雪化粧
…目が覚めると僕は列車に揺られていた。
此処が何両目かもわからないが、
真紅のソファの背もたれにもたれ、
手には読みかけの小説。
…僕はいつの間にか眠っていたのだろう。
あたりを見ると、人は殆ど乗っていない。
高齢者が数人散り散りに座っていたが
窓辺で景色をぼんやりみるか、眠っているか。
この列車は、静かすぎる。
列車がレールの上を走り軋む音だけが、音として
規則的に、機械的に、鳴いている。
ふと、窓から見える景色をぼんやり見る。
そこには広がる綺麗な雪化粧。
あたりは深い山あいだった。
今日は天気が良い。
太陽の光はきらきらと窓から広がる
雪化粧をいっそ輝かせてくれる。
眩い光が雪の白に散々に反射して、
とても美しい。
光は散々に輝き、僕のぼんやりとした意識を
はっきりと現実世界へと引き戻してくれる。
そうだ。
僕の行き先は
絶望。
今、この景色だけが僕の想い出として、
鮮やかな記憶として残ればいいのにと願う。
目の前に広がる綺麗な雪化粧。
しかし時には人と人を引き離し、
人の命を奪う脅威にもなるのだろう。
世界は残酷だ。
列車はなおも連れていく。
絶望へと。
止まることなどなく
規則的に、機械的に、鳴き続けている。