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魔王の宿屋へようこそ!  作者: 風鈴くぅ
宿屋開業編
14/21

13話 二人の勇者(前編)

 俺は凍りついた。俺の持っている『勇者の技』はコントロールの出来ない『出来損ない』だ。

 いつか本当の勇者が俺の元へやってくる。俺を殺し、そのチカラを取り返して行く。俺のチカラが目覚めてから三年、そんな夢を繰り返し見てきた。その日がとうとうやって来たのだ。


「本当は私も『勇者の技』の一つを受け継いだ者、と言うのが本当の所だけどね」


 アレクシスが軽口を叩いているが、撒き散らすプレッシャーは増していく。気が付けば俺の緑色に変色した皮膚から、汗が大量に流れていた。


「神から与えられたチカラが並び立てば、それだけで争いを生む。だから神は勇者は一時代に一人。そう定めたそうだ」


 アレクシスが静かに剣を抜く。その仕草は優美で見とれる程だった。その刃が俺に向けられてるのでなければ、だが。


「だから俺は、出来損ないであって、勇者では・・・」

「問答無用だ。これから先、私達は争いの種になるだろう。そうならぬように禍根は断たねばなるまい」


 何時からか鳴り始めた頭の中の危険信号が、最大音量に達したようだ。指先からの振るえが全身に広がり、恐れに飲み込まれそうになる。


 勤めて冷静にアレクシスの戦力分析を行った。役職は騎士だろうか。薄っすら光を放つ刀身から察するに、何か魔法が付与されているのだろう。全身鎧は大きな町の防具屋でも取り扱ってない様な上質な者だ。以前の俺の剣なら打ち合っては折られ、鎧に刃を立てる事すら出来なかっただろう。豪華な装備に釣り合う腕を持っているのは、歩術や所作から十分見て取れる。


 対して俺はお風呂に向かう途中だった為、鎧兜は外して只の『布の服』だ。例え装備していたとしても、俺の皮の鎧では簡単に切り裂かれてしまうだろう。今日一日の戦闘で疲労困憊、しかも一度は毒を受けて死に掛けた。解毒の効果で全身から毒は消えているが、酷い倦怠感は残っている。辛うじて左手に剣を持っているのが救いだったが、今の俺では一矢報いる事も難しいだろう。


「ちょ、ちょっと待ってよ!私の店の中では喧嘩禁止!」

「・・・済まないが、そう言う訳にも行かないんだ。私達の背後を見てくれ」


 気が付くと、俺の背後にはデンシュとキョクセン、スイセンが立っている。デンシュは籠手を、キョクセンは杖をかかげて臨戦態勢だ。アレクシスの背後には女性戦士とガンマン、魔法使いがこれもまた臨戦態勢で立っている。


「勇者のチカラに集まった仲間達が、それぞれに勇者を擁立してさらに仲間を増やして行くだろう。それがやがて派閥となり、大きな争いになる」


 ゆっくりと切っ先を俺に向けて言い放つ。


「だからこそ勇者が複数現れた時には!早急に駆逐せねばならないのだ!」


 無駄の無い動きはゆっくりとして見える事がある。俺にはアレクシスの踏み込みはスローモーションに見えた。床を軋ませもせず、滑るように間合いを詰めてくる。


「少しは俺の話を聞きやがれ!」


 一瞬が数分に引き伸ばされた様な世界の中で、俺は剣を半分だけ抜いた。右手は柄、左手は鞘を掴んだまま斜めに構えてアレクシスの初太刀を弾いた。そのまま俺自身も背後に飛び、威力を殺した。

 次手に向けて剣を抜き、正眼に構えた。両手は衝撃のせいか恐怖のせいかは分からないが、震えが止まらない。


「初太刀を防いだか。驚いたな」


 驚いたようにも見えないが、アレクシスが薄く笑いを浮かべた。


「これ以上は店にも迷惑だろう。表に出ようか」

「これ以上も何も、最初っから迷惑だよっ!喧嘩は禁止だってば!」


 ヒマリの抗議を聞き流し、アレクシスは先だって表に出て行った。仲間の冒険者達もその後に続いて出て行く。


「ヒナタ、ここは分が悪いな。せめて体力が万全であったら、良い勝負が出来そうだが」

「僕は後四、五時間は魔法が使えないだろう。援護は難しいな」

「私も今日はもう、魔法を使えません。せめてこれを・・・」


 スイセンはおずおずと俺の鎧を差し出してきたので、素早く着込む。役には立ちそうに無いが、着慣れた装備に包まれて、気持ちが少し楽になった。デンシュもキョクセンも今日はこれ以上の戦闘は無理だろう。かと言って逃走したとしても、今の俺達は逃げ切れるとは思えない。


「狙われているのは俺だけだ。俺だけでどうにかしてみる。皆は手を出さないで見守っていて欲しい」

「・・・ワシの見立てでは、勇者のチカラを使ったとしても、お前の負けだぞ?」

「分かってる。正直に言うと何の策も無い。まあ全力で、死なないようにするさ」


 腰に最近手に入れた愛刀を挿した。少しは落ち着いたように思う。震えている右手と左手を交互に見比べ、静かに目を閉じた。


「どんなに怪我をしても、今日の呪文は打ち止めでも、私が絶対に癒します」

「あんな乱暴なヤツ、店から追い出してやるんだから。いざとなったら私が守るから。頼って良いんだからね」


 ふと温もりを感じると、スイセンとヒマリがそれぞれ手を握ってくれていた。真剣な目をして、俺の顔を覗き込んでいる。あんまり心配させてもいけないな、と思った。


「大丈夫さ。俺はしぶといのには自信があるんだ」


 不器用ながら笑顔を作って見せた。いつの間にか震えも幾分か収まったらしい。やるさ。やってやるさ。

 扉を押すと、気持ちとは裏腹にキイと軽い音を立てて開いた。


「それじゃあ行って来るよ」


 俺にも勇者のチカラが宿っている。ならば俺も勇者の資格があるのだろう。そう信じて扉を潜った。


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