11話 宣伝は大事!
宿屋『アムール亭』をオープンして、もう一ヶ月になる。その間のお客さんはヒナタ一行のみだが、彼等は毎日のようにダンジョンに潜って、魔王討伐を目指してくれている。
最強を自負する私のダンジョンには、ほとんど冒険者は来ない。平和は良い事だが、配下の者達がだらけてしまっては行けない。ダンジョンを攻めてくるのは何も、冒険者だけとは限らないのだ。
まあ私が生まれて十四年、誰も魔王の玉座まで辿り着いた者は居なかったが・・・。ものすごーく退屈しているのも事実だ。
誰か攻めてこーい、私の退屈を解消しろー、じゃないと毎日ひたすら家庭教師にしばかれるだけだぞー、と思って、持て余した若さをフル動員して完成させたのがこの宿屋。もっと繁盛させるにはどうしたら良いのだろうか。
「看板娘に色気が足りないのが問題なんじゃないかしら」とルイロデール。
「うるさい!あと2~3年待ってなさいっ!」
「やはり、我々が悪事を働けば、誰かが退治にやって来てくれるのではないでしょうか」とレザン。
「う~ん、誰かに迷惑かけるのは不味いんじゃないかしら」
「宣伝が足りないんじゃないかと思うだ。お嬢が生まれてからずっと暴れてないし、もう冒険者にすら忘れられてるんじゃないかと」とボルドー。
「暴れるのは問題外だけど、宣伝はどうだろう・・・う~ん」
私は思考に没頭した。
『君も一緒に魔王を倒そう!お泊りはぜひアムール亭へ』的なノリでビラを撒どうだろう。近隣の村もそうだが、都会の冒険者ギルドあたりに張り出すと腕が立つ冒険者が挑戦しに来るかもしれない。想像しただけで心が躍るのを感じた。
「うんうん、良いわね。ボルドー、それ採用!レザン、人間に化けるのが上手いヤツを3~4人手配しなさい。広告部隊を設立するわよ!」
それから数日後、レザンが召集した広告部隊の面々と顔を合わせた。確かに人間には見える。だが貧弱過ぎやしないだろうか。痩せた体に薄汚れた布を巻きつけているだけに見える。
「ヒナタ様、此方は人間に化けているのでは御座いません。魔族と人間のクォーターです。見た目は人間ですが、多少腕は立ちます」
「我らレゾルム四兄弟はきっと!」
「ヒナタ様の為にお役に!」
「立てると思い!」
「ます!」
「台詞切る処おかし過ぎるでしょ!!」
思わず突っ込んでしまった。レゾルム四兄弟がニタっと微笑んだ。わざとかっ!この魔王をからかったのか!怒りと羞恥の余り、髪の毛が逆立った。
「はい、ヒナタ様、どうどうどう。」レザンが間に入って私を宥めた。
「如何でしょうか、この心の強さ。しかも彼らには悪気が御座いません。天然物です」
「心の強さって・・・。この場合、ふてぶてしいって言うのよ!?」
「しかしながら、騙す騙されるの人間世界に行くには、これくらいの図太さがありませんと」
人間世界は怖い所だと聞く。油断すると怖いオジサンに騙されて身包み剥がされると、幼い頃からレザンに繰り返し言い聞かせられている。
「ヒナタ達を見る限り、人間って怖くないって思うのよ」
「彼らとて、一皮向けば何を考えているのか分かりません」一呼吸置いて「しかしながら、私も彼らは気に入ってはいますが」
「ほら、レザンだってヒナタ達を気に入ってるじゃない」
私は嬉しくなった。初めて出会った人間が彼らで良かったと思う。そうじゃ無かったらこれから先、人間と仲良くなろうと思わなかったかも知れない。この先、沢山の人間達と出会って見たい。その為のアムール亭でもあるのだ。
「それではレゾルム四兄弟。私が徹夜で作ったこのビラを、各地の冒険者ギルドに届けるのよ!」
「御意!我ら四兄弟!」
「必ずやヒナタ様の!」
「お役に立ってみせ!」
「ます!」
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それから2週間後、ビラの効果は無かった。
ビラが悪いのか、レゾルム四兄弟が悪いのかは分からない。でもまあ良い。また次の手を考えるだけだ、と諦めた頃の事。カランコロンと玄関のドアに取り付けられたベルが軽やかな音を鳴らした。ヒナタ達が帰ってきた様だ。
「おかえりなさー・・・いっ!?」
見慣れぬ冒険者達の姿がそこにあった。