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魔王の宿屋へようこそ!  作者: 風鈴くぅ
辺境都市ホルンブルグ編
19/21

18話 旅の出会いは不吉をもたらす

 午前中に降っていた小雨はすっかり上がり、街道は太陽が暖かく心地よかった。風があるせいか湿気はそれほど感じる事もなく、遠出をするには絶好の日と言えるだろう。

 旅慣れないのか、ヒマリは少々辛そうにしていた。


「ねえ、街まで後どれ位あるの?」

「行った事無いのか?」

「ある事はあるんだけど、その・・・乗り物使ったから・・・」

「乗り物なんて、お前、実は金持ちだな」


 馬車を持っているのは商人位だ。街や村を繋ぐ往来馬車も在るには在るが、こんな魔王城くらいしかない田舎には来る筈も無い。

 騎士やその従者ともなれば、馬に乗ったりもするが、普通の町人には高嶺の花だ。


「金持ちって程じゃないけど、あの宿屋のオーナーは私なのよ」

「え?嘘!?」

「嘘じゃないわよ。レザンもボルドーも皆、私の使用人なんだから」

「一番下っ端だと思ってた」


 そして俺は素直に謝った。人は見た目に寄らない物だ。


「で?後どれ位で着くのよ」

「夕方までには・・・」


 俺が言い終わる前に、膝を付いて動かなくなった。


「もう動けな~い!もう無理~ぃ!」

「どれ、ワシがおぶってやろう」

「デンシュ、甘やかしては行けません。帰り道もおぶる羽目になりますよ」


 デンシュの助け舟をスイセンが嗜めた。確かに甘やかすのは良くないのだが、先に進まないのも困る。


「じゃあ、一先ず休憩しようよ。保存食も持ってきてるしさ」


 キョクセンが手早く火を起し、干し魚を炙り始めた。干し魚は携帯に便利だが、僅かな湿気ですぐに痛む。消毒代わりに火で炙って食べるのだ。


「ふーん、そうやって食べるのか。初めてなんだ、私」


 食べ物が目の前にあるお陰か、ヒマリの機嫌が回復していた。鼻歌でも歌いそうな勢いだ。

 少しずつ焦げ目が付き、僅かに反り返る。良い香りも漂ってきた。


「保存食だから、味にはあまり期待するなよ?」

「いいのいいの。こうやって皆で火を囲むだけで楽しいじゃない?味は二の次よ」


 キラキラと目を輝かせ、炎を見つめている。なんだか来て良かったと、そう思った。

 和やかな空気で話も弾み、スイセンもヒマリと打ち解けた様に思える。

 そんな折、背後の茂みがガサゴソと騒がしくなった。食べ物の匂いをさせたなら、襲撃の危険は常にある。俺たちは無言で茂みに向かって武器を構えた。


「す、すみませんが、食べ物を分けてくださいませんか・・・」


 転がり出てきたのは若いゴブリンだった。衣服はボロボロで、かなり衰弱している。


「人語を話すゴブリン・・・?」

「ああ、良かった、同族の方ですね。もう三日も食べてないもので・・・」

「誰がゴブリンだ!」

「すみません、ホブゴブリンでしたか」


「ぷっ」と、ヒマリとスイセンが吹き出した。「しょうが無いわよ。その顔色じゃ」

 俺たちは顔を見合わせ、黙り込む。まだ毒に侵された肌色が元に戻っていないのだ。

 とりあえず焼けた魚を一本渡すと、凄い勢いで貪り食った。相当腹が空いていたのだろう。


「人語を話すゴブリンは珍しいな」

「俺たちは・・・あぁ、今は居ませんが、妹が居るんですよ」哀しそうに顔を歪めながら話を続けた。


「俺達兄妹は人間の見世物小屋で育ちました。見世物小屋って言っても気の良い方達で、簡単な読み書きも教えて貰いました。」

「ゴブリンに教育か。聞いたこと無いなぁ。良い人達だったんだろうな」

「はい、本当に優しい方達で・・・。でもガラの悪い奴等に借金をしたらしく、色々な嫌がらせを受けました」

「借金の方に売られたのか?」

「はい、妹だけ連れて行かれました。人語を話す若いメスとして、好色な金持ちに売り飛ばされると・・・」


「何それ!?許せない!」ヒマリが魚を手に立ち上がる。「どうどうどう」とスイセンが宥めて座らせた。


「座長さんが『お前も売られるそうだ。妹の事はすまないが、お前だけでも逃げなさい』と言って逃がしてくれました。俺だけ逃げる事は出来ません。妹を探して彷徨っている内に、あいつ等に見つかってしまって・・・」

「大変だったわね。これ食べかけだけど、あげるわ!」


 半分程食べた魚を、無理やりゴブリンに手渡し、ヒマリは勢いよく立ち上がった。


「みんな何してるの?出発よ!」


 さっきまでのふて腐れっぷりは何処に言ったのか。ヒマリは目を輝かせてこう宣言した。


「あなたの妹を助け出してあげるわ!!さぁ行くわよ!!」


 こうして俺たちは、異種族にまで手を出す好色すぎる金持ちから、ゴブリン(妹)を救出する事になったのだった。

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