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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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4

 日が昇り深い眠りから覚めた陽太は身体の痛みでしばらく寝床でもがいていた。

「いてて、足が攣った、昨日歩きすぎたから久しぶりに筋肉痛になっちゃった」

 もぞもぞと布団の中で足を揉みながら痛みに耐えていた。

「陽太や、そろそろ起きるんじゃて」

 起こしに来てくれたオルサが布団を取り上げる。

「身体がだるいよ、今日はゆっくりしようよ」

 陽太が不満を漏らす。

「何をいうとる、買う物もたくさんあるというのに……帰りは馬があるんじゃ、しっかりせい」

 しぶしぶ布団から出た陽太は服を着替えると宿を後にした。

 外は明るく雲のない良い天気だった。

 大きくもない村だったが、活気あふれ人々は道沿いで店の店主と話し合ったり、道に椅子を持ち出して日向ぼっこをしながらお茶を飲み、談話に興じているものがいたり、女性が買い物であれこれと値段交渉を大声でしていたりと陽太はここに来て初めての人だかりを見て驚いていた。

(うわぁ、ここの人って大きい人ばかりだな、オルサも背が高いと思ってたけど、ここの女性もみんな背が高い人ばかりだ、そういえば海岸で襲われたあの二人も背が高かったっけ)

 陽太もこの一年半で背丈が伸び百六十センチはあったのだが、この村の住民は皆体つきが大きく女性でも陽太より背が高かった。

(なんだか僕が小人になったみたいだ)

 店の建ち並ぶ通りを二人で歩いて行く。

 街道沿いの村の中の商店なので店舗数も多くなく、視界に入る程度しかなかったが、陽太は好奇心一杯に店頭に並ぶ品を物色して見て回った。

 工芸品などは器用に作った木工品や呪術めいた感じのする人形などが置いてあったり、行商から買い取った魚介類が所狭しと並べてありそれを買い求める常連客が店の前にたむろしていたりと、小さな村にしては多くの人が住んでいるもんだなと感じていた。

「陽太や、こっちじゃよ」

 よそ見をして歩いていた陽太をオルサが呼んだ、気がつくとオルサが一軒の店先で立ち止まって陽太を待っていた。

「ここは?」

「服屋じゃ」

 小さく看板に服とだけ書かれたていてわかりにくかったが、店の中に入っていくと壁や天井にたくさんの生地が並べられており、中には何の獣かも分からない革服も置いてあった。

「いらっしゃいませ」

 品物を並べていた若い店主が入ってきた二人に声をかけた。

「店主、この子に合うローブとマントはあるかえ」

「はいはい、どうぞ」

「陽太、好きなのを選ぶがよいが、あまり目立つ色はやめたほうがええぞ」

 陽太は店主に誘われた一角に陳列されてあるローブの中から好きな色を選んでみた。

 たくさんの色違いのローブが並べられていて刺繍や細工のされているおしゃれな物まであった

 染め樽で染みこませたローブには明るいものから暗いものと様々で、ここにある以外の色を望むならお作りしますとの事だったが陽太は深い青色のものを選んだ。

「ふむ、なかなか良いな」

 深い海の色を思わせる群青色のローブは陽太に似合っていて、首と袖には金色の刺繍が入っていた。

「これ気に入ったよ、これにする」

「ご試着はなさいませんでよろしいですかな」

 店主が聞いてきたが陽太は一着しかなかったこのローブが気に入ったのでほかに変える気が無く断った。

「あと服とマントも選ばないと……」

 陽太はローブに合いそうな革のズボンと上着をああだこうだと独り言を言いながら決めていった。

 白い布の服にチェニックを決め込み、動きやすい柔らかい革のズボンを選んで仕切りの奥で着替えてみた。

「どうかな……、えへへ」

 着替え出てきた陽太は照れくさそうにしていた。

「なかなか似合うとるではないか」

 小さい陽太には少し大きく感じられる服だったが、町人っぽくここの人たちに紛れていても不思議に思われないであろう格好をしていた。

 その上からローブをかぶり込み、革のマントを羽織ると格好だけは魔道士であった。

「それなら十分、よいよい、店主この一式を貰えるかな」

「はい、よくお似合いで、では早速」

 奥に行き勘定を計算する。

 陽太はくるくると回りながらおかしな所はないか確かめている間にオルサが代金を払ってくれていた。

「いくぞ、陽太や」

 陽太はそのままの姿で着てきた服を脇に抱えて店を後にした。

「またのお越しを」

 店主の言葉を背に外に出ると、ついでに隣の靴屋で此処の人達と同じ靴に履き替えた。

「次は何処に行くの?」

「そうじゃなぁ……」

 近くの店を見渡すとオルサが指を差した。

 そこは小さなお店で、入り口に所狭しと怪しい飾りや小動物のひからびた干物がぶら下がっていたり、色鮮やかな首飾りが壁に並んでいた。

 店内は香の臭いが充満しており薄暗く、光源は置いてある商品から淡い光が放たれているだけだった。

「ここはな導具屋じゃ、魔道士が身につける品物を売っておる」

 オルサが説明しながら店の奥へとはいっていくと、突き当たりの小さな机の上に置かれたいくつもの水晶を前にして、フードを被った老婆とおぼしき人物が座っていた。

 老婆はしわくちゃの手で水晶を並べていた。

「悪いがこの子に合いそうな水と光の首飾りと指輪はないかえ、それと杖もじゃ」

 すると、ゆっくりと顔を上げたフードの中から骸骨のようにやせ細った老婆の顔が見えた。

 落ち窪んだ眼孔の中からぎょろりと赤い瞳が一瞬陽太を見つめるた。

 どきりと鼓動が高くなる陽太をよそ目に、老婆は頭を垂れると立ち上がりゆっくりとした動きで品物を物色し始めた。

 無言のまま老婆はあれこれと品物を手に取り見定めていた。

 息苦しい沈黙のの後、戻ってきた老婆が机の上に首飾りと指輪を置くと店の奥に入っていった。

 青と白の斑模様の石を紐で包むように結ばれて首紐で通されている首飾りと、青く透き通った石に指通しの穴を開けて加工した指輪だった。

「陽太、この指輪をつけられるかな、利き手のどこでもよい、つけれるかどうか試してみぃ」

 青い指輪を手に取り利き手の右手の指に嵌めてみた。

 小さな指に嵌めていくと中指が一番しっくりと嵌めることが出来た。

「少し隙間があるけどこれぐらいなら大丈夫かも」

 指を広げてオルサに見せる。

「その石に意識を集中してみるがよい、何か感じるはせぬか?」

 指輪を見つめていると、吸い込まれそうでいて何かに包まれてるような不思議な感覚がした。

 たゆたう水の中に漂っているかのような浮遊感、沸き上がってくる力みたいなものが指輪から感じられた。

「なんだかへんな感じがする、見守られてるような……、指輪から力が沸いてくるような身体が軽く感じるよ」

「それはお前の性質と相性が良い証拠じゃ、相性がよいと身体が活性化して軽く感じられたり、疲れがたまりにくくなるでな、それならお前の魔法にもいい影響があるでな、それでいいじゃろう」

 陽太はもう一つ、首飾りにも手をだして同じように石を握りしめ集中してみる。

 指輪とは違い、視野が広がるような光が脳裏に浮かび上がった、雲の上の太陽を直視したようなまばゆさと視界一面が青空で一杯になったみたいに身体が一体感を感じていた。

 奥から手に杖を何本か持って戻ってきた老婆は、杖を机の上に置くとあとはじっと佇んでいるだけで何も言わない。

「これもすごいね、空を飛んでる鳥になったみたい」

「杖は使いやすい方が良いからのう、手に馴染みやすそうなのを選ぶがええぞ」

 変わった形状の杖が置かれていた、くねくねした物や長い物、短い物、ねじれている物など色々だったが、どの杖にも先端には最低でも一つは宝石がはめ込まれていて、薄暗い店で怪しい輝きを放っていた。

「うわぁ、全部高そうだね」

 手に取り握りしめて感触を確かめてみる。

 太過ぎず細過ぎない物、自分の背丈に合った長さの物を何本も手に取って確かめてみた。

「これかな? 古そうに見えるけど大丈夫なの?」

「杖そのものが魔力を溜めた魔樹から作られておるからそう見えてもしようがないがな、長い年月で蓄えられた魔力が秘められておる、じゃから古い方が強い魔力が宿っておることもある」

「へぇそっかぁ、じゃあこれにするよ、これなら長くもなく邪魔にならないし動きやすそう、それにこの宝石の色もいいな」

 握って力が入りやすい太さで長さも陽太の腕より少し短いぐらいで、腰に差せばマントにも隠れるので丁度良い、先端についた透き通った薄緑の小さな宝石も気に入ったのである。

「ふむ、なかなか良さそうなものがあってよかったな、ではこれを貰おうかのう」

 老婆は何も言わず、ただ俯き客の応じるままにじっとしていたが、オルサが幾らだと聞かれるとぼそりと低い声で値段を言っただけであった。

 それに気にもとめず袋からお金を取り出したオルサは老婆の前にそっと置いた。

 陽太にはそれがどれ程の値段がしたのかは分からなかったが、銀粒がごろごろと沢山机の上に置かれてあった。

「行くとするか」

 お金を払うとそのまま外に向かう。

 老婆は一言も言わず目の前のお金にも触れずに、二人が出て行くのをそのままの姿勢で見送った。

 外に出た陽太は深呼吸をすると一息入れてオルサに尋ねてみた。

「あのお婆さん少し怖かったね、なんだか息苦しかった」

「あんなもんじゃて導具屋なんてもんは、元魔道士がよくする仕事じゃてな元々口数の少ない者が多いんじゃ」

「ふうん、そうなんだ」

「取りあえず、服装に関してはそれで問題無かろう」

 陽太の見た目だけは既に立派な魔道士の体を装っていた。

「あとは食料など諸々の必要品を揃えて最後に馬じゃな」

 必要品を入れる袋を買い、干し肉、油、布といった最低限の荷物を村の通りを行ったり来たりしながら買い込んでいると、いつの間にやら太陽は高く頭上に上がってきていた。

「昼じゃな、飯でも食うとするかえ、荷物もそれだけあれば行けるじゃろうて、足りない物は途中の町で買い足せば良い」

 陽太の背にはパンパンになった袋がぶら下がっていて重そうに担いでいた。

「折角じゃて、魚料理を食べていくとしようかの」

「わあ、魚かあ、この辺りはどんな魚だろう」

 目を輝かせてオルサを見る。

「そうじゃったな、ここのは新鮮じゃて気に入るんでないかえ」

 それに答えるかのようにオルサは笑って見せた。

 二人は村の入り口近くの店に入り、厨房から漂う良い匂いを嗅ぐとお腹から空腹の合図が鳴った。

 机に着くとオルサが魚料理を頼んだ。

 料理が来る間、陽太はそわそわと何が来るのか楽しみに厨房を覗いたり、椅子に座りながら足をばたつかせていた。

 昼前だったが店内に客はオルサと陽太だけだったので出てくるのも早く、机の上に出された大きなお皿の上には、はみ出るほどこれまた大きな魚が焼かれていて、その上に色々な香草が乗って焼かれてあった。

 陽太は大きな声で驚き興奮が抑えられないようであった、オルサが身を取り出してくれる間、その魚をじっと見つめていた。

 体にはヒレがたくさん付いており、実際に食べる身の部分は少ないように思われた、それにその魚の頭に陽太は驚いていた。

 まるで鎧で覆われたかのような堅い骨で出来ていて少しロボット臭い形をしていた。

 歯というより骨格が歯の役割をしているような尖った歯をしていた。

 コツコツと指で頭を叩いて遊んでいると、

「ほれ、 陽太食ってみんかえ」

 小皿には取り出してくれた身がたくさん乗っていて、嬉しそうに受け取り自分の前に置いた。

 綺麗な白身で魚臭さは香草のおかげでせず、代わりに松のような爽やかな香りが鼻をついた。

 オルサが自分の分を取り出して机に置くまで待ってから、いただきますをして一口食べてみた。

 分厚い身は噛めば噛むほど味が出てきてとても美味しく、脂も乗っていて口のなかに旨味が広がっていく。

 陽太はごくりと飲み込むと満面の笑みを浮かべて喜んだ。

「美味い! ものすごく美味しいよ」

 言うと直ぐに二口目に取りかかる。

 口に入れるたびに目を細めて笑顔で食べ続けた。

 他にも魚を煮込んだスープも頼み、初めに出てきた魚とは違い小ぶりだが丸い魚を長時間煮込んで作ったどろりとした濃厚なスープに野菜がいっぱい入っていて、陽太は元の世界の食べ物を懐かしく思いながら完食した。

「はぁ、美味しかったぁ」

 肉生活をしていたせいか久しぶりの魚料理は新鮮で身も心も大満足であった。

 店を出た二人は後は馬を購入するだけであると思うと足取りも軽かった。

 村の北側の入り口に馬屋があり、そこでは預かった馬や売りに出されている馬が世話されていた。

 馬と言っても体は長く足は太くてがっしりした体型をしており、首は短くたてがみもなかった。

 顔は馬のように長かったが正面から見るとカバのように口元が広がっている。

 馬のように優雅に見えなかったが力強く、長旅には向いているよう見えた。

(これが馬なんだ、なんだかカバかサイみたいだ)

 性格は大人しいらしく、近づくと鼻を押しつけて甘えてくる。

「うわぁ、こらやめろ」

 ぺろぺろと陽太の顔をなめ回そうと長い舌を頬に当ててくるのを、笑いながら叱る。

「陽太や、ここで待っておれ、交渉してくるでな」

「うん、わかった」

 オルサは馬屋の店の中に入っていくのを横目に、陽太は馬とじゃれ合っていた。

 しばらくすると店主とおぼしき男性と出てきたオルサは陽太にどの馬がいいか聞いてきた。

 が、そう言われても選ぶ基準も分からない陽太はさっきまでじゃれ合っていた馬を指差した。

「この子でいいや、なんだか愛着沸いてきたし仲良くなれそう」

「では店主、これともう一頭貰うとするか」

 代金は既に払ってあるみたいで店主は選んだ二頭に手綱と鞍を着けると柵から連れ出してきた。

「今日からよろしくね」

 荷物を括り付けると頭を撫でて挨拶をする。

 薄い毛はきめ細かい絨毯のように肌触りがよく温かかった。

「では帰ろうかのう」

 手綱を引いて歩き出すと、前の方から杖をついた老人がこちらにやってきて声を掛けてきた。

「もし、少し伺いたいことがあるんじゃが、よろしいかの」

 腰が曲がったかなりの歳を取っていて言葉も動作もゆっくりとしていた。

「…………」

 陽太は勿論この老人なんて知らなかったし何か村人にした覚えもない。

 オルサもフードで顔を隠したまま相手が何を聞いてくるのか黙って待っていた。

「おじいさん、どうしたの?」

 思い切って陽太が老人に話しかけてみた。

「いやのう、お前さんにではなく、そっちのお方に話があるんじゃが……、もし間違いなら申し訳ないが、もしかしてオルサではないかな?」

 老人は重い腰を上げて正面からオルサに向き合う、が、オルサは俯き顔を合わせないようにして沈黙を貫いていた、陽太は黙ったままのオルサを見てどうしたのかと思った。

「ねぇオルサ、知ってる人?」

「やはりおぬしオルサじゃな、盗賊オルサ探しておったぞ」

 杖を持つ手が震え、声には怒りがこもっていた。

「陽太、馬に乗れ!」

 瞬時にオルサが陽太に言ってきた。

「え? 何? どういうことなの?」

「よいから乗るんじゃ」

 訳が分からぬまま陽太は体を持ち上げられ馬の背に乗せられた。

「これを持ってエスタルに行くんじゃ、よいな後ろを振り向くのでないぞ」

 オルサが懐から取り出した袋を陽太に手渡した。

「オルサ! 逃がさぬぞ、お前たちこっちじゃ」

 老人がありったけの声を出して叫んだ。

 すると後ろの店から若いものから中年の男たちが数人出てきた、中には魔道士と思えるローブ姿の人物も見える、男たちの手には包丁や棒を握り隠れていたと思われた。

「やはりこいつはオルサじゃ、こやつを捕まえてくれ」

 老人は興奮して杖でオルサを差した。

「え、どうしてオルサが……」

「いいから行くんじゃ」

 厳しい表情のオルサを見てびくっとする。

 混乱して状況がつかめない陽太がうろたえていると、

「陽太、よい魔道士になるんじゃ、楽しかったぞ……」

 そう言って馬の尻を思いっきり叩いた。

 突然の痛みに勢いよく駆けだした馬が、北の入り口へ向かって走り去っていく。

 後ろから「殺せ!」「回り込め」などの怒号が聞こえてくるのを陽太は馬の首にしがみつきながら、オルサを呼び続けていた。

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