01話 そして宿屋へ
その戦士はまるで駆け出しの初心者がするような、安っぽい装備だった。
両手で持つ鉄の剣に、皮の鎧、面が取れた古びた鉄兜。小さな丸盾は腕に括り付けてある。そんな装備で魔王城の前まで来たとなっては、無謀を通り越して狂気を感じるほどだ。
「ど~~~して此処まで来ちまったのかな。ただ借金から逃げる為だったのに。」
少し伸びた前髪を鬱陶しげに払いのけながら、青年は呻いた。年のころ十七・八か。まだ二十には届くまい。
「どうしてもこうしても、3年も逃げ回ってたら、こんな所まで来ちまうわな。ありきたりな冒険小説ならとっくに大団円になってるよ」
こちらは部分的に赤に染めた金髪をきちんと撫でつけ、鎖帷子の上に空を切り取ったような蒼いローブ。整った容姿ではあったが、良い意味でバカっぽさが透けて見える。
「――――そうだぞ。あの日お前が村長さんの家の屋根を吹き飛ばさなかったら、ワシたちはこんな寒々しい場所まで来ることは無かったんだ。でもまぁ、色んなヤツと戦えて、ここまで退屈しなかったけどな!ワハハハ!」
ガッチリと引き締まった巨躯に防具類は身に着けておらず、唯一、両手に仰々しい籠手が装着されている。防具と言うより拳を守る武器、と言った処か。いかにも格闘家らしい佇まいだ。
「それはそれとして、ちょっと草臥れましたね。もう薄暗くなってきたし、落ち着ける場所を探さないと」
生真面目そうに前髪を揃えた少女が、少々息を弾ませながら提案した。少々擦り切れ居るが、元は上質な物であった事が伺える神官服を身に纏っていた。
喧々囂々としたパーティにおいて、唯一の常識人を自負する少女は、少々ペースが速い行軍でも息を乱さず会話をし、身振り手振りを交えてまで口喧嘩をするメンバーが非常識だと内心思っていた。
「とは言っても森の中。開けた場所は無いし、街道でキャンプする訳にも行きませんし、どうした物でしょう」
「それならワシの繊細な嗅覚に、何やら夕餉の香りを捉えてのう。そちらに厄介になるか、軒先でも貸して貰えば良いだろう」
暢気に歩き始めた巨躯を追って、一行は歩き始めた。他三名には食べ物の香りなどまったくしないが、たまにこの格闘家は本能的に物を嗅ぎ当てる。疑っている者など居なかった。
歩くこと数分、魔王城のまん前、と言うべき場所にそれはあった。
思ったより短くなりました。次回はもう少し長めに書きます。