18話 旅の出会いは不吉をもたらす
午前中に降っていた小雨はすっかり上がり、街道は太陽が暖かく心地よかった。風があるせいか湿気はそれほど感じる事もなく、遠出をするには絶好の日と言えるだろう。
旅慣れないのか、ヒマリは少々辛そうにしていた。
「ねえ、街まで後どれ位あるの?」
「行った事無いのか?」
「ある事はあるんだけど、その・・・乗り物使ったから・・・」
「乗り物なんて、お前、実は金持ちだな」
馬車を持っているのは商人位だ。街や村を繋ぐ往来馬車も在るには在るが、こんな魔王城くらいしかない田舎には来る筈も無い。
騎士やその従者ともなれば、馬に乗ったりもするが、普通の町人には高嶺の花だ。
「金持ちって程じゃないけど、あの宿屋のオーナーは私なのよ」
「え?嘘!?」
「嘘じゃないわよ。レザンもボルドーも皆、私の使用人なんだから」
「一番下っ端だと思ってた」
そして俺は素直に謝った。人は見た目に寄らない物だ。
「で?後どれ位で着くのよ」
「夕方までには・・・」
俺が言い終わる前に、膝を付いて動かなくなった。
「もう動けな~い!もう無理~ぃ!」
「どれ、ワシがおぶってやろう」
「デンシュ、甘やかしては行けません。帰り道もおぶる羽目になりますよ」
デンシュの助け舟をスイセンが嗜めた。確かに甘やかすのは良くないのだが、先に進まないのも困る。
「じゃあ、一先ず休憩しようよ。保存食も持ってきてるしさ」
キョクセンが手早く火を起し、干し魚を炙り始めた。干し魚は携帯に便利だが、僅かな湿気ですぐに痛む。消毒代わりに火で炙って食べるのだ。
「ふーん、そうやって食べるのか。初めてなんだ、私」
食べ物が目の前にあるお陰か、ヒマリの機嫌が回復していた。鼻歌でも歌いそうな勢いだ。
少しずつ焦げ目が付き、僅かに反り返る。良い香りも漂ってきた。
「保存食だから、味にはあまり期待するなよ?」
「いいのいいの。こうやって皆で火を囲むだけで楽しいじゃない?味は二の次よ」
キラキラと目を輝かせ、炎を見つめている。なんだか来て良かったと、そう思った。
和やかな空気で話も弾み、スイセンもヒマリと打ち解けた様に思える。
そんな折、背後の茂みがガサゴソと騒がしくなった。食べ物の匂いをさせたなら、襲撃の危険は常にある。俺たちは無言で茂みに向かって武器を構えた。
「す、すみませんが、食べ物を分けてくださいませんか・・・」
転がり出てきたのは若いゴブリンだった。衣服はボロボロで、かなり衰弱している。
「人語を話すゴブリン・・・?」
「ああ、良かった、同族の方ですね。もう三日も食べてないもので・・・」
「誰がゴブリンだ!」
「すみません、ホブゴブリンでしたか」
「ぷっ」と、ヒマリとスイセンが吹き出した。「しょうが無いわよ。その顔色じゃ」
俺たちは顔を見合わせ、黙り込む。まだ毒に侵された肌色が元に戻っていないのだ。
とりあえず焼けた魚を一本渡すと、凄い勢いで貪り食った。相当腹が空いていたのだろう。
「人語を話すゴブリンは珍しいな」
「俺たちは・・・あぁ、今は居ませんが、妹が居るんですよ」哀しそうに顔を歪めながら話を続けた。
「俺達兄妹は人間の見世物小屋で育ちました。見世物小屋って言っても気の良い方達で、簡単な読み書きも教えて貰いました。」
「ゴブリンに教育か。聞いたこと無いなぁ。良い人達だったんだろうな」
「はい、本当に優しい方達で・・・。でもガラの悪い奴等に借金をしたらしく、色々な嫌がらせを受けました」
「借金の方に売られたのか?」
「はい、妹だけ連れて行かれました。人語を話す若いメスとして、好色な金持ちに売り飛ばされると・・・」
「何それ!?許せない!」ヒマリが魚を手に立ち上がる。「どうどうどう」とスイセンが宥めて座らせた。
「座長さんが『お前も売られるそうだ。妹の事はすまないが、お前だけでも逃げなさい』と言って逃がしてくれました。俺だけ逃げる事は出来ません。妹を探して彷徨っている内に、あいつ等に見つかってしまって・・・」
「大変だったわね。これ食べかけだけど、あげるわ!」
半分程食べた魚を、無理やりゴブリンに手渡し、ヒマリは勢いよく立ち上がった。
「みんな何してるの?出発よ!」
さっきまでのふて腐れっぷりは何処に言ったのか。ヒマリは目を輝かせてこう宣言した。
「あなたの妹を助け出してあげるわ!!さぁ行くわよ!!」
こうして俺たちは、異種族にまで手を出す好色すぎる金持ちから、ゴブリン(妹)を救出する事になったのだった。




