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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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13

 サンで数日間過ごし、必需品の買い出しが終わった後、昼寝をしてからその日の夕刻に宿を出て行った。

「サン国の地図を買ったから何処に休める場所があるか分かるし、次のミーハマットまでは楽に行けるよ」

 その地図を見てもサンという国は全てが砂漠にあり縦長な領土を持っていた。

 四つの町で形勢され国境というのは国同士が接していないため、砂漠に入ればそこはサン国みたいな曖昧さがあった。

 サンの町から北にあと二つの町があり、一つは街道をそのまま北上するとあったが、もう一つの町はその途中に街道から東に折れて内海のほうに行かなくてはなかった。

 陽太達は勿論寄り道するつもりもなく、そのまま北のミーハマットに向かうつもりだ。

「次の町まで五日ぐらいだね、えっとダクトって町みたいだね」

「うん、行こう行こう」

 セリアは足をばたつかせて隣に座りながら、お気に入りの赤い服にローブを着ていた。

 馬車も屋根の布を新調し熱くなっても馬車の中で休めるようにしてあった。

 町から出るときは兵士に荷物を調べられたが特に注意もなくすんなりと出ることが出来た。

「早くサンの国を抜けたいね、とても大きくてもう少し見て回りたかったけど、もう砂漠は飽き飽きだよ」

「だねぇ」

 他の国と違い、国を渡るというより突き抜ける感じで横断するまで二週間以上は掛かるぐらいの距離がある。

 そのほとんどが砂漠で、熱さと寒さの両極端な気候は体調を崩しやすく病気にでもなれば医者のいない場所では命とりになる。

 街道を走っている間に幾つもの動物の骨を見ていて、そんな結末にはなりたくはないと町に入れた時はとても達成感があった。

 それだけ砂漠での一つの町の移動が大変で危険を伴うものだった。

(砂漠の人々が簡単に自分達の町を捨てることが出来ないのがよく分かるな)

「飛ばすよ、疲れたら後ろで寝ても良いからね」

「わかった」

 セリアはまだ寝る様子もなく空を眺めていた。

 旅程は相変わらず夜に移動だったので毎日星を一緒に眺めながら、陽太はわずかながらの知識で星座を教えてあげていた。

 セリアはそれを興味深く、星に名前があるんだと驚いていた。

 それ以来、セリアは星を見ては何の星だろうと陽太に聞いてくるようになっていた。

(もっと星座を覚えとけば良かったな)

 こんなシチュエーションが来るなんて夢にも思っていなかった陽太は、今更ながら後悔してもしようがなかったのだが、少しでもセリアに気に入られたらなと必死に頭の中で思い起こしては教えてあげた。

 一緒にいる時間が長くなるにつれてセリアのことが好きになってくる。

 顔立ちも良く素朴な性格に魅力のある笑顔は陽太を惹き付けた。

 この先、大きくなればさぞかし美人になるだろうと思わずにはいられないと、陽太はいつもそんな想像をしながら旅を重ねていた。

 砂漠にも慣れてきたと感じてきた頃にはサン国の旅も終盤に近づいてきていて、シルエットの町の中から空にぼんやりと明かりが漏れているのが見えた。

「着いたよ、あれがダクトだね」

 セリアもポムも元気で何事もなくここまで来られたのは幸いだった。

「今夜は町で眠れそうだね、最後の砂漠の宿だから豪勢な食事にしよう」

「私、私ね白いパンが食べたい、一度で良いから食べてみたいの」

 ご馳走と聞いて思いついたのがパンだなんて陽太は不思議に思った。

「その白いパンは何か特別に美味しいの?」

 気になって聞いてみる。

「食べたことないの、でもお母さんが柔らかくてふわふわと甘いパンだって言ってたよ」

「ふうん、白いパン……か」

 陽太には特に珍しく感じなかったが、確かにオルサと食べていたパンは黒くて固かったからいつもスープに浸して柔らかくしたり、間に水気のある物を挟んで焼くと外はカリカリ中はとろりとなって美味しいと感じていたが、言われてみれば柔らかいパンはまだこっちでは食べていないなと思った。

「僕も食べてみたいな、町に行ったら探してみよう」

 二人がダクトの町に入りって宿を探し終えて食事にありつけたのは、すっかり夜更けになっていた。

 眠い目を擦りながら食事をするセリアに、

「時間が遅かったね、今日はもうこれ食べて直ぐに寝よう、明日ゆっくり町を見て歩こうよ」

「ふああ、眠いよ」

 セリアは大きなあくびをしながら口に物を運んでいた。

 陽太は食事もそこそこにして、首を上げ下げしているセリアをおんぶすると宿に戻り寝かしつけた。

 陽太は窓から空を眺めて旅の厳しさを実感していた。

 心の準備をするいとまも与えられず長い旅にでてきた陽太ではあったが、オルサの死や兵隊からの逃避行、火事の火消しも行った。

 そして砂漠の長い旅の中でセリア達と出会い人の死を看取り、この手で殺人を犯したことを考えただけでも、人が経験する以上の内容を一気に体験してしまったのである。

 目まぐるしい経験で小さくではあるが陽太の中に何かが芽生え始めていた。

 それはまだ本当に小さくて陽太自身まだ自覚はなかったが、確実に成長の兆しが起こっていた。

 浅黒く日に焼けた顔は生きる指標が出来た者の表情になって、生きる強さが陽太の瞳に表れていた。

「オルサまだ先は長いよ、でもセリアって友達も出来たし頑張るよ、オルサがいてくれたら旅はもっと楽しかったのにね」

 砂漠の夜風は冷たく乾燥していて、陽太の濡れた頬を瞬時に乾かしていた。

 翌日は風が強く吹きすさび、朝から町の通りは出歩く者が少なかった。

「これじゃ無理だね、夜までには収まってくれれば良いんだけど」

 外は黄色い砂埃で視界が悪く、出歩くのは無理だと窓を閉めた陽太がセリアにいった。

 寝台で布団から顔を出しているセリアはもう少し寝るといって目を瞑る。

「まぁどうせ出るのは晩だから……、僕はどうしようかな」

 荷物から取り出した地図を見ながらミーハマットからエスタルへと行く道を確認したり他の国はどういった国があるのか見ては時間を潰していた。

 砂嵐がやんだのは陽が暮れ始めてからで、昼寝を十分取った二人は町を出る前に食事を済ませると町を後にした。

 平坦な道のりの旅が一日過ぎると周囲にわずかながらの草が所々顔を出しているのが見え始め、数日進むと固い地面から短い青草が広がってきていた。

「砂漠を越えたんだ」

 遠くにも高い木々が生えだしているのが見えて、熱さも幾分和らいだように感じられた。

 もうあの日中の暑さはなく、たまに遠くから動物の声も聞こえてくる。

「ほら、あのあたりなんか緑の草が密集してるよ」

 月明かりで見える場所に雑草が生い茂っていた。

「くんくん、でもまだ緑の匂いはしないね」

 セリアが顔を上げて匂いを嗅いでいた。

「もう少し進めば分かるかも知れないよ、明日からは昼間に移動しても大丈夫だろうね、その方が景色も見られて楽しいと思うよ」

「じゃあ今夜が星を眺めて旅をするのは最後になるね、いっぱい見ておかないと」

「ははっ、星はいつでも見られるよ」

「ううん違うよ、こうやって一晩中一緒に見るのが最後だねってこと」

 セリアは少し寂しそうに陽太を見ると、顔を赤くして照れている陽太がいた。

「また機会はあるよ、きっと」

 陽太はそう呟いて静かに星を眺めた。

 辺りは森と呼べるほど密集してはいなかったが、徐々に葉が付いた高い木が生えだしてきた街道へと入ってきた。

 枯れた薄茶色の木々の間を進んでいくと、知らぬ間に村の集落に入っていた。

 細い木で作られた家々が点在していて、所々家の中から明かりが漏れている。

 ここはどこの村だろうと見渡していると村を抜ける出口に着いた。

 出口にも柵があり見張り台とおぼしき矢倉が建っていて、柵の前に兵士が二人、出口を塞ぐように立っていた。

 どうやらここがミーハマットの国境らしく、外に建っていた家々は国に何かの理由で入れなかった人達が住み始めて、それが大きくなった集落だと聞かされた。

 陽太達は包み隠さずエスタルに行くために旅をしてると伝え、荷物を調べられたが怪しい物はなく通ることを許された。

「あの家の人達は何で通して貰えなかったのだろうね」

 不思議に思ったが変に関わって入国出来なくなるのは困ると、それ以上何も言わなかった。

 ミーハマットに入ると集落とは様子が一変していて、密林のように緑が増えて街道を隠そうと草や木々が道に顔を出して生い茂っている。

「明かりを付けるね」

 広い砂漠なら月明かりで十分だったが、ここは月明かりが届かず目の前は真っ暗で足元すら見えなかった。

 ポムを繋ぐ荷台にランタンをぶら下げて足元を照らしてあげた。

 ほのかに光るランタンの明かりがゆらゆらと周囲を照らすのを見ながら街道を進んで行く。

 奥に行くほど木々の間隔が狭く密集していて、街道が細く狭く感じる圧迫感があった。

「ヨータ、何だか怖い」

 隣でセリアが周りを気にしだしてキョロキョロとしながら言ってきた。

「僕もこの雰囲気が嫌いなんだよ、怖かったら後ろにいればいいよ、ちょっと急ぐとするね」

 陽太は手綱を引いて馬車を走らせる。

 森の暗い道をカラカラと音だけが響いて耳に入ってくる、陽太は寒くはないのに身震いをしながら町はまだかとそればかりを考えながら前方を凝視していた。

 すると、何処かでメキメキと木々の折れる音が聞こえ、こちらに近づいてきているみたいに音が大きくなってくる。

 周囲を見ても何も見えず、陽太は恐ろしくなってしきりに手綱でポムを叩いて歩を早めていく。

 まるでもう真後ろにいるのではないかと思うほど明瞭に足音が聞こえ、身体に振動が伝わってきた。

 ザザザッ、パキッパキッ、ドンッドンッと間近で何かが走っているのが分かる、それもかなりの大きさの何かだった。

 しかし真っ暗闇で目をこらしても何も見えなくて、何かがいる気配だけしか感じられない。

 セリアは既に恐慌状態に陥り陽太の背中にしがみついて震えている。

 陽太も恐怖で走り出したいほど頭の中が混乱していて何をどうすれば良いのか分からなくなり、手綱を振るう動作だけを繰り返し行っていた。

(ううう、あああっ……、何がいるんだよ)

 とにかくどこか人がいる場所に、止まっては駄目だ止まるな止まるなと自分に言い聞かせて走り続けた。

 一向に離れない何かは声を出さず、ひたすら距離を一定にして追ってきている。

 後ろではセリアは泣きじゃくり陽太を絞め殺さんばかりにきつく抱きついて、陽太の名前を呼んでいた。

 どれだけの時間走って、どれほどの距離を進んだのか分からなくなり、恐怖で時間の感覚もなく気がついたときには目の前に町が現れ追っ手の足音もいつの間にか消えていた。

「うわああ」

 町に入るなり馬を止めてセリアと近くの家の戸を叩いた。

「どうしたんだ?」

 家の主人がこんな夜更けになんだと眠い目をこすりながら出てきた。

「た、助けて、何かが追って、ずっとついて来るんだ」

「?」

 何を言ってるのか状況がつかめない主人がもう一度聞きなおした。

「わからないよ、すぐ近くでずっと付いて来るんだ、おっきい動物が……」

「動物ねぇ、ここいらで大きい動物って言っても人を襲うようなものはいないぞ」

 主人がいぶかしむが手を叩いて頷いた。

「さてはお前ら、ゴロスの住処か子供がいる側を通ったんじゃねえかな、あの親はもの凄く警戒心が強くて住処か子供を守ろうとお前らを追っかけてきたんじゃねえかな」

 はははっと主人が笑った。

「まぁお前ら子供だとそりゃあ恐ろしいわな、心配すんなこの町には入ってこねえよ、警戒心が強い物は逆に人がいる所にはこねえよ」

 二人はそれでも恐怖が抜けずに震えていた。

「もうこんな時間だ、さっさと宿に入って寝ればいいってことだ、もういいか?」

 やれやれといいながら主人は戸を閉めて家に消えていく。

 二人は震えたまま閉められた家の前で佇み途方に暮れていると、

「うう、ヨータもう何処かに泊まろうよ、怖いよ」

「うん、そうしようか」

 陽太はセリアがそう言ってくれたおかげで固まっていた思考が働いた。

 そそくさとその場を後にして宿を探し当て、眠そうにしている主人にこんな時間に来るなんてと愚痴を言われながらも、とにかく空いている部屋でいいからと案内されると中に飛び込んでいった。

 荷物を放り投げて急いで服を脱いで軽装になり寝台に入ろうとすると異変に気づいた。

「あれ、寝台が一つしかない」

 二人で目を合わせると顔が赤くなった。

 寝台は普通よりも幅があり二人で寝れないことはなかったが、陽太が迷っているとセリアが静かに布団の中に潜っていった。

 諦めて陽太は床にマントを敷いて寝ようとすると声が掛かる。

「ヨータもこっちにおいでよ」

「えっ、だって……」

「私はいいよ、ヨータだもん」

 布団から顔を半分出しながらセリアが恥ずかしそうに言う。

 しずしずと陽太は布団に入っていくと、セリアの腕が当たってつい謝ってしまった。

 セリアは笑って大丈夫だよと云ってくれたものの、恥ずかしさで顔が赤くなってしまい、彼女の顔を見ることが出来ないほど緊張していた。

 陽太は天井を見上げながら寝ようとしてもこの夜は恐怖と羞恥を味わって、中々寝ることが出来ずにいた。

(女の子とベッドで寝てるなんて信じられない、セリアの息づかいが聞こえて眠れない)

 緊張で布団の中で身体が固まって全くリラックス出来なかったが、当のセリアはこっちに顔を向け目を瞑っている。

(こんなときどうしたら良いのか分かんないよ)

 あらぬ方向に思考が目まぐるしく回り始めるとどんどんと深みにはまっていく。

 さっきまでの震えていた緊張とは別の緊張が襲い、とんだ一日になってしまったと思った。

「ねぇヨータ、起きてる?」

 陽太の腕にセリアが手を絡めてきた。

「うん、なに?」

 セリアも異性と寝台で共に寝ることは初めてみたいで、陽太同様に緊張しているようであった。

「ねぇヨータ、ん……」

 セリアは顔を向けて目を閉じていた。

「ちょ、セリア駄目だよ」

 慌てた陽太が止める。

「どうして? 私だってもう十三歳だよ、もうすぐ十四になるんだよ、陽太はもう大人でしょう、私ヨータとなら……いいよ」

 セリアは頬を赤らめながら眉をひそめて言ってきた。

(僕の世界では十四はまだ子供なんだけどなあ)

「ヨータは嫌なの? 想い人がいるの?」

「そ、そんなことないよ、僕だってセリアが好き……だよ、でもこういうのはなんて言うのかな、結婚してから……というか、その……つまり」

「じゃあヨータ結婚しよう、私ヨータと一緒になりたい、それならいつまでも一緒にいられるから」

 セリアの輝いてる瞳が陽太を見つめていた。

「セリア、セリアちょっと待って、落ち着いて」

 今夜の怖い出来事と手違いで入った部屋の雰囲気に飲まれてしまったのか、急に積極的で大胆になったセリアの態度にどぎまぎしながら陽太は言い聞かせる。

「セリア、僕はセリアが好きだよ大好きだよ、もうこの際だからいうけどセリアと一緒になりたい、それは間違いない僕の本心だよ、でもね前にも言ったけど僕にはエスタルで魔道士になるって決めたことがあるんだよ」

「うん」

「それに結婚したって君を養っていくあてもない、今はオルサがくれたお金があるけど、これだっていつかは無くなってしまう、そうなったら仕事をしないといけなくなるんだ、でもまだ僕は何も出来ないしそもそも子供を雇ってくれる所があるかどうかも分からないんだよ、それなのに結婚してしまってから生活出来ませんでしたじゃ困るでしょう」

「ん……と、難しいことはわからないけど、ヨータは結婚したくないってこと?」

「待ってね、ちょっと話がおかしな方向にいってるみたいだけど、結婚のことは今するかしないは置いとこう、僕はセリアが安全に暮らせる場所を見つけてあげたいんだ、僕は魔道士の学校にいくんだよ、だから一緒には暮らせない、いいかな良く聞いてね」

 陽太は深呼吸をした。

「セリア、僕が魔道士になってお金を稼げるようになるまで待ってて欲しいんだ、長い時間待たせるつもりはないし必ず迎えに行く、僕の中ではセリアしか結婚相手はいないと思ってる程大好きだからさ、それまでセリアが幸せに暮らせる場所で待ってて頂戴」

「本当に……必ず迎えに来てくれるの? もう一人は嫌だよ」

 瞳に溜まった涙を陽太がそっとなでて拭き取ってあげた。

「約束する、必ずセリアの元にいくからさ」

「…………きっとだよ」

「約束の印だよ」

 陽太はそっと頭を撫でて唇を重ね合わせた。

 二人は震えながら抱き合い、互いを求め合う様に長い間口づけを交わしていた。

(セリアには生きていく勇気をもらったよ、君がいるならこの世界も悪くないと思うぐらいにね、君と生きていく人生はどんなに素晴らしいことだろう)

 一つ二つと、この世界でやらなければならない事が増えてきて、漠然とした旅にも確固たる目的を持つことが出来てしまった。


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