2.「目的と目標」
土の匂いがする。次に雑草の青臭さに、木々の匂い。森の中だろうか。軽く肌を撫でる微風が心地いい。木漏れ日が瞼の裏を照らしている。
それらによって次第に意識が覚醒していく。
起きるか……。
どんな所なのか、この世界のスタートなのでドキドキしながらゆっくり目を開ける。
同時に冷たい一陣の風が吹いた。まるで「ようこそ」と言われている様でやる気が湧いてくる。
「すぅーはぁーーー。」
気合を入れるために深呼吸をする。森の中だからか、はたまた異世界だからか、空気がとても美味しい。
…………………。
「どこですかね、ここ。」
最初に目に入って来たのは木。辺りを軽く見回しても木。360度、木。
木しかない。予想通り森だ。
真上には太陽がありお昼だということを教えてくえれる。
どうしようか。
何しろいきなりだからな。とんとん拍子でここまで来たもののこれからを考えてない。
うーん……まずは目的だよな、つまるところこの世界で何がしたいか。正直これは決まっている。地球でも同じだったからな。やっぱり生きがいを見つける。死にたくないから死なないのではなく、やらないといけないから生きるでもなく、これをしたいから生きるって事を見つけていきたい。
これを基準に考えていこう。この目的の為には何をしなければいけないか……。
………"出会い"が必要だ。したい事に出会う必要がある。
なら出会いを求めるには何が必要だ………?
うーん…………旅か?――うん、旅だな。観光も含めてなら楽しめそうだ。
当面は旅をするための準備をしようか。今は一文無しだしな。
まず、森から出ないと―――――
「―――危なくないか?」
だって森だぜ?それも異世界の。
魔物とかいるって聞いたし普通の猪にも勝てる自信ないぞ、てか負けるぞ。
そこでふと、この世界に来て初めて自分の姿を見た
地面との距離は地球と変わらないから本当に元の通りなんだろう。
この分だとイケメンになってたりもしてないだろうなぁ。あとで水面かどこかで確認しよう。希望は大事。
服はなぜかスーツ。しかも黒ネクタイといい略礼服としてのブラックスーツだ。葬式とは洒落が効いている。あの女神にもお茶目な部分があるのかもしれない。
ポケットの中も一応、一応見ておく。すると胸ポケットの中に紙が入っていた。
見てみるとどうやら女神フレイヤの書いた手紙らしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
親愛なる近衛廻帰さんへ
真っ白な入道雲と青空の美しいコントラストは、この時期ならではの楽しみのひとつですね。
無事に転移できたようですね。少し手違いがありましたが問題無いでしょう。その場所から遠方に見える大樹があるはずです。それを目印に行くと建物があるのでそこならとりあえず落ち着けると思います。そのまま行けば村もあるのでお勧めです。これからの人生を楽しんでください。
時候の挨拶から察せるように季節は夏です。水分補給は大切にしてください。
さて、これから書き示す物は廻帰さんの身体についてです。
頭、というか脳ですね。全損だったので神経系全般強化しました。痛覚に上限を設定しました。
魔法適性を付与しました。実はこれがチートその1ですね、全部与えたので。
顔、というか目ですね。視力を上げました。上記の通り神経系もあげたので大抵のものは目で追えるようになっています。チートその2ですね。
次に右目ですが完全に破壊されていたので人には見えないものが見えるようにしました。神仕様です。
右手、掌から鍵を出し入れ出来るようにしました。空中で魔力を込めて鍵を回すとバイクが出てきます。
身体全体、魔力回路を付与しました。これによって魔力関連が使えるようになります。魔力量は魔力回路がまだ細いため少なめです。
さて、魔力の話が出てきたのであの部屋でできなかった魔法の話をしましょうか。
廻帰さんに魔力回路を作ったので目を閉じて感じてみて下さい。血管のように全身に張り巡っているはずです。
作り直したことによる違和感はあると思いますが慣れるしかないので頑張って下さい。
それではいづれまた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ツッコミたいことはたくさんあるが考えないといけない事が増えたので置いておこう。
身体について触れていたので手足を軽く動かしてみる。正常に動いたがどこか謎の違和感がある。
これが、手紙で言っていた違和感だろう。確かに今までの運動神経や筋肉の付き方が違うから違和感があって当然だ。早く慣らすために運動しないとな。
さて、今やるべき事はなんだろうか。正直に言えば今すぐにでも魔法関連を試してみたいが………………。
衣食住の食事、住処くらいは安定させたい。特に住処、に関してはとりあえず落ち着ける場所が欲しい。落ち着ける場所が手に入ったら魔法関連の練習や旅の準備も捗るだろう。
日は異世界でも沈むのだ。そして、夜の森は昼の森より危険だということは何となく分かる。森から一刻も早く出たいが木々が邪魔でバイクもまともに走らない。
…………とりあえず歩くか。多分手紙にあった大樹とは正面を見上げれば見えるあれだろう。
鳥の囀りや木々の葉が揺れる音、小動物が草むらをかける音などを聴きながら歩き始めた。
「腹減ったな」
空がオレンジ色に染まり始めた頃、1人ボヤきながらも歩いていると大樹の麓まで来た。
大樹の真下には教会だろうか、小さい建物が立っていた。
恐らく手紙て言っていたのはこれのことだろう。
「お邪魔します〜。」
中に入るとハッキリと教会だと分かるつくりだった。
どんな神様を信仰しているかは謎だが、男神像が置かれているのであの女神では無いことは確かだ。
像の隣には扉があり、中に入ると居住空間になっていた。
中央にはベッドがあり左側に机、右側にはタンスが三つ並んでいた。
「ふぅ〜〜。」
少し歩き疲れた、足裏が痛い。地球では森の中をこんなに歩いたことは無かったからな。日の沈み方からいって4時間は歩いたか。自分を褒めてやりたい。
ただ、そのおかげで安眠出来る場所まで辿り着いた。
このまま眠りたい欲望もあるが、楽しみである魔法も試したい欲の方が高い。
早速やってみるか…………確か魔力回路を感じるんだったな。
目を閉じる――トクントクン、と落ち着いた心音を感じる。
………………のみだな。魔力が何なのかわかっていないというのもあるだろうが、かけらも感じない。どうしたもんかね……。まぁ今は他のことを試してみよう。女神から得たものはこれだけじゃない。
まずはバイクだ。手からいつも持っていたカギを出すイメージをする。
うわっ、手からカギが生えてきた。地味にホラーだが成功だ。そのまま女神の手紙の通りに空中で回す。目の前に半透明の紫の塊が出てきた。次に下から上に紫の粒子が剝れていき、元からそこにあったようにバイクが姿を現した。
「久しぶり。」
姿形が変わらない愛車に安堵を覚える。カギをさし、セルスイッチを押してエンジンをかける。
腹に響く低音を奏ながらエンジンが唸りをあげた。
エンジンも無事かかって使えることを確認し、カギを手の中にしまうイメージをする。
出てきた時と同じようにスッと身体の中に戻っていった。やっぱりホラーだな。
次に、右目だな。女神の手紙によると見えないものが見えるようになっているらしい。実は心当たりがある。
ここに来るまでに野生の鳥などを見たわけだが、飛んでいる鳥を見上げて見た時結構な距離があって目を凝らさなけばいけなかった。凝らして見たとき地球では見たことのないオーラっぽい何かと魔力回路らしき物を鳥に見たのだ。たぶんあれが魔力だと思う。
そこでふと気づきを得たのでやってみる。
――うん、成功だ。てことはさっき感じることができなかった魔力回路も感じれるのでは?
「よっしゃ!」
思わずガッツポーズをする。
今やったことは簡単だ。魔力を視れるということは俺の中にある魔力も視れる。そしたら感じやすくなるのではと思ったのだ。
結果はこの通り成功だ。俺の体内に血管のように魔力回路が張り巡らされており、そこを紫の魔力が通っていた。それを意識してさっきのように目を閉じて感じてみると、ちゃんと感じれた。そして魔力も大雑把にではあるが動かせた。大きな一歩だ。これを毎日繰り返して魔力操作を磨いていこう。
さて、やりたかったことも出来たし、外はもう暗いので寝るかな。
しわにならないようスーツを脱ぎ、腰かけていたベッドに寝転ぶ。すると、すぐに眠気が襲ってきた。
「おやすみ」
あいさつは大事だ。誰に言うでもなく呟いて意識を宙に放り投げた。
窓から差し込む朝日で目を覚ます。
「うぅん……おはよう。」
上半身だけ起き上がり暫くボーッとする。だんだんと意識が覚醒していく。
その過程で「ぐぅ〜」と腹の虫が飯を寄越せと主張してきた。
「腹減ったなぁ。」
覚醒していくにつれてお腹が空いてきた。それも当然の話で、昨日一日何も食べてないからな。今日は食料調達しに行こう。
ベッドから出て服を着る。昨日日課にすると決めた魔力操作の練習を済まし、部屋を物色する。
タンスの中には修道着のようなものが数着、袋が二つ、神父服が一着が入っていた。
神父服は地球で言うところのキャソックと同じ物だった。違うのは黒を基準に白色のラインが肩口から袖まで左右二本ずつあり、胸ポケットがある位置には見えずらいが黒色で十字架の刺繍が入っていた。お洒落だ。そして何よりの特徴としてなんとこの神父服、白色の魔力が纏われていた。神の祝福でも受けたんだろうか。今のスーツより強そうだ。
というわけで神父服に着替えて部屋の物色を再開した。
机には一通の手紙となんの装飾もされていない短剣が一本あった。
失礼だが手紙を読ませてもらおう。此処がどこなのかもわかってないからな。
ーーーーーーーーーーーーーーー
オービスへ
こっちはついに始まった。そっちにもそろそろくるだろう。まぁそっちはお前がいるから何とかなるだろうが、正直言ってこっちは無理だろうな。今はギリギリ軍が抑えているが二つ、他とは比べようもないほどデカい反応がある。昔俺たちが遭遇した二匹の狼と同レベルだと思ってくれていい。まったく……研究も進んでないってのにな………。研究といえばだが、こっちの数少ない資料はいつもの場所に隠しておいた。お前がレービンが嫌いなこともその理由も知っている。だが、ルーベからできればでいいから来てくれ。それと万が一があれば頼む。巫女もだ。
リゲル
ーーーーーーーーーーーーーー
急ぎで書いたことが窺えるような書き殴った文字だった。
相当修羅場な感じだ。それも命のやり取りっぽいし……。
今の俺にとって役立つ情報が何個か書かれていた。
どうやらここはルーベ魔帝国らしい。初めて会う人達が人外というのはちょっと緊張する。
それと、この手紙がいつごろ書かれていたのか分らないが、当時はなにかとの大規模な戦いがあったという事だ。それが今も行われているかすらも分からないが警戒するに越したことはない。
……………分からない事が多すぎて嫌になるな。
お目当てのご飯にはありつけなかったが情報は手に入った。
いよいよ当初の目的である食料を調達しよう。
外に出ると森の中らしい冷たい空気が出迎えてくれる。
一つ深呼吸をして、辺りを見回す。昨日と何ら変わりない風景が広がっている。つまり森だ。
さて、食料調達とは言ったもののどうするか…………。
クマ、猪、狼、この辺と出会うと死ぬ。犬なら逃げ切れるかもしれないこともないレベルで死ぬ。魔物は未知数、穏やかな魔物もいるかもしれないからな。
だから狙い目は野鳥や木の実だな。
木の実に関しては毒があったらいけないから出来れば避けたい。
「よしっ」
腰で地面に平行になるように短剣をさし、森の中に入っていく。
獲物は右目で魔力を見て見つければいい。危険な奴も魔力を見て避ければいいし右目様々だな。
しかし戦う手段がないなぁ。短剣もお飾りだし、魔法も使い方は知ってるって程度でどうなるかも分からない。フィクションでよくある武器に魔力を纏うのだって精密な魔力操作あってこそだ。魔力量も女神の手紙では1、2発との事だしなぁ…………あんまり信用はしない方が良さそうだ。
そうなると振り出しにもどるが、どうしようか…………。
答えが見つからないまま森を彷徨っていると猪の形をした魔力を見つけた。
ここから20メートル程先だろうか、普通なら木々に隠れて見えないが魔力を感知したおかげで居ることが分かった。
問題はこの先の事だ。
どうやって狩ろうか、先程から問題はその1点に収束する。
罠をはる?短剣1本でどうやって?………………詰み…………か?いやいや、戦うしかないか。
人間は考える葦だと昔の偉い人は言っていた。戦術を使え、考えろ。俺には立派な頭がついてるだろ!
猪を尾行しつつ、自分のスペックを鑑みて2つ案を考えた。
案その1、誘って木にぶつけて怯んだところを刺す。
案その2、右目を頼りに見切りに見切って短剣で切りまくる。
バカか案1に決まってるだろ!案1でも怖いのに何で危険度が高い案2を考えたんだよ!
そうと決まれば話は早く、俺は隠れるのを止め猪の前に出た。
「ブモォ!」
「こんにちは」
挨拶は友好的になるのに大事だからな。
猪は突然現れた俺を見て今にも突撃しようと右足で地面を蹴っている。やる気満々だ。
「こいっ!」
俺の掛け声と同時に猪がダッシュでこちらに向かってくる。
背後に木があることを確認して、確実に木にぶつけるようにギリギリまで引きつける。
「今ッ!」
タイミングも右目のおかげでギリギリを攻めれる。
3歩手前まで引き付けたら左に飛び込むようにして避ける。それとほぼ同時に「ズドンッ!」と音が鳴った。
成功だ。猪が予定通り木にぶつかる音だ。急いで起き上がり短剣を抜く。
猪との距離は4歩。出来るだけスピードをつけて詰める。4歩目、腰の回転を加えながら力強く踏み込む。狙いは左目、右手にあった短剣を曲げた肘を伸ばしながら突き刺す。
「ブヒィィ″ィ″ィ″!!!」
猪が悲鳴を上げながら首を大きく振った。
「ヴフンッ!」
変な声出た。
俺は大きく吹き飛ばされ2、3回転がってその勢いで起き上がる。衝撃はあったがノーダメージだ。対する猪は左目から血を流し、残った右目を血走らせこちらを見ている。
猪との距離はまた開き、改めて相対する。
勝てる、そう確信した時、猪は後方に逃げようとしていた。
「あっ!待てっ!」
手負いだから逃げるスピードが遅い。すぐに追撃する。
深い傷を負わすことは出来ないので浅く多く斬っていく。
1撃、2撃、3撃――数を重ねていく。
「ブォッ…………。」
連撃が10を超えた辺りで、猪は至る所から血を流し遂に倒れた。
「ふぅ…………。」
疲れた。ただ何とか討伐出来て良かった。これでようやく飯にありつける。
この後は皮を剥ぎ肉を切っていくんだっけ?
うる覚えの知識で解体を始める。鼻が曲がりそうなほどの血なまぐさい臭いが漂って来た。
吐き気を抑えながら解体を進める。うわっ結構血で汚れるなぁ。
四苦八苦しながら解体を終えると、焚き火のために小枝を集める。
集め終わって気付いたが火種がない。…………こういう時の魔法じゃん。
不慣れながらに人差し指に魔力を集め目を瞑り、ライターをイメージする。
「おぉ!」
熱を感じ目を開けると、指先からイメージ通りの火が伸びていた。
上手くいったようだ。うん?心做しか体がダルいな。魔力を使ったからだろう。
小枝に火を移して焚き火の中に肉を放り込んでいく。
焼き上がるまでの時間で魔力操作を磨いておく。
「コケェェェェエエェェェッ!!!」
「エッ!?!?」
何事!?
ビックリして目を開けるとこちらに威嚇している野鳥がいた。
【魔法】
この項目では【魔法】について知っている事を記していこうと思う。
魔法とは体内の魔力と呼ばれるものを操作し、起こしたい事象のイメージによって発動するものである。
【魔力】が万物に宿っていることは先の項目で記した通りだ。
しかし魔法を使用できない個人、又は種族がいるのはなぜだろうと考えたことはあるだろうか?
人間には極限られた人物しか魔法が使えない。具体的にいえば一世代に一人いるかいないかだ。
何故使えないのか。それは、魔法を発動するには、上記した通り魔力を必要とする。人間の魔力量は魔族に比べ少ない。もちろんそれも理由の一つではあるが、根本的な原因は別にある。それは魔力操作が種族的に不得手な為だ。このあたりの詳しい解説は【魔力回路】に記そう。
そんな種族的に魔法が不得手な人間にも魔法使いがいないわけではない。ごく少数ではあるが。
その魔法使い達は必然的に魔力量が多く魔力操作が上手い者になる。しかし魔法が使えない種族としての人間は始まりの魔法使いとその弟子によって【魔術】を開発した。(詳しくは【人間】・【魔術】を参照)
【魔力】の項目では【魔力】は視認できないと記した。それは正しい。魔法使い達は【魔力】を視認することは不可能だ。しかし感知することは可能である。
魔族は魔力量も人間に比べ多く魔力操作も得意な為、人族よりも魔法を使えるものが多い。具体的には百万人に一人の割合になる。ただし、魔族の場合、細かく種族が分かれている為、全く使えない種族もいる。
エルフやドワーフなどの亜人は少し魔法が使え、のちに出てくる『特殊系魔法』を種族で持っている。(詳しくは【亜人】を参照)
獣人は、人間よりも保有している魔力が少なく、生きるのに必要最低限の魔力しか保有していない。その為魔術すら使えない。
例外として『儀式魔法』があるが、あれは個人での発動で不可能で姫巫女と呼ばれる存在と複数人必要になる。
しかし、魔族の中にも魔法が使えない者、魔法使いであっても使えない魔法があったりする。
それは何故使えないのか。それは適正と呼ばれるものが必要になるからだ。
勿論、魔法によってはより深いイメージや、精密な魔力の操作・制御が必要になるため一概には言えないが、魔法が使えない出来ない原因として1番に挙げられるのはやはり適正だろうと思う。
起こしたい事象のイメージによって魔力の使い方は変わるが基本的には出したい場所に属性変化させた魔力を集め放つ。
この属性変化が肝となる。これこそ、先程書いた適正が必要になってくる部分である。
使いたい魔法の属性と同じ属性の適正がないと魔法は使えない。
属性には
『火』『水』『土』 『風』 の四種類と『無』の一種類ある。
『火』『水』『土』 『風』 にそれぞれ適正があり、『水』 『風』に関してはそれぞれ『氷』『雷』と言う適性が派生として存在する。
これら派生した適性は派生適性と呼ばれている。
例えば水魔法適性を持っている者がいるとする。通常そこで話は終わるのだが、稀に氷魔法適正がある者が現れるのだ。
こうした派生適性の適正を持っている者は魔法を使える者の中でも数は少ない。
次に『無』属性について記していく。
『無』属性とは他の属性と大きく違う。
『無』属性──つまりは魔力そのもの、属性変化させてない魔法のことだ。
この『無』属性には二つの面がある。
一つ目は、他の四つの属性の何処にも属さない適性が入っていること。
二つ目は、派生適性が山のようにあることだ。
他の属性のように単純な一つの属性でない。
つまり、その単純な『無』属性でないものは『無』属性ではあるが属性変化が必要になるということだ。
『無』属性の派生適性は多い。
その為、『無』属性の派生適性は系統によって分けられる。
『時空間系魔法』・・・『転移魔法』『結界魔法』『時魔法』など、時間・空間に関する魔法の派生適性をまとめたもの。
難易度が高く、使い手は少ない。そもそもそれ等の魔法適性がある人が少ない。
『身体系魔法』・・・『治癒魔法』や『強化魔法』など、身体に関する魔法の派生適性をまとめたもの。
難易度は比較的簡単になっており、属性変化させてない『無』属性魔法の代表的な系統になっている。
ここに属する『強化魔法』の適正はほとんどの人が持っているため、使い手は多い。
『精神系魔法』・・・『夢魔法』『幻影魔法』などがある、精神に関する魔法の派生適性をまとめたもの。難易度は少し高い。
これらの魔法適正があるものは『時空間系魔法』よりは多いが『身体系魔法』よりは少ない。
『特殊系魔法』・・・『精霊魔法』『儀式魔法』『召喚魔法』『封印魔法』などがある、特殊な魔法の派生適性をまとめたもの。どの系統にも属さない魔法がここに当たる。勇者が使う『聖魔法』もここに当たる。
難易度はピンキリになっている。。
ある種族しか使えなかったり、血統、個人など、これらの魔法の適正があるものはものは非常に限られている。
以上これらが『無』属性の派生適性の系統になっている。
この中の『身体系魔法』以外は属性変化が必要なものになっている。
ここまでは魔法使いの中では常識で、学園などでも習うことだろう。
しかし、『特殊系魔法』にすら入らない魔法がある。
それは魔王が使う『魔王魔法』だ。
詳しくは【魔王】の項目に書いてあるが、この『魔王魔法』は、名前は魔法と呼ばれているが実際には魔力を使用しておらず、『怨魔力』を使用しているため別枠とし、『特殊系魔法』に入れていない。
また、魔法について語る時、ある人物についても語らねばいけないだろう。しかし、その人物を語るにはこの本には収まりそうにない。
その人物は、この世界で【始まりの魔法使い】と呼ばれている、とだけ記しておこう。