12話 勇者登場
「おかえりなさー・・・いっ!?」
ドアに取り付けたベルの音で振り返ると、見慣れない長身の騎士の姿があった。白っぽく塗装された、如何にも上等の鎧を身に付けている。美形と相まって、少女小説の王子様のようだった。
「すまないが、厩を勝手に使わせてもらった。使用料は御代に加算してくれ」
「いえいえ、只で使って頂いても結構です。作っては見たものの、何の管理もしてなかった物ですから」
「そうか、助かる。では部屋と席の用意をしてくれないか。四人だ」
カランコロンと音を立てて玄関のドアが開かれた。
一人目は体格の良い、赤毛の女性。大きな両手剣を背負っている所を見ると、戦士だろうか。鎧に刻まれた傷が、歴戦の戦士という事を物語っている。
次に入ってきたのは、猫背で痩せぎすな男性。両腰に銃をぶら下げ、隙の無い視線を店の隅々に走らせている。ガンマンって所か。
最後に小柄な少女が入ってきた。手にした杖と、三角の帽子から見るに、魔法使いだろう。
「ホントに魔王城のまん前に、宿屋を構える馬鹿が居たんだな」とガンマン風の男が口を開く。
「冒険者達にとって、助かるから文句も言えないでしょう。ここはありがたく利用させて貰いましょう」と女性戦士。
「マティアス、パメラ。口を謹んでちょうだい。アレク様が恥を掻いてしまうわ」
失礼な物言いを、魔法使いが諌める。「ジュリアって、本当にアレクシスの事が好きだねぇ」とパメラと呼ばれた女性戦士が、まだ幼い魔法使いの頭を帽子越しに撫でた。
「いえ、大丈夫です。冒険者さん達のお手伝いをする為に、ちょっと危ないけど、魔王城の前に店を出したんだから」
「仲間が失礼な物言いをした」
と頭を下げた。人間の事は良く分からないが、騎士が宿屋の娘風情に偉ぶらないのは珍しいと思う。話が分かる相手の様なので、様子を探って見ることにした。
「やっぱり魔王を討伐に来たんですか?」
「この十五年程、城に引きこもっていると聞いるが、魔王は存在するだけで人間に不安を与えるのだ。北方の魔王、南海の魔王は国を作って人間を守護しているそうだが、この中央の魔王の配下は魔物だけだと言う」
他にも魔王っていたのか。家庭教師を務めるレザンは、この事は教えてくれなかった。心のメモ帳に残しておこう。
「魔王だから悪、と決め付けるつもりは無いが、民を守るのも騎士の務めなのでね」
「アレク様はとても優しい方なので、人が困っているのを見捨てられないんですの」ジュリアが自慢げに話に割り込んできた。
「アレク様は高貴で、強くて、お優しいの。分かったら宿屋の娘風情が馴れ馴れしく声をかけるんじゃないわ」
「ごめんねぇ。ジュリアはアレクシスの事になったら周りが見えなくなるのよ。悪く思わないでね」
「あぁ、女は怖い怖い。だから俺はこれが良い」
マティアスはからかう様に言って、ウイスキーの入ったグラスを軽く掲げて見せた。まったく何時の間に頼んだのだろうか。私ウェイトレスなのにオーダー取ってません。
「この宿屋は他に客は居ねぇのかい?」
「冒険者のパーティーが居るんだけど、まだ帰ってきてないんですよ」
「どんな奴等だ」
ヒナタ達の個人情報だ。ここで話して良いのだろうかと躊躇したが、ちょっと自慢話がしてみたい誘惑に駆られて、少しだけ話す事にした。
「勇者の技を使う戦士と、体格の良い格闘家と、上位魔法を使う魔法使いと、回復魔法の得意な女神官です」
あれ?欠点を言わなかったらヒナタ達のパーティーって強そうじゃない?何だか恥ずかしくなってきたので、悪いところも付け足そう。
「勇者の技って言っても、私見たことないし、せっかく新しい剣が手に入ったのに売ってしまおうとするし、貧乏くさいし、でも結構いい所もあって・・・」
アレクシスが手で遮って来た。せっかく調子に乗ってきた所だったのに。
「その勇者は、自分で『勇者』と名乗ったのか?」
「いえ、ただ仲間の方々から『勇者の技が使える』と聞いただけですが」
「そうか・・・」
顎に指を当てて考え込んでしまった。いちいち格好が決まっている。美形にはこういう気障な感じが似合う。そんな時、カランコロンと誰かが入ってきた。
「ただいまー」
「おかえりーって、どうしたのよ!全身緑色になって!」
ヒナタとデンシュとキョクセンが肌を緑色にして立っている。まるでゴブリンか何かだ。後ろでスイセンが申し訳無さそうに付き添っている。
「でっかい蛙に毒液をかけられちゃって・・・」とヒナタ。
「スイセンに解毒はして貰ったんだが」デンシュが笑顔で頭を掻いている。
「どうしても肌の色が戻らないんだよ」金髪に赤毛のメッシュ、緑の顔色のキョクセンはまるで、遠い昔に在ったと言う信号機のようだ。
「すみません!毒は抜けている筈なんですけど・・・」ペコペコと頭を下げつつ、スイセン。彼女だけ緑色じゃない所を見ると、男達が体を張って守ったのだろう。ちょっと見たかったな、と私は思った。
「ふ~ん、このゴブリン共が『勇者』ねぇ。何だかドブ臭ぇし」
「蛙に一回飲み込まれかけたからな。口臭までが蛙の攻撃力だった」
失礼なマティアスに私は冷や冷やしたが、ヒナタは全然動じてないようだ。
「他にお客さんが来ていたのか。これでは迷惑になるから、ワシらは一旦湯浴みをしてこよう」
「お~、可愛い子が二人も増えた。お洒落にも気合を入れないとね」
「どんなに着飾っても、お前の顔が緑色じゃな。相手が気の毒だ」
ヒナタ達は裏手にある浴場に行くようだ。帰ってくるまでに美味しいご飯を用意してあげよう。本当は私が手料理を作ってあげたいが、レザン達から厨房立ち入り禁止にされてしまっていたのだった。
「君達、少々待ってくれないか!」
アレクシスが険しい顔で呼び止めた。
「君達の中に『勇者の技』が使える者が居るそうだね」
「・・・俺がそうだ。だが出来損ないなので、使えないのと一緒だ」
ヒナタが迷うように応えた。
「私の名前はアレクシス。『勇者』だ」
風邪をひきました。投稿が遅くなって申し訳ないです。




