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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 仕事は今じゃ殆どこの三人ですることが増えてきたが、高い報酬の物や遠くに行かなければならない内容の物はタッキーとミサエルとでするようにしていた。

 仕事にも慣れて生活の資金も少しずつ貯まるようになって余裕もでていた。

 年が変わり、新年を過ぎて陽太の学年が上がると教育内容も本格的になってより高度な魔法の授業を受けていた。

 力学や基本理論が一年目で修了すると魔道学、魔道理論、魔道倫理等、魔道に関する勉強に代わり、机に向かって覚えることが増えていた。

 ミサエルなどは机に向かって一日中座ることが苦手で、校庭で受ける教育となると鬱憤を晴らすかのように元気よく魔法を見せつけていたが、陽太は授業を聞くことは苦にならず一生懸命先生の話に耳を傾けていた。

 授業の合間に陽太はミエールの二回目の試験も落ちたことを思い出していた。

 頑張ったが努力の甲斐も無く落ちてしまって、おなじみの店でわぁわぁと泣いているのを二人で慰めていた。

 店内でミエールが机に屈伏して頭を垂れている所に、

「まぁ上手くいけば今年で全員卒業出来るじゃ無いか」

 ミサエルが思わず口走ってしまってから口を塞いだ。

「なんだってぇ、それじゃあ私だけが馬鹿ってことになるじゃないのよ」

 泣いていたミエールが怒り顔に変わってミサエルに拳を伸ばす。

「ぐおおおぉ」

 顔を押さえてうめきをあげるミサエルを余所にミエールが大声を上げる。

「良いわよどうせ私は馬鹿よ、あんた達みたいに賢くないわよ、わああん」

「いや、そういう意味じゃない、普通は三年まで残ることは少ないんだろう、それだけでも凄いじゃないか、そんなに自棄になるなよ」

 ミサエルがフォローするが時既に遅く、ミエールの耳には届いていなかった。

「三年目に残ることでも凄いです、僕の組みは三人も先生から落第を言い渡されてやめてしまったです」

 三年目ともなると半分近くが自主退学や落第の烙印を押されて消えていく中で、残ることだけでも優秀といえるはずだったが、ミエールにとってはそれでも不本意であった。

 それはミサエルと陽太が学校でも名が通った生徒だったので、自分も頑張って二人に負けじとしていたからである。

「あんた達二人に励まされても悔しいだけよ」

 そう言われて二人の顔が渋る。

「じゃあ何言っても逆効果って事だな、バル落ち着くまでほっとこう」

「……え、でも……」

「よおし、今日はミサのおごりで飲むぞおお」

 杯を持ち上げて一気に飲み出したミエールにミサエルが青ざめる。

「まじか! 勘弁してくれよ」

 というようなことがあったのを、陽太は思い出して笑っていた。

(二人は仲が良いな、自分の気持ちを相手にぶつけられるっていいよなぁ)

 外はもう暖かく鳥たちの鳴き声が心地よい風に乗って窓から流れてきて、眠気を誘われる季節になっていた。




 夏、陽太にとってはこの季節が終われば一度目の試験が行われる、そのラストスパートの勉強をしていた。

 もし落ちれば次は年明けに行われるがその間はとても短く、落ち込んでいるとあっという間に二度目の試験で何も出来ないまま終わってしまう。

 陽太は一度目から全力で行くために復習をしておこうと、仕事も休んで部屋で勉強をしていた。

「ふう、暑い……」

 密閉されている部屋でサウナのように蒸し暑く、逃げ場のない熱が部屋にこもっていた。

 地下であっても空気の流れが悪いので夏は居心地が悪い、タッキーもミサエルも暑さで外に出かけていたので今は陽太一人だった。

「外に行こうかな、こう暑くちゃ頭がぼうっとする」

 薄い服を着て外に出ると、焼け尽くすような太陽が頭に降り注いでくる。

「うわあ……」

 眩しい光で目が開けられず、持っていた大きなつば付きの帽子を被って路地を駆けていった。

 今、巷では大通りの屋台で売っている冷たい水に果物の果汁を入れた物が大人気で飛ぶ様に売れているので、陽太も一つ買って飲みながら大通りを散策した。

「ふう、生き返る」

 この暑い日でも人々は元気に騒ぎながら物を売ったり買ったりしている。

 皆、家にいるのが億劫なようで、日陰では大人も子供も同じように寝そべって暑さをしのいでいる。

「そうだ、あそこに行ってみようかな」

 グランド大通りに向かい、貴族街の大きな門を見上げる。

 高い城壁に重厚な門がどっしりと入り口を塞いでいた。

 エスタルの北半分は貴族街で陽太みたいな平民は入れない。

 貴族街の入り口はどんなに暑かろうが寒かろうが兵士がいつも立っている。

 中に入れるのは国の重鎮や勿論王族、それに国政で働く官僚達やその関係者だけである。

 陽太は門の前を通り過ぎると、西側にある小さいが綺麗な噴水があるのを覚えていた。

 既に人が集まり子供が水遊びをしたり、足を付けて涼を取っている人達で賑わっていた。

 小さい噴水なので日陰で人が減るまで待っていると、そこに目の悪そうなお婆さんがよろよろと陽太の前を通り過ぎようと横切って行こうとしたとき、石畳の段差で躓いて倒れてしまった。

「お婆さん」

 陽太は慌てて駆け寄りお婆さんに手を貸して身体を起こしてあげた。

「有り難うよ」

「大丈夫? 膝打ったんじゃ無い」

「こう歳を取ると足も言うことが聞かなくてね」

 腰の曲がったお婆さんは皺だらけの顔を上げて陽太に言った。

「この辺りは段差が多いから気をつけた方が良いよ、何処まで行くの? 僕が連れて行ってあげるよ」

「おやおや有り難う済まないね、昔はこの辺でかけっこをしてたものなんだけど、いつの間にやら歩きにくい所になってしまったねぇ」

 陽太が手を添えてあげながらお婆さんの目的地まで一緒について行ってあげた。

「お婆さん買い物だったの?」

 陽太がお婆さんの手荷物を見てそういった。

「ええ、そうですよ、入り用があってついでに買い物もしたんだけどね、一寸買い過ぎちゃったみたいだよ……」

「僕が持ってあげるよ、歩きにくいでしょ」

「悪いねぇ何から何まで」

 渡された荷物はずっしりと陽太の腕にのし掛かる。

(うわっ、重い)

「いいよ、気にしないで」

 二人でゆっくりと歩いて行くとお婆さんが「此処だよ」と言ってきた。

「占い館?」

「そうだよ、あたしゃ占い師なんだよ、さぁ入っとくれ」

 大きな家に入ると、様々な置物や占い導具が陳列されていた。

「お婆さん魔道士なの?」

「そうだよ、随分昔から魔道士占いをしてるんだよ」

「へぇ」

 魔道士が使うような導具がちらほらと見て取れて、中には見たことも無いような変わった物まである。

「荷物はそこにでも置いといておくれ」

 陽太は言われたまま荷物を置くと、お婆さんが陽太に座るよう勧めてくれた。

「いろんなのがあるんだね」

「さぁさぁ、手を出してごらん」

「ん?」

「ここまで手伝ってくれたお礼に占ってあげよう、魔石占いは良く当たるんだよ」

「へぇ」

「手のひらを上に向けて、両手は卓の上に乗せるんだよ」

 言うとおりに卓に手を乗せるとお婆さんが赤青黄色と色々な宝石を幾つも持ち、卓の上を何度も転がして何かぶつぶつと呟いていた。

「……ふうむ」

 陽太には何がどうなったのか分からなかったが、お婆さんの表情は険しく真顔になっていた。

「出た、と言って良いのか不思議な事じゃ、占いをやって長いけどね何度やってもあんたの結果ははっきりとせぬのじゃ」

「へぇ、何て出たのか教えてよ、面白いのが出たのかな」

 信じてもいない占いなので、どんな結果でも笑い話にしかならないだろうと思っていたから、陽太はあまり気にせずに気楽に聞いてみた。

「面白いか、なかなかいい答えだね、そうだねあんたの占いは面白いと言えるかも知れないね」

「どんなことだろう、早く聞きたいな」

「じゃあ言うよ、一つ目は……」

「え、待ってよ、一つ目ってなに?」

 陽太がお婆さんの言葉を遮った。

「あんたの占いの結果が二つあるんだよ、何度占っても二つだね、こんな面白いことは見たことが無いよ」

「二つってどういうことなの?」

「まずあんたはこの先、大きな転機を迎えるよ、そこで一つ目の未来が待ってる、そこにあるのは試練と栄光、けどねそれを越えられるかどうかはあんたの腕次第だね、今のままならまずそれを手にすることは出来ない、要は力不足って事だね、それに栄光を手に入れたとしてものあんたはその後また大きな試練が待ってるよ、一言で言えば苦難の道だろうね」

「苦難……」

 栄光を手にするための苦難の道、栄光を手に入れるには力をもっと付けないといけないという、その後に試練がとはどういう事なのだろうかと色々と考えていた。

「じゃ、もう一つは?」

「転機であんたが選ぶもう道は質素な日常か激動の人生だね、どちらを選んでもあんたが幸せに家族に見守られながら長生き出来ると出ているね」

「幸せ……か」

(僕に幸せが来るのか、セリアとの人生が僕には全てだったんだ、それを無くしてしまって、もう僕は人を好きになることは無いと思っているんだ、それなのに僕に幸せが……)

 いつしか陽太は信じていなかった占いにどっぷりとはまって、お婆さんの言うことに関心を持って聞いていた。

「近いうちにその転機が訪れるだろうね、そこであんたは決めないといけないんだって事だよ、そこであんたの人生は確定されるはずだ、一度きりだよ後戻りは出来ないからね、その転機で自分の生き方を決めるんだよ」

 お婆さんの真剣な顔が少し怖かったが、陽太は目を合わせて頷いた。

「これで終わりだよ、あたしも少し興奮してしまったね、お茶でも出そうかね」

「あ、いいよお婆さん、僕もう帰るよ」

「そうかい、なんだかこんな年寄りなのにあんたの生き方を見てみたくなるほどあんたの生き方に興味が沸いてくるね、そんな運命を背負ってるんだよ」

「あ、ありがとうお婆さん、じゃあ」

 陽太は外に出て行こうとした背後から声がかかる。

「何かあったらまたおいで、安くしとくよ」

 そのまま占い館を出た陽太は走って家に帰った。

 陽太の中にお婆さんの言った内容が強く残り、その日から家に居るときや学校での休み時間のときでも、少しでも時間が出来ると直ぐに思い出しては色々なことを考えて模索していた。

 あと少しで試験だと言うのに、陽太はお婆さんが占った内容が気になりぼうっとする時間が多くなっていた。

 あれほど占いを信じていなかった陽太は、前にセリアと行った占い師のことも思い出していた。

(あの時は僕は戦いに巻き込まれるって言ってたよな、まだ当たってはないけど戦いが僕の転機になるのかな、いつのことだろう)

 思い起こせばセリアの占いのことも考えると当たっていた気もしていた。

 今を生きるセリアは僕との将来の幸せよりも今の幸せを選んだのだろう、それがあの男だったのかと。

 一度占いに浸透してしまうと何でも無いことでも、こじつけて考えて照らし合わせてしまう。

 陽太はまたもや落ち込んだかのように明るさがなりを潜めていた。

 ミサエルが話しかけると普通に会話はするが、一人になると寡黙に何かを考えている様子をミサエルやミエールが見ていた。

「どうしたのかしら、最近暗いわね」

「さぁ、話や声は普通なんだが、一人になるとああやってじっとしてることが多いんだ」

 遠目で陽太を見ていた二人が話合っていた。

「またあんたが友達が元気がないから話し相手になってやってくれないかって言ってきた時みたいに、何処か変わった所に連れて行ってあげる?」

「ふうむ、けど前みたいな落ち込み方でもないんだよなぁ」

「飲み明かしたらすっきりするかも知れないわよ、鬱憤が溜まってるのよきっと」

「いや、それはお前だ……っ、げほっ」

「もうすぐ試験だっていうのに心配ねぇ」

 崩れ落ちるミサエルを無視して、ミエールは心配しながら陽太を見ていた。

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