進む道を開拓3
夜公演が始まる。
昼の時では全然わからなかったけど、舞台裏は
凄く慌ただしい。キャストさんと舞台スタッフさんも
緊張と期待に溢れている、といった表情と雰囲気だ。
秒単位で求められるスタッフの動き。
音響と照明、キャストの息が合わないと出来ない演出。
(私にもこれだけのものが作れるかな…)
脚本と演出、同じ人って言ってたなぁ。
凄い、脚本を書いてる時点で、この光景が
浮かんでくるのだろうか?
どの段階で、ここまでのものが、頭の中で
出来上がっているのだろうか。
この公演が終わったら、粟島さんが紹介してくれる
らしいけど、どんな人が作ってるのか、気になる。
というか、頭の中が気になる。
「あと10秒で暗転です!」
声が聞こえてきた上の方に視線を向けると
照明スタッフさんの後ろで、宏太さんが真剣に見ていた。
本当は1人で、舞台の手伝いをしようと思ってたけど
宏太さんと来てよかった。あんなに真剣な顔を見ると
私も負けてられない、って気持ちになる。
2回見ても飽きない、というか、何回見ても
結果がわかってても面白い。そんなストーリー。
舞台上のキャストの人と、スタッフの動きを見ていたら
あっという間に終わってしまった…。
「庵ちゃん!おつかれ〜!」
「あっ、宏太さん!見えましたよ、宏太さん」
「俺のとこからも庵ちゃん見えたよ、ずっと
口あいてなかった?」
「なっ!あいてませんっ!!」
「ははっ、あっちに粟島さんいるから挨拶行こう」
「お、2人ともどうだった〜表と裏を見た感想は?」
「当たり前ですけど、表だけじゃわからない技術面での
凄さに圧倒されました。どれだけ練習と場数をこなさないと
出来ないんだろう…って思いました」
「そうだね〜、確かに場数は大事だよ、慣れもあるしね。
でも、同じだけ熱意も重要なんだよ。
2人を見てたけど、2人とも凄い一生懸命学ぼうって
気持ちが伝わってきて、なんか嬉しくなっちゃった、はははっ」
舞台監督さんとか、舞台に関わる人って、なんか
ちょっと勝手な想像で、頑固で強気なイメージが
凄いあったけど、粟島さんは、どことなく晋太さんに似てる。
休憩中も、この舞台を「完成」として捉えてなくて
どんな些細な部分でも、より良い効果や、魅せ方が
あるんじゃないか、とスタッフさんとずっと話していた。
自分が作り出したものに、簡単に満足してはいけない。
まだ良いものが出来るんじゃないか、常に考えてる。
「大山くん、照明スタッフが、もう少し
話したいみたいなんだけどこの後いい?」
「はい、実は聞きたいこともまだあって…」
「じゃあ、さっきのとこで待ってて!
スタッフが行くから。西河さんは僕と一緒に
我が劇団自慢の、脚本家兼演出家のところに行こうか」
「はいっ、お願いしますっ!」




