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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 今夜の食事はフィッシングが持つとのことで五人が卓に付いて料理を頼んでいたが、今日さっき会ったばかりで遠慮なしに注文が出来ないとミサエルとミエールはあまり頼もうとしなかった。

 それを見ていたフィッシングが二人に話しかけた。

「おいおいそれだけかよ、もっと頼めば良いだろう、おおい主人、酒をくれ」

「いや、俺達はこれで良いよ」

 ミサエルが答えている隣で、陽太は遠慮なしに沢山の注文を笑顔で頼んでいた。

「今日は全種類食べるです」

 陽太の目は血走っているかのように興奮が抑えられないようであった。

「おいバルート、ミサエルやミエールに言ってやれよ、遠慮するなって」

 すると陽太は二人に、

「遠慮したら駄目です、こんなの滅多にないとこです、今日はお腹が破裂するまで食べるです」

「おい違うだろう、おめえのことじゃねえよ」

 皆が爆笑する。

「まぁまぁ、二人とも遠慮はしないで良いよ、今日から皆一緒に生活するんだ、楽しくたべてよ」

 ミサエルとミエールが視線を交わして苦笑いをした。

 運ばれて来た料理で卓が置ききれないぐらいになり、皆必死に消費していこうと黙々と食べ続けていた。

「はははっ、それで泥だらけになったのか」

 フィッシングが酒を片手に大笑いしていた。

「ああ、町に入ったら周りから変な目で見られたな、あれは俺達もかなり臭く感じていたから町の人が俺達から離れていくのがよく分かった、まるで王様にでもなった気分だ」

 ミサエルもいつの間にか酒を飲んでいて二人とも顔が真っ赤になっていた。

 酒のおかげで二人の壁は取り払われたかのように大いに騒いで話に興じていた。

「うんうんよかった、気が合う仲になったみたいだね、さぁミエールさんも飲んでよ」

 オットが笑顔で喜んでいた。

「え、私はお酒はあまり飲めないし……」

「なぁに一口だけでも」

 ちらりとミエールは一心不乱に食べ続けている陽太を見て諦めた。

「じゃあ少しだけ……」

「そんなに強くはないから、あの二人みたいに大量に飲まなければ酔わないよ、ははは」

 オットがミエールの杯に酒を注いであげる。

 皆飲んで食べて騒ぎながら夜が更けていく。

 食事が終わり店を出た時はフィッシングとミサエルはすっかり出来上がり、二人でもう一軒店に行ってくると言って闇夜の街に消えていってしまった。

「仕方ないね、じゃあ俺が新しい家を教えるよ、俺は引っ越しするまで暫くは今の家に住んでいるから何かあれば来てよ」

 陽太達は一度家に戻り荷物を馬に詰め込むと、オットが操る馬車に付いていき新しい家に向かった。

 数ブロック離れた北東の地区の一角に大きな家が建っていた。

「ここだよ、通りからも離れているから閑静な場所だよ、少し日当たりが悪いけどここならゆっくり過ごせるでしょう」

「うわあ、凄く大きいね、部屋もいっぱいありそう」

「ははっ、部屋は早いもの勝ちだよ、あの二人がいなくてよかったね」

「やったあ」

「こんな立派な家に住んだことがないわ……、お姫様になったみたい」

 二軒分の大きさがあり裏には馬小屋と庭、それと小さな小屋もあった。

「あの小屋は何ですか?」

「あれは俺の仕事場だよ、鍛治屋だしね、さぁ入って」

 一階に炊事場と居間が大きく取られていて、十人でも余裕で食事が取れそうであった。

「奧には風呂場もあるからね、今日はもう遅いから明日朝にでも入ってみると良いよ」

「おおっ、凄い凄いです」

 陽太が飛び跳ねて喜んだ。

 二階に上がると部屋が六つ並んでいて、どれも似たような作りの部屋だった。

「ミエールさん、先に好きな部屋を選んで良いです」

「ええ、良いわよバルさんが先に選んでよ」

「女性だから先に良いです」

 ミエールが選んだのは一番奥の庭に面した部屋だった。

「じゃあ僕は向かいの部屋で良いです、ミサさんはミエールさんの隣にするです」

 陽太がミサエルの荷物を部屋に投げ込んだ。

「俺は下の部屋にするからね、鍛治屋の仕事があるし、朝早いから近い方が良いいんだよ、お魚さんはそこの階段に近い所にでもしておいていいよ」

 陽太とミエールが部屋に入ると既に寝台には布団が置かれていて、直ぐにでも寝ることが出来た。

「それじゃあ俺は帰るよ、また明日」

 オットが帰っていくと陽太達は何もない居間の地べたにランタンを置いて座っていた。

「家具を買わないといけないです」

「そうね、家具代も掛かりそうだし、家代も払わないといけないわね、どうしましょう」

「ミエールさんも一緒に仕事すれば良いです、そしたら何にも心配ないです、仕事なら僕がとってくるですよ、それにオトさんもお魚さんも腕は凄いから高い報酬の依頼でも心配ないです」

「それにしてもミサのやつ、あんなに意気投合しちゃって……」

「……お酒の力は怖いです」

「明日から力仕事でこき使ってやるんだから……もう寝ましょうか」

 陽太達が寝静まった夜更け過ぎに、フィッシングとミサエルが家に帰ってきて騒いでいたのを夢うつつで聞こえていたが、陽太は朝まで起きなかった。

 朝、居間に降りると二人が大の字で床に寝転がっているのを見つけたが、そのまま顔を洗いに庭の井戸に向かうと、

「こら、起きろ」

 居間の方からミエールの怒鳴り声が聞こえて来た。

 陽太が居間に戻ると寝ぼけ眼で座っているミサエルとフィッシングがいた。

「よう、おはよう」

「おはよう」

「あう、おはようです」

 二人が陽太に挨拶をしてきたので返事をしてミエールを見ると、恐ろしい形相で二人を見ていた。

「あんた達、家の様子を見て何も感じないの? 今日から暮らすのにこんな殺風景な家でどうやって住むのよ、今日一日は掃除と家具を買いに行くからね、ミサあんたは力仕事よ、いいわね」

「頭痛いのにどならんでくれよ、家って俺はまだちゃんと見てもいないんだぞ、いてて」

 ミサエルが片目を瞑って頭を押さえた。

「なあミサ、ミエールってこんなに怖いのか? 可愛い顔なのに怖えな」

 ミサエルの苦笑いを尻目にミエールがフィッシングに言う。

「お魚さんあんたもよ、共同生活はちゃんとしないと駄目なんだからね」

 腰に手を当てながらフィッシングを睨んだ。

「これならオトさんと二人暮らしの方が楽だったな」

 フィッシングがぼそりと呟いて顔を洗いに走って行く。

「さぁ、まずは自分の部屋の掃除よ、ミサは二階に上がって右側の真ん中の部屋だからね、お魚さんは上がった左の手前の部屋よ、始めっ」

 朝からテンションの高いミエールに逆らわないように、陽太は静かに掃除道具を持って上がっていった。

 陽太は自分の部屋の掃除が終わると、廊下や一階の床掃除をこなしていた。

 ミエールはミサエルとフィッシングを連れて家具の買い出しに馬車で出ていったので、一人陽太は家の掃除を粛々と進めていく。

 夕方ミエール達が戻って来たときにには家の掃除も終わり、馬小屋でポムの世話をしていた。

 大きな家具をミサエルとフィッシングで家に運びこんで、一通り内装も生活が出来るぐらいの物で整ってくる。

 夕食は五人で、料理は陽太とミエールで作ったのを食べた。

「なぁギルドだけどよ、名前をまだ決めてねえんだが何かあるか?」

 食事中にフィッシングが皆に聞いてきた。

「俺は特に何でも良い」

「俺も特に気にしないから好きにしてくれたら良いよ」

 ミサエルもオットも特に名前に関しては興味がないらしい。

「んと、僕は……何でも良いです」

 陽太は考えたが何も出てこず皆と同じことを言った。

「私は美味しそうな名前がいいわ、甘いお菓子のような可愛らしい名前が」

「美味しそうな名前って……、変な名前は困るぜ」

「ただの名前でしょう、名前で強くは成れないんだし、せめて可愛い名前や美味しそうな名前の方が楽しいじゃない」

「そんな名前にしたら他のギルドから馬鹿にされるじゃねえか」

「馬鹿になんてさせない名前にしたらいいでしょ!」

 ミエールがいきなり切れた。

「ひい」

「…………」

「はははっ」

 陽太達が驚き恐れた。

「な、何でいきなり切れるんだよ」

「男なのにぐちぐち言うなぁ、かっこつけた名前にして弱いギルドの方が馬鹿にされるんだから、可愛くおしとやかな名前の方が気が楽で良いのよ、全く男って直ぐ格好付けたがるんだから」

 立ち上がって腕を組んでいるミエールに誰も反論出来なかった。

「それの何処で切れるところがあるんだ……」

 フィッシングが尚も勇気を振り絞って反論しようとしたが、ミサエルが目で止めとけと合図を送って黙り込んだ。

「じゃ、じゃあミエールが決めてくれ」

「ええっ……私がぁ……そんな、皆に悪いわ」

「……どっちなんだよ」

「しっ」

 ミサエルが小声で制止する、ミーエルは体をくねらせながら照れくさそうにしていた。

「じゃあ、よく考えておくね、あっもう私部屋に戻るわね」

 自分の食器を下げて二階に上がっていくのを見届けてから、一同がため息を漏らした。

「ギルドだけどマスターは誰にするんだい?」

 オットがしんと静まった中、声を上げた。

「ここはフィッシュでいいと思う、ミエールやバルは皆を引っ張る力は無いと思うし、俺も先頭に立つ玉じゃないから、オットさんは分からんがこの家の主はフィッシだし、マスターもフィッシュになって貰った方が都合が良いだろう」

 ミサエルが提案してきた。

 陽太も異論は無いと頷きオットも和やかに笑っていた。

「別にこの家は皆の家なんだし、俺が主ってわけでもないんだぜ」

「一応契約上はこの家の主はフィッシュになってんだからいいんじゃないか、アルステルの事情もよく知ってるし、それに……ミエールの相手も出来そうだ」

「……本音はそこか」

 フィッシングが苦笑いをして答えた。

「わかったよ、建前上俺って事にしておいてくれていい、それであとは名前を決めてギルド申請してくれば結成完了だな」

「よろしく」

「頑張ってね、ははは」

「お魚さん、が……頑張るです」

「こんだけ男がいて女一人に振り回されるのかよ……」

 大笑いするオット以外頭を垂れてた。

 数日後、前の家の荷物を全て移動させると、前の家を出てオットも新しい家に移り住んできた。

「前の家の契約も切れたから今日から皆で住めるようになったね、音がうるさい時もあるけど我慢してね、それとミエールさんはギルドの名前は決まったのかな?」

「ん……いくつか候補は思いついたけどまだ決めかねてるわ」

「早く決めてくれよギルド申請が出来ないとギルド依頼が受けられないからな」

 フィッシングが言ってきた。

「じゃあ決めるわよ、名前は……ラムズ・ラフィンよ」

「パン菓子かよ」

「そうよ、甘酸っぱい果物にお酒の香りのするパイよ、大人っぽいし美味しそうでいいでしょう」

「もうちょっと、まと……うっ」

 ミエールの眉をひそめた顔がフィッシングを見ていた。

「わぁったよ、それで申請してくりゃいいんだろう、じゃあ行ってくる」

 しぶしぶ家を出て行ったフィッシングが申請を終えて戻って来ると、皆に依頼書を見せた。

「ついでに帰りに依頼を受けてきたぜ、良いのがあったから初仕事といこうじゃねえか」

「金粒大二十、銀粒大三十です、火山の鉱石集めですか」

「おう、五人も居れば鉱石六十個なんて直ぐ集まるだろう、ここから西のサン火山の麓にあるって情報も手に入れてきたしな」

 フィッシングが説明した。

「そうね、引っ越しでかなりお金使っちゃったし、お金稼がないといけないわね」

「ミエールは馬を持ってないから、取りあえずミサの馬車で他は自分の馬で行くとしよう」

「わかった」

「はいです」

「いつ行くんだい?」

「明日朝からだ、向こうまで少なくとも片道四日は掛かるから、それなりの荷物を今日買いに行こうと思うんだ、防寒具と食糧だけはしっかりな」

 とっくに冬に入っていたがまだ雪は降っていなかった。

 しかし外にいると、寒さが堪えるほど冷え込んでいていつ降ってきてもおかしくはなかった。

 陽太とミサエルが荷物の調達に出かけて、荷台に五人分の毛布と干し肉など保存食と薪を詰め込んでいた。

「まぁ途中までは宿屋もあるし、これだけあれば十分だ、明日は早えぞ」

 フィッシングが荷物を確認すると皆に言った。




 皆が下に降りてくる前に荷物をポムに乗せて、いつでも出発出来る状態で居間で待っていた。

 ミエールは色んな服を重ね着をして寒さ対策をしていたが、フィッシングやミサエルはいつも通りの服装の上にマントと手袋を付けただけの軽そうな服装だった。

 陽太は店で買ってきた新しいローブと毛皮の手袋を付けてとてもご機嫌で、オルサのローブは仕立屋で直して貰っていた。

 オルサが残した唯一の物ともいうべきものなので捨てることはせずに、大切に部屋に保管しておいた。

 皆が居間に集まり装備を確認するとフィッシングが、

「さぁラムズ・ラフィン初めての仕事だ、気合いを入れていこうぜ」

「おおぉ」

 陽太が一人かけ声を上げた。

 皆笑いながら陽太を見つめていた。

 ここにいる皆、陽太にとっては大切な友達であり仲間だった。

(僕の生きる場所、僕が生きたい世界はここなんだ)

 この世界で生きることを決め、分からないながらも生きる楽しみを見つけた陽太は、少しずつこの世界で順応し成長していくにつれ、生き方に自信を持って自分の人生を謳歌し始めていた。

 何も持たずに現れ出たあの南国の砂浜から、家族と言うべき友を得て、今まさに未来に羽ばたこうと翼をもたげた所だった。

(オルサ、僕はあの世界へ戻らないって決めたんだよ、もうこの世界が僕の帰る場所になったんだ)

 そして十七の冬、陽太は一歩を踏み出し家を出て行く。

 小さな扉の先に広がる世界に…………。

ご愛読有り難う御座いました。

次話は活動報告でお知らせ致します。

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