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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 二人の静かな誓いから一夜明け、此処でもゆっくりと数日間過ごした後、ミーハマットの首都プラハに向かい旅を続ける。

 新たな気持ちで二人は仲良く寄り添いながらの旅路に変わっていた。

 密林の国ミーハマットは森を利用して町が作られていて、次に向かう町は街道から時々見えていて、山を利用した巨大な町を垣間見ることが出来た。

 山肌に建つ家々は急な坂に木々で足場を組み、うまい具合に建てられていて、見張りの役目も担っていた。

 頂上にはどうやって運んだのか大きな石で造られたお城が森一面を見渡せるほど高くそびえ建っている。

 そのお城の天辺には光輝く太陽の様なモニュメントが掲げられ、何処からでもそれが拝めるようになっている。

 なにかを信仰しているのか、それともただ単に目印の役目なのかは分からなかったが、陽太達はそれが見えていると安心して街道を進められたので有り難かった。

 天気は快晴で木々の隙間から木漏れ日のようにお城のモニュメントが反射する光が差し込んでくる。

「日中には楽に着けるね」

 そう言ってはいたが、一本道の街道を延々と進んでいたのに町の麓に着いたのは二日後の夕刻だった。

「あんなに近くに町があるのにこんなに時間がかかっちゃった」

 曲がりくねった街道からは目の前にあるオファラムの町に着きそうで着かず、道を間違ってるのか錯覚するほどの距離を歩かされた。

 近くに来て分かったのは麓は深い谷になっていて、そこを降りていくのに崖を何度も曲がりながら下っていかなくてはいけなかった。

 これだけの深い谷ならば敵に攻めてこられても一気に襲われず、逆に敵は丸見えなので弓などで襲撃することも出来るだろう。

 何よりこの町は崖を見下ろすことが出来るのが強みで軽々と矢が届いてしまう、敵は逃げることも隠れることも出来にくく安易に攻め落とせる国では無いと見て取れた。

「自然の要塞だね」

「?」

「ううん、何でも無いよ」

 麓の入り口から急な坂と階段が上へと続いていてポムには馬車を引っ張って登ることが出来なかったので、麓の馬小屋に一旦預けて二人で重い荷物を持って登っていく。

「これはきついね、セリア大丈夫?」

「足が痛いよ」

 途中休憩しながら何とか登り切ると、山を平坦に削った広場に出た。

 そこはどの街とも同じような見慣れた風景で、地面は石畳が敷かれてどの町にもある店が並んでいる。

「平地の街と変わらないね」

 そこから登って行くと途中に広い平坦な場所に出る。

 そこには沢山の街並みが広がり、お店や家々が立ち並んでいた。

 そこから城に行く道の前の門には兵士が警護していて一般の人は通れなくなっていた。

 二人は宿に見つけると街を見て歩いた。

 ここでは森にいる動物の肉がそこいらで売られていて、試しに食べてみようと適当に選んだ店に入って見ると、店内は煙がもうもうと立ちこめていた。

 台所では店主が大きな肉を焼いていて、焼けた肉を包丁で切っては皿に乗せてお客に出していた。

「良い匂いだね、どんな料理だろうね」

 漂ってくる匂いは食欲を掻き立てられ、陽太は二人分の肉と飲み物を注文した。

「何の肉だろう、香ばしい良い匂い」

「服に匂いが付かないかな」

 セリアはお気に入りの服に匂いが付くのを気にしていた。

「良い匂いだし付いても良いじゃない、いつもこの香りが楽しめる」

「ぶう、駄目!」

 頬を膨らませて怒って見せる。

「ほら、来たよ」

 背の高い男の店員が大きなお皿を二つテーブルに持ってきてくれた。

「へい、お待ち」

 元気で活きの良いかけ声とともに置かれた肉は陽太の思ってたよりも大きく、お皿いっぱいに乗っていた。

「うわあ大きいね、これで一人分なんだ」

 身体の小さい陽太には二人分に見える肉に驚いていた、何よりこの世界の人達は身体が大きかったからこのぐらいで丁度良いのだろう。

 喉を鳴らして一口食べてみた。

「うん、見た目より柔らかくて油が甘い、これは美味しいよ、これならぺろりと食べられそうだ」

「じゃあ残したらお願いね」

「うん、任せて」

 陽太は美味しいと連呼しながらむしゃぶりつくように自分の皿を平らげ、セリアの残ったものも軽く平らげてしまった。

 食事の後に見て回った店には装飾品が置いてあり、セリアが色々と物色しているのを見てあることに気づいた。

 セリアが品々を見ている間に陽太はそっとあるものを購入していた。

 セリアは特に欲しい物はなく、一通り店の中を見て回ると外に出てきた。

 既に外で待っていた陽太に宿に帰ろうと言うと、

「ちょっと帰る前にあそこへ行ってみようよ」

 景色が見える広場があったので陽太はそこにセリアを連れていった。

 柵ごしに見下ろすと断崖絶壁で、眼前にはかなり低く見える森が広がっている。

 今日は満月で明るく地上を照らしていて遠く地平線は砂漠だろうか綺麗に空との境界線が引かれていた。

「ここからでも良い眺めだな」

「こんなに高いところにいるのに、星はまだずっと上にあるね」

「そうだね、空を飛んでもまだまだ上にあるからね」

「人は空なんか飛べないよ」

 変なことをいっている陽太に笑った。

「鳥さんみたいにもっと高く飛べたら届くかな」

 セリアが手上げて空を掴む仕草をした。

「鳥でも無理だよ、もっともっと上の方にあるんだから」

「どうして分かるの、鳥さんだったらあの星に止まって休めるかも知れないよ」

 セリアが空に手をかざして、また掴む動作をする。

「ねぇ、セリアこっち向いて」

「何?」

 体を陽太に向けたセリアは笑っていた。

(本当に可愛い、こんな僕を慕ってくれてるなんて夢のようだ)

 ローブの袖から取り出した首飾りをそっとセリアの首に掛けてあげた。

 驚いたセリアがじっと首飾りを見ている。

 紐に通した先には大きな緑の石がぶら下がり右側には小さい赤が左側には青の石が三つずつ通されていた。

 簡素ではあったが陽太はこれを婚約指輪代わりに渡した。

「指輪じゃないけど、婚約の証だよ」

 ゆっくり一語一句丁寧に詰まらないように言った。

「こん……やく?」

「えと、つまり結婚を約束したって証だよ、ほらみて」

 もう一つ袖から同じ形のものを出してきた、それは緑の石では無く黄色い石だったが同じく両端には青と赤の石が付いている。

「同じものをお互い持つのが夫婦の証だよ」

 そういって自分の首に首飾りを掛けた。

 セリアの顔が笑いとも泣いてるともいえない表情に変わり、陽太に抱きついて顔を埋めてきた。

「ヨータ、ヨータ……」

 何度も陽太の名前を繰り返し呼んでくる。

「これをちゃんと持って待っててよ、僕は約束するからね、きっとセリアをお嫁さんにするって」

「……うん」

 セリアは寂しくもあったが、陽太を信じようとして文句は言わなかった。

 前まで離れたくないと頑なに言っていたセリアだったが、少しずつ今の状況を受け入れているようである、陽太とて母親を亡くしたセリアを放っておきたくはなかったし、落ち着いてこれからの生活が出来るようにしてからエスタルに向かうつもりであった。

 二人が将来の誓いを立てていた側でもう一組の男女が景色を眺めていた。

 背の高い細身だが筋肉の発達した男と、女の方は頭一つ半は低かったが遠目でも分かるぐらいの綺麗な銀髪を後ろで括り、横顔は凜として美しくはっきりした目鼻立ちだがどの部位も強調しておらず聡明さを称えている。

 二人は並んで景色を見ながら話をしているようであった。

「ですが、姫様!」

 男が声を高く叫んだ。

「しっ、その呼び方はやめてって何度言えば……」

 と、女が周りを気に掛けて叱った。

「……ですが」

 男は急に声を潜める。

「もう今後、その呼び方では返事しないわよ、私のことはマールって呼んで」

 二人が何かしら言い争いでもしているのかと陽太は気になってみていると、それに気がついたセリアが陽太の見てる方に顔を向ける。

「ヨータ……女の人ばかり見てる」

「え? いや、違うよ、喧嘩してるのかと思ってみてただけだよ」

 しかし、セリアの方は今約束したばかりなのに他の女性を見ている陽太に怒っていた。

「違うよ、本当だってば」

 セリアが陽太から離れて宿に帰ろうと歩いて行き、その後を追いかけて何度も陽太は謝った。

 陽太の真剣な謝罪に振り返ったセリアが目を閉じて陽太に顔を向けてきた。

「え、なに?」

「……ん、してくれないと許さない」

「こんなところで?」

「早く」

 夜といっても人がいないわけでもなく、恥ずかしく思いながらもセリアの言うとおりに肩を引き寄せてキスをした。

 なんだかセリアが元気になったのは良かったが、積極的に甘えてくるようにもなったなと感じていた。

 別段それが陽太にとっては嫌という事では無かったのだが、陽太にも恥ずかしさはある。

 キスをし終えると急に笑顔に変わるセリアに、参ったなと苦笑いを浮かべながら陽太は手を繋いで宿に帰って行った。

 その夜は寝台に潜り込んできたセリアが甘えるように陽太にくっついてきて、仕方なくそのまま一緒に眠った。




 朝起きたとき隣にはセリアの姿は無く部屋にもいなかった。

 窓に顔を向けると外は薄暗く、湿った風が部屋に入り込んでくるのを肌で感じていた。

「何処行ったのかな、雨が降りそうなのに」

 寝台から出て身支度を整えていると、部屋の扉が開きセリアが盆に食事を乗せてよろけながら運んできた。

「ヨータおはよう、食事持ってきたよ」

「おはよう、今日も元気だね」

 二人で食事をしながら今日の予定をセリアが聞いてきた。

「今日は曇ってて今にも雨が降りそうだから街を出るのはやめて、必要な物を雨が降る前に買いに行っておこうかなって思ってた」

 パンを口に運びながら答える。

「じゃあもう一日泊まる?」

「雨次第だけど遅くまで降るなら明日に出発になるね」

「じゃあ、早く買い物行こう」

 セリアは急いで食事を喉に流しこもうとしていた。

「そんなに焦らなくても、ゆっくり食べなよ」

 雨が降り始めたのは昼前で午後には本降りに変わり、霧のように外は真っ白になって部屋中に雨音が響き渡ってうるさい。

 陽太は買い出しで地図を購入していて、それを見つめながら旅のルートを考えていた。

 セリアは陽太にもらった首飾りを眺めながら、時々ニヤニヤと笑みをこぼしている。

「ねえセリア、ここのオファラムの北部に町がありそうだね、少し東に行くけどこの町からなら海が近いよ、行ってみない?」

「海行くぅ」

 セリアは起き上がって陽太の背中に飛び乗ってきた、ふわりとセリアの匂いが陽太の鼻腔をついた。

「あれ、髪伸びてきたね、こんなに長かった?」

 セリアのたれた髪の毛が陽太の顔をくすぐっていた。

「結構伸びたかな、いつも括ってたしローブで隠してたからね、ヨータも伸びてるよ」

 頭をまさぐってみて手でさわってみると確かに伸びている、

「私、髪切ろうかな」

 髪を括っていないセリアは珍しく、綺麗な直毛は肩甲骨まで伸びていた。

「綺麗だね、何だか大人っぽいよ」

 大人と言われてたのが嬉しかったのか、

「じゃあ伸ばそうかな」

 と、照れながら髪をいじくっている。

 セリアと出会ってもう一ヶ月以上は経っていた。

(のびた髪だけでこれほど女性っぽく見方が変わるなんて、女の子は凄いな)

 陽太はセリアを見ているだけで心が落ち着いてとても居心地が良かった。

 その日二人は何気ない話題を語り合いながら過ごしていた。

 雨は翌日には晴れていて日差しの良い空に変わり、青々とした綺麗な空になったのは良かったが、昨日の雨のおかげで蒸し暑く、濡れた地面からはゆらゆらと蒸気が昇って見えている。

「うわぁ凄い熱気だ、今日は蒸し暑いよ」

「じゃあ服着替えよ」

 陽太が麓の馬車で待っていたら階段を降りてくるセリアをみて驚く。

「どう?」

 セリアはマントもローブも脱いで、薄い布のシャツに革のスカートだけの涼しそうな格好をしていた。

「気持ち良さそうな格好だね」

 セリアが胸を張って服を見せてくると、うっすらと膨らんだ胸を見て陽太は照れてしまった。

「行こっ」

 セリアの方はまだ男の子にそのような目で見られることに気にもしていないらしく、屈託の無い笑顔を陽太に向けていた。

 ぐるりと山を沿うように麓の道を進んで、街道に出る北側の崖を登っていく。

 街道に入り北に進むと途中で分かれ道に出くわした。

 左に行くとプラハ方面へ、だが昨日セリアに言ったとおり海に行くために右の道に馬首を向ける。

 相変わらずの森の中だったがかえってそれが暑さを和らげてくれていて、道のりは長かったが楽に海沿いの町まで行くことが出来た。

 町に着いたのは二日後で、天高く昇った太陽がきらきらと海面を照らしていて宝石のように色とりどりの光を放っていた。

 海の近い場所に建てられた石の町は、漁業で生計を立てているみたいで、家の壁には網を干している所が多く、今日の漁は終わったのか玄関先で夫婦一緒に取ってきた魚をより分けている姿をちらほらと見かけた。

 海に向かってなだらかな坂に等間隔で家が立ち並んでいて、高い建物が殆ど無いため何処からでも海が一望出来る。

 坂から見える町はそれほど大きくも無かったが、一応それなりの宿泊施設はあるみたいで、現地民ではなさそうな人達が所々歩いているのを見かけた。

「わああぁ海だあ」

 セリアが海を見て喜んだ。

 森を出て一気に開けた景色はライトブルーの素晴らしい景色だった。

 天候に恵まれ海岸の海の色は薄く透明度が高くて、坂の上からでも海の底が丸見えだった。

 一面に広がる遠浅の海を見て、今すぐにでも飛び込みに行きたい気持ちを抑えながら、まずは宿屋探しをする。

「海に近い方が良いよね」

「うん、早く泳ぎたい」

 坂の途中から砂地に変わってきて馬車の進みが悪くなったので、仕方なく近くの宿屋に泊まる事にした。

「ここからでもそんなに遠くは無いから良いよね」

 二階の部屋に入り荷物を置くと、セリアはさっそく海に行こうと誘ってくる。

「待って、大事なものだけは持っていかないと」

 お金を懐にしまい込んで、あとは体を拭く布を肩に掛けて出て行った。

 陽太もマントとローブは脱いで布地の服だけになった。

 水着なんてものはないからこのまま入るしか無いので、なるべく濡れる物を少なくして身軽になっていた。

 それにこの天気なら上がった後でも直ぐに乾くだろうと思っていた。

「ねえ、あれ何かな」

 セリアの指指す方向に目を向けると、遠く海の沿岸に飛び跳ねる巨大な生き物がいた。

 何かは分からないが遠目で見えるぐらいの大きさなら、かなりの大きな生き物だろう、この時代なら恐竜と言えるものだがあれが何かまでは分からない。

「大きな生き物だけど、かなり遠いから砂浜の近くで遊ぶぐらいなら問題無いよ、あまり深い所にいかないようにね」

 陽太達が砂浜まで降りてくると木陰に手荷物を置くと、裸足になって海に走って行く。

 砂浜には漁業が終わった船をかたづけている町民がいる程度で人は少なく、伸び伸びと周りの目を気にせずに泳げそうだった。

「ほらほらヨータ、冷たいよ」

 きゃっきゃと騒ぎながら膝まで水に入っているセリアが陽太に水を掛けてくる。

「うわっ塩っぱい、口に入ったよ」

 セリアはそれが可笑しいのかずっと笑っていた。

 陽太は足首まで入って冷たさを感じていると、まるで初めて海に入ったような新鮮な気分になった。

「気持ちいいな、それに砂がサラサラだから余計に気持ちがいいや、結構砂地が続いているんだな」

 透き通って見える場所まで砂が積もっていて余計に海の中が見通せている。

「ねえセリア」

「何? きゃあ」

 セリアを持ち上げて海に放り投げた。

「あはは、お返しだよ」

「ヨータいじわるした」

 水に浸かって服が濡れてしまったので吹っ切れたのか、セリアが全身を使って水を陽太に掛けてきた。

「うわあ、やったな」

 お互い水を掛け合ったり泳いだりして小一時間遊んだ。

 疲れて木陰で寝転がって服を乾かす。

 久しぶりに遊んで身体中に気持ちの良い疲れがやってくる。

「これは明日筋肉痛確定だ」

 隣で気持ち良さそうに風を受けながらセリアが眠っている。

(本当、元気になって良かった、でも僕もそろそろ自分の事も考えていかないといけないんだよな、当初の目的通りエスタルで魔道士になるための学校に入って立派な魔道士になること、本当なら元の世界に帰ることが第一だけど何も手がかりが無い状態でじっとしてるわけにもいかないしな、魔道士に成ることは嫌じゃないし憧れだったしな、オルサみたいな強い魔道士になれればいいな、それに……セリアと一緒になるって約束もしたんだ、元の世界に帰ったらこんな出会いなんてないだろうな……)

 自分がここの住人ではない事と、この世界にいたいと望むことの葛藤が生まれてきていた。

 もし自分がオルサに会わず、旅に出ることもしないであのまま森の中で生きていく為だけに生活をしていたら、元の世界に帰りたいと思っただろうと陽太は想像してみた。

(何故僕はこの世界に来たのだろう……)

 その考えだけが常に陽太にまとわりついてくる疑問だった。

 熱い日差しに陰りが見え始め、海の色があかね色に変わり始めた時間になると、起きてきたセリアと宿屋に戻った。

「ヨータ、明日も海に行く?」

「いいよ、セリアが望むなら」

 この町で二人は数日間、海での有意義な時間を過ごした。

 ここでの旅は心身共に充実した日々を過ごせて、二人の仲を深め合うことになった。


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