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第十六話 とあるネカマヒーラーのオフ会

本日2度目の投稿です。

 雲一つない真っ青な空。太陽の輝きが眩しく、空を見上げているだけで焼き焦がされそうに感じる。照りつける日差しと地面に反射する熱、そして湿度の高い空気に体力を奪われる。


 そう、今日はUnlimited Talesの夏ではない。現実の日本の夏であった。


「うわ……」


 セフィリアこと、瀬藤涼二は引き攣った顔でそう呟いた。駅を出た彼が見たのは通行人の山であった。列車の中も人が多かったが、イベント会場を目指す通行人の数はそれ以上で、会場の人数も推して知るべしであった。この猛暑にこの人混みは中々に気が滅入るものがある。涼二は今から覚悟を固めるのであった。


 携帯デバイスを取り出し、レオンハルトにトークアプリで駅に着いたことを知らせる。彼はすでに到着しているようで、記念碑前で待っているようだ。麦わら帽子に青い服が目印とのことである。


 涼二も自分の服装を伝える。分かりやすいように黄色と灰色の縞模様のパーカーを着てきたのであった。薄手のため然程暑くはないが、長袖のためか多少は熱が篭って汗が滲んだ。


 そんな暑さを気にせず、記念碑へと向かう。じわり、と汗が滲むが、これは暑さによる汗ではない。緊張による冷や汗であった。オフ会という行為は彼にとって初めてである。


 こちらの世界のレオンハルトがどんな男なのかも分からない。年齢も、なんとなく会話から同年代と感じていたが、実際のところは分からない。職業も分からない。リアルのことはほとんど話してこなかった。よくそんな状態でオフ会に臨んだものだと改めて反省するが、ゲーム内で現実の自分たちについて触れることがそこはかとなく躊躇われたのである。


 セフィリアというキャラクターはある種のロールプレイに近いものがあり、リアルの自分を持ち出すのは何か違う気がしていたのであった。


 そんな緊張とは裏腹に涼二の足はどんどんと記念碑へと向かっていく。今更引き返す気は更々無かった。ただ、覚悟が中途半端なだけである。


 混沌とした思いを抱きながらも目的地へと到着した。記念碑がよく見える。その下に多くの人々が立っている。涼二達と同じように待ち合わせに使っているのだろう。


 その中に、麦わら帽子と青い服を発見した。


 サンダルに白い足。青いワンピースが風に揺れる。手には白い日傘。肩までの透き通った黒髪の上には麦わら帽子。


 まさかと思い周囲を見渡す。青い服と麦わら帽子の組み合わせは他には見当たらなかった。


 そして、‘彼女’を改めて見る。小さな顔にバランス良く配置されたパーツ。一般的に見て十分かわいらしい、と表現できる顔立ち。その大きめの瞳を見た瞬間、視線が交差した。


 彼女が一瞬動きを止め、目が見開かれる。携帯デバイスに目を落とし、改めてこちらを見る。その動作を繰り返し、ようやく我に返ったようだ。


 同様に、涼二も徐々に理解する。つまり、そういうことだったのである。確かに、一度も涼二達は性別について話していない。分かりきっていると考えていたから――。


 とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかない。涼二は意を決し、話しかけることにした。


「あの、すみません。もしかして、レオンですか……?」


 彼女を前にレオンかと問うのは中々に言い辛いものがあった。レオンというのは男性名であり、彼女は当然女性である。そもそも日本人名ではなく、いざ口に出してみると違和感が凄まじかった。人違いであったらどうしようと緊張が走った。


「はい。あなたは……セフィリア、さん?」


「あー……。はい、そうです。とりあえず移動しましょうか」


 こちらの世界でセフィリアと呼ばれることに妙な抵抗感があった。その感情を無視して、ひとまずこの人の群れから離れることを提案した。


「そうですね。そうしましょう」


 その返事と共に記念碑を離れる。少し歩き、大通りから少し離れた所で立ち止まる。イベント会場へ行く人々を尻目に、ためらいがちに涼二は口を開いた。


「セフィリアこと、瀬藤涼二です」


「あの、私は十文字春です。レオンハルトの中身です」


 改めてその事実を認識し、続いていた混乱が少し収まる。やや冷静になった頭で思考が巡る。レオンハルトは男性ではなく女性であった。そんな彼女とイベントに行く予定を立てている。そもそも彼女はセフィリアが男だということを知っていたのか。


 次々に浮かぶ思考を放り投げ、まずは互いの前提とする理解を確認することにした。


「えっと、レオンハルトって、女性だったんですね……」


「セフィリアさんこそ……。私てっきり女性だと思いこんでいました」


「いや、僕って言ってたし、口調も別に女の子っぽくはなかったと思うんだけど」


 思わず敬語が外れた。涼二はセフィリアとして存在しているときも、口調は概ね普段のものと同様にしていた。なので、女性だと思われていたことは心外であったのだ。


「ボーイッシュな女の子かと思ってました。それにあんなにかわいかったので……」


「あ、ありがとう?」


 己の分身が褒められるのは悪い気はしなかった。とりあえず、礼を述べておくことにする。


「それより私が男性だって思われていたことがショックです。一人称も私だったのに……」


「いやー、自分のことを私って言う男はネトゲにも普通にいるからなあ。それに何というか、立ち居振る舞いが格好良かったから。何の疑いもなく男だと思ってた」


 敬語を取ると、涼二はいつもゲーム内で会話していたときの感覚が蘇ってきた。思考も纏まりつつあり、舌も回るようになってきていた。同様に、春の表情を見る余裕が生まれた。ショックを受けていた様子から一転、格好いいという発言に対して喜色が窺えた。


「私、堂々としていましたか?格好良かったですか?」


 春が口早にそう尋ねる。嬉しくて勢いづいたという風に見えるが、同時に鬼気迫るものも感じられた。


「うん。少なくとも僕は格好いいって思ってたよ」


 その勢いに押されるように涼二は答えた。


「そうですか……。良かったです」


 春は小声でそう呟いた。理由は分からないが、彼女にとっては大切なことなのかもしれない。涼二は多少気になったが、掘り下げるつもりはなかった。


「当初の予定ではイベントを一緒に回るって話だったけど、どうする?」


 涼二はここらで話を進めることにした。会場に入らずに立ち話をするのも時間が勿体なく感じられたからである。夕方から夜までには東京を発つ予定であるため、時間はいくらあっても足りなかった。


「思わぬアクシデントもありましたけど、セフィリアさんはセフィリアさんですしね。行きましょうか!」


 春もやる気をみなぎらせていた。時間は有限。思い立ったが吉日である。彼らはイベント会場への道を参加者の波に揉まれながら進むのであった。



 入場して電子パンフレットを確認する。質疑応答ステージ、ライブステージ、座談会ステージ、実況ステージ、等々様々なステージがある。他にも、公式グッズや同人グッズの販売ブース、対人戦ブース、協力プレイブース、コスプレエリア、コンセプトレストランなど多種多様のコーナーが儲けられているようである。


 涼二達はまず公式グッズのブースに向かうことにした。


「お、カティのグッズがある」


「わ、ほんとですね! どれも可愛くて、全部欲しくなりますね」


 カティとは、ゲームにログインする際の案内を務める猫のNPCの名前である。涼二達のデータのあるサーバー名でもあり、この公式ブースではサーバー毎のNPCのグッズがあるようである。


「他のサーバーの案内キャラって初めて見たけど、色々いるんだね」


「牛に鷹に狐にわんちゃん、動物がたくさんですね」


「この携帯カバーとか良いかも。うーん何を買おうか」


 膨大な種類の公式グッズを前に二人でうんうんと悩みながら選別を進める。しばらくの格闘の後、最終的には春が携帯カバーと小物数点、涼二が携帯カバーのみを購入するに至った。


 他の店を回った後に改めて欲しいものがあったらまたこのブースに寄れば良く、また後日オンラインショップで購入することも可能なため、どんどんブースを回ろうという話になったのであった。


「よし、それじゃあ次は同人グッズのブースに行こう」


「向こうに見えている所ですね。行きましょう」


 二人のショッピングはまだ始まったばかりであった。



「ごめん、ちょっとトイレに行きたいんだけど良いかな」


 少し店を巡った後、涼二が尿意を催した。ちょうど近くにトイレがあったため、涼二は春に断りを入れた。


「はい。私はここで待ってますね」


 待たせるのも悪いと思った涼二は、なるべく手早く済まそうと意識しながらトイレへと向かった。


 男子トイレは外からは分からなかったが、なかなかに混んでおり、人が並んでいた。トイレは広々とした空間で作られており、なかなかに立派なトイレだ等と涼二は感心しながら用を足すのであった。


 それなりの時間を要してしまい、涼二が申し訳無さを感じながら春が待っているであろう場所に戻ると、何やら一悶着起きていそうな光景が繰り広げられていた。


「君かわいいねー。一人? 俺らとお茶しない?」


「飯代も奢るよォ~」


 髪を派手な色に染めたガラの悪そうな格好の男二人が、春に声をかけていた。距離が離れているため会話の内容は不鮮明だが、ある程度は予想がついた。


「いえ、あの私、人を待っているので……」


「えぇー。そんなの気にせずさあ、俺らと遊ぼうぜえ」


「ほら、あそこに良いカフェあんだよ」


 どうやら彼らは春にターゲットを定めたようで、有無を言わさず誘おうとしていた。春は気が強そうには見えないため格好の獲物のようで、一人では打開できそうになかった。


 涼二はここは自分がなんとかしなければという思いで、作戦を練りながら足早に彼らに近づいた。


「お待たせー、春」


 まずは声を掛けて注意を引く。


「あ? なんだてめえ」


 彼らの視線が涼二に集まる。ここで舐められるわけにはいかない。精一杯堂々とすることを意識する。


「すみませんが、その子俺のカノジョなので」


 もちろん嘘である。実際には今日初めてリアルで会ったネトゲ友達であるが、そんなことを正直に言ってしまえば彼らにつけ入る隙を与えてしまう。問答無用で撃退する必要があった。


 ちらりと春を見ると驚いた様子ではあるが、こちらの意図は掴んでいるようである。ゲーム内でのアイコンタクトを彷彿としながら、彼女の手を取った。


「あ、おい待てよ」


 彼氏登場によって判断の少し遅れた彼らの制止を待たず、即座に背を向け、春を連れて小走りで人混みへと突っ込む。


 しばらく無言で歩みを進め、後方の様子を伺う。追われる気配はない。どうやら男二人も、彼氏と人混みという2つの障害に阻まれて、流石に追ってこない様子であった。


「撒いたみたいだね。大丈夫だった?」


 人混みから外れて立ち止まり、涼二は春に問いかける。今になって気がついたが、心臓が早鐘を打っていた。思い切り深呼吸をして一息つく。


「はい、涼二さんのおかげでなんとか、助かりました。ありがとうございます」


 春も呼吸を整えていた。顔を下に向けていて、表情は分からなかった。


「無事なら良かった。あ、カノジョとか言ってごめんね」


「いえ、そんな。……涼二さんは勇敢ですね」


「いやいや、足も震えてたし今も心臓がバクバクだよ」


 本心であった。涼二は自分が勇敢だなどとは微塵も思っていなかった。ただ、仲間を守るために必死に行動しただけ、それだけであった。


「私には、やっぱりできませんでした」


 春が顔を上げる。その瞳には何も映っておらず、ただひたすらに空虚であった。それを見た涼二は、咄嗟に何も答えられなかった。


「いえ、何でもありません。お店巡り再開しましょうか」


 それは一瞬のことで、すぐにまた普通の春に戻った。


「そうだね。……行こうか」


 涼二も返答するが、先程何も言えなかったこと、それが致命的なことだったのではないかと、そう思わずにはいられなかった――。



 その後は同人グッズのブースや座談会ステージなどを周り、コンセプトレストランで食事を摂った。あちらの世界でよく食べていた香草焼きの類を注文したが、中々に再現されていて、非常に満足の行くものであった。


 涼二と同様に、イベントを春も楽しんでいるようだった。しかし、涼二には彼女の雰囲気がどこか空虚なものに感じられていた。


 春と会ったのは今日が初めてであり、もちろんその感覚は勘違いかもしれない。しかし、レオンハルトとセフィリアとして過ごしてきた数ヶ月がそれを否定していた。空元気とでも言うべきか、何かがおかしいと、直感がそう告げていた。


 そして涼二たちは運営公認アイドルのライブを観に行き、また、運営によって用意されたヘッドギアとアカウントを使っての協力ボス討伐にも参加した。


 協力プレイは、終わった後にその場にて生身で感想を言い合えるのが新鮮だった。公式メインブースでは様々な情報が発信され、近日に大規模イベントの実装も告げられた。その場で発表を聞くというのは中々に盛り上がるものであった。


 今日のオフラインイベントは楽しかった。それは間違いなかった。名残惜しげに涼二は会場から駅へと向かう。涼二は今日中に東京を発つため、夕刻には会場を後にする必要があった。


 春も共に帰るようで、一緒に大通りを歩いていた。会場に向かうときは緊張と期待で彼女と共に歩いていたが、現在は満足感ともどかしさで一杯であった。


 春の雰囲気がおかしいと気づいてから今までずっと、その疑問を切り出すタイミングを見計らっていた。もし訊いてしまって一見楽しそうなこの雰囲気が崩れてしまったらと思うと、どうしても訊けなかった。


 だからこそ、別れが迫っている今。


 今しか、切り出すチャンスはないと感じた。このタイミングを逃せばずっと、彼女の本心に近づくことはできない。たとえ尋ねなくとも、また明日からはいつものゲーム友達に戻れるかもしれない。むしろ、訊くことで関係性が疎遠なものになるかもしれない。


 それでも、涼二には春を放っておくことはできなかった。彼女のことを知って、力になってあげたいと、そう思った。


 だから、なけなしの勇気を振り絞って、涼二は春に問いかけた。


「ねえ春さん、悩みか何か、あるよね? 気の所為だったら悪いんだけど……」


 言いかけて、少し考える。気の所為等と予防線を張っていたら、本当に気の所為で済ませられそうな予感がした。それは涼二の望む所ではない。だから、言い直すことにした。


「いや、気の所為じゃない。間違いなく何か悩み、あるよね?」


 春は気の所為だと答えようとしたのだろう。口を開けたが、涼二の訂正によって再び口を閉ざすことになった。否定する材料を探していたのか少し固まっていたが、観念したのか、彼女の返事は肯定であった。


「……はい。確かに悩みはあります。でもそれは涼二さんにお話するようなことでは――」


「僕は聞かせてほしいな。どうしても話したくないっていうのなら諦めるけど、そうじゃないならお願いしたい」


 あくまでも話そうとしない姿勢を見せる春に対し、涼二は引き下がらなかった。このまま絶交になったらどうしよう等と不安を胸に抱きながらも、前に進むことを決意した。


「……分かりました。あそこのベンチでお話します」


 春の了承に涼二は頷いた。場所を変えるのは、落ち着いて話せる場所が良かったからという理由以外にも、気持ちの整理をする時間が欲しかったからなのだろう。ベンチに座ってからも少し無言が続き、やがて彼女は語りだした。


「本当に大した話ではないんです。これは私が中学生の頃、友達と買い物をしていたときのことです。二人で街を歩いていたら見知らぬ男性達に声をかけられて、先程のように、遊ばないかって誘われたんです」


「断ろうとしてもそうさせてくれなくて。私は怖くて、だんだん何もできなくなって……」


「でも、友達の子は違ったんです。彼女は大きな声できっぱりと断って。周りの人にも気づいてもらえるような、堂々とした断り方でその場をしのいだんです」


「無事に切り抜けられたんだ」


 涼二は多分春の言いたいことはそういうことではないのだろうと思いながらも、そんな相槌を打った。上手い相槌が思いつかなかったと言っても良かった。


「そうなんです。それは良かったんです。彼女の勇気に私は助けられました。ですが彼女がその後に言った言葉が――」


「――『春は私が守ってあげるからね!』だったんです」


「良い子だね」


 違う。間違いなく春はそういうことを言いたいのではない。それでも涼二は気の利いた相槌が思いつかなくて、仕方なくそう答えた。自分の人生経験の無さがもどかしかった。


「ええ、良いお友達です。でも、私はそれを聞いて自分が情けなかった。彼女とは対等の関係でいたくて、一方的に守られるような関係にはなりたくなかったんです」


「だから私は彼女を守ってあげられるような勇気を持ちたくて、武道に挑戦したりしました。VRのホラーゲームも度胸がつくかと思って色々プレイしました。Unlimited Talesだってそうです。誰かを守れるようになりたくて、騎士として戦って、勇気が持てるかもしれないと思ったんです」


 涼二は納得した。かつて彼女が似合わないホラーゲームをやっていたと言ったのはそういう事情のためで。レオンハルトが上手かったのは元々のセンスもあるかもしれないが、武道の経験のおかげもあって。そしてレオンハルトの堂々とした立ち居振る舞いは、春が意識してそうあろうとしたからであって。


「でも、ダメだったんです。今日あの時、私は何もできませんでした。涼二さんがいなければ私はどうしていたのか、自分でも分かりません」


「私がやってきたことは何だったんだろうって。勇気を持つにはどうすれば良いんだろうって、今日一日、そんなことが頭の片隅にありました」


「そのせいで涼二さんが楽しめなかったのならごめんなさい」


 そう言って春は頭を下げる。涼二はそんなことを望んではいなかった。ただ、彼女の力になりたかった。


「謝る必要なんてないよ。僕は――」


 上手く言葉が見つからなかった。だから、涼二は春に、素直な自分の気持ちをぶつけることにした。


「そもそも僕は、春さんに勇気がないとは思えないよ」


「え?」


 涼二の言葉に春が戸惑う。確かに彼女の独白からは勇気は見えてこなかった。しかし――。


「レオンのときは、敵の眼の前で攻撃を凌いで。でっかい怪物とかにも怖気づかないで戦えるのって、本当にすごいと思うんだ」


「そうでしょうか」


「うん。僕だっていくつもVRのアクションゲームとかRPGをプレイしてようやくリアルなモンスターへの恐怖を克服しつつあるわけだし。今でもタンクとして前衛で耐えろって言われたら怖すぎてマトモにできるか分からないよ」


 涼二は、ホラーゲームもできないしね、と付け加える。涼二にとって、レオンハルトは勇敢な戦友であり、それは見た目が違えど中身の春も同様だと考えていた。


「そうなのでしょうか……」


「そうだと思う。春さんは勇気があるよ」


 涼二がそう力説しても、春の心はそれをすんなり受け入れることは難しそうであった。今は、これが限界であろう。後は時間が解決してくれるかどうか、といった所であろう。涼二はそう思い、別れを告げることにした。


「そろそろ時間も厳しくなってきたから、帰らなきゃいけない。またあっちの世界で」


 考え込んでいた春もそれを受けて、別れの挨拶をする。最後だけは何も考えず、ただ別れを惜しむかのようであった。


「私も迎えが来る頃合いです。お疲れ様でした。……おやすみなさい。また明日」


 最後の言葉は、いつもUnlimited Talesの世界からログアウトするときに交わしていた言葉である。やはりこの春もレオンハルトも同一の人物なのだと改めて認識した。だから涼二も、セフィリアとして――


「おやすみー。また明日!」


 そう答えて、駅へと向かうのであった。



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