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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響
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 この世界に来てオルサ以外で褒められる事に新鮮な感じを覚えて、陽太は恥ずかしがっていた。

 広場に連れて行かれ町長がやって来るとねぎらいの言葉を掛けられた。

 陽太は家を失った人はどうなるのかと尋ねると、町長の口から町の皆で又協力して建てるので心配はいらないと教えられてほっとした。

 宿屋の主が集まった人達に、陽太が俺の宿に泊まってる客人なんだぞと自慢げに皆に言いふらす。

 この町では魔法自体見たことがない人が多く、話で聞いたぐらいだったので物珍しそうに陽太を囲んで見つめていた。

 陽太が解放されたのは夜も更けた頃だった。

 住民達も平静を取り戻しそれぞれの家々に戻っていくと、陽太は町長の家に招かれ、この小さな町の英雄としてもてはやされて食事をご馳走になっていたのであった。

 宿屋に戻ると疲れて倒れ込むように寝台に潜り込んで、着替えもせずにそのまま寝入ってしまった。

 翌朝、出発しようと支度をして町中を歩いていると、昨日の地震の被害がどれだけ大きかったのかがよく分かった。

 陽太が消した家は丸焦げになっていたが、それ以外でも家屋が傾いたり倒れている家が数軒あった。

 幸いにも死者はいなかったみたいだが、住めなくなった人たちは何処に行ったのか、壊れた家の前にはまだ主らしき人の姿は見えない。

 家を失った人達がいるのに英雄扱いされてた陽太は複雑な気分ではあった。

 この後ちゃんと元通りの生活に戻れるのか気がかりではあったが、陽太にもしなけれならない目的がある為、いつまでもこの場に残ることは出来ない。

 心苦しくも町を後にしようとしていたら町長がやって来た。

「もう旅に出るのかね、もう少しゆっくりとしていってくれてもよいのだ」

「ううん、町を直さないといけないから邪魔しちゃ悪いし、僕も旅を急がなきゃいけないから」

「そうか、残念じゃな、また来ることがあったら儂の家に寄っておくれ、いつでも歓迎するからの」

「有り難う町長さん、じゃあ行くね」

「気をつけての」

 陽太が馬の腹を蹴って走り出すと、町はあっという間に森の影に隠れていった。

 一夜の出来事は陽太にとって思いがけない事件だったが、この世界で認められた気分であり気持ちの良い出来事だった。

 だが陽太の旅はまだ終わってもいなかったし、この先の道のりを考えるとまだ始まったばかりだった。

 オルサの家から出てもう二ヶ月は経っている、三日月型の最南端から内海沿いを北上してかなりの距離を来たと思ってはいたが、地図で見るとまだ半分以上は残っている、この調子だとあと数ヶ月はかかりそうであった。

「今日は何処まで行けるかな」

 日に日に暑さが強くなってきて、昼間は木陰で休憩する時間が長くなってきていた、それに天気がいいのは有り難いが雨が少なすぎる感じを受けていた。

 もう少し雨があった方が涼しくなって旅がはかどるのにと思いつつ歩を進めていく。

 まだ街道沿いから海が見えるのが幸いして、あまりにも暑すぎる時は海岸で休憩をして海に入り涼を得たりしていた。

 海は遠浅だったがどんな生き物がいるかも分からないので、それほど深い場所には行かずに海岸近くで水浴びする程度だったが随分と気分は良くなる。

 海は透き通ってエメラルドグリーンの綺麗な場所だったが、遠くで時折見える水しぶきは陽太を怖がらせた。

 鯨のような大きな海洋生物の飛び跳ねる姿をみると、浸かっている足元が急に恐ろしく見えてきて慌てて水から上がったりした。

「あんな大きいのに襲われたらひとたまりも無い」

 と、旅の合間に色々と周りの状況にも目をやるぐらい余裕も出来ていて、それはもう逃げるとう逃避行から解放され、旅というものに変化したことが大きかっただろう。

 心の準備をする前にいきなり旅をさせられる状況に陥ってしまったが、ここに来てやっと旅をしているのだなと自覚が芽生え始めて、周りのものにも興味を持ち始めていた。

 一人で旅をしているとどうしても寡黙になりやすく、人気のある場所を求め自然と足が速くなりがちだったが、最近の陽太は暗くなり始めると無理をせず早めに火を起こしてゆっくりと自分の時間を堪能する旅をするようになっていた。

 陽太は一つ楽しく思うことをこの旅で見つけていた、それは夜に満天の星空を眺めるのが楽しみであった。

 手を伸ばせば触れられるほど近くに見える星々は、一人寂しい夜の陽太にはとても心落ち着く眺めだった。

 ここでは輝きの小さな星までもくっきりと目視出来るほど空気が澄んでおり、視界いっぱいに星がちりばめられていた。

「綺麗だな」

 自然のプラネタリウム。

 星に興味がなかった陽太だが、昔の人がこれを見て関心を持つ気持ちが理解できた。

 だから早めに良い位置で星の見られる場所を探して、食事の後のゆっくりした時間を楽しむのが日課になりつつあった。

 町につけば数日間の食糧などを買うだけですぐに町から出て行くというのを繰り返してドゥーラントを出る国境手前の町まできていた。

 思ってたほど大きくもない町だったが、この先サンまでの距離が結構あるので馬の背に二つもの袋を乗せて、中には買い込んだ食糧や飲み水、着替えの服などをいれていた。

 明日の朝に出ようと宿屋に泊まり、次の日の朝日が昇る前に出発した。

 国境の検問所でいくつか注意点を教えて貰い、難なく国を出るとしばらくの間は問題なく旅が出来た。

 後ろからやってくる荷馬車は足早に陽太を抜いて行く、街道は歩いて行くものはおらず皆足早に馬を駆って過ぎ去っていく。

 皆が急いでいるのを見て、検問所で「陽が昇りきるまでに距離を稼いでおいたほうがいいぞ、いいか岩を探せよ」と言われたことを思い出していた。

「僕らも急いだ方が良いのだけれど……、ねえポム」

 そう呼んだのは馬の名だった。

 長い旅を共に歩んできた相棒に考え抜いた名前を付けてあげた、草ばかり食べているのを見て、この世界での草の名前がポムなのでそのまま名前にしていた。

「君はどう思う、早く行きたいけど荷物があるから辛くない?」

 いつもより多い荷物で普段の走りをしてたらバテてしまうのではないかと心配して声を掛けてみた、勿論陽太に答えることもなく黙々と一定のリズムでポムは歩いていた。

 陽太は迷ったが、次のサンまではかなりの距離があり、早く着きたい気持ちがあったが地理に不慣れな上に途中でポムが倒れたりしたら大変な事になると思い、取りあえず数日間はゆっくりと進んで状況を見てみようと思った。

 地図上には何も名前が書いてなく、ただ街道の線が書いてあるだけで町がどこにあるのかさえ分からない、それにドゥーラントを出てから街道の様子も変わってきていた。

 街道沿いの木々の間隔が広まりまばらになってきていて、足元の道は砂地に変わっていた。

「かなり北に来たからもしかしたらこの辺りは赤道に近いのかな」

 内陸の方に目をやると高い木々は少なく平野が広がっているのが分かる、そろそろ空気にも湿り気がなくなり乾いた風を感じていた。

 陽太は淡々と街道を進み日差しがきつくなり始めると大きな木を探して休憩を取った。

「ごくっごくっ、……ふう」

 水を喉に流すと一息ついた、地面の照り返しの届かないところに避難して周囲を見渡すと、日差しは砂に跳ね返って金色に輝いて見えていて、じりじりと地面が焼かれ気温が上がっていくのが目に見えて分かった。

「うわあ、空気がゆらゆらしてる、こんなに熱いんじゃ昼間は進めそうにないや」

 じっと地面を見てるだけで目が痛くなってくる、陽太はポムに水をやり陽が落ちるまで寝るしかなかった。

 無駄に起きていても体力がなくなるだけで、いいことがないのはこの旅で身にしみていた。

 検問所の兵士が言ってた朝の内に距離を稼げの意味がよく分かった、長い旅路に進める時間がほんの数時間、朝と夕方だけしかないのだ、日数が掛かれば食糧が足りずのんびりと旅だなんて出来ない、陽太は初日にこの旅の過酷さを思い知らされただけで運が良かったのだろう。

 陽太は日が陰り始めて幾分気温が和らいでくると、早速ポムに荷物を載せて走り出していった。

 街道は海から少しずつ遠ざかり内陸へと向かって伸びていて、そのさきには高い山岳地帯が待っている、その山肌はすっかり禿げて草木一本生えていないように見える。

「夜になるまでにこの山を越えておきたいな」

 時間はなかった、暗くなり始めればあっという間に陽が落ちる、そうなれば否が応でもその場で野宿をしないと足元が危なくて身動きが出来なかった。

 山道の砂はさらさらと崩れるほど脆く、舗装なんてされていないし足を滑らせれば一巻の終わりの場所だった、そこを山側に身体を寄せながら進んでいった

 ぐるぐると回るように続く道を行き、幾重にも重なった山を上下しながら越えていくと丁度陽が落ちて暗くなった頃に麓に降りてこられた。

「良かった、今日はここまでだね」

 休める場所も見当たらず、取りあえず街道脇で火を起こして野宿をした。

 荒涼とした岩と砂の大地しか見当たらない場所で、二日前とはまるっきり景色が変化していたことに驚いていた。

「ここは風があるね、寒いくらいだ」

 マントに包まりながら地べたに横になるしかなかった、お腹は減っているのに食欲がなく水だけを飲んで眠りに入った。

 目が覚めて街道が分かるぐらいの時間から移動を開始する。

 夜はながく寝る時間しかないというぐらい何もすることがなかったので、目が覚めても周りが薄明るくなり始めるまでうつらうつらと横になっていたのである。

 この旅の重要な事は、暑くなるまでに先を急いで休める場所を探さなければならない事を昨日で思い知らされた。

 明るくなるまでは早足に歩を進め、あとは陽が昇るまで馬を走らせ休憩ポイントを探し回った。

 陽太を抜き去って進んで行った他の旅人たちは何処に休憩する場所があるのか知っていたのだろうか、それを見つけなければらなかった。

 二つ目の山が目の前に立ちはだかっている。

 この山を越えるまでに陽が高くなっていなければ良いが、どれだけの距離があるのか陽太には分からない、かといってこの何も日光から身を隠せる場所のない所に居ては焼け死んでしまうと足を止めずに山に入っていく。

「頑張ってよポム、ここを越えないと大変なことになるんだよ」

 懸命に山道を駆け上がっていくが、じわじわと山肌が焼かれて山道の空気が揺らめき始めてきた。

 山を一つ越え、二つ目を走破中に陽が高く昇り、直射日光が陽太とポムに降り注いだ。

 じりじりと体温が上がってくると汗が噴き出し喉が渇くが、今はとにかく前に進むしかなかった。

 持っていた水をポムの頭にかけてやり陽太はごくごくと水を飲んだ。

「はぁはぁ、空気が熱い、どこか休める場所ないかな」

 とは云っても一本道の山道に休める場所などなく、滑りやすい砂利道を乗り越えなくてはならなかった。

 ごくごくと喉に幾ら水を流し込んでも熱い空気で直ぐに乾いてしまう、いつもより多くの水を持ってきたといっても行程の長さを考えた量であって熱さ対策ではなかった。

 みるみるうちに水袋の中身が減っていき、ポムの息も荒く口から泡を吹き出し必死に走っていた。

 少なくとも日陰のある山の反対側であれば良かったのだが、陽太の走ってる道はずっと日が当たり、谷を挟んだ対面の斜面の日陰がうらやましく感じられた。

 視界に入る道は長く、休めそうな場所は見えなかった。

「ほら水だよ」

 ポムの頭を冷やして元気になって貰おうと貴重な水を惜しみなく掛けてやった。

 ポムもここでは水もない危険な場所だと分かっているのか、速度を落とさず必死に頑張っていた。

 道は登り坂が終わって平坦になってきていたので、もうすぐ下りになると思われる所まで来ていた。

「やっと平らな所に来たね、高い所は苦手なんだ早く降りよう」

 明け方からずっと走り続けているポムの為にも早く休める所を見つけて休憩をさせてあげたかった、とっくに陽は昇り炎天下の下、かなりの時間が経っている為、かなり体力が消耗してきているのが見て取れて、本当に何処か小さな日陰があればすぐにでも入りたかった。

「こんなに気候が変化してるなんて思っても見なかったよ、大変な場所に来ちゃったな」

 坂は下り坂に変わり山の側面をぐるりと回って下っていたので日光から隠れられると思っていたが、太陽も上がって隠れられるほどの影も消されていた。

 空は透き通るように真っ青で雲一つ見当たらず、日光が地上にいる生き物全てを焼き尽くすかのようにじりじりと気温を上げていく。

 生き物たちはそれから逃げるように地中に逃げたり、日陰のある自分達専用のお気に入りの洞窟や洞穴で陽が落ちるまでじっとしているのだろうか。

 その地上で陽太とポムだけが逃げ遅れて体中から汗が噴き出てくるが、それが瞬時に乾いていく。

 汗になって出た水分を補うように水をがぶがぶと飲んでいく。

 頭がぼうっと視界が歪むのを必死に気を張って、馬から落ちないようにしがみつく。

「目がくらくらする、頭の中が沸騰しそうだ」

 下り坂を速度を上げて下っていくが陽太の視界はその速さについて行けなくなってきていて、瞼が降りて今にも気を失いそうになっていた。

 持っていた水袋を落としそうになるぐらい手に力が入らなくなり、朦朧とするする視界の中にある物が横切った。

「!」

 何かが見えた瞬間、意識が引き戻される。

「動物だ、かなり大きかった」

 下り坂を一気に降りて眼下に大地が広がる殺風景な景色にわずかな岩が所々転がっていた、その岩と岩の間を通り抜けるように映った動物の姿を陽太が見つけた。

 手に持っていた水袋から一口飲むと残りをポムの頭にかけてやり、袋を投げ捨てた。

「ポム、あそこに向かって!」

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