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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 次の日からフィッシングと依頼所で二人で出来そうな仕事を見つけては資金稼ぎを始めることになった。

 オットが鍛治屋の仕事が一段落したときに、三人で一緒に少し高めの依頼を狙うことにしていた。

 フィッシングの剣技は前に見ていたが、オットの腕前を見たとき陽太が凄いと感じた。

 普段は温厚そうな人だと思っていたが、いざその腕前を目の当たりにしたときは感動を覚えたぐらいだった。

 人の体の倍はありそうな大きなトカゲと遭遇したとき、オットは持っていた愛用の斧で大トカゲに立ち向かって行ったのだ。

 メキメキと聞こえて来そうに筋肉が盛り上がり、重そうな長い斧を棒きれのごとく振り回して、トカゲに苦も与えないほど素早く、真っ二つに切断してしまったのだった。

 トカゲすら自分に何が起こったのか、切断されてからしばらくは声を上げる事を忘れていて、声を出したときは絶命する寸前のか細い声だった。

 オットは事が終われば元の優男の表情に戻り、何事もないかのように陽太達に笑顔を見せていた。

(凄い二人だ、剣や斧であれだけの腕があるなんて、僕ならあんな大きな斧を持てないかもしれないのに軽々と振り回せるなんて……)

 何回もオットの斧を振る姿を見ている内に、陽太の中でオットを尊敬する人物に変わっていた。

 背も高く腕っぷしも性格も良いオットを陽太はえらく気に入って、何かあるたびにオットに話をするようになっていた。

「そろそろエスタルに行こうと思うです、卒業試験があると思うし、結果を聞きにいってくるです」

 登録はまだだったがギルド結成から四ヶ月、依頼をこなして資金もかなり貯まってきた頃、ミサエルの試験が始まってるだろうと陽太はエスタル行きを二人に伝えた。

「こっちもそろそろ家を見つけるとするか、一応めぼしい家を見つけてあるからオトさんと見に行ってくる」

「出来るなら大っきい家が良いです、ちょっとぐらいなら借金しても直ぐ返せるです」

「まぁ出来るなら大きい方が良いのは分かってるけどよ、あまり遠い所だと不便だろう、だからアルステルで探すつもりだ」

「家のことは任せるです、どんな家か期待してるです、じゃあ行ってくるです」

 陽太は元気よくアルステルを飛び出してエスタルへ向かった。

 秋ももう終わる晩秋の街道は、街道沿いの木々は赤から黄色へと色づき、落ちた木の葉が地面を黄色に染め上げていた、この葉っぱが全部落ちれば冬の到来なんだなと見ていた。

 天気が良くても冷たい風が陽太の肌をさわさわと流れ去って行く、初冬に入ろうとする晴れた朝だった。

 雪が降り出す前にアルステルに戻りたいと願いながら走り続けて、エスタルへと戻って来た時は、街の人達はもう冬に備えて家の補修や保存用の食料の買い出しで賑わっていた。

 通りを歩きながらミサエルの家に向かう前に宿屋で部屋を取り、荷物を置くと歩いて向かった。

 ミサエルの家にはもう荷物もないから寝ることも出来ないので、ここで当分過ごすことにしていて、

「まあ長くても一週間ぐらいだろうし、ここならミサさん家も近いし」

 久しぶりに街を散策しながらミサエルの家に向かいながら、

「あ、ここの店、前は雑貨屋さんだったのに理髪店になってる、あっここも変わってる」

 少しエスタルに居ない間に街の様子も変化が生じていて、新しい場所に来た新鮮な感じを味わいながら街を見て歩いていた。

 すると店先で、歩く人達に呼び込みを掛けているミエールの姿を見つけた。

「お菓子はどうですか、焼きた……あっ、バルさんお帰り」

 陽太を見つけたミエールが和やかに笑顔を向けた。

「どうもです、ミエールさんは元気そうですね」

「ふふっ、そうでもないわよ、何てったって今日でお店終わりだしね」

「辞めるですか、じゃあ一緒にアルステルに行くですか?」

「ええ、お店はもう辞めてるわ、最後にちょっと迷惑掛けたからエスタルを出る前に少しでも恩返しと思ってね、で今日一日はお店の呼び込みを手伝ってるの」

「そですか、ミサさんは合格したですか?」

「ええ、十日前に合格発表だったわ、今は卒業前の就職活動中」

「じゃあもうすぐ卒業式ですか」

「そうよ、もうアルステルに行くから活動してもしようがないのにね」

 何だか嬉しそうにミエールが笑っているのを見て、陽太はミサエルがミエールに一緒に行こうって言ったんだと思った。

「そっか、あと十日ぐらいはあるかな、卒業までまだ時間があるみたいだし、依頼でもして時間潰しでもしようかなです」

「じゃあ私も暇だし、少し教えてよ」

 自分から依頼をやろうと言ってきたミエールの気持ちの変化に陽太は驚いた。

「いい……ですよ」

(なんだか嬉しそうだな、良いことでもあったのかな)

 明日の約束をしてから家に行きミサエルに会った。

「おめでとうです、やっと卒業ですです」

「ありがとよ、家に帰ってもタッキーもいないし暇だったんだ、毎日勧誘の話ばかりでうんざりだ、早く卒業式をして欲しいもんだ」

「タッキーさんは最近いないですか?」

「ああ、何処行ってんだが知らないが家に帰ってくることがあまりないな」

「タッキーさんにはアルステルのことは……」

「いや言ってない、というより話すらまともにする暇もなく、いつの間にかいなくなってるしな、それにミエールのことを知らないから変に話するとややこしくなりそうで、これはこっちの話って事でいいだろう」

「そですか……」

 陽太も話さなければならないことがあったのを思い出した。

「ミサさんにお話しないといけないことがあるです」

「なんだ?」

 椅子に座ってお茶を飲みながらフィッシング達の事を伝えた。

「ギルドか……」

「はいです、とってもいい人達なんです、オトさんは大人だし優しいです、お魚さんはちょっと怖い顔をしてるですが根は優しい人です」

「まぁバルが言うなら変な奴らではないだろうし、バルが気に入るぐらいなら良い奴なんだろうよ、けどミエールが何と言うかだな、あいつ人見知り激しいし直ぐ手が出るしな」

 ミサエルが腕を組んで考え込んだ。

「女性一人になるのを忘れてたです、どうしよう……」

「中身は男みたいなもんだけどな……、一応女扱いしとかないと怖いからな」

「あう」

「ところでバルは何処に泊まってるんだ?」

「僕は西門の近くの宿屋です、ミサさんが卒業終わるまでの間、ミエールさんと依頼でも受けて小遣い稼ぎしとくです、あっミサさん、ちゃんとミエールさんに一緒に行こうって言ったですね」

「言ったというか何て言うか……まぁなんだ、あいつも行きたかったんだろう」

「ミエールさん、凄く嬉しそうにしてたです」

「ふむ、そうか……」

 ミサエルは頭をかきながら照れくさそうにしていた。

「じゃあ卒業終わったらまた来るです」

「ああ、俺も荷物整理もしないとな、あと五日で卒業式だし終わったらそのまま馬車で東の城門に行くから待っててくれ」

「五日かぁ、分かったです」

 宿に帰る前に陽太は依頼所でミエールでも出来そうな依頼を探して、いくつかの依頼を受けてから宿屋に戻っていった。

 五日なんてあっという間でミエールとエスタルでの簡単な依頼をこなしていた。

 やはりアルステルと違って報酬面ではかなり少なく感じてがっかりしていたが、ミエールと一緒だったので楽しくこなしていた。

「毎日こんなに楽しいなら依頼の仕事もまんざらでもないわね」

「はう、今は簡単な依頼だからそう思うです、もっともっと難しいのとか命がけの依頼もあるです」

「報酬が少ないから生活は厳しそうだけどね、のんびり出来て良いわ」

「ギルドのことは問題ないですか?」

「大丈夫よ、ミサもバルさんもいるんだし心配してないわ、その代わり部屋はちゃんとしたのにしてよ」

 ミエールが陽太に指を差して念を入れて言ってくる。

「あうあう、それはまだ僕もどんな家になるのか見てないし何とも言えないです」

 ミエールにアルステルのことを伝えたが、意外にもあっけらかんとしていて怒りもしなかった。

「ミエールさんは荷物の整理は終わったですか?」

「ええ、手荷物だけ持って行くわ、棚とか殆どは借り物だし要らない物は売ってきたわ、必要な物は向こうで新しく買うから良いわよ、ミサが馬車用意してくれるって言ってたから乗せて貰えば問題ないでしょう」

「そですか、じゃあ明日東の門でまた会うです」

「ええ、じゃあ明日ね」

 ミエールと別れて宿に戻った。

 五日の間で宿代ぐらいは十分稼げて最後の夜は豪勢な食事をして過ごした。

 翌日、昼近くになってから荷物をポムに乗せて宿からリーファス通りをのんびり城門まで通りを歩いていた。

「暫くエスタルに来ることが無いかも、アルステルに帰ったら忙しくなるかな」

 二年近く住んだ街の風景を目に焼き付けながら門に向かう途中で、ミエールに出会った。

 ミエールは重そうな大きな袋を二つ、背中と手にのろのろと歩いていた。

「ミエールさん、荷物をポムに乗せて下さい」

 陽太が声を掛けるとミエールが笑顔で振り返る。

「ありがとう」

 陽太はポムから降りてミエールの荷物を乗せると、一緒に門へと歩き出した。

「手荷物なのに結構あるですね」

「そうかしら、普通だと思うけどバルさんは少ないの?」

「僕は袋一つしか持ってなかったです」

 陽太は恥ずかしそうに告げた。

「結構片付けたと思ったんだけどね、服ぐらいしか持ってきてないんだけど……」

「女の子ですね」

 ミーエルがねめるように陽太を見た。

「なぁに私が女の子だって今わかったの?」

「はうぅ、がくがく……あわわわっ」

 顔を近づけてくるミエールに恐怖を覚えて泣き出しそうに、

「ごご、ごめんなさい……です」

 陽太の口から自然と謝罪の言葉がでた。

「ふふん、素直で宜しい」

 ミエールの表情が元の優しい顔へと戻るとまた歩き出すと、陽太は胸をなで下ろした。

 二人が城門の見える所まで来ると、門の前にいたミサエルが何かしら慌てた様子で馬車に乗り込みこちらに走ってきた。

 カラカラと石畳を鳴らしながら遠くから陽太達に何かを叫んでいた。

「何かあったですか?」

「さぁ」

 二人の前で止まったミサエルは大声で叫んだ。

「ミエール後ろに乗れ、逃げるぞ」

「え?」

「へ? 何かあったですか」

「あいつらだ、前にバルを助けたときに怪我を負わせた奴らと門でばったり出くわしたんだ、早く乗れ」

 陽太がエスタルに来る途中に絡まれた男達の事だと直ぐに分かった。

 陽太はミエールの荷物を荷台に乗せ替えると直ぐにミサエルが馬車を飛ばし、門の方を見ると男達が三人こちらに向かって走ってくるのが見える。

 陽太は急いでポムに乗り込んでミサエルの後を追っていった。

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