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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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24/38

24

 だが予定はかなり遅れて出発したのはそれから二週間後だった。

 一月半ぶりの東の街道を足早に南下していき、三日目の晩には家の近くまで来ていて夜道を歩いていた。

「やっと着いた」

 目の前に懐かしい家が見えてくる、家の中からはぼんやりと明かりが灯っていてセリアがいるのが分かった。

「セリア」

 急ぎ家に着くと馬から降りた陽太が戸を叩いた。

 暫くして戸を開けて中からセリアの顔が見えた。

「ヨータ」

 セリアは驚いた顔をしていた。

 降ろした髪はすっかり長くなり腰まで垂れていた。

 薄明かりにも負けないほどの輝く栗毛はとても美しく、セリアの周りが光りを放っているように見えていた。

「帰ってきたよ、ただいま」

 驚いているセリアに優しく微笑みかける。

「どうしてこんな時間に……」

「だって早くセリアに会いたかったから走って帰ってきたんだよ」

「魔道士には成れたの?」

「今は学校に行って勉強してるよ、休みの合間を取って帰ってきたんだ、セリアが悲しんでいないかどうか心配だったしね」

「……そう」

 一瞬暗い顔をセリアがした。

「どうしたの、早く入れてくれない?」

「でも……」

「僕らの家なんだよ」

「…………」

 セリアが黙り込んでいると、中から男の声が聞こえてきた。

「おい、誰だよこんな時間に」

「え? 誰かいるの」

 戸に手を掛けて家の中に入ろうとした。

「駄目」

 セリアが陽太を家に入れようとしなかった。

 陽太の顔はみるみる赤くなって顔が引きつっていく。

「ど、どうして……」

「誰だよ」

 家の中に居た男が玄関にやって来て陽太と目を合わせた。

「誰って君こそ誰だよ、僕の家で何してるんだ」

「はぁ? 何言ってんのお前」

 男は陽太に対してニヤニヤと笑みを浮かべながら馬鹿にしたような顔をしてこちらを見てくる。

「どういうことなの、セリア」

 陽太が問いただす。

「おいお前、俺の女に馴れ馴れしくするなよ」

「お……女って、僕の彼女なんだよセリアは」

「やめて!」

 セリアが大声を上げて二人の言い争いを止めた。

「ダン、今日は帰って……」

 ダンと呼ばれた男が舌打ちをして家を出て行った。

 ダンは出て行くときに陽太を睨んでいたが、陽太も負けずに睨み返していた。

 家に入った陽太は奥の部屋に行くと、散らかした服がそこいらに落ちていて寝台の布団は乱れていた。

 その現状を見た途端に心臓がどくんと高鳴った。

「どうして、どうしてこんな事を……」

 陽太は握り拳を作ってセリアに問いただした。

「…………だって、ヨータ全然帰ってこないし、寂しかったんだもん」

 椅子に座って頭を抱えているセリアが小さな声で言った。

「僕は……僕はセリアを捨てるために此処に置いていったんじゃ無いんだよ」

 震える声で必死に声を抑えながらセリアに言う。

 彼女は何も言わずに涙を流していた。

「僕は言ったよね、僕は必ず帰ってくるって、セリアと結婚するために今は頑張って魔道士の勉強をしに行くんだって……、僕だって寂しかったんだよ、それを必死で抑えて君の為に、これからの君との生活のために必死で会いたいのを堪えていたのに……」

 悔し涙が陽太の目からあふれ出てくる、それを拭おうともせずセリアを見た。

 下を向き涙を流しているセリアに陽太はこう告げた。

「出て行ってくれないか婚約も解消だよ、此処は僕のお金で買ったんだ、僕の家なんだ」

「ヨータ! 嫌嫌っ、一緒に居たいの」

 セリアが陽太に抱きついてくる。

「一緒に居たい? 他の男といたのを見て、僕がどんな気持ちか分かるの?」

 その言葉にも陽太は握り拳を作ったまま、セリアを抱きしめようとはせずじっと堪えながら、

「もう駄目だよ、僕は君を信じられない、今までの事もこれからの事も何も君を信じられなくなったんだ……」

「嫌ぁ! ヨータ御免なさい、私は一人は嫌っ」

「君にはあのダンって奴が居るだろう、あいつの所に行けばいい」

「嫌嫌嫌あぁ、一緒に居たい、居たいよ……」

 陽太は手を上げることも声を荒げることもしなかった。

 一度でもそれをした瞬間、何かが爆発しそうだったので必死で抑えていた。

「君は自分の望むことを自分で壊したんだ、もう戻れないよ」

「御免なさい御免なさい、一人は嫌ぁ」

「僕は初めて女の子を好きになった、それが君で良かったと思う、君と居た日々はとても楽しかったし僕に勇気をくれていたんだ、少しずつ君のことを好きになって結婚しようと考えられたのも君だったからなんだよ、それが……君といた時間がたった一ヶ月半で簡単に壊れるとは思わなかったよ、やっぱり僕にはまだ女の子のことが分かっていなかったんだ、まだ早かったんだね」

 飛びはね抱きつき、必死で許しを請おうと陽太に懇願するセリアの姿は、陽太の目にはただのごねている子供のようにしか映らなかった。

(今だけ……今だけなんだ、謝って許しを貰えればまた、僕の居ない所で男を探そうとするんだ、この子は今しか生きていない、どんなに将来を見据えていてもこの子には今が楽しくないと生きていけない子なんだ)

 それがこの世界では常識なのかどうかは分からない、それは陽太にとってはどうでも良いことで裏切られた事実は変わらなかった。

「もう終わりだよ、……さようなら」

「嫌ぁ、お願い許して一人にしないでぇぇ、嫌っ嫌っああ」

 陽太はセリアの腕を振りほどくと、奥の部屋に行ってセリアのお金と服を革袋に詰め込んだ。

 それをセリアに渡して家の外に追い出した。

「嫌あああぁ、ヨータヨータ」

 抵抗するセリアを冷たく追い出すと、戸に鍵を掛けた。

 外ではセリアが泣き崩れながら戸を叩いてくる、陽太は無視して奥の部屋に入ると乱れた布団を全て取っ払って横になった。

 さっきまで此処で男と寝ていたのか、微かに自分の匂いではない香りがしてきて嫌悪感が湧き出てきた陽太は、寝台から降りると床にマントを広げて身体を横たえた。

 外からはセリアの泣き叫ぶ声が聞こえてくるのを耳を塞ぎ目を閉じていた。

 夜中になっても微かに陽太の呼ぶ声が聞こえていたが、朝になると声は止んでいて外には誰も居なかった。

 代わりに戸の前にセリアにあげた首飾りだけが置いてあり、それをそっと拾い上げた。

「もうこの家も僕には不要だな」

 明るくなるのを待って、机の上に二つの首飾りを置くと家を出た。

「もうこの家に来ることもないな」

 集そうした面持ちでポムの背に乗ると売買所に立ち寄り、家の権利書を渡して売却するための交渉をした。

 役人が家を見に行って帰ってくるのを待った。

 家にあった家財や装飾品はどうするか聞いてきたが、陽太は家財一切全て売却すると伝えた。

 売却金額は金粒大六十と銀粒小五十になり、それを受け取った陽太の顔はまるで幾らでも良かったみたいに無表情であった。

(……早く帰ろう)

 ただそれだけだった。

 少しの間だが住んだ町の景色も見ず、ただ目の前の石畳だけを見ながらエスタルに走り出していた。

 ぽっかり空いた穴を埋めることも浸ることもせずに、ただひたすらエスタルへの帰路を進め、今は早くとにかくアルステルから遠くに行きたかった。




「バル、学校に行こうぜ」

「……はいです」

 エスタルに帰ってきてからいつも通りに学校に通っていたが、元気はなくいつも下を向いて居るのをミサエルは気にして陽太に聞いてみた。

「何かあったのか、この間アルステルから帰ってきてから元気が無いぞ」

「そんなこと……ないです」

「そうか、ならいいんだが……、今日さ帰りに飯行こうぜ、俺の連れも来るって言ってたし、あっ、連れって学校の連れだからな」

「でも、僕……はいいです」

「まぁ気分転換だ、いつまでもそんな風だと気が滅入るだろ、たまには美味いもんでも食って元気だせよ」

 陽太の肩をポンと叩いた。

「わ、分かりましたです」

(僕のことを気にしてくれてるんだから、無下に断るのも悪いよね)

 最近の陽太は授業に身が入らないのか、簡単なことも失敗したりして担任から何かあったのかと尋ねられたこともあった。

 教師の間では陽太はかなりの腕前だと評判だったので、担任も陽太の様子が気になっていた。

 何も無いですと言われると、担任としても学校にもちゃんと来てるし別段不真面目だということもないのでそれ以上追求は出来なかった。

 学校が終わり校門で待っていると、ミサエルが陽太を呼んだ。

「ちゃんと待ってたな」

 ミサエルが後ろに連れてきていた友達は女の子だった。

「こっちはミエールだ」

「こっちっていうな、初めまして私はミエールよ」

「はじめ……まして」

 ピンクのローブとフードを着ていて首飾りをぶら下げていた。

 セミロングの黒髪で艶やかなストレートが印象的な、少し大人びた優しそうな目が陽太に微笑みかけていた。

「同じ風の授業を受けてるんだ、歳は……ぐっ」

「言うな」

 ミエールの拳がミサエルの横っ腹に入りうめく。

「後で、お、教えてやるよ、へへ」

 ミサエルが脇腹を押さえながら苦笑いをしていた。

「あ、僕はバルートです」

「そうバルート君か、変わった名前だね」

 少し陽太より背が高いミエールが腰を曲げて顔を近づけながら言ってきた。

「よく言われるです」

「です?」

「ああ気にしないでいい、癖みたいなもんだ、さっさと行こうぜ」

 三人で街中を歩いているとミエールが色々と質問をしてきた。

 出身は何処なの、何日ぐらい掛かったの、故郷はどんな所なの等、質問攻めを陽太はされていた。

「もうよせよ、聞きたいことがあるなら店で聞けば良いだろ、歩きながらあれこれ聞いてると転けるぞ」

 見かねたミサエルがミエールに注意した。

「ミサっていつもあんなにカリカリしてるの?」

 ミエールが陽太にそっと聞いてくる。

「ミサさんは良い人ですよ、優しいし気を遣ってくれるです」

「私にはそんなことしてくれないんだけどなぁ」

 ミエールがミサエルを横目でみた。

 話をしている内にミサエルの目的の店が見えてきた。

「あそこだ」

 路地に入った人気がぐっと減った場所に、ランタンが入り口の看板ににぶら下がっていて洒落た雰囲気を醸し出している店で名前がよりみちだった。

「よりみち……あんたがこんな所を知ってるなんて意外ね」

 ミエールは気に入ったみたいに小躍りしながら早く入ろうと二人を促す。

 店内は薄暗く机の上には三本のロウソクだけが置かれていて、客層はカップルばかり三組が静かに食事をしていた。

「へぇ良いじゃない、あんた何ででこんなとこ知ってるのよ、もしかして誰か女の子と来たんじゃないでしょうね」

「違えよ、たまたま通り抜けしようとこの路地に通ったときに見つけただけだ、ここに来るのは初めてだよ」

 ミサエルがばつが悪そうに言った。

 丸い机で三人がそれぞれの注文をすると、最初に運ばれてきた陽太の料理に三人が見入った。

「良い匂いです、これ何ですか」

「分からずに注文したのか、えっとそれは……ガーガーの炭焼きだな」

 注文表を見直してミサエルが教えてくれた。

「ガーガーって何ですか?」

「サスタークの北側にある大きな池に住んでる鳥だ、味が濃くて向こうでは人気のある食べ物だ」

「へえ、サスタークには行ったことがないです」

 肉厚で皮がパリッと焼けていて中の肉があふれ出る肉汁が食欲をそそった。

 陽太はじっと肉を見つめて皆の料理が出てくるまで我慢をしていた。

 ミサエルは香草スープに川魚の焼きもの、ミエールは香草サラダに魚の香辛料の煮付けが運ばれてきた。

「ううん、いい匂いだわ、さぁ食べましょう」

「いただきます」

 三人が各自の料理に手を付ける、陽太はナイフで切り取って口に入れて肉を噛みしめてみた。

(じんわりと肉汁が口に広がって皮の歯ごたえとマッチしていて美味しいな)

 一口食べただけでも口の中は肉でいっぱいになって、歯ごたえのある肉を何度も噛みながらやっとのことで飲み込んだ。

「バル、俺にも一口くれよ、俺のもやるから」

「私も頂戴」

 二人に切った肉を分け与えて、代わりにそれぞれの料理を分けて貰った。

「ほう、これは美味いな、俺もこれにすれば良かったかな」

 肉を食べたミサエルが言った。

「本当に、香ばしくて美味しいわね」

 初対面でも親しくしてくるミエールは、陽太にとっては遠慮がちにされるより気分が落ち着いて良かった。

 今の陽太は自分から何か話しかける気分でも無かったが、相手への返事なら普通に答えられる。

 投げかけられた質問や返事の方が難しく考え込む必要も無く、気らくに話せて楽だった。

 陽太に良く話しかけてくるミエールはおしゃべり好きで、愛嬌もあり表情も明るくて世話焼きな性格だった。

 食べ終えた三人は食後のお茶を楽しみながら話に興じていた。

「バルートさんは魔道士になったらどうするの?」

「え……っと、まだ決めてないけど旅でもしようかなって、この世界を回ってみるのも良いかな、魔道士が出来る仕事って分かんないから旅をして色々な場所を見ながら探すのも良いかもって思ってるです」

「そっか、私も何か決めないといけないなぁ、故郷に帰っても何にも無いしなぁ」

 ミエールが顎に手を当てて考え込む。

「ミエールさんは何処の出身ですか?」

「私? 私は西沿岸の小さな町よ、此処からずっと西の街道を行った所にある港町なの、ちっさい町だし仕事って言っても漁師ぐらいしかいないしなぁ」

「ミエールの力なら大物でも軽々と釣れるだろう」

 どんっ、とまたもや無言の鉄拳が入った。

「あわわわっ」

 陽太がまともに入った肘鉄にもんどりうっているミサエルを心配した。

「いいのいいの、いつもことだから」

 あはははっ、とミエールが軽く笑う。

「さ、酒をの……飲んでんじゃ無いだろうな」

 ごくごくと杯を開けていくミエールの飲み物を二人が訝しんだ。

「何言ってんのよ、お茶に決まってるでしょう」

「…………」

 ミサエルの不安を余所にミエールがまたおかわりをしていた。

「あははっ……」

 陽太もミエールの顔が少し赤みを帯びているように見えるが、それが薄暗い店内のロウソクの淡いあかりのせいなのかは判断出来なかった。

 夜遅くまで飲み、陽太が帰ったのは夜更け過ぎだった。

(久しぶりに外食したな、ミエールさんは良くしゃべる人だった)

 セリアのことで人生のどん底に落ちこみ、生きる楽しみが無くなったかのような日々を過ごしていて、このまま暗い人生を生きていくのだろうと思い込んで、何をするにも意欲が沸かずにただ日々を過ごしているだけだった。

 何を見ても聞いてもそこから何も興味が沸かなくて、もう自分は一生笑うことが出来なくなってしまったのだと思っていたが、今日ミエールの明るさと話をしていて知らずの内に自分が引き込まれて笑っていたことに驚いていた。

(まだ僕の中にも笑うことが出来たんだ……)

 どんなに打ちひしがれていても人はいつかは笑うことが出来る。

 どんなにこの世界で生きていたくないと思っていても笑うことは忘れずにいてくれ、他愛の無い話でも相手の笑顔をみればそれだけで自然と笑みは溢れてくる物なんだと知る事が出来た。

(まだこれからも僕は笑うことが出来るんだ、この先も……きっと)

 笑う事がこんなにも気分を晴れやかに身体を軽くしてくれるとは思っておらず、落ち込んでいた自分にまだやれると心の底から沸々と何か生きる楽しみが蘇ってくる感じがしてきた。

(ああ、そうだった、オルサが死んだと聞かされた時も、一人旅を始めてからポムがいてセリアと出会って、知らない内に笑っていたんだった)

 元の世界なら陽太もまだ子供で、大人に社会の事をを教えて貰い、勉強に励んで少しずつ大人の階段を上がって行かなければならない歳であるはずだったが、十三歳でこの世界に放り込まれ一人で旅をする嵌めになってしまって、アドバイスも受けられずに一人で悩みを抱え込んでいた。

 それを出会いという形で陽太の心を慰めてくれる相手に出会う事でままで乗り越えられてきたのだ。

 社会を実体験の経験でしか得ることの出来ない陽太には、まだまだ沢山の知らない知識と経験が待ち受けている。

 新しい経験をすることで今の自分より視野を広げていけば、昔の自分がどれ程ちっぽけな問題で悩んでいたのか知る事が出来るはずだったが、その為の解決には時間が必要であった。

 陽太はどんなに焦っても諦めても、一定のリズムで時間は刻み必ず進んでいく事を理解しなければならなかった。

 ミエールとはその日からたまにミサエルが食事や遊びにと連れ出してくれて、三人で出かけることが増えていき、すっかり陽太もミエールに打ち解けてきていた。

 相変わらずのへんな敬語を使っていたが、ミエールもそれに対して咎めたり直させようとせず優しく陽太と接してくれていた。

 ミエールが陽太の二つ年上だと知ったのはそれから間もなくだった。

 歳がばれたミエールは顔を真っ赤にしてミサエルに怒っていたが、もう二人のやり取りはお決まりのように、陽太の目にはじゃれ合ってるように笑って見ていた。

「ミエールがよ、今度仕事に連れて行ってくれって言ってるんだが構わないか?」

「僕は全然構わないです、ミサさんがいつも仕事を取ってきてくれるから僕も連れて行って貰ってるみたいなものです」

「そうか、なら簡単な物を探してくるかな」

 友達から仲間と呼べる人が陽太の周りに集まり、やるべき事が増えて日々追われているとセリアのことで悩む事も減って行き、あっという間に一月二月と過ぎていった。

 ミエールとも知り合って既に三ヶ月以上経ち、すっかり仲良く学校で会っても気軽に話す相手となっていた。

 陽太は落ち込んでいた時期の勉強を取り戻すかのようにメキメキと力を付け始めて、組みの中でも頭角を現すようになっていた。

 担任も陽太が元気になったのを安心してみていて、陽太の話題は組みだけに留まらず先輩からも少なからず注目されていた。

 もしかしたら来年の試験で合格するのでは無いかと噂が飛び交う程、有望な生徒として注目が集まっている。

「バル、凄いじゃ無いか、今一番の注目株だな」

 ミサエルが自分のことのように喜んで話しかけてきた。

「俺も組みの中じゃ上の方なんだがそれでもバルほどじゃない、途中入学で特別試験合格で、その力じゃ皆が噂するのも仕方ないか」

「そ、それほどでも……ないです」

 陽太は照れながら答える。

「バルさんは私の組みでも有名よ、私なんか今年の試験駄目だったし……」

「まだもう一回あるんだろ、わかんねえじゃねえか、大抵普通は落ちるもんなんだし、頑張れば良いだろう」

「……うっ、受かる気がしない、あと一回しか無いって思うと、追い込まれてる感じがする……」

 一年先に入っていたミエールは今年一回目の試験で落ちたことにショックだったみたいで、ミサエルの励ましが逆に余計に重く不安をあおった。

「じゃ、じゃあ気分転換にまたあの店でも行くか?」

 ミサエルがお気に入りとなった路地裏の店に二人を連れて行った。

 何かあったときは此処で元気を出したり、祝杯を挙げたりするのが定番となっていた。

「よ、よおしミエールの次の試験合格を願って乾杯」

「頑張って下さいです、乾杯」

「うう、こうなったらドンとこいだぁ、絶対受かるぞおぉ、かんぱぁい」

(僕は来年から試験かぁ、受かるかな受かりたいな)

 陽太の力はオルサが望んだとおりエスタルの学校で才能を発揮する場となっていた、もしオルサが生きて今の陽太を見ていたら喜んだに違いなかった。

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