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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 いつもはミサエルが仕事を探してきてくれてその手伝いをしていたので、一人で依頼をこなすのは初めてで、わくわくする感じを味わいながら西の街道に出て北上していた。

 もう一つ陽太の中での楽しみは、またサスタークに行って思いきり肉が食べられると思っていた。

 あの肉汁のうまさは陽太の中で今でも残っていて、こんなに早くまたサスタークに行けるんてラッキーと思っていた。

 旅は嫌いではなかった。

 何処に行くにも初めての場所も平気に行った。

 知らない場所なんて結局、陽太にとってはどこでもこの世界では初めてのような感じだったので、今更何処に行こうとも同じようなことであった、逆に初めての場所にはどんな美味しい食べ物があるのかを考えるだけでも楽しかった。

 知らない場所に行くので時には怖い思いもするけれど、それでもこの世界は陽太にはハラハラドキドキする好奇心溢れる場所なのだ。

 難なくサスタークに着いてお届けする家を探し当てて手紙を渡すと、代わりに受け取りの名前と日付を書いて貰い任務が終了した。

 何てことはない、孫娘の手紙を祖母に渡しに来ただけの簡単な仕事だった。

 後は帰って契約書と受け取り人の署名を提出するだけで報酬が貰えるが、勿論陽太はその足でエスタルに帰るつもりもなく、宿屋に部屋を借りると夜になるまで待ってから一人街に出向く。

 前に来た店を見つけると中に入り、前回食べた味試しを注文してじっくりと時間を掛けて堪能した。

「旅も出来て、美味しい物も食べて、お金も稼げるなんて夢の様な仕事だ」

 終始笑顔を浮かべながらサスタークに二日も居座った。

 肉だけではなくサスタークではキノコも良く採れるので家庭料理屋で山菜を使った食事も人気であると宿屋の主人からきいていて、お店を紹介して貰っていた。

 煮込んだキノコスープや焼いたキノコ、山菜の炒めた物など沢山の料理も味わった。

「肉厚のキノコも肉みたいで美味しいな、へるしぃ、へるしぃ」

 あっという間に二日が過ぎてサスタークを出てエスタルに帰って来ると、直ぐに依頼所で報酬を受け取った。

「銀粒小三十しか貰えなかったけど、楽しかった」

 家に帰ってミサエルに報告をすると、

「やけに帰りが遅いと思ったら向こうで遊んでたのか」

「とっても美味しかったです、堪んない味です」

 笑顔満面で応える陽太にミサエルが喜んだ。

「俺も次の試験では本気出して合格するつもりだ、卒業出来たら俺もバルと一緒に冒険家になろうかな」

「わあっ、それが良いです楽しいです、卒業するまでには僕は一人前の冒険家になってるです」

「ほう、頼もしいな」

 二人で笑い合って、語り合いながらその日は過ごした。

 それからの陽太は次々と依頼を受けては報酬を稼ぎまくっていた。

 一人での仕事が殆どだったが、たまにミサエルやタッキーとも仕事をこなして、減ったお金を増やしていた。

 依頼の中には魔法を使うこともあったが、下級魔道士の腕なので楽々とこなすことが出来た。

 元々素質があった魔導の腕も徐々に上がっていき、自己の魔力をあげるために家に居るときは瞑想や魔法の複読も怠らずに修行も行っている。

 一ヶ月、二ヶ月と長い冬が終わり陽気な春が訪れてくると、仕事の内容も遠い場所の依頼もこなすようになって、長い間しばしば家を空けることも出てきた。

「気持ちいいな、ぽかぽか陽よりで長い道をポムに揺られているのが一番いい」

 鳥のさえずりと爽やかな風が眠気を誘う、急ぐ仕事でないゆっくりした時間は何とも言えず体が浮いている様な開放感だった。

「そういえば最近ミエールさんに会ってないな、元気にしてるのかな、なんかお土産でも買っていってあげよう」

 卒業してからもうすぐ三ヶ月になる間ミエールと会っていない、仕事で稼ぐことに没頭していて日にちを気にする間もなく忙しかった。

「ミサさんはたまに会ってるみたいだったけど、今度聞いてみよう」

(たまには二人にお土産でも買った方が良いかな)

 色々な場所に旅に出る陽太は各地の変わったものを見つけてはいたが、今までお土産など買わずにいた。

 遠い南国に出かけると中央国にはない、変わった物をよく見かけていた。

 彫り物や服などはその土地特有の奇抜な衣装で、中には目をそらすような格好をしている女性も見かける。

「あんなの買っていったらミエールさんに怒られそうだ」

 陽太は思い出しながら顔を赤らめた。

 沿岸諸国の南にある小さな町は年中暑くて皆薄着だった。

 陽気で明るく毎日が祭りでもしているように賑やかな処で、主に漁業で生計を立てていて暮らしは良いとは言えなかったが、人々の表情に暗さはなかった。

「皆幸せそうだったな」

 そんな風に色々な場所で見た貧しい人達を思い出すと、住む場所によっては楽しく生きられるものなんだと感じていたのだった。

(今度何か良いものがあれば買って帰ろう)

 今陽太はアルステルの東側の街道を南東に進んでいて、連山の麓に沿った街道から東の内海に出ようと旅をしていた。

 内海の港町に届け物を運ぶ依頼を受けていた。

 ミーハマット国に属する最北の町で、そこは昔、陽太がアルステルに向かっていた途中、プラハから進んだ二股の街道で選ばなかった東の街道を進めば続いている町だった。

(あの時、遠回りでもこの道から行けば安全にアルステルにいけたかも知れなかったなぁ)

 街道は新しく道幅も広かったし、何より所々に宿場町が山を背に建ち並んでいたので怖い思いをして野宿しなくても良いのである。

 あの時は早くアルステルに行きたいと思っていたので、西側の街道を進んでしまって怖い思いをさせられたが、こちらは人も多く自警団もいるので安心出来る。

 東の湿地帯を避けて街道が作られていたので、森の中を通らずに連山の麓まで道が延びていた、そこから山沿いに東の海岸まで行くとミーハマットの検問所に出てくる。

 陽太のいる宿場町はアルステルにもミーハマットにも属していない場所なので、住むのは勝手だが何かあったときにも何処にも救援を呼ぶことが出来ない地域であり、各自、身を守るのは自分達でしなければならない。

 国に属していないため税金など一切ないが、此処では何も生産物がないため、殆どが自分達の畑で取れた物を、お客の食事に使って宿屋の経営をして稼いでいる。

 料金もバラバラで交渉次第で安くもなるが、何も言わなければかなりの値段を取られることにもなる。

 陽太の宿屋選びはまず主人が女性であること、それと少し話しをして相手が愛想が良いかどうかで決めるのである。

 話好きの女店主ならば盛り上げて上機嫌にさせれば、大抵値段を気前よく下げてくれるのを自然と陽太は身につけていた。

 今日も安く値下げ交渉を終わらせて、部屋で休憩をしながら目的地までの地図を眺めていた。

「あと二日ぐらいでミーハマットに入れるかな」

 目的の町までの道を確認をすると、下の食堂に行き食事を取った。

 食堂にはもう一人客が座っていたぐらいで閑散としていた。

 陽太は窓際に座り注文をして料理を待っていた。

 静かな夜の宿屋で空を眺めながら、黒いシルエットになった森の上空にきらめく星空をじっと見つめていた。

(今日も良い天気だ、雲一つない透き通った空だな、ずっと見てても飽きない美しさだ)

 料理が運ばれて来たときに丁度もう一人の客が食事が終わって部屋に戻る所で、ちらりと男と目が合った。

 赤い髪に赤い目、背が高く細面の若い男の人だった。

 男はそのまま食堂を出て行ったが、陽太はどうも気になる感覚があった。

 何が、というと自分でも分からない、男の若々しさから滲み出てくる力強さというのか、周りの見える物にいつでも直ぐに飛びかかって襲うような獰猛さというのではないが、猛々しさが男から溢れていた。

(まぁ今日で会う事もないし、そっとしとこう)

 目の前に出された大量の料理に目をやると、直ぐに男のことなど気にもしなくなって食事を始めた。

 たらふく食ってよく寝るのが陽太の幸せの一つだった。

 朝の薄暗い中、宿を出ると丁度目の前を赤毛の男が馬に乗って走り去っていくのを見た。

(こんな早くから行くんだ、それも同じ方向に……)

 どんな用事があるのかはどうでもいいが、行き先が同じ事に嫌な予感がした。

 陽太はゆっくりとポムに荷物を乗せてから街道を歩き出していった。

 あまり急ぐとあの男と出会うのも気が引けると思ったので、なるべく距離を開けておこうと思った。

 ミーハマットの検問所に着くまでの間、途中の宿屋でもきょろきょろとあの男がいないかどうか確かめながら部屋を取っていた。

 幸いあの男と出会う事もなく検問所を無事通って、海岸線の街道を南下していくと直ぐに港町が見えてきた。

 薄いグリーン色の内海が太陽できらきらと白く光り、まだ海で泳ぐには肌寒い季節だったが港では男達が漁で捕れた魚の籠を、女達に渡している風景があちこちで見られた。

 男達は全身に汗をかいて黒く日焼けをしている。

 陽太は近くの女性に依頼先の家を教えて貰い、仕事を終わらせ一段落した所で、近くの食事処で昼飯にしようと店を探していた。

「やっぱりここだと魚の方が美味しいのかな、港の方に行ってみようかな」

 漁港周辺には飲食店がかたまっている場所があったのを通ったときに確認していた。

 磯の匂いが強くなってくる通りに差し掛かると、道の真ん中で五人の男達が道を塞いでいた。

(嫌だな……)

 男達は陽太に背を向けていてこちらには気づいていなかったので、引き返して違う道から行こうかと手綱を引いたとき、男達の隙間からもう一人男が立っているのが見えた。

 その男を見るように五人の男達が取り囲んでいたのだ。

(なんだろう、喧嘩かな)

 離れていたので会話は聞こえなかったが、時折男達の怒号は聞こえて来た。

「なんだと!」

「ふざけるな!」

「ぶっ殺してやる」

 と、男達の方は怒り心頭の様子であった。

 陽太は囲まれている男がこのままだと殺されちゃうのではと、少しずつ近寄って状況をもっとよく見てみようと思った。

 もし男が殺されそうなら状況次第で助けようかなとも考えていたが、出来ることならこのまま口喧嘩だけで終われば良いなと思っていた。

 道の周りには店から出てきた店主と客が数人だけで、助けるつもりもなさそうにニヤついて腕を組みながら男達の喧嘩を見ていた。

(一体誰が絡まれているんだろう)

 見事なまでの体躯の大男達で、向こうに立っている男の足ぐらいしか見えなかったが、男達と比べると細い足で大人に苛められている子供みたいに見えた。

(あわわ、どう見えてもあんなのいじめじゃないか)

 どうにかしてあげようと思っていたら、見ていた店主が、

「やっちまっても構わねえどうせ余所者だ、ここでの決まり事を教えてやりな」

「あわわ、どうしよう……」

 男達が木の棒を持ち上げて構え始めた。

(あんなので殴られたら怪我だけじゃ済まないよ……)

「もう……いいや」

 陽太は慌てて詠唱を唱えた。

 右側の海から立ちのぼった水柱を男達に投げかけた。

 大量の水が男達の足元を掬うように流れると、次々と倒れた男達が木の葉のように流されていき、その先にいた店主と客も一緒に店の中に吸い込まれるように滑って行った。

「こっちに早く……え?」

 取り囲まれていた男を見たとき陽太が驚いた。

 宿で見たあの赤毛の男だったのだ。

 男は陽太の声に瞬時に応えて走り出すと、馬に乗り込み陽太に向かって走ってくる。

 店からは店主が顔を出して大声で叫んでいる。

「てめえら、絶対見つけ出して殺してやるからな」

 赤毛の男が陽太の所に来てそのまま一緒に走り出す。

 陽太は横目でずっと赤毛の男の後ろ姿を見ながら後をついて走り続けてた。

 港町を抜けて海岸沿いをずっと南に走り続けていくと、陽が傾き始めた頃に陽太が声を掛けた。

「ねぇ、そろそろいいんじゃないかな」

 すると赤毛の男が速度を落として砂浜で馬を止めた。

 降りてきた男が髪をかき上げながら陽太の所まで歩いてきて手を伸ばしてきた。

「助かったぜありがとよ、おめえまで目を付けられちまって悪いな、俺はフィッシングっていうんだ」

「えと、僕はバルートです」

 陽太がフィッシングの手を握り返す。

 強面の印象があったが笑っている彼を見て、こんな優しそうな笑顔をするんだと新しい印象を感じていた。

「あ、あの、なんであんな大勢に絡まれていたの……かな?」

「あいつら俺が余所者だと思って飯代をぼったくりやがったんだ、そんな金払わねえって押し問答してたら店の親父がデカ物どもを呼びやがったんだ、まぁ二人ぐらい切り捨ててから逃げてやろうかと思ってた所に、おめえが割って入ってきたんだがな」

 はははっとフィッシングが笑った。

「で、おめえこっちに逃げてきたけど、こっちに何かあるのか?」

「へっ、いや僕は君がこっちに走っていくから付いてきただけだけど……」

「あふぇ、俺はこっちにこいって言うからこの方角に逃げるもんだと思ってたぞ、じゃあ何処に行くつもりだったんだ?」

「え、僕はあの町で用事が終わったから、食事でもしてエスタルに帰るつもりだったんだけど……」

「俺はあの町にいる女に会いに来て、飯食ってから行くつもりだったんだけど暫くはあそこには戻れなさそうだしな、まぁ別段特別に会いたい女ってわけでもねえし構わねえが……、まぁアルステルに戻るものいいか……どうやって帰るかだな」

 陽太が荷物から地図を取り出して広げて見せた。

「えっと……」

「お、良いもの持ってんじゃねえか、見せろよ」

 二人して地図を覗き込んで見た。

「ここからだと、もう少し南に行ってプラハに行くか、でも南に行ってもしようがねえしな」

「でもプラハに行くとアルステルには南からの街道になっちゃうよ、かなり遠回りになっちゃうし……」

 予定はなかったが首都回りでエスタルに帰るルートはあの怖い森を通らなければならないので避けたかった。

「じゃあどうするつもりだ?」

 フィッシングが聞いてきた。

「何処かで休んでからあの町を突っ切るです」

 暫く考えてから陽太が言った。

「ほう、今あそこに行けばさっきよりも仲間が増えてるかも知れねえぞ」

「しようがないです、明日の昼前なら男の人は漁に出ていて人も少ないと思うし、その時を狙って町を抜けるです」

 陽太が今まで見てきた港町の男達は何処も朝から昼までは漁に出ているのを見てきていたので、その隙を狙えば町を抜けられると思った。

「じゃあその案を試すか」

「うん、行くのは明日です」

「早くねえか?」

「僕たちの噂が広がる前に実行した方が良いと思うです」

「ふむ、それも一理あるな、よしじゃあ今日は野宿だ、宿屋は手が回ってるかも知れねえしな」

「……はいです」

 陽太は何故、いつの間に僕まで巻き込まれてしまっているのだろうと、首をかしげていた。

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