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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 陽太は朝早くポムの背に乗り、寒い街中を歩いて行く。

 新年の祭りも終わりすっかりいつもの日常に戻った街はしんとしていて、人々はまだ深い眠りの中にあった。

 カコッカコッと石畳に蹄の音を立てながら、エスタルの西門から外に出て街道を北へと向けて進んで行く。

(久しぶりの旅だ、寒いけど陽が昇れば少しは暖かくなるかな)

 ローブの上からは厚手の防寒具を着込んでいて、中は温かく顔だけを出していて鼻頭が冷たく赤くなっていた。

 ポムにも冷えないように毛布を被せてその上から鞍を着けていた。

 今回の旅の目的はなく、ただこの大陸を見て回ろうと思っただけで大まかなルートしか考えていなかった。

 初めに北に行きサスタークを目指し、更に北上して西にぐるりと回っていきながら南の国に行こうと思っていた。

「地図は買ってきたけど、何か頼りない地図だな」

 広げて見ても人が住む大きな町は書いてはあったが、小さな町や村のある場所や人がいそうな所などの地名も書いていない、酷いのは古い道などただの線しか書いていなかった。

「まぁ一応は道があるってだけでも分かれば良いか」

 道があれば必ず何処かに繋がっているだろうと思っていた。

 道は大きく幅のある南北に延びる西側のサスターク街道を歩き続けていく。

 眩しい朝日を拝み淡々と進みながら途中の街道に並ぶ店で朝食を取って、更に陽が傾くまで北上していった。

 サスタークまではゆっくり歩いても二日の距離だったので、途中の宿屋で今日は休むつもりだった。

 右手にはまだエスタルの高い城壁が景色を妨げていて、左側には何処まであるのか広い森が広がっている。

 すれ違う行商の馬車が続々と北からやって来ては通り過ぎていく、まるで大名行列のように大きな馬車から小さなものまで慌ただしく走って過ぎていく。

「やっぱり大きい町の街道は人通りが多いな」

 景色を見ずとも流れていく荷馬車を見てるだけでも、気が紛れて暇つぶしにはなった。

 吐く息の白さが薄くなってくると、宿から出てくる旅人の姿も入り混じり、何処に行くのか、身震いをしながら自分の馬の手入れをしたり荷物を乗せて支度をしてる人が見受けられた。

 何をしに何処に行くのか聞いてみたい気持ちもあったが、初日から道草を取るのもおかしいかなとぐっと気持ちを抑える。

「こんな風に思うのは僕らしくないかな」

 見ず知らずの人に声を掛けようだなんて、今までの自分なら絶対にしない事だった。

 それがミサエルやミエールといると、知らない人と普通に話が出来るようになっていた自分に、少なからず度胸というものが付いたのかと感じていた。

 相手の顔色を窺いながら怒られないか気にしていた自分が馬鹿らしく、自分がちゃんと話せば相手も嫌な思いはしないことを学んでいた。

「こんな森の中にこんなに大きな国を四百年前に作ったなんて凄いなぁ」

 学校で習ったエスタルの歴史を思い出しながら森を眺めていた。

 深い広大な森のど真ん中に初代エスタル王が建国した小さな国が、今や世界で名だたる大国家に成長し、サスタークやアルステルといった血族による国家も建国して、盤石の地位を得ることが出来た。

 他の国と違う所は小さな町があまり点在せず、一国一城の大きな国だと云うことであった、元は小さな町が森の中に点在していたのをエスタル王がまとめ上げて、一つの大きな街に造り替えて人々を集める事に成功した。

 周囲に村は残っては居るが、住む人も少なく店もない不便な所で若い人の殆どが中央国の何処かに移り住み、過疎化になってしまっている。

 アルステルが伐採で土地を開発して農業に力を入れているおかげで、エスタルやサスタークは農地開発をせずとも国家防衛のための人材育成に力を入れることが出来た。

 これは三国がお互いに国の繁栄を確固たるものにするための国家事業みたいなものだった。

 その中心にエスタルという魔道国家が、他国に侵略されない為にエスタル王が行ってきた方針であった。

 魔法という力を手に入れたエスタル王が小国だったエスタル国から大国へと力を付けて領土を広げると、世界の国々はエスタル王国に安易に手出しが出来なくなった。

 世界の列強として三国を中央国と呼ばれるようになると、世界各地から人々が集まってきた。

 世界は人と剣が支配していた時代から魔道に変わった時代でもあり、魔道を覚えようと世界から人が集まり、世界に羽ばたいていった人々が各地で魔法の力を教えると、またエスタルへと人が集まってくる。

 魔法は今や存在すべき当たり前の力と認識され始めていた。

 だが魔道士自体の数はまだまだ少なく、魔法があるからといって誰もが手に入れられる程簡単な力でもなかった。

 適正、才能、知識があってこそで挫折した者は星の数ほど居る。

 そのような者の中には野良として、資格を持たぬ魔道士も少なからず存在はしていた。

「エスタル王は何処で魔法の力を手に入れたんだろう……」

 一部の人だけしか教えられていない王族の秘密だったので、陽太などが知ることなんて出来るはずもなかった。

「魔法なんて夢物語、アニメや小説の中だけの出来事だったのに、現実に僕は使いこなせていると思うと不思議な世界に来たんだなぁ」

 独り言を呟きながらも旅は順調に一日を終えて、エスタル領土を抜けてサスターク領に入った所で宿屋に泊まった。

 サスタークもエスタル王の血族が治める地で、北に位置する国は作物の生産が少ないので大半はアルステルからの交易で野菜や果物を取り寄せて、代わりにサスタークは野鳥や獣が豊富で、その肉を保存加工して逆に送り出している。

 陽太がよりみちの店で食べた鶏肉もここから送られていた物で、あの味を思い出すとよだれが溢れてくる。

「鶏肉はサスタークの肉だな、あれほど美味しい鶏肉はなかったなぁ」

 本場への期待に熱を帯びて一刻も早くサスタークの街に行ってたらふく食べてみたかった。

 陽太の旅にとって食べ物が一つの楽しみであり、この世界にはどんな食べ物があるのかを知るのは陽太を高揚させる。

 サスタークの町に入れたのは次の日の夜だった。

 一段と厳しくなった寒さにポムの足取りも重く、幾つもの小さな町を通り過ぎる度にお店を覗いていたので、思いの外、時間が掛かってしまった。

「今日は暖かくして寝られるよ」

 陽太は宿屋にポムを預けて夜のサスタークの街へと繰り出した。

 サスタークの王はエスタル王の弟に当たるダンク王が治めている。

 王になって早十五年、エスタル王より二つ年下でさほど離れていないので馬が合う仲だそうで、関係は良好のようであった。

 性格は清廉潔白、決断の潔さはエスタル王よりも上かも知れないとの噂があるほどで、どんなに難儀な問題が出てきても皆の意見を聞いた上でまとめ上げ、最後は自分の意思で決断する性格だった。

 なのでサスタークの商人もそれに見習い、思い切りの良い交渉をするので評判だった。

 駆け引きの時間は売り上げの無駄ということわざ通り、値引きする客との交渉も早く、一人の客に時間を食われると他の客を逃がして売り上げが落ちてしまうと、一回の交渉で早々に買わせてしまう商売上手でもあった。

 町は東西に延びて広く、城壁は南側以外は厚く高く作られていた。

 南側では家畜の生産の為の用地を確保して畜農に力を入れていて、北側の大きな湖には野生の鳥が生息している。

「エスタルとは違う賑やかさだな、流石は首都だな」

 民衆の主食はもっぱら肉料理で所構わず道の隅で肉の焼く店が出回っていて、陽太は匂いだけでもよだれが止まらず何処で食べようか迷いながら歩いていた。

「ここもあそこも美味しそうに焼いてるなぁ、うわぁあの肉、凄い肉汁が出てる」

 もう居ても立ってももおれずに目の前の店に入って行く。

 その店の人気料理を頼んで楽しみにしながら待っていると、出された料理に陽太が驚いた。

「うわっ、何これ」

 色々な部位の肉の塊を焼いた、味試しというこの店の大人気料理だった。

 色々な食感と味を楽しめると周りの客も皆、この料理の為に足を運び、わいわいと食べては酒を飲み交わしながら騒いでいる。

「まずはこれから……」

 色んな動物の肉があり何かは知らないものの中には鳥肉と分かる肉が見えた。

 陽太はまずはその鳥肉を口に運んでみた。

「ん……これこれ、この味だ、やっぱり本場は違うな、焼き方なのかな香辛料なのかな」

 エスタルで食べたものよりも濃厚で歯ごたえがあるガーガーの肉だった。

 量でいえば二、三人で食べるほどの焼き肉を、陽太は一人で時間をかけて楽しみながら食べてしまった。

「ぷはぁ、美味しかった」

 口の周りを油だらけにしながら笑顔で店を出た。

「気持ちいい、身体が熱いから外の冷たい空気が良い気持ち」

 膨らんだお腹を叩きながら、他に名物はないかゆっくりと歩き回る。

 夜のサスタークは明かりが夜通し灯されていてとても明るく、熱気もあったのでとても外だと思えないほど暖かかった。

 背の高い人々の合間を縫うように小さい陽太がちょこまかと歩いていくと、街の真ん中にある大きな広場で沢山の人が集まり、広場の中心では丸太を組んだ大きな矢倉を燃やしていた。

「うわあ」

 大人から子供まで矢倉のかがり火を囲んで踊っている。

 広場の周りには屋台が出店していて、歩きながらでも食べられる物が売られている。

 陽太は食べたばかりなのにお菓子を売っている店で丸い焼き菓子を買い、それを持ってかがり火を見に行った。

 火の周りを回りながら踊っている人達を見ながら焼き菓子を食べる。

「何かの行事なのかな」

 毛皮を着た男達がかがり火の周りで激しく踊って歌を歌っている。

 聞いたことのない歌なのに懐かしさが感じられる歌だった。

「不思議な歌だな」

 隣に居たおばさんに聞いてみると、いまの月はサスタークの建国祭らしくこうやって今月いっぱいまで男達が毎日夜遅くまで踊り明かすそうだった。

「だから賑やかだったんだ」

 中には明らかに民衆とは違う服装で綺麗なドレスを着ている男女が、お供を引き連れて遊びに来ているのをちらほらと見て取れた。

 次第に男達の踊りにも熱を帯びて崩れてくる火の粉を浴びる様にかがり火に近づいたり離れたりすると、観客の声援も大きくなって最高潮に盛り上がっていた。

 陽太もつられて気分が高まって食い入るように男達の動きをじっと見ていた。

 炭になった足場が折れて矢倉が倒れると観客が盛大に拍手をした。

 立ちのぼる火の粉を浴びながら逃げる人や笑う人で、広場は歓声の嵐となって祭りが終わった。

「明日も来るぞ」

「よおし、飲みに行くか」

「まま、熱いよ」

 周りから色々な声が聞こえてきて、陽太は祭りが終わったことを知ると歩いてきた道を戻って宿屋に帰っていった。

「凄いのを見たなぁ、寒さも忘れちゃった」

 外に出てから何時間経ったのか、いつの間にか宿に帰ったときは夜更けになっていて、急いで寝台に潜り込んで今日見たことを思い出しながら就寝した。

 朝の日差しが目に入り込んできて目が覚めてしまった陽太は、眠気はあったが起きて大きなあくびをすると、そそくさと服を着替えだした。

 今日はサスタークを出て西に向かおうと思っていて、本当ならもっと早くに起きたかったのだが、昨日の夜、遅くまで歩き回ったせいで疲れが出てつい寝入ってしまっていた。

 もう外は店を出す用意や道に水を撒く人で忙しくしている。

「ふあぁ、まだ眠いけど西に行く道を早く見つけないと」

 荷物をポムに乗せると宿を出て西門へ向かった。

「もう少し思いっきり肉を食べたかったけど、また帰って来た時でいいかな」

 そのままサスタークの町を出ると北へとあがっていく。

 町の城壁が途切れると右側には大きな池が見え始めた。

 朝もやで霧が池を覆って視界が白くなっている水の上に、何羽もの鳥が浮かんでいる影が見えた。

「あれがガーガーかな」

 肉の味を思い出しながら池を横目に街道を進んでいく。

 三日後、早朝に街道から逸れた道を見つけることが出来た。


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