悩める子羊
「ちょっと、宏太くん。
なんであんなに落ち込んでるの、庵ちゃん」
「僕に聞かないでくださいよ、晋太さん
聞いてみたら良いじゃないですか!」
「だって、企画の参加が決まったって聞いたよ僕?
それなのに落ち込んでるのおかしくない、ちょっと」
「えっ、僕そんなの聞いてないですよ?
ていうか、その情報どこから聞いてくるんです?
わざわざ聞いてるんですか、編集者の人に?」
「そりゃあ、自分の弟子のことはちゃーんと情報集めますとも」
「えぇ、気持ち悪いですよ……」
「なんで?ねぇ、なんで???」
ジャンルが決まった後、脚本を書くことになったのだけど。
斎藤さんからの指名で、一番手は逢坂さんになった。
まあ、私達もその方が、進めやすいし
書いた後から、こうじゃない!、と言われるよりは
前半の流れを書いてくれた方が良い。
だけど、問題は、私の順番だ。
1番手を逢坂さんに決めた後、島崎さんと遠野さんが
バタバタ手を上げた。出遅れた私が、なんと最後。
もはや、ため息しか出ない。
ラジオドラマだから、シリアスにしすぎない
コメディーを含んだミステリー、と難しくも
確かにな、と納得できる提案を逢坂さんにされた。
逢坂さんを、全面的に否定できないのは
こういうところにあるんだと思った。
確かに、横暴な態度も多いけど、時たま凄く鋭い
意見をぶっこんでくる。
話の中で、あらかたのストーリーを逢坂さんが
ざっと、しかもその場で、淡々と考えていく。
展開も申し分なかった。
それが凄いと思った。
才能があるってこういう事をいうのかと。
どうしよう。と、悩んで仕方ない。
んっ?、メッセージだ。
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夜ご飯でもどうですか?
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凄い短いメッセージ。こんなメッセージが
まさかあの、裕さんから来ると誰が思う?
とりあえず行くと返したけど…。(行くんかい)
「で?悩んでるんですか?」
烏龍茶を吹き出すかと思った。
「なっ、急に、それから入ります?
というかどこから聞いてるんですその話?」
「美東さん、仲良いから、僕ら。
タイミングの悪い時に誘っちゃったかも、申し訳ない
って言ってたよ、美東さん」
「あぁ〜、いや、んー、悪くはないんですけどね?
悪くないけど、うまくいくか不安というか」
「やる前から不安になってどうするんです?
仮にも庵さん新人脚本家ですよ?
今だけじゃないですか、なんでも、ガンガン出来るの」
「それは、そうですけど…」
「庵さんは、庵さんが想ったものをとりあえず書いて
見たら良いんじゃないですか?もっと、自身もって」
そうだ。私は、仮にも。人とついていても。脚本家なんだ。
自分の想ったものを書かないでどうする。
悩む前にやらないと。津乃田さんと想像した形で
一緒に作品を作れなくったって、推しが!自分の推しが!
私の書いた作品を演じてくれるんだから、推しに
恥ずかしくないものをきちんと書き上げないと。
とりあえず、書いてみよう。
まあ、前半を読んでからだけど。
「うん、自信持ちます、もっと」
「よし、ほら、お肉食べて元気だしてください。
またご飯誘いますから」
「毎回思いますけど、裕さんって結構強引ですよね?」




