第一話 俺が歴史探偵を始めた訳
俺の名は、安部晴明。早くに事故で両親を亡くし、世話をしてくれた叔父夫婦が、両親の保険金で、アパートを建ててくれた。今は、その家賃収入と株の売買で、暮らしている。
彼女はいる。というか、小学校入学以来の幼馴染みで、ずっと俺に纏わりついていて、今では、行き遅れみたいになってるから、俺がもらってやるしかないのだが。
そんな彼女は、高校三年の時、突然の事故で両親を亡くした俺を、ずっと、励まし続けてくれた存在でもある。
俺には、彼女をもらうにあたって、密かに立てた目標がある。不安定な収入だから、老後の資金に1,000万円、結婚と新婚旅行資金に100万円を貯めること。彼女には、内緒だ。
貯金は、現在800万程。あと二年もあれば、目標額に届きそうだ。
彼女は、『今は仕事が楽しくて、結婚は当分したいわ。』っと言って、周りには、行き遅れの言い訳にしている。
彼女の名は、紫 祐子。出版社の編集記者をやっている。
ショートカットの髪形が似合う、素っぴんでも可愛い部類の活発な乙女だ。合気道二段、ヘタレな俺を守るためとか言って、大学時代に取りやがった。おかげで、ケンカすると、口でも体でも勝てない。
祐子は、三日と空けずに、俺の部屋へとやって来る。『晴明に、変な虫が付かないように守ってあげているのよっ。』とかぬかしているが、何故か当の本人が、変な虫であるとの、自覚はないようだ。
そんなふうに、ずっと護衛されているから、俺には大人の経験がない。たぶん、祐子だって同じだ。
情けないが、そんな童貞と処女の二人だから、うまくできるか不安で、なかなか手が出せない。祐子は、もうじき、29才になる。俺とは同級生。
祐子は、30才までに嫁に行けないと、家族から、行き遅れと言われると恐れている。それで最近、俺への追求が一段と厳しいのだ。
「ねぇ、はるあき。誕生日が来たら、29よ、29。もう限界よ、これ以上待たせると、熟れ過ぎて腐っちゃうんだからね。」
「そんなことないよ、祐子はまだまだ、あどけなくて、そ、そのっ、完熟までは、もう少しあると思うよ。」
「なによ、どこを見て言ってるのかしら。胸なら、これ以上育たないわっ、諦めてよね。」
「胸なんか、どうでもいいよ。俺は祐子が痩せても太っても、嫌いになんかならないから。」
「よくぞ言ってくれました晴明くん。あなたの好きな祐子ちゃんに、言うことはないのかしら。言わぬなら、言わせてみようホトトギスっ。」
「そこはさあっ、女性の慎みとして、鳴くまで待とうじゃないの?」
「はあ、あんたって男はっ。もういいわ。
だけどねぇえ。そのときが来たら、う〜んとロマンチックな情景でしてね。約束よ。」
(それさぁ、服装とか行先でバレちゃうんじゃないかな。俺、緊張してなにも言えなくなるような気がするっ。)
話題変えなきゃっ。そうだこいつ、古代日本史が好きだったな。
「そう言えば、祐子は、邪馬台国九州説派だったよね。」
「あらっ、突然なにを言い出すのかしら。王手出版社の大和書房で、その名も『卑弥呼たんっ』と呼ばれている、あ·た·し·に何か、異論でもある訳っ。」
それが、俺と祐子の『果てしない邪馬台国』への旅路の始まりでした。