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その幸せを希う  作者: 雲居瑞香
第1章【4月・再会】
1/124

【1】

10月なので、新連載です!(違う)

ダーク・ファンタジーっぽいですが、恋愛小説です。たぶん。ラブコメを目指したが、駄目でした……。

それでは、どうぞ。
















 さて、どうしたものか。



 先ほどまで勤めていた大学病院を見上げ、ルーシャン・リッジウェイはさすがに途方に暮れた。


 ルーシャンは現在十九歳。しかし、れっきとした医師の資格を持った医者である。魔法医に分類されるだろう。十七歳で医師となった彼は天才だと言えた。

 そんな彼だが、この度教授先生の医療ミスの失態を押し付けられ、十七歳から一年半務めた大学病院を解雇されてしまった。年若く、後ろ盾も弱いルーシャンをかばってくれる者などおらず、医療ミスが発覚した翌日には解雇されてしまったわけだ。相手も悪かった。その医療ミスが起きた患者は、公爵位を持っていた。教授先生は伯爵家の出である。ちなみに。

 客観的に見て、ルーシャンは若いが優秀な医者だった。それをおごることなく、先輩たちの技術を見て学んだし、論文なども読んだ。そう言うひたむきさが、彼らの勘に触ったのだろうと思う。


 いや、本当にどうしよう。このままでは育ててくれた家にも迷惑をかけてしまう。いや、もう迷惑をかけているかもしれないけど。彼が育った家は、サーの称号は持っているが、平民である。小金持ちの商家だ。主に茶葉などを扱っている。まだ寄宿学校に通う弟だっているのに、次の就職先を見つけなければ。

 おそらく、軍医などなら空きがありそうだが、こんなに若くて雇ってもらえるかわからない。しかも、解雇された大学病院は王立のため、医療ミスの件で雇ってもらえない可能性が高い。となると、地方の民間病院に行くしかないのだろうか。ルーシャンがミスをしたわけではないのに、世の中理不尽である。


「あの、すみません」


 若い男性に声をかけられた。若い、というか、十九歳になったばかりのルーシャンより、三歳か四歳ほど年上に見える。その彼はそっと手帳を見せてきた。


「自分、こういうものなんですけど」


 見せられた手帳には、『リアン・オーダー スカウトマン クレイグ・ヘイリー』と書かれていた。年齢は書かれていなかった。

「クレイグ、さん。僕は……」

「ルーシャン・リッジウェイ先生ですよね。魔法医の」

 ニコッと笑ってクレイグは言った。言い当てられて、ルーシャンもあいまいに笑う。

「そうです」

「実は我々は優秀な人材を探していまして。よろしければ話だけでも聞いていただけませんか」

「……」

 正直に言う。めちゃくちゃ怪しかった。彼らはスカウトの方法を変えた方がいいと思う。たとえ、それが表ざたになっていない組織であったとしても。

 それでも、ルーシャンがクレイグの話を聞く気になったのは、その『リアン・オーダー』に聞き覚えがあったからだった。
















 一か月後、ルーシャンは王都ロンディニウムから見て北西にあるシズリー公爵領ウィンベリーを訪れていた。ここに、リアン・オーダーの本部がある。存在は知っているが、正確な場所は知らない、という人ばかりで、結局もらった住所を頼りにたどり着いた。


「これがアイヴィー城」


 文字通り城だった。城だが、おそらく城塞だろう。城建築には詳しくないが、なんとなくわかった。門番に紹介状を見せる。すると、すんなりととおしてくれた。門をくぐるとき、ひやりとした感覚があったので結界が張られているのかもしれない。

「!? おお!」

 中に入ると、外の静けさは何だったのだろうと言うくらい騒がしかった。人が多い。やはり、結界が張ってあったようだ。


「あら! いらっしゃい! あなたがルーシャンね?」


 明るい声にそちらに目をやると、四十歳ほどの女性がにこにこと歩み寄ってきた。黒髪に緑の瞳の優しげな雰囲気をまとっている。ルーシャンはすぐに頭を下げた。


「はい。初めまして。ルーシャン・リッジウェイです。あなたはドクター・ヴィオラ・パーシングですか?」

「ええ、よろしくね。みんな、私のことはドクター、とか、ヴィー、とかって呼ぶから、あなたも適当に呼んでね。あなたはルーシャン、と呼んでいいかしら?」

「もちろんです」


 家族にはルー、と呼ばれたりもしているが、あえて言う必要はないだろう。ヴィオラは城内を先導して歩きながら言った。

「ごめんなさいねぇ。今ちょっとあわただしくて。討伐に苦戦していて、追加の戦力が出て行ったばかりなの」

「そうですか……」

 いまいちピンとこない。リアン・オーダーが人ならざる者、主にグールと呼ばれる食人モンスターを狩っているのは知っている。だが、それだけだ。それ以上のことはわからないので、ピンと来ないのも無理はない。リアン・オーダーは歴史上に時折その存在を示すものの、決して表に出てくることはない、いわば裏の歴史なのだ。

「そうよね。ぴんと来ないわよね。オーダーを知っていてもちゃんとわかってない人は多いの。見ないとわからないと思うわ」

「すみません……」

「いいのいいの」

 どうでもいいが、離職率の高そうな職場だ。『医療区画』と書かれた場所に到着した。ここから先が病院扱いらしい。

「それにしても助かったわ。この前、医者が二人辞めちゃって」

「仕事が辛くてですか?」

「いいえ。老齢を理由にと、結婚するんで領地を出ちゃったの」

「あ……そうなんですね」

 とても失礼なことを言ってしまった。


「みんなー。新しいお医者さんのルーシャン君よ。いろいろ教えてあげてね~」

「よろしくお願いします」


 ちょっとおっとりしたヴィオラの声にあわせ、ルーシャンが頭を下げると、「よろしくー」と声が返ってきた。トップであるヴィオラがおっとりした感じなので、医療部全体がそんな雰囲気らしい。

「あら、男前」

 看護師の女性がルーシャンを見上げて言った。客観的に見て、ルーシャンの容姿が整っているのは事実なので、ルーシャンは「ありがとうございます」と礼を言った。柔らかな栗毛に青緑の瞳を有する目はやや切れ長で涼やかだ。人の良さが出ている顔、とよく言われるが、ハンサムだ、ともよく言われた。そのあたりも、大学病院の先輩医師たちは気に食わなかったのだろうな、と思う。ここでもおそらく、ルーシャンは年下の方に入るだろう。


「派遣された部隊はどれくらいで戻ってくるって?」

「最短三日、最長でも五日以内に戻ってくるそうです」


 ヴィオラの質問に答えたのは三十代くらいの男性医師だった。全体的に、年齢層が若い気がする。それに、女性も多い。おそらく、中央で活躍できない医療従事者たちが、ここまで流れてくるのだ。ルーシャンのように。

「あの子がそう言うなら、絶対に五日以内には帰ってくるわね。ルーシャン」

「あ、はい」

 診察室や処置室の地図を見せてもらっていたルーシャンは、ヴィオラの声に振り返る。彼女は相変わらずにっこり笑っていた。

「二日のうちに、ここでの対応の仕方を大方教えるわね。三日後には実際に現場に入ってもらうと思うから、覚悟してね」

「わ、わかりました」

 図太い、と言われるルーシャンもさすがに緊張してうなずいた。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


真面目っぽいタイトルですが、やりたい放題だとわかっていただけたかと…。


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