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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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「よし、行こうか」

 朝早く馬車を引き海の町から離れていく。

 二股の道を今度は北に折れて首都のプラハに一度入って北西の街道に出なければならなかった。

 深い森の街道は日中は良いが陽が暮れて暗くなってからは通りたくはなかった。

 地図では二日ぐらいの距離があったからどうしても何処かで泊まらなければならない。

 途中に宿屋があればいいのだが地図には何も載っていなかったので見つからなければ野宿をしないといけなくなる。

 その為、海の町を出る前にたき火用の薪と食糧を買い込んではいるが、なるべくそうならないように朝早く出てきたのである。

「今日はどんなに頑張ってもプラハに着くのは無理だから一日は我慢してよ」

「……うん」

 セリアが陽太に寄り添い身体を預けながら答えた。

 二人共、この数日間で少し肌がこんがりと日焼けて褐色の肌になっていた。

 馬車は森の変わらぬ景色の中を駆けていき、同じ所をぐるぐる回っているのではと思う錯覚に陥りそうになって不安が募りながら日中走り続けた。

 結構走ったのに変わらない景色は妙に怖く、

「ああ、陽が落ちる」

 差し込む赤い光が今日の終わりを告げ始める、そろそろランタンを点けるか野宿の支度をした方が良いのかと迷っている内に、陽が完全に落ちて長い暗闇の時間が始まった。

「もう駄目だ、一旦止まろう」

 街道の真ん中で馬車を止めてランタンに火を灯した。

「取りあえずここじゃ野宿も出来ないから、もう少し先に行ってひらけている所がないか探してみよう」

 セリアは辺りを気にしながら頷く。

 再び走り始めた馬車は速度を緩めて慎重に進んでいくと、

「セリア寒くなってきたから毛布を被りなよ」

「うん、ヨータは?」

「僕はいいよ」

 セリアは後ろの荷台から毛布を持ってきて体に巻き付ける。

「暗いよヨータ……」

「まって、もうすぐだから」

 しかし行けども野宿出来そうな場所が見つからず、完全に陽が落ちてから一時間ほど走った所でようやく道幅の広くなった場所を見つけた。

「ここにしよう」

 急いで馬車を止めてランプの明かりを頼りに薪を積んで火を起こした。

 セリアにポムを木に括り付けていてもらっている間に食事の支度なども行った。

 とは言ってもパンと干し肉ぐらいなものであったが、お腹のすいていた二人は無言で火を見ながら完食した。

 お腹が満腹になれば眠くなるのが道理で、怖さも眠気には勝てずにセリアの首が上下し出す。

「セリア、まだ寝ちゃ駄目だよ、寝るなら荷台で寝ないと」

「ここがいい、暖かいもん」

「しょうがないなぁ、じゃあ待ってよ」

 毛布をたき火の側に敷いてセリアを寝かせようとした。

「んんっ、ヨータも」

「僕はたき火の番をしないと、甘えん坊だな」

 陽太は毛布の上に座ってセリアを自分の胸に抱きよせるとセリアは安心顔で陽太に身を預けて眠った。

 たき火に薪をくべながらじっと火を見つめていた。

(弾ける薪を見ていると夢を見ている感じがするな、まだ意識の中に自分の部屋でいる感覚が残っている、あれからもうすぐ三年か、今だと僕は中三なんだよな、受験勉強真っ最中のはずなのにこんな森の中で女の子と寝ているなんて……、不思議と焦りや不安を感じないのは何故だろう、親は心配しているのだろうかと普通なら思うとこなんだろうけど意外と苦にもならないな、もう僕自身あそこではただ生きてるだけの引きこもりだったし、学校なんていい思い出もない、それなのにここでは僕に夢見る人もいて、信頼して好きと言ってくれる人もいる、僕の本当の世界はどっちだろう……)

 セリアの髪をそっと撫でる、柔らかく綺麗な栗毛はすべすべと触っていて気持ちが良かった。

(セリアには頼れる人がいなくて、女の子だし不安でしようがないんだろうな)

 そう思うとセリアが自分と一緒にいたいといってくる気持ちがよく分かる、共にこの世界では孤独の身であったから余計にお互いに惹き付けられたのかも知れなかった。

 ならばこそセリアを何処かに置いて行くときは、安心して暮らせるように手配をしてからでないといけなかった。

(どの国ならセリアにとっては良いのかな、僕自身、国のことはよく知らない、法律、宗教や風習など国のしきたりなんかまるで分からない、このあとプラハに行けば残るはアルステル国とエスタル王国しかないんだ、思い切ってエスタルで一緒に暮らすのも良いかなとは思うけど魔法の学校だし、もしかしたら修行とかいって長い間何処かで生活するとかあるのかな、それだと大きな国で一人だと危ないかな、もっとのんびりした……、ああっ駄目だ色んな事考えちゃうな)

 考えれば考えるほど細かいことが気になってしまって考えがまとまらなかったので、このことはもう少し保留にする事にした。

「やばっ、火が消えちゃう」

 慌てて薪をくべて火力を上げた。

 パチパチと新たに薪の爆ぜる音と共に火が大きくなっていく。

 セリアは陽太が自分の身の上で悩んでいるとも知らずに、安らかな寝息を立てていた。




「ヨータ、ヨータ」

 揺り起こされて目を覚ました陽太はセリアに挨拶をした。

「もう朝だよ」

「ん……うん、わかったよ起きるから」

 起きようと意識はあっても目が開かない。

 何度も目を擦って無理矢理目を開くと、セリアが火を起こして干し肉を炙っていた。

「もう出来るから、まってね」

 セリアは陽太にパンと水を渡してせっせと朝食の支度をしていたようだった。

 おままごとみたいに拙い仕草で肉を焼こうとしていた、何度もひっくり返して様子を見ては焼けてない所はないかどうか入念に確認をする。

「セリア干し肉だからそんなに焼かなくても大丈夫だよ」

「いいの、黙ってみてて!」

 仕方なく肉が焼き上がるまでパンと水でお腹を膨らせていた。

「出来たぁ、はい食べて」

 受け取った干し肉にかぶりついた。

「……あっ、焦げてる……」

 口の中に苦さが広がって陽太が嫌な顔をした。

「えぇそんなことないよ、ちゃんと焼いたもん」

「柔らかくはなってるけど、ちょっと焼きすぎだね」

 セリアは納得しておらず頬を膨らませて睨んでいた。

「ほら怒らない、かわいいお顔が台無しだよ」

 陽太が笑って見せた。

「明日から私が肉焼くからね」

 顔を近づけて言って来る、そこに陽太がキスをするとセリアが怒った。

「私が焼くからね!」

 誤魔化されているのではと思ったのか、もう一度陽太に強く言ってくる。

「わかったよ、明日からお願い」

(自分からキスしろとか言ってくるのに、されると怒るなんて……ひどい)

 朝からセリアのご機嫌を取りながら食事を済ませて旅程の続きを再開した。

 昨日は少しばかり遅くまで走ったので、余裕を持ってプラハに向かうことが出来る。

 森の中なのでどの辺りまで来ているのかは分からないがそう遠くはないだろうと思っていた。

 残りの行程を走破すると昼過ぎに街道からプラハが見えてきた。

 町は森の中にあり、外からは見えにくい森の要塞になっていた。

 低い建物で周りの木より高いものはなく、代わりに台形で幅の広い城が中央に建ち、幾層にも建てられた壁が城下町とわけ隔てられていて侵入されにくくなっている。

 森自体も敵からの防壁として進軍されにくくするため手は加えられず街道だけが唯一のルートになっている。

 南と北に抜けるだけの街道があるだけで戦時中は道を封鎖すれば防衛しやすく大軍で攻められないので城からの弓で十分防衛可能となっていた。

 太い丸太の柵で町の周囲を取り囲み、物見矢倉には兵士が立っている。

 陽太達は南の入り口で取り調べられてから中に入ることが出来た。

 町中は意外にも木材ではなく石造りになっていて他の町にいるのとかわらない気分だった。

「意外だね、もっとなんか木の家が多そうだと思ったけどさすがは首都だね、森の中だと火で一気に燃えてしまうのを防ぐ為に何処かから石を持ってきたんだね」

「珍しいの?」

「違うよ、こんな森の中にこれだけ沢山の石造りの建物があるのが凄いなって、何処からこれだけの石を集めたのか、考えただけでも大変な労力だよ」

「ロー……リョク、ヨータは難しい言葉ばかり言うね」

 セリアはたまに陽太の言う言葉に首をかしげていた。

「えっと、そうだねここに大きな石を持ってくるのは大変な仕事だねってこと」

「それならわかるよ」

 長い通りにあった宿屋で休憩がてらに昼寝をして夜まで眠った。

「首都ってぐらいだし変わった食べ物があるのかも知れないよ、探しに行ってみよう」

「私はお肉が良い」

「肉なら何処でも食べれるじゃない、僕も嫌いじゃないけどね」

 プラハの町は何処も賑わっていて、どの通りもメインストリートと呼ばれていてもおかしくないぐらい、通りは人がひしめきあって繁盛していた。

 森の中で生活してる人達には夜の喧騒が楽しみで毎晩街に繰り出して大人も子供も大いに騒いでいた。

「見てあそこ、大きな動物がいるよ」

 露天には食事だけではなく変わった出し物もあり、珍しい異国の動物を売っていたり、工芸品からいかがわしい物まである。

 二人は楽しく見ては驚いたり、顔を赤らめたりしながら街を練り歩いていても誰からも見咎められず、子供二人が安心して遊ぶことが出来た。

「あれが食べたいよ、もうお腹ぺこぺこだよ」

 セリアが大きな肉の塊を焼いている店を見つけて陽太を誘った。

「じゃあそこにしようか」

 露天の店先の椅子に座って二人分の肉料理を頼んだ。

 出てきた料理は分厚く切った肉に色んな香辛料で味付けしたものだったが、セリアは目を輝かせて一口食べてみると、満面の笑みを浮かび上がらせた。

「美味しい」

 陽太も一口に切った肉を放り込んで見ると、じゅわっと肉汁が溢れてスパイスが効いた辛さが癖になりそうな感じがした。

「これは良いね、柔らかいし香辛料がまたいい味がする、辛いだけじゃなく香ばしいのが食欲をそそるね」

「こんなお肉初めて食べた」

「いつもは干し肉ばかりだしね」

 お腹が減っていたセリアは残さす完食した。

「腹ごなしに見て回るかな」

 ぐるりと街を散策しながら目に付いた露天に立ち止まっては商品を見て、二人で笑い合ったり驚いたりして街中を練り歩いていく。

「あそこに占い屋さんがあるよ、行ってみたい」

 セリアが興味津々で占い屋に立ち寄った。

 この時代はどんな占いをするのか、陽太も興味深そうに後ろからのぞき込んでみた。

 ローブを被った老婆が何の骨かわからない物を何本も持って、卓の上で骨を転がしていた。

 卓の真ん中には円が描かれていて何度も骨をその上に落としていたが、それで何か分かったのか占い師の老婆ががセリアを見て言った。

「貴方の未来は二つの人生が見えるよ、今の幸せか先の幸せかどちらにするかは貴方次第、それが貴方の未来の行く末を決めるよ」

(なんだ、やっぱりこんなもんか、どっちとも取れる内容だ)

「ねぇ次はヨータやってみて」

 セリアが言って来たが陽太は断り帰ろうとするがセリアがしつこくやってと言うので、仕方なく老婆の前に座った。

 老婆は同じように何度も骨を台に転がして占うと、汗を垂らした顔を陽太に向けた。

「あんたは……何者だい、こんなの初めてだよ」

「え?」

「あんたは遠い将来戦いに巻き込まれるよ、それも重大な事にね、けどあんたの未来は輝かしい物になるはずだよ」

「へぇ、なんだろうね」

 陽太は話半分に聞いていた、戦いなんて喧嘩も戦争も同じ戦いって事だし、勝負っていうのも戦いの意味にもなるから、一体どれのことだろうと思った。

 今の自分がそんな物騒な事に関わろうとは思わないし、元々がそんな性格でもないから危ない事なら逃げれば良いだけだろうと、縁遠い話にしか聞こえなかった。

「有り難う、お婆さん」

 卓にお金を置いて店を離れていった。

「占いなんてあんなもんだよ、当てにならないね」

「私は今の幸せと、先の幸せだっていってたよ」

「どっちでも幸せになれるんだから良かったじゃ無い」

「良いこと……はヨータと結婚することかな」

 セリアが目を輝かせて陽太を見た。

「それはもう良いことというより、決まり事だよ約束したんだし」

「そっかぁ、良かった」

 セリアははしゃいで喜んでいた。

「ちょっとセリアこんな所ではしゃいじゃ危ないよ」

 セリアの腕を掴んで抱き寄せた。

「はぐれちゃうよ」

「うん」

 陽太の腕に手を回して宿に帰るまでずっと笑っていた。

 お城の手前まで来たが兵士が入り口を固めていて入る事が出来なくて、入り口の奧にも大きな扉がありそこにも兵士がいたので中の様子も見ることも出来ずに通り過ぎていった。

 宿に帰った二人は手に荷物一杯のお土産を買っていた。

 結局食べたのは肉だけで、帰ってからゆっくり食べようと色々と買ってきたのである。

「ねぇ何から食べる?」

「これはどうかな、この野菜とか包んであるパン」

 薄く伸ばしたパンで野菜や肉を包み込んである食べ物を手に取りかじりつく。

「うん、これも美味しいよ」

 半分をセリアに渡してあげた。

「結構買っちゃったね、傷みそうなのは朝食べて日持ちするのは残しておこうか」

「うん、おにゅくふぉのくして……」

「食べてからしゃべりなよ」

 セリアの口の中が空になるまで待った。

「ぷはぁ、お肉のやつは残しておいてね」

「これかい? わかったよ、それ食べたら湯浴みして寝よう、明日も朝早いよ」

「ねえヨータ、一緒に湯浴みする?」

「じょ……冗談でしょう、僕は先に行ってくるからね、ちゃんとそれ食べておいてよ」

「まっふぇ」

 急いで陽太がタオルを持って湯浴みに行くと、セリアもパンを急いで口に詰め込んだ。

 その夜も何かとドタバタ劇があったが、床につくとぐっすりと二人は眠った。


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