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第十五話 とあるネカマヒーラーの指導

長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。

ようやく最後まで書き終えることができましたので、ここからは毎日投稿で走り抜けます。

残り僅かですが、お付き合いくださると幸いです。


~前回までのあらすじ~

 弟子や知り合いも増えて順風満帆のネトゲライフを送るセフィリアは現在夏休み真っ盛り。今度開催されるオフラインイベントにオープンキャンパスついでに参加しようと考えるが、一人で行くのは寂しいと感じる。

 そのため知人のゆきみんに相談した所、誰かを誘う決意が固まる。そこで最も親しいレオンハルトを誘ってみると、快く参加の意を表してくれた。セフィリアはイベント当日を待ち遠しく思うのであった。

 数日後、セフィリアはかれんと彼女の友達と共に狩りに出かけていた。


「それじゃあレンさん、適当に敵を釣ってきちゃってー」


「ん」


 セフィリアが号令をかけると、とある少女がMobの方へ駆けていった。


 彼女はレンレン、通称レンである。先日セフィリアの弟子となったかれんが集会所で知り合った初心者仲間のようで、短剣をメインウェポンとしていた。今日はレオンハルトもログインしていないため、セフィリアは彼女らと狩りをすることにしたのであった。


「強化バフはさっき入れたから、まずはヒールをチャージしておこう」


 セフィリアはかれんにレクチャーを始めた。


「そして、レンさんのHPがどれくらい削れるかを見て、大凡のヒールの頻度を把握するんだー」


「ふむふむ」


 かれんが頷きながらヒールを詠唱する。


「初見の敵だと攻撃パターンが分からないから、前衛はかなり被弾しちゃうんだよね。だから最初はヒールを厚めにかけた方が良いかな」


 前方ではレンがサベージフォックスに斬りかかっていた。タイミングを合わせて敵の攻撃を避けようとしているが、中々上手くいっていない。サベージフォックスの攻撃の種類、間合い、行動パターンが何も分からないからであった。


「で、前衛の動きを見ながらキュアを入れてあげる。これは慣れなんだけど、前衛がどれだけ技を使えば残りSTが厳しくなってくるかっていうのがなんとなく分かるようになるから」


「前衛が敵の動きに慣れてきたら、ヒールを減らしてキュアを多めにする」


「ヒーラーに攻撃手段がある場合は、ヘイトを取らないように適度に攻撃すると良いよ。かれんは攻撃スキルを取ったりする?」


 セフィリアがかれんに問いかける。セフィリアは攻撃手段を有していなかったが、神聖魔術100で範囲攻撃魔法を使えるようになるとの情報が明らかになったため、もうじき攻撃手段を得ることができるという期待があった。


「んー、私は障壁魔術を上げようとしてます。防御と攻撃の両方があるみたいなので!」


 障壁魔術は基本的には防御系の魔術である。詠唱を必要とするため即時性には劣るが、強力な防御術を行使することができる。具体的には、敵と自分の間に障壁を張って突進を妨害する、あるいは、自分の身に障壁を纏うことで様々な攻撃を防ぐことができるのであった。


 また、障壁を飛ばす魔術もあり、それは貴重な攻撃手段である。障壁魔術は防御も攻撃も行えるため、メイジ系のキャラクターには重宝されていた。


「なるほどねー。じゃあヘイト管理とか周囲には気を配らないとだね」


「そうなんです?」


「うん。多分敵に接近されてから障壁を詠唱してたら間に合わないから、タゲ取っちゃいそうだなーっていう時は予め障壁を張っておかないとだね。あと、不意打ちで他のMobに殴られたら詰むから、常に周りを警戒しておかないとだ」


「わわ、なんだか大変そうですね……」


 セフィリアの予想を聞いてかれんの表情が曇った。障壁魔術は一見、攻撃も防御もできる万能性があるが、使いこなすには十分なプレイヤースキルが必要とも言われていた。


「まあ慣れだよ慣れ。いけるいける」


 と、支援をしながらそんな話をしていたら、レンレンがサベージフォックスを倒したようである。セフィリアは自分達の方へ戻ってくる彼女に労いの言葉をかけた。


「おつかれさまー。レンさん上手いね」


「ん」


 言葉少なにレンレンは礼をする。青い髪をボブカットにした彼女は無口なようで、セフィリアも最初は戸惑った。しかし慣れればそれなりのコミュニケーションを取れることが分かったため、セフィリアは至って普通に接していた。


 セフィリアから見てレンレンは動体視力が良いように見えた。初見の敵の動きにも素早く反応、そして順応している様子であった。短剣のようなリーチの短い武器では敵に肉薄する必要があるため、Mobの微細な動きを認識して回避あるいは攻撃の行動を取らなければならない。彼女の動体視力の良さはそれに適しているように思えた。



「ここらは余裕っぽいから、もうちょっと奥に行こうか」


 クレスタ草原のフォックス地帯を超えると、その先にはジャイアントタイガーの生息するエリアとなる。名前の通り大きな虎が徘徊しており、全てアクティブMobというのが特徴である。


「レンさんなるべく孤立してる虎を引っ張ってきてー」


「り」


 レンレンの返答は短すぎて最早何の略かも判断しかねるが、おそらく了解の略なのであろう。セフィリアはそう思いながらヒールを唱える。


 同様にかれんも詠唱し、レンレンが釣ったジャイアントタイガーとの戦闘が始まった。短剣を振るった際に、カウンター気味に行われた噛み付き攻撃をレンレンは避けようとするが失敗し、HPを25%ほど失う。それをセフィリアとかれんのヒールで回復する。


 虎のHPが半分を割ったところで、周囲を警戒していたセフィリアは背後から別のジャイアントタイガーが接近していることに気がついた。


 前衛に近寄って新手のターゲットを取ってもらうか、はたまた自分が盾役を務めて時間を稼ぐか、どちらにするかを考える。


 一瞬の思考の後、前方の虎はレンレンに削りきってもらい、その間の時間を稼ぐことにした。


「後ろから新手! 僕が対処するから二人はそのままそいつを倒しきって!」


「っ師匠! お願いします!」


 かれんはどうやら背後の虎に気がついていなかったようで、驚きながらも了承する。レンレンは無言であったが、態度を見るにラッシュをかけて迅速に仕留めようとしているようだ。


「シールドバッシュ!」


 セフィリアは新手にシールドバッシュを決めて吹き飛ばす。これによってヘイト、時間、距離を確保する。地面に倒れたジャイアントタイガーは体勢を立て直し、セフィリアに突進する。


 それをサイドステップを踏んで回避し、振り向きざまの前足による引っ掻き攻撃を盾で受ける。虎の行動パターンは把握しており、防御に専念していれば耐久は容易であった。


 唯一の問題はST切れと削りによるHP減少であるが、行動の合間を縫ってポーションを飲んだり、シールドバッシュなどによる吹き飛ばし、スタンによって生まれる隙をついて詠唱時間の短いローヒールやローキュアを唱えることで賄っていた。


 のらりくらりと時間を稼いでいると、どうやら最初の虎を仕留めたようで、二人がこちらの援護に来た。


 そこからは同じことの繰り返しである。できるだけ1匹と戦うようにするが、気づかれて止む無く2匹相手になった場合はセフィリアが時間を稼ぐ。一度だけ運悪く3匹相手になったが、かれんが低級ではあるが障壁魔術でセフィリアの援護をしてくれたため、なんとかしのぎ切ることができた。



「ふぁ~……疲れましたぁー」


 連戦に連戦を重ね、そろそろ疲労が溜まってくる頃合いでフォックス地帯へ引き返す。安全地帯に戻るやいなや、かれんは地面に腰を下ろして大きく息をついた。


「ん……」


 レンレンもお疲れの様子である。セフィリアは慣れているため彼らに比べて疲労は少なかったが、それでもそれなりには疲れていた。


「休憩したらまた狩って、飽きたら街へ帰ろっか」


「はーい」


 セフィリアの提案にかれんが了承の声をあげ、レンレンも頷いた。それからはスキル上げと金策を兼ねて虎狩りを進め、それは精神的に疲労困憊になるまで続いた。


「疲れたけど、満足感がありますねー」


「頑張、った」


 街へ帰ったかれんとレンレンは充実感に満ちた表情をしていた。


「ランダムPOPのアクティブMobエリアは疲れるねー。でもスリル感があって中々良いでしょ」


 セフィリアも久々にタンク無しのハードな戦闘ができて、普段とは違った満足感があった。たまには師匠面して彼女らと遊ぶのも楽しいものだと感じながら、分配を終える。


「意外と稼げるね。それじゃあ、お疲れ様―」


「お疲れ様でした~」


 そのまま解散とし、セフィリアはログアウトする。ぼやける視界の中、レンレンが手を振っているのが見えた。


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