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「バルさんやったね凄いわよ、私、バルさんと友達だなんて自慢出来ちゃうわ」
「…………」
陽太の返事は頷くことしか出来なかった。
「今日はお祝いよ、終わったらパァと飲むわよ、朝までね」
「俺は明日も学校あるんだぞ、明後日にしようぜ」
「馬鹿ね、嬉しいときは今日の内によ、いいわよね」
三年生の卒業者は約五十人の中で四割ほどいた、そのどれも皆一般魔道士として卒業していくわけだが、それでも魔道士の資格が取れただけでも皆一応に喜んでいる。
陽太達卒業生だけは卒業の説明を受けるため大広間に集合、その他は普通の授業だったのでミサエルと別れて、ミエールと大広間に向かった。
一ヶ月後に卒業、其れまでは卒業生は今後その力を生かした職業で働けるように各方面から色んな所から引き抜きがやって来る就職活動に入る。
陽太はまだ魔道を使ってこれがしたいとかと言う具体的な職業を考えておらず、暫くはゆっくり考えるつもりであった。
「私はこの間からお菓子屋さんになろうかと思ってるんだ、魔道士のお菓子なんて感じ悪いかな?」
「良いと思います、僕もお菓子は大好きです」
「お菓子屋さんで誰か話を持ってきてくれないかなぁ」
両手を合わせてうっとりしてるミエールがいた。
「で、バルさんはどうするの、何かやりたいことあるの?」
「僕はまだ……、受かると思ってなかったから……何も決めてないです」
「まだまだ時間はあるんだし、バルさんの所には沢山の人が来るはずよ」
下級魔道士の卒業生が出たとなると引く手あまたに人が来るだろうと予想はされて、周りからの注目は強い。
しかも今年は三人も出たという異例だったので、教師達も興奮して陽太達の所に来て話かけてきた。
今日一日は誰彼と話相手をして終わった感じで、学校を出たときは少し喉が痛かった。
「はう、疲れたです」
陽太は少し枯れた声で言う。
「しようがないわよ、卒業までに声が出なくならないように気をつけないとね」
ミエールが杯を空けながら言ってきた。
「俺は次こそ受かるぞ」
もうたまり場となったよりみちで三人は食事をしていた。
「バルと会ったときは弱っちい奴に見えたけど、そんなに魔法使えるんだったらあいつらなんてやっつけられただろう」
ミサエルは陽太が街道で絡まれていた時のことを言ってきた。
「僕は喧嘩とかは好きじゃないから……人を傷付けるのは嫌です」
「あんたと一緒にするな」
ミエールの横やりが入ってくる。
「別段俺だって好きでやってるわけじゃないぞ」
「好きでやられたら即絶交よ」
「でもまさか、バルが下級魔道士になるなんてなぁ、あの時は想像も出来なかったぜ、どうするんだよこの先」
「どうって……魔道士になりたいって思ってただけだし、その後は……」
その後はセリアと暮らしたかったと言いたかったが、その望みはとうに消えてしまっていた。
「世界を……回ろうかなです」
陽太がそっと言葉に出した。
「ん? 折角魔道士になれたんだぞ、良い所で働こうと思えば何処でも雇ってくれるだろうに、旅がしたかったのか」
ミサエルは意外だなと感じていた。
「……そういうわけじゃないです」
前から思っていたことはそれぐらいしか陽太に残されていなかった。
職について稼ぐというのはセリアが居てこそだったので、その目的が無ければ残ったのはこの世界を回ってみようと思うことだけだった。
「ヴァンにはもう家もないから帰ろうと思わないし、まだ行ったことがない国を見て回ろうかなって思ってるです」
「嫌だわ、バルさんが居なくなったら寂しくなるわね、戻ってくるわよね」
「まだ分からないけど、此処にはミサさんもミエールさんもいるから、いつか必ず戻ってくるです」
陽太は照れながら小声で言った。
「俺らはエスタルから出ねえと思うから、あの部屋は空けといてやるよ、もし帰ってきたら一緒に仕事でもしようぜ」
「ありがとうです、そう言ってくれると安心して行けるです」
「もしかしたらバルさんが気に入るような仕事が来るかも知れないわ、もしそうなら此処に残るでしょう?」
「良いのがあれば考えます」
その夜は楽しく、肩の荷が下りた陽太とミエールは明日からの新しい人生設計で胸が高鳴り、いつもより楽しく終始ご機嫌に過ごしていた。
次の日から卒業生は同じ大広間で、やって来る仕事の引き抜きで授業よりも忙しい就職活動の日々を送っていた。
陽太と他二名の二年目の卒業者には常に人がやって来て、是非来て下さいやうちに来たら賃金ははずむよ等と声がひっきりなしに掛かっていた。
しかしそのどれもが陽太には魅力の無い仕事ばかりで、断るのに一苦労をしていた。
「はうぅ」
「お疲れ様、はい」
ミエールが持ってきてくれた飲み物を受け取って一気に飲み干した。
「ありがとうです、もう喉がからからです」
「有名人は大変ね」
「あうあう、もう帰りたいです」
疲れ切った表情でため息を漏らした。
「もうあと少しで卒業よ、良い所はないの?」
あと一週間も経たないうちに卒業を迎える二人は、今だに仕事は見つかっていなかった。
「ないです、鍛治屋とかエスタル国軍に来ないかとか、僕水属性だから鍛治屋なんて出来ないし、兵士になる気もないから……、これならミサさんと仕事してる方が楽しいかもです」
「でも依頼なんて不安定よ、毎回大きな依頼があるわけでもないわよ、賃金の安定してる所の方がいいんじゃない?」
「まぁそうですけど……」
じつは陽太は密かに旅立てる様に支度はしていた。
もう心の中では決まっていたのだが、ミエールの言葉に反論出来ずにズルズルと言えずに今日まで来てしまっていた。
(ミエールさんに何て言おうかな、勝手に出て行くのも悪いしなぁ、いつも気にかけてくれてるし裏切るみたいだ、困ったな)
ミサエルなどは特に気にかけてる様子もなく、陽太が自分で選ぶことだと思っているのか、今仕事が見つからなくても陽太なら心配ないと思っているのかあまり聞いてこなかった。
陽太があれこれと考えているうちにも日は経ち仕事も決まらず、先生方からも心配の声が聞こえてきたが、苦笑いをするだけで卒業式を迎えてしまった。
卒業生には首飾りが渡され、陽太達下級魔道士の首飾りは一般とは違い淡く光る青い宝石がはめ込まれていた、それを一人一人首に掛けてもらい卒業の証の木札を貰った。
木札は何処でもそれを見せればエスタル学校の卒業生だと分かるもので、一種の証明書にもなっていた。
卒業式は粛々と行われていき、終わった後に陽太の所にメイザスがやって来た。
「バルート君、今後どうするのですか? まだ仕事が決まっていないと聞きましたが」
メイザス上級魔道士が陽太に優しく話しかけてきた。
「……えっと」
陽太が口ごもる。
「何かしたいことがあるのならば口添え致しますが、何かしたい事でもあるのですか?」
「え……いや、僕は…………、た、旅に出ようかなって……」
「旅に?」
「う、うん、僕、この世界のことよく知らないし、色んな所に行ってみたくて、それで……色んな国を見てこようかなって」
「ふうむ、これは珍しいですね、折角下級魔道士になれたのにその実力ならどんな職業にもなれるんですよ、それを旅ですか」
「だ、駄目なのかな」
「いえ、バルート君が望むことをすれば良いと思います、まだ若いのですから色々な経験をするのは自身を大きくすることでしょう」
「ありがとう先生」
メイザスは陽太の旅を後押ししてくれる言葉を投げかけてくれた。
卒業式が終わると陽太はミエールと会って明日旅に出るというのを伝えた。
「もう行くの……寂しくなるわね……」
涙ぐみながら答えるミエールに陽太はまた戻ってくると言った。
その日、学校からは二十五人の卒業生がそれぞれの社会へと旅立っていった。
陽太はその晩、自分の部屋でタッキーとミサエルからささやかな祝宴会を開いて貰っていて、二人にも旅に出ると告げておいた。
「まぁ、それがバルの決めたことならいいんじゃないか」
ミサエルは特に驚きもせず、かといって冷たい言い方でもなかった。
「何か面白い物があったら買ってきてくれよ、女なら大歓迎だぜ」
タッキーの方は軽い物言いで何も心配はしている様子もなく、二人とも自室に帰る前に「じゃあまたな」と言って見送ってくれた。




