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短い短編(童話・ヒューマンドラマ・現実恋愛など)

まりもを育てているペンギン

掲載日:2021/09/06

 ただいま帰りました家にっと。

 私はそう心の中でつぶやいて部屋の扉を開けた。

 そして最初に、左を見る。

 うちには、まりもを育てているペンギンがいる。

 どこにいるかというと、部屋の窓際。

 水が入った金魚鉢の中に、まり、まり、まり、と三つのまりもが並んでいる。

 そしてそのまりもたちを覗き込むようにして、一匹のペンギンのぬいぐるみがいる。

 これが、まりもを育てているペンギン。




 私の部屋にそれが初めて出現したのは、小学生のころだった。

 おとなしくて、友達とわいわいするのが苦手だった私の家に、初めて友達が遊びにきた日。

「えりいちゃん。これね、北海道のお土産のまりも」

「北海道? まりも?」

「そうだよ。阿寒湖のまりもなんだよ。丸いでしょほら」

「うん。丸いね」

 今思えば、阿寒湖のまりもを持って帰ってきたというよりは、阿寒湖のお土産店で売っていた外国でとれたまりもをもってきてくれたということなのだろうけど、とにかくその時は阿寒湖のまりもだった。

「これ、えりいちゃんにあげるから、育てて!」

「くれるの? まりも」

「うん」

「ありがとう……!」

「私もまりも育てるからね、お互い大きくしようね」

「わかった」

 私は友達……まりんちゃんにうなずいた。

 

 それから、まりんちゃんとはよく遊んだ。

 でも、まりんちゃんが中学受験をして、違う中学に行くことになり、そして疎遠になってしまう。

 小学校を卒業したばかりの春休み。

 それが最後にまりんちゃんと会った日だ。

 まりんちゃんとは、二人で水族館に行った。

 そこでいっぱい楽しんで、そして最後に思い出にとお土産を買った。

 そのお土産が、ペンギンのぬいぐるみだ。

 

 ……というわけで私は、まりもとペンギンのぬいぐるみを大切に窓辺に置いている。大学生になって一人暮らしを始めた今でも。

 だから、家にはいつも、まりもを育てているペンギンがいるのだ。

 そんなある日。

 私が大学生になってしばらくした頃。

 ふと、偶然キャンパス内ですれ違った人が……まりんちゃんに見えた。

 でも。まりんちゃんはこっちに気づかなかった。

 声をかけようか、でも違う人かも。

 私も友達と歩いていたし、向こうも友達と歩いていたので、そのまま、何事もなく私とまりんちゃんらしき人は離れて行った。

 一緒の大学ってことは次のチャンスあるよね。

 次見かけたら、ちゃんと話しかけよう。

 

 次のチャンスは、思ってたよりも早くやってきた。

 食堂で並んでる時に、前にいたのだ。

「あ、あの、ま、まりん……」

 前の人は振り向いた。

「まりん?」

「あ、ち、違いますか、あ、人違いでしたごめんなさい」

「あ、いえいえ」

 前の人は優しく笑った。

 私は……違う人をまりんちゃんだと思った……?

 そう言われれば、まりんちゃんの顔の記憶が薄れている。

 信じられないけど、そうなのだ。初めてできた親友の顔はぼんやりと、阿寒湖の底に沈んだまりものように、見えなくなっていたのだ。

 

 そんなことがあった日も、帰ると、家にはまりもを育てているペンギンがいた。

 まりもは少しずつ大きくなり、ペンギンは少しずつ古びていた。

 時が経ったんだなあ。

 ほんとに。

 だけど……ううん、だからやっぱりこれからも窓辺にいてほしい。 

 まりもが大きく育っていけば。      

 きっとペンギンは、まりもを忘れない。

 そしてずっとまりものお世話をちゃんとする。

 私は金魚鉢をおいしょと持ち上げた。

 水かえ、しよ。

 私は金魚鉢を抱えて、ゆっくりと運ぶ。

 上から覗いてみた。

 水面に自分の顔が映る。

 窓辺から離れると光の加減が変わる。

 その時一瞬だけ、まりんちゃんの顔が、映った気がした。



お読みいただきありがとうございます。

もしよろしければ評価などをしていただけたら幸いです。

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