われている以上、狙われるのは不思議ではない。

「……失礼なのは承知の上ですが、ごまかしている場合ではないと思いましたので」

「そうですね。その判断は正しいでしょう」

 一度目を閉じた王妃は、メイに向かって言った。

「アストレア。あなたにここの防衛の指揮権を預ければ、わたくしたちを守れるかしら」

「……状況、戦力等がほぼ不明なので、難しいと思います」

 戦いと言うのは、始まる前にどれだけの準備を終えられるかで決まる、と言っても過言ではない。それができていないのだから、戦術だけではひっくり返せない。グール討伐が後手後手に回ることが多く、ほとんどが対処法になることを考えれば、メイは比較的後始末的戦闘が得意と言える。

「それらがわかればいいのですね?」

「……そうですね」

 墓穴を掘った気がする。メイは顔をしかめないように表情筋に力を込めながらひきつった笑みを浮かべた。エイミーがぽん、と肩に手を置いてきた。


「あきらめた方が楽になるわよ」

「恐ろしいことを言わないでくださいよ……」














 そこから、現状について説明された。王妃がしたわけではない。警備責任者がメイに対して地図を広げながら説明してくれた。


 どうやら、森では乱戦になっているらしい。まあ、メイでもそうする。そもそも、森の中は集団行動がとりづらいし、せっかく遮るものがあるのだから、できるだけ目標を分散させる。各個撃破を狙った方が成功率は高かろう。メイも討伐騎士に指示したことがある。


 だがまあ、森の中は管轄外だ。メイが注力すべきはこの離宮の防衛である。と言うか、すでに敵方が入り込んでいる時点で戦略的に負けている気がする。

 状況としては、女性たちの避難は完了し、各要所に近衛が立っている。どうやら、森の中で戦っているのは軍人が大半のようだ。作為的なものを感じるが、ツッコむのは後だ。


「森の方は管轄外になりますが、そちらの決着がつくまで防衛するのを主目的といたしましょう」


 メイがそういうと、戦うつもりだったらしい近衛が「なぜですか」と顔をしかめた。単純に、ぽっと出のメイに教えられていないだけかもしれないが。

「基本的に、戦いと言うのは数で決まります。多くの護衛対象を抱え、騎士も兵士も人数が少ない今、圧倒的に私たちは不利なのだと考えるべきですから」

 その近衛は「なるほど」とうなずいたのだが、本当にわかっているのだろうか。


 とにかく、警備体制を敷いていく。そして、逃げ道も作っておく。メイたち自身の避難路、そして、敵が逃げていくための逃走路も確保しておく。

「大丈夫?」

 次々と指示を出していくメイに、エイミーが不安そうに尋ねる。状況に不安を感じているというよりは、不満そうに騎士たちに見られているメイを心配しているようだ。一応、王妃の命令で指示を出しているわけだから、今のところ従っているように見えるけど。

「大丈夫です。私は勝てない戦いはしませんから」

 少なくとも、局所的に負けないことなら可能だろう。広義で見ると、負けかもしれないが。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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