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ヘリオドール・オブ・アンバースデイ  作者: 嘘乃成木
1章HelloWorld
5/8

4.「大人と子供」

7月2日にもう1話投稿します。


そこでは前回のように【ティナ・テレーゼ】著の【マナ】を後書きに書きますのでそちらもどうぞよろしくお願いします

 



 何をそんなに怯えてるんだ?…………いや、普通に考えたら怯えて当然の状況かぁ。


「エターニャちゃんはどうしてこんな所にいるんですか?」


 彼女は少し驚いた様子だったが直ぐに表情を隠し、話始めた。

 

「誘拐され、ました。」


 そりゃそうだ。好きなこんな所にいるはずないもんな。


「あの…………」

「どうしました?」

「誘拐されたん、です、か?」


 誘拐…………だとは思う。気付けばここにいたし。ほんとなんでここに居るんだろうな。


「たぶん?」

「たぶん?」

「たぶん。」

「たぶん、ですか。」


 首を傾げオウム返しをする。あどけなさも相まってとても可愛い。


「はい。気付けばここにいたので。」

「なら、ここの主は……!?」


 彼女がすぐさま顔を真っ青にして震える。


「い、一刻も早くここを、出ましょう!主が帰ってきて、しまう、前に!」

「は、はい!」


 少女とは思えないあまりの迫力に気圧され、痛む体ムチを打ち立ち上がる。


「カイキさん!」

「はい!?」

「力が、出ません!おんぶ、して、くれませんか!?」

「ふふっ」


 真剣な表情で可愛らしい事を言うもんだから思わず笑ってしまった。エターニャちゃんはその様子に少しムスッとした。


「分かりました。乗ってください」


 エターニャちゃんを背中に装備して、洞窟を出る。

 ここからどうするんだろう。


「えっと……エターニャちゃん、この先の道分かりますか?」

「リサで、いい、ですよ、敬語も、不要です。近く、に、村があります、から、そこへ行きま、しょう!案内、します!あっちです!」


 後ろから指を指し案内される。

 敵に会わないといいけど………。焦っているエターニャちゃん、もといリサちゃんを背負い、右足を軽く跛足を引きながらではあるが走り出した。



 






 疲れない………………?


 森の中を走り出して体感15分。なおも走りながらふと思った。


 通常、というか俺の場合100メートルも走れば息切れをしてまさに死に体といった形相をしているはずだ。なのに今走って来た距離は明らかにそれを超える。しかも怪我をしていることも踏まえるともはや異常だ。

 しかもだ、何処か体が軽い。昨日よりよく動く気がする。魔力の循環も昨日よりもいい…………気がする。今は、どちらも体感でしかない上にハッキリと検証した訳じゃないからボヤけているが、これから先同じような事があればハッキリとしてくるだろう。


「カイキさん!見えてきました!」


 そんな事を考えていると、森が開け、村が見えてきた。

 ただし、至る所から黒煙を上げている村なのだが。


「…………あそこ?」

「…………あそこ、です。」

「と、とりあえず行ってみようか」


 村に近づくにつれ徐々に焦げ臭い匂いが濃くなり、それに伴ってナニカが焼けているかも鮮明になってくる。村の門の前まで来た時ナニカが何なのか分かった………分かりたくはなかったが。


「ウッ………。」

「カイキ、さん……これは……。」


 ナニカは死体だった。門の前には1つ、それに加えここから見えるだけでも村の中にはおびただしい量の死体があった。

 ソレらを見て吐き気が襲ってくるが寸でのところで耐える。

 もしかしたらあの白い部屋で自分の死体を見てなかったら吐いてたかもしれない。


「…………。」


 リサは顔を青くしながらも真剣にソレらを見つめている。

 この子、死体を見るのに慣れてる………?


「カイキ、さん、村に入って、ください。まだ生きて、いる、方がいる、かも、しれません。」

「そうだね……。」


 リサちゃんが言うようにまだ生きている人がいるかもしれない。

 死を目の当たりにする覚悟を決め村に入った。




「ひどいな……」


 家は焼け焦げ、田畑は踏み荒らされ、道にはヒト型のナニカ(死体)が至る所で折り重なるようにある。


(ドラゴン)、ですね………。」


 リサが背中で呟いた。


「ドラゴン?」

「はい。あの足跡と、この燃え方、確証はない、ですが、おそらく………それにこのルーベ魔帝国は現在竜種と戦争中ですからね。」

「なるほど」


 どこの世界でも戦争はあるもんだなぁ。


「ッ!?カイキさん、あそこ!」


 リサちゃんが指を指す方向を見てみると燃えていない家があった。


「あそこならまだ…………。」

「はい。行って、みましょう。」


 家の前まで行き、改めて家を見てみると焦げ跡やドラゴンにつけられたと思わしき傷は1つもない綺麗な状態だった。


「なんで?」


 思わず口に出てしまった。


「余程、腕のいい、魔法使いがいたんで、しょうね。」


 ドラゴンの攻撃をもろともしないって、この世界の人間どんだけ強いの…………。


「中に、精霊が集まっている場所があります。」


 扉越しによく見えるね。

 そして、精霊なんて見えたんだ。というかいるんだ……普通に見えないよね?

 もしかしたら右目のおかげで俺も見えるのでは?


 魔力を見る要領で試す────ッ!?


「カイキさん?」


 言葉を失うとはこういう事を言うのか。


 俺は呼吸を忘れ"世界"を見た。

 俺が普段知覚している"世界"なんてほんの一部でしか無くて、"世界"は俺が知るより色を持ってそこにあるんだ。そう思うほど幻想的な光景だった。

 至る所に色とりどりの光の玉がふわふわと、幾つも浮かんでいた。

 まるでカラフルなシャボンが視界いっぱいにあるようだ。これが精霊なんだろう。


「………………綺麗。」


 稚拙で、ありきたりな言葉。そんな言葉しか出て来ない自分が恨めしい。


「え?あ、え、えぇ?」


 リサちゃんが何やら戸惑っている。そのおかげで少し冷静になった。


「ごめん、困らせたね。精霊が見えたんだ。」

「カイキさん…………何者、ですか?」

「それは落ち着いたら話そう。()()()に。」


 リサちゃんの顔が強張る。


「そんな怖い顔しなくても大丈夫だよ。大したことは話せないし質問しないから。」


 謎が多いのは当たり前だ。何せ今朝であったばっかりだし……。それでも彼女が並々ならぬ事情を抱えていることくらいわかる。

 俺が聞きたいことはこの世界の常識についてで、彼女の秘密については触るつもりはない。


「さぁ入ろう。」

「………………はい。」


 家の中に入る。物が散らかって当時の慌てぶりが窺えた。リサちゃんが言っていた精霊が集まっている場所はもう1つ奥の部屋だった。


「あそこみたいだね。」

「行き、ましょう。」


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 リサちゃんが背中でゴクリと唾を飲む音を聞いてからドアを開いた。


 真っ先に目に付いたのは精霊の量だ。この精霊の量の原因になっているだろう目の前にある物が、何なのかわからない程にその物に密集していた。

 その物は床に転がっていた。詳しく見てみようと近づくと徐々にその物から精霊が離れていき、次第に物が何なのか明らかになっていった。

 完全に精霊が退いたあと、俺は本日何度目かになる驚きを得た。

 物は男性だった。細身の黒髪で顔は堀が深く立派な眉毛が特徴的だ。身長は大体180くらいかな?歳は俺と近く見える。二十歳前後だろう。スゥスゥ、と聞こえることから、今は寝ているだけのようだ。


「寝てるだけっぽいよ。」

「魔力の流れを、見ても、正常です。」

「何も無いようで安心したよ。」

「不思議……と、言うよりは不気味ですけどね。」

「確かに。」


 あの惨状の中グースカ寝てるんだから異様としか言えない。


「まぁ取り敢えず…………ご飯にしよう。」


 リサちゃんのお腹から「くぅ〜」、と言う元気な返事が聞こえてきた。

 結局飯に1度もありつけてないから俺も腹減った。


「リサちゃんはそこに座ってて。」


 リサちゃんを男の横に降ろし、ご飯があるか家の中を物色する。

 色々と見て回った後、キッチンらしき所についた。


「干し肉、パン、パン、これはー腐りかけのキャベツか……?あとなんかよく分からんやつ…………まぁ肉とパンが手に入っただけマシだな。 よし、戻るか。」





「おかえり、なさい。」

「ただいま。ご飯にしよう、パン持ってきたよ。」


 胃に負担がかかるかもしれないが一応干し肉も分ける事にした。

 それらを受け取ったリサちゃんは小さい口をハムスターのように早く動かしは食べ始める。それを正面に見据えながら俺も食べ始めた。


「リサちゃん」


 タイミングを見計らって声を掛ける。

 そろそろ自分の事を話そうと思う。心細いっていうのもあるが、リサちゃんが俺の名前を呼ぶ時の発音が必ず違う。というか、そもそも初めて名前を言った時、聞き慣れて無さそうな感じがした。リサちゃんだけなのかは分からないが、日本名が珍しいのかもしれない。つまり、目立つ。

 さらに、思い出して欲しいのはさっき彼女が言った″サクラ国″″貴族″の2つのワード。サクラ国は日本に近い文化を持っているんだろう。これは俺の名前から推測したはずだ。

 そして、貴族…………この誤解はまずい。問題になる気しかしないからだ。この誤解は名前…………苗字があることで起きたんだろう。ただ確信したのは精霊が見えると判明した時だったように思える。サクラ国の貴族は精霊が見えるんだろうか?………まぁ後々分かるか。


 この辺りの誤解を解く為と、これから誤解されないようにする為に男が起きる前に話しておきたかった。

 子供相手にと思うかもしれないが、仮説として彼女は子供では無い。ここはファンタジーなのだ。合法ロリがいる可能性は十分ある。実は何百歳という可能性すらある。

 人は見かけによらないとは言うがこの言葉を作った人もビックリな守備範囲だ。

それと変なトラブルが舞い込んでくるのも嫌なので偽名を使おうと思う。本名がバレてるこの子には一緒に考えて貰おうと思う。


 「ゴク。…………なん、ですか?」

 「いずれ、この人も起きるだろうしさっき言ってた事話そうよ。」

 「…………はい。」


 その紫の瞳の正面に俺を映しながら真剣に頷いた。


「では改めて、名前は近衛廻帰(このえかいき)、出身は異世界、歳は21、将来の夢は旅人の無職です。」


 とぼけたように言った。はっきり言うとボケた。この重い空気が少しでも軽くなればいいという気遣いが2割。これ以上重くなると俺が耐えれそうにないって理由が8割だ。


「い、異世界?」


 更に警戒心を強められた。今にも「フシャーッッ!」、と猫のように威嚇しそうである。

 作戦失敗だ、ちゃんと話そう。


「うん。リサちゃんとは別の世界でこの歳まで生きてきたんだ。国も名前も違う、魔法だってない世界だよ。精霊が見れるってのはさっき初めて分かったんだ。だから驚いてたんだけど。」

「それなら、尚更おかしいです。どうして見えたんです、か?」

「あぁ、それはこの目のおかげだよ。俺の右目は少し特別でね、自分でもよく分かってないんだけど、どうやら人間に見えないものが見えるらしいんだ。確認してるのは魔力と、なんかよく分からない緑色のフヨフヨした玉、あと精霊か。」

「何ですか、それ。自分でも、わからないって。」


 クスクスと笑いだす彼女。

 良かった。空気が軽くなって。


「あと、緑色の玉は、マナと呼ばれています。普通見えないんです、けどね。」


 マナ……魔力とはやっぱり別物らしい。


「という理由もあって、俺はこの世界について――常識とか魔法とか全く知らないから色々教えてよ。」

「世間知らずの……子供でよければ喜んで。」


 その言い回しのどこが子供だよ。


「ありがとう。」


 礼を言うと彼女は、先程の笑顔とは違うとても柔らかい温かい笑顔を見せた。


「異世界?の人になら―――カイキさんになら話してもいい気がしてきました。」


 しばらくの沈黙の後、微笑みながら言われた。

 少しは信頼してもらえたのか? いや……今の反応的にこの世界の人には話せないって感じか?異世界人なら大丈夫だろうと思ったってのが正しそうだ。


「リサちゃんが見た目通りの歳じゃないってこと?」


 性懲りもなく惚けた風に言った。


「私はちゃんと見た目通り6歳ですよ。」

「だとしたらだいぶ大人びてるね。」


 言い回しも、死体を見慣れていることも、考え方も。


「誉め言葉として喜んでおきますね。」


 笑顔に圧が出てきた。女性には厳禁だっただろうか。


「実際、見た目と年齢の差なんてものは、この世界では割とありますよ。」


 ヒェッ………。見た目で判断せんとこ……。


 さっきの笑顔から俺に対する何かが変わった様子だ。

 そう、流暢になったのだ。元々、途切れ途切れになっていたのは人見知りなんだろうと思っていたけど、どうなんだろう?


 「私を大人と言ったカイキさん。

 カイキさんは大人と子供の違いはなんだと思いますか?」


 唐突に深い質問が来た。

 未だに子供気分でいる俺が上手く答えれるとは思えないけど…………そうだな。


 「見た目、それと人生の経験値じゃないかな?」

 「経験値?」

 「そう、経験が人を大人にするんだと思う。まぁ正確に言えば、その経験から基く考え方だと思うんだけど。普通の子供はそれを身につけるには時間が足りないと思うから子供なんだと思うよ。」

 「…………私は経験豊富に見えましたか?」


 目を弓にして意地が悪そうな笑みを浮かべ、聞いてきた。


 「その歳で死体を見慣れるくらいには。」

 「それこそ、世界が違うからかも知れませんよ?」

 「嫌な世界だね。」

 「全くです。」


 子供も死体慣れする世界かぁ…………物騒とかいう話じゃないな。


 「私が大人に思うならそれは種族柄ですよ。」


 そこからリサ・エターニャに取り巻く悪意と、彼女に訪れた僅かな幸せを話し始めた。



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