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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響
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 驚いたオルサが何事かと聞く。

「あっ、ごめん何でもないよ、それよりこのエスタル王国に行くのにどの位かかるの?」

「さぁの、何しろ儂はこの国から出たことがないでな、昔に聞いた話しか知らぬ」

「オルサはここで魔法を覚えたの?」

「そうじゃよ、儂に魔道を教えてくれた師匠はとうの昔に死んだがの、ここで修行をして身につけたものじゃ、ほとんど自己流と言っていい、だからお前にはエスタルに行ってその力を発揮出来るよう修行してこいと言うのだよ」

「……うん、僕にこんな力があったなんて信じられないし、出来ることならどこまで魔法が使えるか知りたいな」

 まだ色々と不安は残るもの自分の才能に興味があった。

「行くなら早くに越したことはない、明日から旅の準備に取りかかるとしようかのぅ、その服じゃ目立ち過ぎるじゃろうから旅に出る前に買いに行かねばな」

 シャツはすでにボロボロで破れてオルサが持っていた布の服を着ていたが、ズボンはまだGパンのままだった、長年履き続けて膝は破れ、色あせたズボンに変化していた。

 その夜、陽太は寝床でさっきの地図に載っていた大陸のことを思い出していた。

(あの大陸、どこかで見たことがある大陸に似てるんだよな何で見たのかなぁ、あっそうか古生代のペルム紀の本だ、確かパンゲア大陸だったか超巨大大陸の名前だった、あれに似てる)

 地球で唯一、すべての大陸が一つに繋がり大量絶滅した時代、そのあとに大陸分裂がおきて現代の形になっていく前の時代だった。

(あの大陸は二億五千年前に出来た大陸じゃなかったかな、それで2億年前から分裂が始まったんだ、もしここが……、いやいやそんなはずはないよな)

 どくどくと鼓動が激しくなるのが分かる、自分が本当にこんなに大昔に来ているなどとは到底受け入れられない、だが現実にここで長い間住んだという体験が陽太を苦しくさせた。

(今となってはもう夢などとは思ってないけど、まさかここがパンゲア大陸だなんて事だったら……タイムトラベラー……、でもこんな昔に人なんていないのは誰もが知ってる事だ、それに魔法なんて現代でいえば錬金術、科学の代名詞でしかないわけだ、だったらここはパラレルワールド、もう一つの世界なのかな、そうではなくここが僕の居た時間軸に繋がる世界だったら、僕がここで何かしでかしてしまったら、元の世界に影響が出るのでは……、もしかしたらもう出ているのかもしれない)

 考えれば考えるほど混乱してくる、知らぬ間に陽太の手がぶるぶると震え出していた。

(唯一の希望は僕の存在がすでに組み込まれていた世界に僕が生まれたということだ、それなら既に僕がするであろう行動は決まり事のように世界の一部として成り立っているはず、元の世界に戻れたとしても世界はここに来る前と変わりがないということなんだ、けどそれだと……、メビウスの……輪)

 それだと陽太はここに飛ばされた日にまた未来の自分がここに来ないといけなくなる、そうでなければ世界は元の流れに行く事が出来ないのだ、自分は永遠にあの日にここに来て同じ生活を繰り返さなければならなかった。

 そう考えてもそれを証明することも、そもそも元の世界に戻ることも出来ないのでは分かりようがなかった。

(僕はどうしたら……、ああっもう一つ希望があった、ここがパンゲアではないなら、まったく違う世界、地球でもなく別の星の世界ということもありうるし)

 なんにせよ答えの見つからないまま、ああでもないこうでもないと考えているといつしか陽太はそのまま夢の中に落ちていった。

 朝、重い目を開けて下に降りていくとオルサが出かける支度をしていた。

 机には重そうな袋が置いてあり、中にはたくさんの金銀の玉の粒が入っていた。

「これなに?」

 挨拶もそこそこに陽太は袋をのぞき込むとオルサに聞いた。

「お金じゃよ、ほとんど使わんから儂には無用の長物になってきてるがの」

 大粒、小粒の金と銀の玉がたくさん入ってかなりの重さだった。

「ほれ、お前も用意せんか、出かけるぞい」

 陽太が慌てて二階に戻り服を着替え、降りてくるとローブを手渡された。

「その格好じゃ目立つからのう、ローブで隠しておくんじゃ」

 大きめのマントは陽太の身体を足下まで隠れて、靴もほとんど見えないぐらいだった。

 寒くもない気持ちのいい季節には少し汗ばむくらいに中は暑かった。

「町の中に居るときは暑くても脱ぐでないぞ」

 オルサが陽太を連れて海岸沿いの道に出た、道と言っても草を踏みならした獣道に近かった。

 何しろこの辺りに人家もなく人通りもないのである、使う者はここに住まう獣とこの二人ぐらいだった。

 町にはここから海沿いに北に向かった港町が一番近かったが、オルサは途中で獣道を外れ内陸のほうに向かい森の中に入っていく。

「ねぇ、何処に向かってるの?」

 陽太は後ろから尋ねてみた。

「うむ……、あまり人の多いところは好かんでな、少し遠くなるが森の村に行こうと思うておる」

 陽太はいまだオルサ以外の人間と話したこともなく、町にも行ったことはなかった。

(ここのことをもっと知らないと)

 家を出てすでに太陽は傾き始める時間になっても二人は森の中を歩いていた。

 一度川に出たときに休憩と飲み水を確保した後も、再度森の中に入りオルサのあとをついて歩いた。

 もう陽太にとっては未踏の地であり、この辺りにはどんな獣が出るのかも知らない。

 日の差し込む量も減ってきた森の中は薄暗く、頭上の高い木々の隙間から見える赤い明かりだけが足元を照らす光源となっている。

「オルサもう真っ暗になるよ」

「もう直に村が見えてくるて、辛抱するんじゃ」

 そうはいったもののそれらしき明かりも見えず、時折どこか遠くから甲高い声や低い獣のような声が聞こえてくるだけであった。

 キョロキョロと辺りを確かめながら進むと馬車のわだちの付いた道に出た。

「ほれ、もうあとはこの道をたどっていけば着くぞい」

 陽太は少しほっとした、道無き道を進んでいくよりもか細く整備もされていない人工の道がどんなに心安まることかと。

 既に日が沈んだ道は真っ暗だったので、オルサが足下を照らす火を手のひらから出してくれた。

 もう足は棒のように目の前のオルサについて行くだけで精一杯だったが、不意にオルサが声を上げた。

「ほれほれ、あそこを見てみぃ」

 そう言われ顔を上げてみると森の中に続く道の奥に点々と光が浮かび上がっていた。

 最後の力を振り絞り村に向かって歩き、集落に入っていく。

「今日はもう遅いでな、どこかの宿に泊まろうかの、買い物は明日じゃ」

 入り口近くの宿で部屋を借りて夕飯を食べると、陽太はすぐに寝床に倒れ込みそのまま落ちるように寝てしまった。

「やれやれ、まだ修行が足らぬのぅ」

 陽太の上にシーツを掛けてやると、窓から外を見た。

「十年以上になるか、存外ばれぬものじゃの」

 オルサは真っ暗な村の様子を見て、物憂げにつぶやくと自分の寝床に入っていった。

 港町から北に向かうのに通る森の中の小さな村だったが所要は多く、魚なども行商が運んでくるため森の中にいながらでも魚料理が食べることが出来た。

 昔はこの辺りにいた猛獣に襲われる人が続出したため出来た監視小屋から、周りを伐採していくといつしか人が住むようになれるまで開拓を広げていき、村が形成されていった場所である。

 人が住めばそこには必要なものを直ぐに手に入れられるようにお店が出来ていったのは自然の流れである。

 ここからさらに北に向かうと内海に出ることが出来る、そこからは海岸沿いにたくさんの港町が点在している。

 外海と内海の種類の違う魚介類を、行商がこの道を通り色々な村や町に行っていたため様々な料理が発展していた。

 行商以外、旅人など外部の人間はこの地にはほとんど来ないので主要道路の整備もおろそかで、ほとんどの道はそこに住まう住民たちが地面を慣らして作った道路だった。

 国はある、あるが大陸の端に資金を使うより内陸側の敵国からの防衛に回されていたのである。

 森と海しかない土地を持つ国には主な生産物はなく、魚介類などは遠方に運ぶことが出来ないので他国との交易が弱く、国力も低かった。

 森の国ヴァン、国王は獣人王と呼ばれごつごつした顔に鋭い眼光、太い眉がまるで獣のように見え、体躯も巨大で常に動物の毛皮のマントを羽織り太く長い蛮刀を手にしているのでこの名で呼ばれていた。

 その姿通り無骨で政には無関心、無頓着、常に近隣諸国との領土争いに血眼になっていた。

 そのため国費の殆どが軍備費に使われており、国の整備、開拓は最低限に抑えられ、国民たちが自発的に協力しあって道路や開拓を行っていた。

 国策は領土の拡大、広い平原を手にすれば自ずと国力はあがると信じてやまない獣人王に対し、それをさせない為に北西の国家が邪魔をして国境沿いでの争いが絶えない。

 国は発展せず、領土の大半が森と山の国ではオルサの住む人の寄りつかない手つかずの場所も多かった。

 夜間になると例え町や村でも獰猛な野生動物が時折現れたりするので、夜間はできる限り外には出ないように家で過ごすことがここでの暗黙の了解であった。

 宿の外で何かののどを鳴らす声が時折聞こえていたが、明るくなる頃にはその声も姿もなく、いつもの朝が始まろうとしていた。

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