5.「リサ・エターニャ」
まにあった!!!
「何から話しましょうか……そうですね、生まれから話した方が早い気がしました。少し長くなりますが聴いてもらえますか?
ありがとうございます。
私の人生は幸せではなかったんだと思います。
でも、自分を不幸だと言い切るには私は世界を知らないし、私より不幸な人がいると思うんです。
だから、幸せかと問われたら不幸とは言えないけどやっぱり私は幸せではないんだと思います。
それでも生まれた時は幸せでした。
それなりにいい立場にいた父親と、優しい母親。家庭は裕福で家族愛にも溢れてて温かな時間が流れていました。
父は吸血鬼の王で魔王の幹部をやっていて、母は父と様々な苦難を乗り越えて結ばれた妖精でした。
魔族に属さない妖精である母と、吸血鬼である父が結ばれるのは奇跡にも近く、すごいことなんですよ?
妖精は中立な者として現在存在していますが、その時は荒れに荒れたらしいです。
1妖精の結婚でそこまで荒れるものなのかと思わなくもないですけど、母に聞いたらニコニコしながら私の頭を撫でて、
『お母さんはね?ちょぉーと妖精でも偉い立場なの。ちょっとだけよ?ちょっとだけ。今は結婚してるから関係ないけど』
と言っていました。
その偉い立場を捨てて父との愛を選んだ母は、愛に生きてる感じがして私の憧れなんです。私だって女の子ですからいつかは……と思ったりもします。
私は2人の子供の為、種族的には吸血鬼と妖精のハーフになります。
そのせ……そのおかげで私は生まれたときから物心ついていたんです。
え? 当然です。初めて抱きかかえられた時のことすら鮮明に思い出せまよ。
私はちゃんと愛されて生まれてきたんだと、少なくとも親には祝福されていたと憶えています。
ですが両親には愛されて私は生まれてきた私は周りからは忌み子と言われて生きていました。
それは吸血鬼と妖精のハーフという事が1つと私の目の色に理由があります。この紫の目は忌み子の証なんです。なんでかはわかりません。この目のせいで今まで忌み子として生きてきました。
両親はとても綺麗だ、鮮やかだ、と言ってくれていました。そのおかげで私もこの目が好きでした。だって綺麗と褒められるのが嬉しかったから。
だから、この目を理由に忌み子として蔑まれようともどうでも良かったんです。私は2人が褒めてくれたらそれで良かったから。
私は両親の言い付け通りあまり外には出ずに本ばかり読んでいました。知識があるのはこれのおかげですね。そして本で得た知識を母に自慢するのが好きでした。自慢する度に母が、
『そうなの!?ママ知らなかったわ~。リサは物知りね、おかげでママも賢くなれちゃうわ!』
と、まるで今知ったかのような反応をしてくれました。その反応を見るたび嬉しくてもっと本を読んでましたね。
でも、そんな幸せで温かな生活は察しの通り長くは続きませんでした。
3年がたったある日の事です。この村の惨状の原因である竜と戦争が始まりました。
父は吸血鬼の王として、また魔王軍の幹部として、戦争に参加して家を空ける時間が増えてきました。
戦争が始まって2年目、つまり去年ですね。私と母は魔王様に呼び出されました。
そのときから何となく嫌な予感はしてました。
普段は週1で帰って来てた父が1か月も帰ってきてないんですもん。母も呼び出された理由に薄々勘づいているようで青い顔をしていましたね。
玉座の間にて私達は魔王様と会いました。この時の魔王様は普段の威圧感がまるでなく悲しそうな魔王様がいました。
『お久しぶりですございます。魔王様。フィネ・エターニャ、リサ・エターニャ、参りました。』
『よく来たフィネ・エターニャ。我らの仲だ、他に誰もおらんし堅苦しい敬語はよせ。我もそうする。』
『では……。シダレ君皮被るのもなかなか様になってきたね。元気してた?』
『そりゃ300年も魔王やってたら様になってない方が問題じゃ。』
『その言い方、まんま昔のシダレ君で安心したわ。』
『フィネも子が生まれて丸くなったと聞いていたのじゃが……そうでもないのぅ。』
『失礼ね。シダレ君の前だからよ。』
『ほほっ嬉しいことを言ってくれる。――さて、本題に入ろうかね。』
『覚悟はできてるわ。』
『……儂は言いとぉない。………が、言わねばならぬ。旧友としても魔王としても。』
『えぇ……、ごめんなさいシダレ君には辛い役目よね。でもお願い。』
『分かっておる。そのぅリサじゃったか?』
『………はい、魔王様。』
『お主にはこれから地獄が待っておるじゃろう。その火蓋を切るのは紛れもない儂じゃ、儂を恨んでくれてよい。これから思う様々な負の感情はその小さき身に余るじゃろうて。忌み子であるから余計にな。』
『はい。ですが、私は魔王様を恨みません。何をおっしゃられるかも想像はついておりますが、私は父と母の子です。忌み子だからと嫌悪せずここまで育ててくれた両親に恥じるようなことはいたしません。』
『リサ………。』
『フィネ、お主の子は強く、幼子とは思えぬほどにしっかりしとるのぉ。』
『自慢の娘ですから。』
『うむ。』
『リサよ、お主今年で何歳になる?』
『明日で5歳になります。』
『……そうか…………。』
魔王は凄く悲しい顔をしていました。
今にして思えば、誕生日を悲しい思いを抱きながら過ごす事になる私を案じて下さってたんだと思います。
優しい魔王様です。
『今、我らは竜と戦争しているのは知っておるな?フィネ、お主の夫であるガウスはその戦いの指揮官として現地におった。昨日、その最前線に未確認の竜が現れガウスは討伐せんとそこへ向かった。そのあとすぐじゃった。全ての記録球を壊す範囲でその竜のブレスが襲い、戦場が消滅した。残るは底の見えない大穴だけじゃ。』
その報告を聞いた瞬間、母さんが泣き崩れました。
私は魔王様が何を言ったか分かりませんでした。私たちは覚悟していたのにも関わらず、です。
『その、遺体は……遺体はあるんでしょうか?』
『儂は消滅と言った。あの場にあった、木々や人、動物、全てが消えた。消し飛んだのだ……。』
『そ……んな……ぁあああぁあぁぁぁあ!!!ガー君!ガーくぅぅんんん!!!!』
『――――なんで、私を置いて行っちゃったの?何処でも一緒って言ったじゃない………………。』
母が大きく取り乱す姿を見て、ようやく私も言葉を咀嚼することができました。
今にして思えばしなかった方が幸せだったかもしれませんね。
『お父さん………ひっく………お父さん』
『ガウスからもしもの時の遺書がある。』
『ッ!?読ませて下さい!!!』
ーーーーーーーーーー
シダレへ
これは万一のことがあった時の遺書だ。
フィネとリサに渡してくれ。親友の頼みだ……まかせた。
『フィーちゃん、すまない。次の生でも、一緒だ。今は隣を見ろ。フィーちゃんは立派なお母さんだよ。またね!』
『リサ、一緒にいてあげれなくてごめん。美人になったリサを見たかった。大きく育てよ。母さんと仲良くな。』
ガウス・エターニャ
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その後うちに帰るまでの事はよく覚えてないです。
気が付けば家にいたので。
そして、その日から3日私たちは泣きました。
2人で抱き合って、泣き疲れたら気を失うように寝て、起きてはまた泣く、そんな日々でした。
それで私と母さんの涙は枯れてしまったんです。
ですが私の不幸はここで終わりません。
元々父の威厳で忌み子の私は守られてきました。この意味が分かりますか?私を守るものが消えたんです。街単位……いえ、国、あるいは世界単位で虐めが始まりました。虐めは辛くなかったけどそのせいで母が苦しむのは辛かった。
私の状況をどうにかしようとした母は、私と一緒に村に引っ越したの。その村では表向きは私達に優しい村だったけど、村に到着して2日目に、妖精の兵たちが来たわ。
『フィネ様、あのコウモリは死んだのでしょう?
そんな忌み子捨てて家に帰りましょう。』
『貴方達、次にガー君をコウモリと言ったり、リサを忌み子と言ったら殺すわ。それで?用はそれだけかしら、他にないなら帰ってもらえる?』
『それは出来ませんし、フィネ様は来ますよ?リサの安全が保証されるのですから。』
『…………。』
『どういう意味か分かりますよね?』
『はぁ……お父様も落ちたものね。孫を人質にするなんて。』
『少しばかり、口が過ぎますよ?』
『そう言われても仕方の無いことをしてると思うけどね。』
『…………まぁいいでしょう。フィネ様がなんと言おうが、妖精の王が人間、魔族に及ぼせる力は強大なものです。フィネ様も分かっておいででしょう?確実に身の安全は保証されますよ。』
『少し……考えさせて』
『明日まで待ちます。いいお返事を期待してますよ。』
私はその兵の顔をよく覚えています。
ねちっこい視線に、ニマニマしている口。母を犯すことしか考えてないような顔をしていました。
会話から私が分かったことは、母がついて行けば私の身が保証され、母が酷い目に合うということだけでした。
母に手を引かれてその場を去り家に帰ると、何事もなかったかのように母は夕食を作り、ご飯を食べ、母と添い寝して眠りにつきました。
次に目を覚ましたらまだ外は真っ暗で、私は村長に抱っこされていました。
母の泣き顔が目の前にあって、ビックリしたのと同時にどういう状況か分かってしまいました。
私が目を覚ましたと分かると、母は無理矢理笑顔を作り、
『ごめんねリサ。愛してる。愛しているわ、誰よりも……。大きくなって、お父さんみたいな人を見つけなさいね?お母さんの事は死んだと思い……思って。村長なら良くしてくれるわ。』
『いやっ!お母さん!行かないで!お母さんがいればそれでいい!それがいいの!!!』
『うっ…………ひぐっ……うぅ……本当はね?お母さんもリサと一緒がいいの。何もいらない、リサ。貴女が居てくれればそれだけでいいの。でもね?リサが死ぬ事だけダメなの。分かってくれなくていい。恨んだっていいわ。でも、お母さんはいつまでも愛しているわ。じゃあね。元気でね。』
『お母さん!……お母さん!いやっ!嫌なの!お母さん!!!』
私も母も枯れたはずの涙が目からいっぱい溢していました。
えぇ、そんな顔しないでください。カイキさんは優しいですね。
この時に本当に涙は枯れたんです。だってこれから先の辛い事でも泣かなかった。いえ、泣けなかったから。
私の不幸はさらに続きます。
村長は私の世話をするつもりはなかったようで、しかもそれが私の為だと本気で思ってたみたいです。
村長は母が連れて行かれてからすぐに私を村人に渡しました。その村人がよくなかったのですが……。
村人に預けられた私を待っていたのは地下室だった。牢屋みたいな部屋。トイレしかない。それ以外には食事と本が1日に1回届けられるだけでした……。そしてそんな生活がしばらく続きました。もう、声も出せないくらい私は衰弱していきました。
何日何ヶ月その部屋に居たのか分からないですが、例の村人がいつものように部屋にやってきてあの洞窟に捨て置いたんです。たぶんのたれ死ぬとおもったんでしょう。事実私もそう思いましたから。私はその洞窟がどういう場所か知っていましたからなおさらですね。
主であるコカトリスが返ってきた時が私の人生が終わるとき。衰弱が早いか主が帰って来るのが早いか、ドキドキでしたね。主が数日帰ってきませんでしたから奇跡ですよ。
この後は知っての通り、カイキさんに会ってここまで来たんです。」
【マナ】
この世界には魔力とは別に【マナ】と呼ばれるものがある。
【マナ】は緑色に発光している球でサイズは鶏の卵ほど。
この【マナ】は常人には見えず見えたときは【マナ】が多く集まっている場合である。
【マナ】は現在も謎が多く、現在も研究中である。
私はこれまでの研究から1つの仮説を立てた。それはこの【マナ】と呼ばれるものは【生命力】のようなものではないかということである。
この仮説にはいくつかの根拠が存在する。
1つ目は【マナ】が死体などから出てくること。
2つ目はその【マナ】が止めを刺した存在に吸収されていき、その存在が強くなったこと。
これに関しては正直確証はない。なぜかというと強くならない方が多かったからだ。それでも数人は強くなったので根拠として採用している。
これらが【マナ】が【生命力】である根拠である。
もしかしたら【生命力】だけでなく【魂】なども関係しているのかもしれない。そこは研究中の為、まだわかっていない。
申し訳ないが【マナ】関してはこれくらいだ。
これからも研究を続けていくつもりである。
ティナ・テレーゼ著