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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 夏が終わって涼しい秋からぐっと気温が下がってくる頃、学生達の話題は試験の事でざわつき始めてくる。

 陽太の組みの生徒が既に半分の五人まで減っていた。

 元々水属性を扱う生徒が少ないにもかかわらず、更に才能のない者や諦めた者が学校をやめていったので、教室ががらんとしていて今年の水属性の入学者も居なかったことも淋しさを増していた。

 それ故、残った生徒は教師から強い期待を課せられ、他の属性の組みと比べて授業は厳しくて、担任は殆ど個人授業みたいに一人一人の勉強の相手をしていた。

 陽太は占いの事は忘れてはいなかったが、試験前で教師との授業が厳しくて考えている余裕もなくなっていた。

 教師はこの中で一発合格出来るのは陽太だと考えているようで、陽太が少しでも分からないことがあれば理解するまで教え、ぼうっとしていたら叱りつけていた。

 試験では何人もの導師が試験官となってやって来るのだ、もし自分の教え子が合格することがあればそれだけでも教師としては鼻が高い、毎年期待出来る者が少なく水属性の生徒が受かれば創設以来数人しかいない出来事だったのだ。

 陽太への教え方も厳しく熱を帯びてくるほどで、陽太がおどおどしてきて初めて自分が怒っているのに気がつくぐらいに熱心だった。

 陽太も教師から色々と教わるのは良かったが、いつも途中でどうして怒られているのか分からなくなって、何か悪いことでもしたのかなと緊張してくる。

 陽太にはそんな大人の事情など知らなかったが、魔道士になりたいという気持ちに衰えは無かった。

「バルさん、勉強どう?」

 ミエールも試験を控えて緊張をほぐそうと朝から陽太の組みにやって来た。

「どうって言われても先生が一生懸命教えてくれるから教わった事をするだけで、勉強は難しいけどこの一年で結構力は付いた感じはするです」

「余裕の発言ね、導師様が来るからきっと緊張するわよ、ああ……思い出しただけでも身震いするわ」

「ははっ……、今回のミエールさんとこの試験官は上級魔道士ですね」

「そうよ、去年よりは判定を甘くしてくれるけど気が抜けないわね」

「頑張って下さいです」

「試験が終わったらいつもの店で待っててね、授業は無いから帰りに会うかも知れないけど」

「はいです」

 手を振ってミエールは戻って行った。

 明日が試験本番、今日の授業は本番前の予行練習で校庭でぴりぴりした雰囲気の中、授業を受けた。

 ミエールから試験内容は筆記三割、実技が七割とほぼ実力があるかどうかで決まる試験だと聞かされてからは、この日のために学年が上がっても陽太は家で瞑想や詠唱の練習を自主的に行ってきた。

 試験当日、二年生組み、三年生組みと別れて筆記試験を行うため特別の大広間に集まって本日の試験内容の説明を言い渡された。

「実地試験の前に筆記試験から始めます、時間は一時間です、では用紙を配りますよ」

 陽太は用紙がそれぞれ配られていくのをじっとして待っていた、この待っている間も鼓動が伝わり緊張が高ぶってくるのは隠せなかった。

 配られ終えると先生から始めの声で試験が始まった。

 基本的な問題からひねった問題など多くの問題が書かれていたので、長く感じられたが一時間もあっという間に過ぎていく。

 陽太は先生からの厳しい教えを真面目に復習を繰り返して頭にたたき込んでいたので、取りあえず最後までの問題で分かるものを先に全て書いてから分かりにくい問題をじっくりと時間をかけて解いていった。

 元の世界では学校に行くのが嫌なだけであったので、陽太は勉強をするのが嫌いではなかった。

 色々な知らないことを見たり知ったりするとわくわくする性格であった陽太は、この世界に来てからも沢山の知らない物や初めて見るものに少なからず関心はあった。

 特に魔法なんてものは其れこそ想像の中の産物であり、現実に見たオルサの魔法にはいつも興奮を覚えていたぐらいだった。

(先生が教えてくれた所を覚えておいて良かった、それほど難しくも無いや)

 順調に答えを記入していき、最後は見直す時間まで残っていて見落としが無いか確認して終える事が出来た。

 終了後の生徒同士のざわめきの中、答案の回収を終えた教師が次の試験の内容を言い渡した。

「次は属性ごとに別れて実地試験ですので、決められた属性の指定場所に行って下さい」

 陽太は席を立つとミサエルと会った。

「試験どうだった?」

「何とか全部書いたです」

「そうか、筆記はそれほど難しくなかったよな、問題は実地だな」

「はいです、頑張るしか無いです」

「ああ、まぁ受かるとは思ってないが何処まで出来るか試してみるか」

「じゃあ行ってくるです」

 ミサエルと別れると陽太は北側の学校裏に流れる小川に向かった。

 エスタルの街中に流れ込んでいる川を前にして、学校関係者と生徒が集まっている。

 たくさんの試験官の前で試験を受ける生徒が一列に並んで、決められた魔法を操り課題をクリアしなくてはならなかった。

 陽太が入学時にやったみたいに操作の正確さ、威力、維持、詠唱の早さ等の総合点を見られる。

 三年でこれらの合格点に達しているだけでも世間では素晴らしい魔道士として見られるが、これを二年でクリア出来る者は少ない。

 そんな中、入学時にある程度の実力を見せていた陽太には誰もが注目が集まる。

「では水属性の試験に入ります、始め」

 先生のかけ声と共に一列に並んだ生徒達が魔法を繰り出していく。

 一斉に川の水が持ち上がり大小様々な水柱が立ちのぼり、各自の前に置かれた大きな桶に水を入れる。

 更にその水を空中で十秒以上の静止をさせる、その後に決められた大木にぶつけてどれだけのダメージを負わせられるか、そしてそれまで掛かった時間を調べられる。

 維持に関しては維持した時間は引かれた総合時間となる。

 数の少ない水属性の生徒は五人全員で行うことになった。

 陽太は素早く詠唱を唱えていき大きな水柱を桶に入れ空中には十三秒維持させる事ができて、大木には木の皮を剥がし大木にひびを入れて傾けさせるまで出来た。

「ふむ」

「ほう」

 導師達からも感嘆の声が漏れていた。

 陽太が組みの中で一番早く課題をクリアすることが出来て、陽太自身もまんざらでもなさそうな結果となった。

 遅い者だと、陽太が終わったときにはこれから大木にぶつけようとしてる者や、維持出来ずに地面に落としてしまいやり直している者もいた。

 総合時間二十秒以内で終わらせる事が出来れば中、十五秒以内だと上判定だ。

 陽太は全行程を十六秒で終わらせたので判定は中となった。

「惜しいかな」

 導師の一人が言った。

 組の中でもダントツであった陽太でも十六秒で、他には二十秒が二人、それ以上が二人と結果が出た。

 試験官の導師達が集まり話合いが行われた。

 陽太達生徒は息を切らしながらその場で待っていると、教師から次の属性の試験に向かいなさいと言い渡された。

「次は光か、校庭だったな」

 既に試験の用意を済ませた試験官や教師が、試験を受ける生徒達が集まるのを待っていた。

 皆走って校庭にやって来るのを見て陽太も慌てて駆け寄っていく。

 水と違い光はそこそこ人数も多いので、多くの導師が来ていた。

 生徒は何組かに分けて試験を行うらしい。

「……説明は以上です、では今より光属性の試験を開始します、まずは一組目、準備をして……始め」

 立てかけられた丸太の中央に書かれた円に向けて次々と光の矢が飛んでいく。

 人により数本から魔力のあるものは十数本の矢が一斉に手のひらから生み出されて飛ばされていた。

 光の矢が的に対して突き刺さっていくのを、試験官が何本生成されて何本が的に刺さったかを見ていく。

 その中で的確さや生成能力を判断していき成績を紙に記録していく、後で的中率を確認するためである。

 次に鉢植えの若葉の育生を見て魔力の持続力の試験を行った。

 各自の前に置かれた鉢植えに向けて光の玉を作り出して光を当て続ける。

 隣の鉢植えに光が当たらぬように壁で仕切ってあり、狭い囲いに当てぬように慎重に光の玉を若葉の上で停止、光量を維持しなければいけなかった。

 芽を出したばかりの若葉を最低三センチは伸ばして中、五センチ以上で上、それ以下は不合格となる。

 時間は全員一律で、同じ時間内にどれだけ若葉を伸ばす事が出来るかが重要だった。

 バシュ、と仕切りの壁に当てた者の玉が弾けて霧散してしまったり、光量を間違えて枯れさせてしまったり、若葉が伸びる途中で魔力が続かず光球が消えてしまったりと、色々と失敗が周りで起こっていく。

「ふむ、今回も中々良い人材はおらぬ様ですな」

 導師の中にはいつもの諦めの声が聞こえてくる。

 陽太は的の方は沢山の生成が出来、殆どが的に突き刺さりよく出来たと思う程だったが、持続力の方は四センチ伸ばすのがやっとで悔しがっていた。

 先生から大広間に戻ってから発表すると云われて移動していく。

 大広間では二年生達がざわざわと仲間たちで話合っていたり、握り拳を作ってる者、落胆やあっけらかんとしている者と様々だった。

 陽太は静かに座って待っていると先生達がやって来た。

「ええ、それでは二年生の本日の水属性の合格者から……」

 陽太はドキドキしながら先生の言葉の続きに耳を傾けていた。

 大広間はしんと静まり、二年生は教師からの言葉を待っていた。

 誰一人声を上げずに黙り込んでいる静けさの中、先生の声が響くように大きく聞こえてきた。

「合格者は無しです」

 冷たい手で心臓を握られたかのように胸が痛かった。

 一瞬の静寂の後、皆の声がざわつき吐息が漏れてくる。

「残念ながら今回は水属性での合格者はいませんでした」

 中にはすすり泣く者や悔しがる人の声が聞こえてくる。

(水は良いと思ったんだけどな、あともう少し早く終わらせていれば……)

「まだですよ、総合点の評価なのですからまだ落ちたわけじゃありませんよ、落ち着いて最後まで聞きなさい」

 先生の一言が大広間に響き渡るとざわめきが収まった。

「では次は火属性の先生から発表です」

 入れ替わり火の担当の先生が壇上で読み始める。

「火の属性の合格者は……ゴルベス・ドンファン君、一名です」

 おおっ、と火属性の座っている固まりから歓声と拍手が上がり、本人は大声で喜んでいた。

(凄いなぁ、ミエールさんはどうだったんだろう)

 闇属性からも合格者は無く、土属性の発表が来た。

(ミサさんの属性だな)

「土属性の合格者は……ブランド・イリィ君一人です」

(あぁあ、残念……)

「風属性は合格者無しです」

 次々と先生から言い渡されるのは合格者無しばかりで皆の顔も諦め顔だった。

「最後です、光属性の合格者の発表を致します」

(ああ、受かって欲しいな、お願い)

 陽太は目を閉じて耳だけに集中していた。

「合格者は……無しです」

 全ての発表が終わると何かが抜けてしまったみたいに皆落胆していた。

「皆さん、実技の合格者は二人だけでしたが、筆記も含めての試験合格者発表は明日、校門に張り出しておきますので諦めてはいけませんよ」

「はい」

「では今日の試験はこれまでで終わりです、各自気をつけて帰りなさい」

 わぁわぁと皆が大広間から出て行くので、陽太もついて出て行こうとしたらミサエルに会った。

「残念です」

「俺はともかくバルが駄目だったとはな」

「でもまだ明日の発表があるです」

「まぁどうあがいても終わったことだしな」

 二人が校門まで行くとミエールが手を振って待っていた。

 合流した三人はよりみちに行き、試験終わりの乾杯をしながら今日のことを話していた。

「ミエールはどうだったんだ?」

 ミサエルはミエールの機嫌で善し悪しは大体分かっていたが、取りあえず聞いてみた。

「ふふん、まぁこれで私も卒業かな、へへっ」

「ほう、随分と良かったみたいだな」

「まぁね、だって試験官がそんなに厳しくなかったんだもん、筆記も実技もミスはなかったから最低でも中と上は取れたと思うんだ」

「えっとミエールさんの属性は何だったですか」

 陽太が確認のために聞いてみた。

「火と風よ、多分火が上で風は中の評価は取れたはずよ」

「へぇ上ですか、凄いです」

「何言ってんだ三年目なんだぞ、残ってるだけでも評価は上がるんだぜ、試験なんて建前みたいな感じだよ、なぁ」

「なぁじゃないわよ、実力の評価よ、私だってね一生懸命勉強してるんだから、ねぇバルさん」

「そうです、ミエールさんなら今年絶対卒業出来るです」

「バルさん酷いわ、今年だなんて……、結果は明日よ! 明日」

「あう」

「うししっ、バルも言うねえ、なんなら俺達と一緒に来年卒……、ぐぼっ」

「うるさい」

「あわわわっ」

 ミサエルが机の上で倒れているのを見て、陽太は恐ろしそうに震えていた。

 発表を前に皆、少し興奮していて家に帰っても眠れそうにないので疲れるまで飲んでいた。

 朝、ミサエルと登校すると校門に人だかりが出来ていた。

「もう張り出されてるんだな」

 大きな板に用紙が張ってあるが、遠くからでは見えずに人垣をかき分けて近くに寄っていった。

 用紙に書かれた二年目の生徒の名前を見ると合格者は三人、その中に陽太の名前が載っていた。

 大広間で呼ばれたブランド・イリィの名前も載っていたが、もう一人のゴルベス・ドンファンの名はなくて、代わりに違う人の名前が書かれていた。

「え……、僕の名前が載ってる」

 信じられなかった、落ちていると思っていたので意外過ぎて本当なのかと受け入れるのに少し時間が掛かった。

「やったじゃねえかバル、しかも下級魔道士だぞ凄えな」

 隣でミサエルが大騒ぎして喜んでいた。

「ぼ、僕が……信じられないや」

 三年生の合格者にはミエールの名前も載っていた。

「ミエールもか、何だ二人して俺を置いていったな」

 ミサエルは怒っているとも喜んでいるともつかない悪態をついたが、その顔は笑顔だった。

  後ろからミエールがやって来てミサエルに抱きついて泣いていた。

「やったぁ、やったぁ受かったわ」

「良かったな」

 ミサエルは苦しそうに答える。

「嬉しいわ、もう何て言えば良いのかしらこの気持ち、暴れたい気分よ」

「……やめてくれ」

 二人が横で話している間も陽太は呆けて実感が沸いてこなかった。

 長く辛い旅路の果てにやっと魔道士になれたのだ、あれほどオルサに期待されて夢見て必死に目指したエスタルの魔道学校に入れて勉強した結果、合格したというのに嬉しいというよりも涙がこぼれて悲しかった。

(これをオルサに報告出来ないなんて……、一番僕のことを思っていてくれて、一番初めに教えてあげたい人がもうこの世にいないなんて……)

 陽太の才能を見極め魔道士学校に行く事を薦めてくれた恩人であり師であるオルサ。

 貯めていたお金を惜しみなく陽太のために出してくれて、陽太にとってはこの世界で生きていくことが出来た一番の功労者だった。

 陽太が何よりも信じ、尊敬と敬愛を捧げていたオルサはもういない。

 涙を拭けども乾くことが無く静かに思い出して泣いていた。

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