第四話 邪馬台国への水行の距離は
その週末の日曜日。お洒落をしたマネキン人形と化した祐子と、どう見ても釣り合わない地味に徹した俺は、横浜のショッピングモールにいた。
混み合う昼時を避け、午後2時を回った頃に、お目あての〘スイーツバイキング〙の店に入ったのだが、女性同士や子ども連れの主婦しか見当たらなくて、そこは、俺なんかは絶対場違いな異空間以外の、なにものでもなかった。
幸い珈琲と、スイーツ以外の軽食もあったので、野菜サンドとシーザーサラダを頬張りながら、祐子のとりとめもない、おしゃべりを聞き流す。
「今年の春の流行は、このライトブラウンのタイトスカートなの。ね、ね、どお。
ううん、もう。なんとか言いなさいよ。」
「 · · · 、な·ん·と·か。」
『うぶぶぅ、』隣の子どもに、うけたっ。
「無関係な人にうけてないで、目の前にいる、私を喜ばせなさいよねっ。」
お怒りである。でも俺は、こんな空間に連れ込んだ、きみの責任を追求したいっ。
「そう言えば、調べてみたんだけど、対馬海峡を渡るのに、要した日数は、1渡海千里を2日。だから一日の水行は、500里って、推計した人がいたわ。」
「んっ、それは昼夜を違わず水行したときだね。そうすると、陸地沿いの水行は、単純に半分の距離で、1日に250里かな。」
「どうして、そうなるのよっ。」
「陸地沿いの場合は、日中だけ進み、夜は陸地で休むから半分になるんだよ。
そうすると、末廬国まで、6日か、あと14日とすると、水行は3,500里未満になるかな。」
「えっ、未満って、まだ距離が短かくなるわけっ?」
「たぶん、この時代の舟は、人力だけだと思うよ。
対馬海峡では、春と秋で航路を変えたというから、海流に乗って航海したんだろうね。
だとしたら、海流の影響が少ない沿岸部の水行は、かなり遅いはずさ。」
「邪馬台国はともかく、投馬国の位置は、どこになるの?」
「有明海に向かう海路の途中のどこかさ。邪馬台国が九州にあったとしか、俺は言ってないよ。
投馬国やら、邪馬台国の位置は、祐子が調べりゃいいじゃん。資料に囲まれてんだからさ。」
「まあっ、ここまで来て、無責任ねっ。やっと、晴明の説も真実味が出てきて信頼できると、思ったのにっ。」
「なんだよぉ、未来の夫候補に対して、信頼度なさ過ぎだろっ。」
「むむむっ、今の発言で、候補から夫に昇格したよっ。」
ふと周りから、ナマ温かい視線を感じて、二人して赤面してしまった。非常にやべぇ。




