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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 いくら泣き止もうとしても、後から思い出とともに涙が溢れてきて止めることが出来なかった。

 子供が一人、国を追われ襲われながらも必死に生きてきたのだ、普通なら何処かで挫折するなり旅の半ばで倒れていたりしてもおかしくなく、この世界のことを何も分からずにただ北へ、エスタルという国の学校へと進んできたのである。

 その生きていく知識はオルサから教わった事のみで、いきなり世界に放り出されて何とか生きてこられたのだった。

 陽太にとって生きる目標があったからこそ頑張って来られたし、どんなときも前向きにただ一つオルサの願い、それは陽太に魔道士になることを願い託した大好きなオルサの夢でもあった。

 なればこそ遠い南の国から一年近くもかけて来ることが出来たのだ。

 しかし魔道士になる夢はここからが始まりで、ようやくスタートラインに立ったに過ぎない、それでも陽太は一つの大きな試練を乗り越えられたことに感動してずっと泣いていた。

 陽太の試験は授業を受けていた生徒達も遠く校舎から眺めていた。

 途中試験の行方を授業を受けながら横目で見ていた者や、廊下に出て先生に怒られながら見た者など、陽太のことは噂が一気に連鎖して広がっていった。

「一年でここまで出来るのは素晴らしい、いい師を持ちましたね、普通はここまで出来る人は中々いませんよ、これからもっと自分の腕を上げていって下さい」

 デモス導師が泣いている陽太に声を掛けた。

「あ……、ありが……と……」

「バルート君、今日は手続きを済ませたら帰りなさい、明日からの予定も説明致します」

「……う、うん」

 陽太はしゃくり上げながら答えると、メイザスに付いていった。

 部屋に通された陽太はそこで入学金を支払い、学校の規則や明日からどの組みで勉強すれば良いのか説明を受けて、担当の教師と挨拶を交わしてから学校を出て行った。

 手持ちのお金が随分と減ってはしまったが、まだいくらか生活するぐらいは余裕があった。

 陽太は街に出るとまずは部屋探しに行き、借りられる部屋を探し回ったが何処も高くて到底今日から卒業するまで資金が持ちそうになかった。

「どうしようお金が足りないや」

 アルステルから通うことも出来きず、街の中をフラフラと歩いていると後ろから肩を叩かれてハッとして振り返った。

 そこにいたのは宿屋で別れたミサエルとその仲間だった。

「よう、学校には行ったのか?」

「あ……、う、うん」

「で、どうだったんだ、試験は受けさせて貰えたのか?」

「うん、合格したよ、明日から通えるようになったんだ」

 すると、ミサエルは嬉しそうに笑った。

「やったじゃねえか、俺と同じ学年って事だな」

「そうだね……」

「ん? どうしたんだ嬉しくないのかよ、元気ねえな」

「い、いや……住む所が見つからなくて……探してるんだ」

 ミサエルが仲間と目を合わせると、

「じゃあよ、俺について来なよ」

 ミサエルは陽太の手を取ると、引っ張って街中に消えていった。




「ここだよ、入れよ、馬はそっちに繋いでおいてくれ」

 町で言うと東側の大通りから外れた建物との間の細い路地へと入った場所に連れてこられた。

 薄暗い場所に陽太は怯えて、ここは何処なのとミサエルにしきりに質問するが、当の本人はいいからいいからと云うばかりであった。

 通された入り口から階段で地下に降りていくと並んだ部屋が幾つもあった。

 その一つの部屋に入ると、部屋の真ん中に置かれた卓と周りに椅子が五つ、それと勉強机が置いてあるだけだった。

「座れよ」

 ミサエルに言われて椅子に座ると、部屋を見渡した。

 机の上に置かれたランタンの明かりが部屋をぼんやりと照らしていた。

「ここは俺達の家なんだ」

 向かい側に座ったミサエルとその仲間が陽太を見ていた。

「この部屋が?」

「違う違う、ここの地下全部の部屋だ」

「あの部屋全部に友達が住んでるの?」

 それだとかなりの大人数だったが、地下に降りてきたときは物音一つしていなかった。

「まぁ、いまは俺とこのタッキーが……、まぁあと何人かは住んでることは住んでるが、たまにしか帰ってこない奴らだしほとんど二人で住んでるみたいなもんだ」

「なぁお前、何処から来たんだ?」

 タッキーとかいう奴が陽太に質問してきた。

 顔はなんとも含みのありそうな尖った目つきで、口元も口角を上げて歯を見せていて何だか嫌な雰囲気を醸し出していた。

「こいつは怖い顔をしてるけど、根は良い奴だから」

「おい、怖い顔っていうな」

 タッキーがミサエルに怒鳴った。

「え、えっとヴァンって南の端の国だよ」

「ふうん、南の端ねえ、俺は中央国から出たことねえから他の国なんて想像も出来ねえ、そこはどんなところなんだ?」

「えっと、森が広がってて高い山があるよ、あとは……海がずっと水平線まで見える、かな」

「あんま此処と変わらねえよな、海は見たことねえけど話ではでっかいんだろう」

 顔を近づけてきたタッキーの顔にランタンの明かりが照らされると、余計に怖い顔になったのを陽太はびくびくしながら見ていた。

「海は塩っぱい水で魚が沢山いるよ」

「塩っぱい水に魚が住めるわけねえだろ、がははっ」

 タッキーが大笑いをした。

(おきまりの反応だなぁ)

「……で、僕を此処に連れてきて何かあるの? 早く家を探さないといけないんだけど」

「だから此処に連れてきたんじゃないか、ここなら部屋も余ってるし学校も近いだろ、ここに住まないかって言ってるんだ」

 ミサエルが得意満面に言ってきた。

「え……」

 こんな所に住めと言われて陽太は困った。

 盗賊団の人達と仲良くはなりたくなかったし、此処に住んでいていざこざに巻き込まれてしまうのはもっと嫌だった。

「いや、僕は……もう少し探してみようかと……」

「エスタルは部屋借りるのも大変だぞ、なんせ世界の中心って言われてるぐらいだし金はいくらあっても直ぐに無くなっていくしな、学校に行くだけじゃ卒業する前に里帰りになっちまうぞ、少なからず働かないとここじゃ生きていけないんだ」

 痛い所を突かれた、それは陽太も思っていたことで、かなり減った資金で家賃と生活費を使っていくと多分一年も持たないだろうとは思っていた。

 まだ魔法を手に、職に就けるだけの実力もないのだ。

 今の陽太はただの田舎から来た餓鬼扱いだったので、エスタルで雇ってくれそうもなかった。

(仕事があるかどうかはまた探してみるとしても、節約はしていかないといけないのは本当なんだけど……、家賃は生活していく上で結構重要だよな、ここで浮かせるならこれ以上に無い話なんだけど、この人達がまだどんな人間かも分からないしな、でも……)

「ここなら、家賃はいらねえぞ、その代わりたまに俺達の手伝いをしてくれればいいだけだ」

 ミサエルの提案には魅力があったが、不安も含まれていた。

「……それって、人を殺すとかそういう危ないことなら僕は手を貸せないよ」

「はははっ、人殺しなんてしねえよ、なんで俺達が人殺しなんてするんだよ」

 タッキーがまた大笑いをした。

「違う、俺達は報酬目的で狩りや物探しをしてるんだ、これでもでかい仕事だと結構な金になるんだが、今は俺とタッキーしかいないから小さい仕事しか出来ないんだ、もし手伝ってくれるならもっとでかい仕事だって出来るんだ」

 ミサエルが笑ってるタッキーを制して説明をした。

「それってどういう仕事?」

「簡単に言えば依頼だな、そういう依頼が集まってる店があるんだよ、そこに行って出来る依頼を受けて成功すれば報酬が貰えるんだ、でかい仕事になればそれだけ危険な事にもなるかも知れないが報酬もでかいんだ」

(クエストか……ゲームみたいだな)

「俺が盗賊って言ったのは人殺しとか抗争してるとかの意味じゃねえよ、あいつらとはたまに報酬目的で取り合いになってた奴らなんだ、あいつらは人に危害を平気で加えたり色々と邪魔をしてきやがるからこの街じゃ嫌われてるんだ」

 ミサエルは陽太が勘違いしているのだろうと感じていた。

「じゃあ悪いことはしてないんだね」

「してねえよ、まぁあいつらを見たら手加減はしねえけどな」

 タッキーがニヤニヤと笑う。

「俺達も小銭ばかり集めるよりでかい仕事がしたい、手伝ってくれるなら部屋を貸すがどうだ?」

 盗賊ではないと言うことは分かったが、それでもその仕事をしていく上で危ないこともあるだろうと思ったので、もう一度念を押して答えた。

「分かったよ、その代わり危ないことはしないからね」

「任せとけって」

「おう、よろしくな」

 不安はあったが取りあえず部屋は此処にすることに決めた。

 陽太は空いている部屋を借りて掃除をし始めた。

 その日は掃除でくたくたになり、あっという間に一日が終わってしまった。

 初登校の朝、ミサエルに学校までの道案内もかねて一緒に登校していく。

「俺は光と風の勉強してんだ、バルートは何の勉強するんだ?」

 街を歩きながらミサエルが尋ねてくる。

「僕は水と光だよ」

「そっか、じゃあ光組みは同じだな……あっ光組みは人が多かったなぁ、同じ組になればいいけどな、学校は受ける授業が日によって違うから俺が休みでもお前の所は授業があったりするんだぜ、休みたけりゃ休んでも良いけど卒業試験に合格出来なけりゃ一年二年と卒業も遅れても知らないぜ、それでなくても他のやつより授業が遅れてるんだ、折角入ったのに一年二年卒業が伸びて最悪退学なんて事になったら意味無いぜ」

「そうだね」

 そう聞くと全ての授業を欠かさず受ければ最短で卒業出来るかも知れないと思った。

「卒業試験は二年目から秋と新年の二回あるらしいが、よっぽど腕がいいか天才でも無けりゃ合格なんてしねえから、普通なら三年で卒業出来るそうだぜ、それまでにやめていく奴が殆どだから二年経てば半分以下になるらしい、まぁそれだけ魔道士って名前に箔が付くって事だよな」

(二年か、長いなぁ)

「じゃあな」

 学校に入るとミサエルは自分の組みに向かって校舎に入って行った。

 陽太はそのまま教師達のいる部屋へと一旦行き、今日から勉強する組みに連れて行かれた。

 まずは水組みの教室に入る。

 組みに入る前からざわめきが通路に聞こえていたが、陽太が紹介されると皆ひそひそと会話をしていた。

 昨日の一件が既に皆に知れ渡り、しかも数少ない水を扱えると噂になっていた。

 組みの生徒は少なく十人ほどしかいなかったが、陽太は緊張して挨拶をすると指定された椅子に座った。

(今日から勉強だ)

 基本何も本や書き物はなく、実施経験が殆どだった。

 毎日瞑想から始まり属性の詠唱は教室に張り出されてあり、それを復唱して覚えていくの繰り返しだった。

 光組みにも顔を出したが人が多く、そこにはミサエルは居らず違う組みになったみたいだった。

 学校での勉強は陽太にとっては何年ぶりなのだろうかと懐かしそうに思い出していたが、思い出されるのはとても嫌な苛めのことばかりであった。

(良い思い出なんて小学校の頃ぐらいだな、中学じゃ殆ど学校行ってなかったし)

 この三年の間に学校では教われない経験を積んできて、今の陽太はこの世界の同年代と比べて大人っぽくなっていた。

(皆、何だか身体は大きいけれど子供っぽいな)

 中には足をばたつかせたり、騒いだりしたりと子供のように落ち着きがない生徒もいた。

 なんだかセリアを見ているようであった、大人になる年齢は低くても仕草や行動は子供みたいに無邪気そうだった。

(この世界じゃこれが普通なのかな)

 そんなことを考えながら授業を受けていた。

 初日だったからこの学校の授業方法を覚えるだけで一日は終わってしまい、久しぶりに長時間人の話を聞いたり瞑想をしたので結構疲れていた。

「今日もぐっすり眠れそうだな」

 帰りに晩飯を買って帰り部屋でゆっくり食べると直ぐに寝てしまった。

 ミサエルは陽太が帰った時には既に部屋にいたみたいで、タッキーと話をしてる声が聞こえていた。

 それから何日か平穏に学校にも通い、授業に熱心に受けることが出来てた。

 組みの人とも少しずつだが世間話をするようにもなって溶け込もうとしたが、初めは陽太の周りに人が来て、特別に入学試験をしたことをしきりに聞いてくる。

 だが陽太が遠い南から来たからと言うので受けさせて貰えたと言うと、関心を無くしたのかそれ以上しつこくは聞いてこなくなった。

 陽太も人に囲まれるのは昔を思い出してしまい、余り大勢の人に囲まれるのが苦手だったので、軽い挨拶や世間話ぐらいをされるのが一番居心地が良かった。

 半月学校に通ったある日、家に帰るとタッキーと出会い、部屋で話をする機会があった。

 いつもはここにミサエルも一緒なのだが、まだ家には帰ってきていないようだった。

 陽太は此処に来て初めてタッキーと二人で話しをするので、少なからず緊張していた。

「どんな感じだ、学校って面白いか?」

「いや、勉強しに行ってるから面白いというか……」

「ふうんそっか、まぁ俺は魔法より剣のほうがいいしな、ところでよ、お前いくつだ? いやミサと話してるのを見てて同い年なのかなって思ってたけど、どうも小せえから同い年とは思えなくてな、俺もミサと同じで十六なんだぜ、お前は?」

「ぼ、僕は十五だよ」

 誕生日を過ぎたばかりの陽太が答えると、

「なんだやっぱり年下か」

「…………」

 じろじろと陽太をタッキーが見ていた。

「な……なんか用でもあるの」

「ミサはああいう奴だから何とも言わねえんだろうけどよ、年上にはちゃんとケーゴ使えよな」

「え……」

「俺はそこんとこはちゃんとしてんだぜ、こういう仕事してると相手に舐められちゃいけないからよ、今度からちゃんとケーゴ使えよ」

 陽太には思っても見なかったことを言われて戸惑っていた、この世界に来てからそんなことを言われもしなかったし、オルサにも教わってもいないからどういう言葉が敬語なのかも知らなかった。

 自分の話してる言葉はそんなに悪い言葉使いなのか、それすらも考えもしなかったし相手も特に嫌な顔もしてこなかったから悪い言葉では無いと思っていた。

 陽太の頭の中が混乱して何が敬語なのか思い当たらず考え込んでいた。

「え……えっと、分かんないよ」

「分からない、ですだろ」

「えっと分からない……です」

「ケーゴが分からないのか、えっとだなまぁなんだそれはお前、自分で勉強しとけよ」

 タッキーが顔を真っ赤にして怒った。

「あう」

 ただ単に陽太に文句が言いたかったのか、それとも自分の方が上だと言いたかったのか陽太にはよく分からなかったが、此処に住まわして貰ってる身だったので反抗はしなかった。

 そこにミサエルが帰ってくると場の雰囲気がおかしいことに気づいてタッキーに聞いていた。

「ミサ、こいつ俺達より年下なんだぜ、ケーゴ使えって言ってやれよ」

「それは知ってるが別に俺は構わねえよ」

「何でだよ、此処はビシッと言っとかねえと舐められるだろう」

 ミサエルの反論にタッキーが文句を言った。

「バルートはそんな奴じゃねえし、あんまり怖がらせるなよ」

「ちぇっなんだよ、俺は駄目だからなちゃんとケーゴ使えよ」

「わ、わかった……です、僕もう寝るね、じゃあまた……です」

 陽太はおどおどしながら部屋に戻って行った。

(やっぱりだ、初めて見たときから僕のことじっと見てたから嫌な感じがしてたんだ、ああいう奴だったんだ)

 それから陽太は二人に会うといつも語尾に「です」を付けるようになった。

 ミサエルの方はそんな言い方しなくても良いと言ってはくれたが、タッキーがいつも目を光らせながら陽太の話に聞き耳を立てていたので直そうとはしなかった。

 陽太はお金さえあればこんな所を早く出たかったが、持ち金の事を考えると出るに出られなかった。

 ミサエルからはたまに簡単な依頼の仕事を一緒にして、小遣いを稼げるようにはなっていたが、それもその日の飯代で消えていくぐらいのお金にしか儲からなかった。

「はぁここの物価が高いんだよな、小遣いぐらいしか稼げないんじゃ此処から出て行けないや」

 寝台に寝そべりながらこの先の生活のことを考えていた。

 生活とは反対に学校では順調に上達はしていたから、資金難で学校を自主退学なんて事にはなりたくは無かった。

「此処に来てからすることが増えたな……、セリアはどうしてるんだろ」

 ため息交じりにセリアのことを考えていた。

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