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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 学校とミサエルの手伝いで月日だけが過ぎていったある日。

「バル、今度さぁタッキーと三人でもう少しでかい仕事してみねえか」

「え……、う、うん、いいけどです」

 ミサエルが三人で出来そうな仕事を持ちかけてきた。

 相変わらず陽太はタッキーには苦手意識があり、家にいるときは自分の部屋になるべくいるようにするか、もう寝るからと言って早めに切り上げてあまり長い時間一緒にいようとしなかった。

「昨日さ、仕事見に行ったら金粒大十の仕事があったんだぜ、内容は東の沼に居る珍しい魚らしいがそいつの腹の中に赤い石を持ってる奴がいるらしい、それを二つ取ってくる依頼なんだ」

「魚、ですか?」

(簡単そうな依頼で金粒大十か、良さそうだな)

「早く受けねえと取られそうだし、こそっと依頼書を見つかりにくい所に貼り直しておいた、行くなら今日にでも依頼受けに行くがどうだ?」

「いいよです」

「よし決まりだ、タッキーにも知らせてくる」

 慌ててミサエルが部屋を出て行く。

「金粒大十か、一月は余裕で暮らせるお金だなラッキーかも、でも三人だし一人三つ位か、それでも多いからいいか」

 ミサエルが受けた依頼に出発したのは二日後だった。

 丁度が学校の休みに合わせて三人で町の東の街道を北に向かい、途中東に折れる脇道から大湖沼地帯に向かって進んでいった。

 行程は往復で二日とそれほど遠くは無い。

「なあミサ、その魚ってどんな魚なんだ?」

 タッキーが馬の上からミサエルに質問を投げかけた。

「背中に棘が沢山あって腹が赤い魚だそうだ」

「見たことねえな」

「まぁ毒があるらしいから食えないみたいだしな」

「ど、毒……ですか」

 陽太が怖そうに言った。

「ああ、泥の中に居るらしいから見つけるのが大変だそうだ、刺されるなよ」

 ミサエルが依頼所の主人が教えてくれたことを二人に話した。

「その赤い石って何に使うんだ、誰からの依頼だったんだ?」

 タッキーが興味津々に聞いてきた。

「さぁな、どこかの収集家らしいが金粒大十は確かにでかいよな」

「まっ、金さえ入れば関係ねえか、さっさと見つけて帰ろうぜ」

 東の街道は昔の戦国時代にエスタル王の命で、東に流れていた川をせき止めて氾濫させて大きな湿地帯を作ったという。

 遠く東にあった隣国との戦争の爪痕でもいうのだろうか、それ以来東の街道は舗装もされておらず人の行き来も無くなった。

 その戦争で勝利を得たエスタル王国が、中央国として台頭してきてからも手を加えられず、放置されている昔の街道であった。

 東の国へは北のサスターク国より北に出来た街道から回って行けるようになっている。

 殺風景な森を抜けて湖沼地帯に入るとうっすらと街道の盛り上がった道が残っているだけで、足元は泥で柔らかくなってきていた。

「ここから沼だな」

 濡れた木々は腐り果て、見た目は平原のように開けていたが短い草や水草が生えていて匂いは強烈に臭かった。

 三人とも布で口と鼻を隠しながら馬から降りた。

「こんなとこの魚なんて毒があるなしに食いたかねえな」

 タッキーが眉をひそめて言った。

「どうやって取るですか」

 陽太も足が降りたときから泥だらけで、気持ち悪さを堪えてながら聞いた。

「これを使うんだ」

 棒の先に鉤状の金属がついていてそれを泥の中に突っ込むと、泥をかき回して取る方法を二人に教えた。

「うへえ」

 泥をかき回すと中から沸いてきた水泡が弾けると、きつい匂いが広がって辺りに漂ってくる。

「……うっ」

 陽太は込み上げてくる物をぐっと堪えてた。

「さぁ始めようか、今日はあと半日しかないぞ」

 それぞれ泥の中に入って棒を泥の中に突き刺し始めた。

(これは臭い、匂いが取れないんじゃ無いかな)

 あらかじめ沼に行くというので川のズボンにシャツだけの軽装で来ていたが、帰ったら捨てないといけなくなるかも知れないほど跳ねた泥で服が汚れて臭かった。

 何度も何度も泥に棒を差し込んではかき回してみるが一向に当たりが無かった。

 三人の行動範囲は少しずつ広がっていき、陽太は気がつくと遠くで二人が作業しているのが見えた。

「結構離れちゃったな、っていうか全然生き物がいないんだけど……」

 目の前の盛り上がった場所に移動して休憩をした。

 ぬかるんだ泥の中にずっと足を入れていたので足が疲れる。

「ふう、楽になった、こんな広い所をずっと探さないといけないのかな」

 たった二つの石を見つけるだけだから簡単だと思っていたが、結構な重労働だった。

「あぁ腰が痛い」

 持っていた棒を地面に突き刺して伸びをした、すると地面に刺さった棒が揺れ始め倒れた。

「わっ」

 棒を掴み引き抜こうとすると、びくびくと震動が伝わってくる。

「あれ?」

 一気に棒を引っ張ると泥の中で暴れる感触があった。

「掛かったか……わっ」

 凄い勢いで棒が振り回され掴んでいるので精一杯だった。

「わあぁ、ミサさぁん」

 大声でミサエルを呼ぶと走ってくる二人が見える、その間も陽太は逃がさないようにしっかり棒を掴み離すまいとしていた。

「いたか」

 寄ってきた二人が持っていた棒を一斉に泥の中に刺し込んだ。

「すげえ」

「一気に引き上げるぞ、せーのっ」

 泥の中から姿を現した魚は陽太の身体の半分はありそうな大きな魚だった。

 陽太の立っていた盛り上がった場所に魚を引き揚げた。

「よっしゃ」

 陽太の棒は魚のえらの所にフックが掛かっていた。

「……大きい」

 陽太が驚いた。

 背中に沢山の棘がついていて身体は鎧みたいに固い鱗がびっしりとついていた。

 手で叩いても木の板を叩いてるみたいにコンコンという音がしていて、これでは普通の銛では刺さることも出来ないだろうと思った。

 顔はナマズみたいに髭があり目は両脇に小さくついている。

「触るな、危ないぞ」

 ミサエルが注意を促し腰から短剣を取り出して魚の頭部に突き刺した。

 動きが止まるまで何度も差し込んで息の根を止める。

「ふう、じゃあ捌くぞ」

 ひっくり返して仰向けにして赤い腹に短剣を刺して切り開いた。

「どこにあるんだ、赤い石って」

「さぁ何処だろう、とにかく全部探してみる」

 大きな魚の中身を一つ一つ調べながら赤い石を探す、とにかく内臓の量のの多さと匂いで難儀はしたが、腸の中に一つ目の石を見つけることが出来た。

「これか」

 親指ほどの大きさの輝く深い赤い石を、ミサエルが手のひらに乗せて見せてくれた。

「わあ、綺麗です」

 陽太はこんなに汚い場所で綺麗な石を見て少しは気分が安らいだ。

「こんな小っちぇえのかよ、こんなのをあと一個探さねえといけねえのか」

 タッキーは逆にがっかりしたようで文句を言っていた。

「それが仕事だ、今日はもう暗いし何処かで身体を洗って野宿しようぜ」

 夕暮れの赤い太陽が姿を隠そうとしているので、慌てて街道に走って戻る。

 馬に乗り込むとポムが陽太を乗せるのを嫌がったが、我慢してよとなだめながら二人に付いていく。

 三人が街道を少し戻り森の中を北へと入って行くと、抜け出た所に細い川が流れていてそこで服についた泥を落とした。

「くんくん、うわぁ匂いは取れないや」

 陽太は顔を歪ませた。

 入念に汚れを落としても匂いだけは取れず、仕方なく洗った服を岩に掛けて乾かしておいた。

 ミサエルがたき火の用意をしてくれていたので、濡れた身体を乾かし、ミサエルが持ってきた食事を受け取った。

「なんか鼻がおかしくなっちまったのかな、飯もくせえぞ」

 汚れてはいない食事も匂いを嗅ぐと沼の香りがしてきて食欲が沸かなかった。

「我慢して食うしか無いだろ、明日中にはとっとと終わらせよう、今日はバルのおかげで一個見つけられたしな」

「えへへ」

「俺はもっと小っせえ魚だと思ってたぜ、あんなでかい魚だったんだな」

 食べる気がしないと言っていたタッキーは、がつがつと口に食事を入れながら話をしていた。

「こんなに臭い場所じゃ誰も来ようとしないのが分かるな、これ一週間は匂い落ちないだろうな」

「帰りに服は捨てていくさ、こんなの家に持って入るなよ」

 夜更けまで三人で明日の魚取りについて語り合いながら、たき火を囲みながら眠り一日を終えていった。

「さぁ始めようか」

 朝からミサエルのかけ声で泥の中に入っていきながら棒を刺していく。

 陽太は折角洗った服もすぐに泥だらけになりながら一心不乱に魚を見つけることに集中していた。

 明け方から始まった魚鳥は昼過ぎまで成果は無く、昼食を取り休憩した後、作業を再開した。

 それからも中々見つけることが出来ず、陽太は足が上がらなくなり倒れてしまって全身きつい匂いを放っていた。

「この辺りはもういねえんじゃねえか」

 大声で遠くからタッキーが言ってくる。

 かなりの広さで探索を行っていて皆疲れが苛立ちに変わってきている。

「他の場所に移動するか」

 ミサエルがそういったときにタッキーが叫ぶ。

「いたぞぉ、早く来い」

 陽太は重い足取りで一所懸命走ってタッキーの元に行くと、目の前で跳ねている魚に向けて金具を引っかける。

「よし、もう逃げられねえだろ、向こうまで運ぼうぜ」

 街道まで持ってきた魚をミサエルが捌いて赤い石を取り出した。

「よっしゃあ、終わったぁ」

「わあい」

 タッキーと陽太は喜んで飛び跳ねた。

「もう此処には用が無いな、身体を洗って帰ろうか」

 ミサエルは大事そうに腰の袋に石を入れて帰宅の準備をした。

「ははっこれで今日はご馳走が食えるな、たっぷり飲むぞぉ」

 おおっ、と三人でかけ声を上げた。

 三人は匂う服のままエスタルに入り依頼を完了させて報酬を受け取ると、その足で服屋に直行して全員の服を買い直した。

 店主はもの凄い嫌な顔をしていたが、

「おやじ、それ捨てといてくれよ」

 タッキーは構わずに店主に汚れた服を渡した。

 店を出た三人が次に向かったのはエスタルでも上手いと言われている店で、人気の肉料理を出す所だった。

 店内に入ると、身体から匂ってくる臭さで客がしかめっ面をして三人を睨んでいたが、気にせずに端の卓に座って注文をした。

「ここじゃ気にしたら負けだぜ、ああいう小綺麗にしてる奴らはいつも俺らを見たらあんな顔しやがるしよ、気にしないで食おうぜ」

 陽太は周りの人の視線が人一倍気になるはずだったが、今日は機嫌も良くて腹ぺこだったので気にもせず出された料理にむしゃぶりついた。

 このところお金の心配で安い物しか食べていなかった陽太は、久しぶりの豪華な料理に興奮していた。

「いやバル、そんなに慌てなくても……」

「だって、ここ最近美味しい物たべてないです」

 頬を膨らませながら答えてはまた食べ始めた。

 タッキーも負けてられぬと口に食べ物を押し込んで、周りから怪訝な表情で見られているのをミサエルだけは知らぬ振りをして静かに食べていた。

 次々と出された皿を空にしていき、最後に飲み物で流しこんだ。

「ぷはぁ、食べた食べたです」

「うえっ、もう入らねえ」

 二人がお腹を押さえて苦しそうにしているのをミサエル見ていた。

「じゃあ、そろそろ帰るか」

 ミサエルは食事の途中だったがフォークを置いて立ち上がった。

「ミサ、もう食わねえのか」

「ああ、俺は十分だ」

 そう言って店を出て行った。

「ミサ、またいい仕事探してきてくれよ」

「ああ」

 部屋に戻った陽太は大事そうにお金を袋に入れた。

「あの匂いがまだ残ってる、お風呂に入りたいな、明日朝一でお風呂に行こう」

 寝台に倒れ込むと溜まった疲れに襲われて目を閉じると直ぐに寝入ってしまう。

 夢の中ではセリアとの思い出を夢見ていた。

 楽しい日々を過ごし愛をはぐくんだ数ヶ月、エスタルに来てからもう一月が経っていたのを思い出して目が覚めた。

(早いな、もう一ヶ月経ったんだ、久しぶりにアルステルに行こうかな)

 学校の休みを利用してなるべく早く帰ってみようと思った。

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