03話 ぎりぎりパーティ
跳ね上げた刃が3メートル級の昆虫型魔獣の外殻を滑り、間接部分へ入り込んだ。
「サンダーボルト!!」
掌から発生した小雷が刀身を伝っていき、関節を焼ききった。
刀身に小雷を纏う・・・。これが俺のほぼ唯一の魔法攻撃だ。本来なら敵に向かって電気の塊を投擲するのだが、俺はどんなに練習しても掌から離れてくれなかったのだ。それだって日に数度しか使えない。
「よくやった、まかせろ!」
動きの鈍った魔獣の腹にデンシュが拳を叩き込む。比較的柔らかい腹の外殻を貫通し、葡萄酒色の体液を巻き散らかした。デンシュの籠手は防御と攻撃を兼ね備え、拳を保護する。魔獣の外殻程度では拳を傷つけることは無い。
「そんじゃ、僕が仕上げだね!」
キョクセンの金髪に所々混ざった赤色のメッシュが風に巻き上げられた。先程からの詠唱が終わったらしい。開放される炎の暴力。
「エクスプロージョン!」
いくら硬い外殻を誇っていても、熱は内部まで侵食する。体中の関節から沸騰した体液を溢れさせ、昆虫型魔獣は事切れた。そして俺たちも所々火傷を負った。魔法に巻き込まれたのだ。
「おい、またやり過ぎだ。少しは威力の弱い魔法でも覚えたらどうだ」
「地味な魔法を使ったって、女の娘にモテナイからやる気でないんだよ。そんな事より高レベル魔法でドカン!の方がカッコイイっしょ?」
俺たちが避けられる事を信じての高レベル魔法だと言うが、毎回巻き込まれるのは、さすがに気分が良ろしくない。理由が理由だし。
「いつも兄がすみません。回復魔法をかけますので、じっとしてて下さい」
謝り癖のあるスイセンが、回復魔法を一人一人にかけて回っている。妹が兄の尻拭い。どっちかと言えば逆だろうとは思うが、妹の世話を甲斐甲斐しくやる兄と言うのも、見たくないと思う。
そんな時、周囲からゴソゴソと昆虫が這い回る音が聞こえてきた。さっきの爆発に釣られたらしい。
俺の魔法は本日品切れ。デンシュは強いが一度に一匹しか対峙出来ない。キョクセンは威力は高いが一度の魔法でMPを使い切ってしまう。スイセンは回復魔法に特化している。
「おい!やばい!今日は退却だ!」
「しかし囲まれてしまったのう。迂闊だったわい」
「ヒナタ、あれ出してくれ!もうあれしか無い!」
パーティ全滅の危機に迷ってられないが、あれは制御出来ないのだ。只の剣士だった俺が『勇者』として祀り上げられた理由。魔王討伐に駆り出された理由。借金を抱えた理由。
「・・・分かった。一発ぶちかまして退却するぞ。皆も気を付けろよ」
退路に向かい合う昆虫型魔獣に向かって正眼に構えた。神経を集中する。この技には呪文など無い。必要なのは集中力と破壊する意思・・・。ヒュゴっという音を立てて何も無い空間に斬撃を放った。
先頭に居る魔獣が割れた。いや、割れたと言うよりその空間が消えた。バリンと大きな音を立てて周囲の空間が雪崩れ込み、3メートルもある魔獣が数体吸い込まれた。他の魔獣も外殻が割れて体液を流している。
その数分後、街道に俺たちは荒い息をつきながら立っていた。俺たちは幸いにも軽傷だ。スイセンが何故か謝りながら回復して回っている。兄に続いて俺も迷惑をかけてしまったな、と一人ごちた。
あの空間ごと消し去る技の名前は知らない。伝説に聞く『勇者』とやらも、似たような技を使っていたらしい。俺が名付けて良かったが、勇者に気を使ったのだ。
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15歳の成人の儀の日、剣の修行に明け暮れていた俺は、師匠からの最後の試練に立ち向かった。師匠に掠りでもいいので一刀当てるのだ。当てれなかったら、その年の成人の儀はそれでおしまい。一年後に年下の奴等と、再度試練を受けるのだ。
精神を集中させ、渾身の力を入れた一刀は斬撃が刀身を離れ飛んでいった。そのまま新築を自慢にしていた村長宅の屋根に激突。屋根と一緒に屋根裏の金庫まで巻き込んで、空間ごと消滅した。村長は激怒し、多額の借金を15歳の俺に背負わせ、村から追放した。
――――――追放したのは他聞をはばかられるので、名目上は『我が村から勇者が誕生した』『勇者が魔王を討伐に行く』とされた。
一人で追い出されても良かったが、腕っ節が強く武者修行に出たがっていたデンシュ、派手な魔法でモテまくりたいキョクセン、その妹で回復魔法の天才児として有名だったスイセンが付いてきてくれた。みんな幼馴染で、人情が身に染みてありがたかった。
それから三年――――――借金は大分減ったが装備を充実させる金も無く、借金取りにも付けられる毎日。魔王城の前にも辿りついたし、今日は入り口までの確認も出来た。まぁまぁの成果だ。魔物からドロップした小さな金の塊を握り締め、今日も定宿のドアをくぐったのであった。
「ただいまぁ」