12
「このガキの親は何処だ、金を出せば返してやる、出さなければ殺す!」
中央にある大きな噴水に男が四人、目の前に子供を三人座らせて大声で叫んでいた。
噴水の周りには人はおらず、人々はそっと窓から盗賊達の動向を見つめながら、子供達の親が来るのを待っていた。
「このガキどもの親を呼べ、子供が死んでも良いんだな!」
「アニキ、今晩はご馳走が食えるな、へへ」
泣き叫ぶ子度達に怒鳴りながら叫んでいると、路地から二組の両親と思える人物が四人がやって来た。
「てめえらがこのガキの親達か、さぁ金を出せ、出せばガキを解放してやるがどうする?」
親達は泣き叫ぶ子供を見て仕方なく懐からお金の入った袋を渡した。
「けっ、こんだけか、もっとねえのか!」
アニキ分の男が親達に怒鳴った。
「今はそれだけしかないんです、どうか息子を返して下さい」
親達がすがるように懇願し喚いているのを、
「ああ、うるさい、黙れ」
顎で親達にさっさと連れて帰れと指示した。
子供に抱きつく母親に父親は早く離れようと逃げるように立ち去っていく。
どうせ又捕まえて金を出させればいいだけだという風に、難なく子供を返した。
「もう一人残ってるんだ、この親からはたんまり出させてやるさ」
最後に残った子供はセリアで、涙を流しながら座っていた。
「アニキ、そのガキの親は殺しちまったじゃねえか」
もう一人の弟分の男が言った。
「はぁ、なんだと」
「なにってんだよ、ガキを掻っ攫ったときにこいつの母親をアニキが刺したじゃねえか」
「むぅ……そうだったか、なら金取れねえじゃねえか」
弟分達はあきれ顔で見ている。
「ちっ、しようがねえ、なら殺して帰るか」
腰から剣を抜いてセリアの首に剣を当てた。
「親の所に逝かせてやる」
そう言って剣を振り上げ力を込めて振り下ろそうとしたとき、噴水にやって来た陽太が声を張り上げた。
「待って!」
息切れをした陽太がセリアと目が合う。
「セリア!」
「お兄ちゃん」
ぎりぎりの所で間に合った陽太だったが、どうやって助けようか考えていなかった。
お金を出せば良いと聞いてはいても、セリアの母親から死ぬ間際に託された大事なお金だ、母親を殺した事に怒りがこみ上げていた陽太はすんなりと渡すことに抵抗があった。
しかしセリアと比べると渡した方が良いのか、何か良い手立てはないかと考えていた。
「なんだ、こいつの兄貴か、おめえが来ても金はあるのか?」
「…………」
陽太は四人の男達を見ていた。
四人共、陽太を子供だと舐めているのかニヤけながらやりとりを楽しんでいるようであった。
(あの時と同じだ、苛めてる奴らの人を見下した顔と同じだ)
嫌な思い出を掘り起こされ、陽太は歯を食いしばって震える身体を押さえようとしていた。
(でも、僕は何も出来なかったあの時とは違うんだ、ここでは僕は魔法を使えるんだ)
「ないよ、母親を殺しておいてお金を出せだなんて、なんて酷いことをするの」
「ならお前も一緒にあの世に逝くか、俺は慈悲深いんだぜ、あぁ?」
再び剣を振り上げセリアに狙いを定めた。
「やめろおおぉ」
陽太は無我夢中で詠唱を唱えると、光り出した手の平からまばゆい光球が生成された。
小さな光球は盗賊達めがけて飛んで行き、セリアの頭上で弾けた。
「!」
「うおお」
「ぐっ」
男達が突然弾けた光をまともに食らって顔を押さえた。
「セリア!」
走り出した陽太がセリアの手を掴み路地に逃げようと走り出す。
「くそっ、ガキが!」
目を擦って喚く男達は剣を抜いて振り回していた。
陽太は(逃げられる)と思った矢先、セリアがつまずいて地面に倒れ込んだ。
「セリア!」
勢いで手が離れしまった陽太はセリアの所に戻ろうとすると、目が慣れてきた男達が剣を挙げてこちらに走ってくる。
「セリア起きて、ああっ」
男達の足は速く、一気に差が縮まってくる。
捕まってしまうと脳裏によぎった時、男達に向かって物が投げ込まれた。
町の人達が窓や玄関から陽太達に近づけさせないようにと、包丁や石ころと投げられる物を見つけては盗賊達に投げつけていた。
「貴様ら」
盗賊達が足を止めている間に、陽太は倒れたセリアの元に来て抱き起こした。
「さぁセリア、起きて」
「お兄ちゃん、足が震えて歩けないよ」
セリアの顔は青ざめ、陽太の服をぎゅっと掴んで震えていた。
「おい何してる、早く逃げんか」
「今のうちだぞ」
陽太達に人々が声を掛けてくる。
町の人達が必死に盗賊の足止めをしてくれているが、投げる物にも限界がある。
「てめえら、あとで皆殺しにしてやる」
盗賊達も投げてくる物がまばらになってくると余裕が出来て、大声で人々に威嚇をすると剣を構え直して陽太に狙いを定める。
「くそっ」
陽太は向かってくる盗賊達に詠唱を唱えると、近くにある噴水の水が渦を巻き水柱が立ちあがって盗賊達の頭上から降り注いでいった。
粘り気のある水は男達の身体を包むと、四人はジタバタと必死に水を取り除こうともがく、
男達は息苦しさで地面に倒れて痙攣していき次々と力なく溺死していった。
(僕がやったんだ……、僕が人を……殺した……んだ)
生まれて初めて例えどんなに憎くても暴力で訴えてこなかった陽太が、初めて力でしかも殺人を犯したのだった。
陽太はこんなにも簡単に人を殺せるのかと内心思った、殴ったり刺したりするのではなく魔法でと言う所が問題だった。
感触が伝わってこない事で、これ以上はという感覚がない事に恐ろしさを感じていた。
殴ったり、物で戦うのなら相手との接触する感覚が伝わってくるのだが、まるで他人事のように相手が死んでいく過程を眺めているだけで勝負が着いてしまうのは罪に重大さを感じないのだ。
(それを今、僕がやったんだ……)
「ぼ、僕が……」
身の毛のよだつような鳥肌が全身に巡っていった。
意識が飛ぶ様に目の前がかすんでいくのを、周りに集まった人達の声で引き戻された。
「大丈夫だったか?」
「ようやってくれたな」
「ざまぁねぇな」
「すげえな、魔道士だったのか」
人々の気遣いや、感謝の言葉が耳に入るが奇妙な違和感を感じるのだった。
(僕は人を殺したんだよ、なんでみんな喜んでるの、なんで……)
陽太の思いとは裏腹に家から出てきた人達が大勢やって来て取り囲まれていた、だが、中にはこの状況をよく思わない人達もいて盗賊達の報復を恐れて喚いている者もいた。
「どうするんだ、こいつらの仲間がやってきたらここも危ないぞ」
「だがどうする、俺たちが殺したんじゃないんだぞ」
「兵隊に連絡しておこう、もっと警備を強くしてもらうんだ」
「何言ってる、どうせ役に立たないぞ」
「じゃあどうするんだ」
人々が寄り合い、どうしたらいいか議論が始まった。
陽太とセリアは近くの家で休ませてもらい、その家の女性が泣いているセリアをなだめているが、母親を亡くした事に悲しみが消えなかった。
「セリア、これをおばさんがセリアに渡してって」
袋をセリアに渡すが、それが一層セリアに悲しくさせた。
「お母さん、ううっ……お母さん」
「かわいそうに、あんたはこの子のお兄ちゃんなのかい?」
この家の女性が陽太に聞いてきた。
「いや、違うよ、セリアとおばさんとはここに来る途中で会ったんだ」
「そうかい、それなのにあんな命がけで助けるなんてさぁ」
陽太は自分が犯した重大な罪よりもセリアの今後が気になっていた。
「ねえおばさん、セリアのお母さんがこの町に親戚がいるって言ってたんだけど分かんないかな?」
「さぁねえ、その親戚の名前は分かるのかい?」
女性がセリアの肩に手を置いて聞いてみたが、セリアは首を振っていた。
「困ったねえ、それじゃあ家は分かるのかい?」
その問いにもセリアは首を振る。
「すまねえ失礼するよ」
家に入ってきた男達が陽太を取り囲んだ。
「なに?」
驚いて陽太が身構える。
「皆で決めたことなんだが、坊主、今すぐこの町から出ていってくれないか」
立ち並んだ中の男の一人が言ってきた。
「すまねえが盗賊達を殺したことに此処の住民が荷担したことがばれると犠牲者が出るだろう、本当に悪いと思ってるがここの住民じゃねえお前さんが一人でやったことにしてくれればこの町が襲われる心配はねえんだ」
「…………」
陽太は何も答えず黙っていた。
「もし奴らが来てもお前さんがやって何処かに逃げたと言えば助かるんだ、分かってくれねえか、俺たちはここを離れられねえんだ、入り用な物があるなら皆で協力する、早くしねえと奴らがいつ来るかも分からねえ」
「セリアを……誰かセリアの親戚の人を探してあげて、僕は町を離れるよ、でもセリアはここに住むために来たんだ、誰か……お願い」
陽太が男達を見回した、すると一人の男が前に出てきて、
「俺が面倒みてちゃんとその子の親戚に預けておく」
と、初老の男が言ってくれた。
「ありがとう」
「嫌!」
立ち上がった陽太にセリアが強くしがみついて来て離そうとしなかった。
「誰も知らないところに居たくない、私もヨータと行く」
セリアは顔を埋めて大声で言った。
「でもセリア、前にも言ったよね、僕はエスタルの学校に行くんだよ、向こうに行っても住む所もないしここからもの凄く遠いんだよ」
「嫌!」
陽太は困り果ててどうした物かと考えるが、大人達は早くしろと急かしてくる。
「しようがない分かったよセリア、でも僕と居ると危険な目に遭うかも知れないけど、いいのかい?」
「ヨータがいい」
セリアは顔を上げると泣きはらした目で陽太を見てきた。
「おじさん、食糧と水を貰えないかな直ぐ出て行くよ、あっ、それと毛布も少し」
「良いだろう」
陽太はセリアに馬を持ってくるからここに居てと家を出て行こうとすると、もしかして置いて行かれるのではと少し愚図るセリアを後にして宿屋に向かった。
盗賊達の遺体は町の人で捨てておいてくれるらしく、噴水前に馬車を持ってくると町の人から食糧と水、毛布を受け取り馬車に積み込んだ。
「じゃあいくよ、セリア本当に良いんだね」
「うん」
そういうと、馬車が動き出していく後ろで町の人達から済まないねと声が聞こえてきた。
教えられた道を通って北側の出口からタムサの町を後にして街道に入ると、熱い中、北に進路を取って駆け出した。
太陽は真上の熱い時間帯で毛布で頭を隠しながら走っていた。
この時間帯なら盗賊達も出歩かないだろうと思い距離を稼ぎたかったが、ポムがバテてしまわないか心配で町からそれほど離れていない場所にあった日陰で休憩を取ることにした。
「一緒に来て本当に良かったの、この先ずっと一緒にって事は無理かも知れないんだよ?」
「だってあそこに居てもお母さんはいないもん」
セリアがまた涙を流す。
「お兄ちゃんは私が嫌い?」
セリアが見つめると顔を赤らめた陽太は、
「そ、そんなことないよ、僕だってセリアのことは好きだよ、だけど住む家もないしずっと旅をしているわけにもいかないよ」
「……じゃあ、私一人になっちゃうよ」
セリアが俯き泣きじゃくった。
(助けてあげたいのは山々だけど……、どうしよう)
「取りあえず一緒にエスタルに向かいながら考えよう、もしセリアが住みたい場所があればそこで何とか住めるようにしようよ」
陽太にしてもこの先、自分がどうなるか分からない。
元々この世界の住民でない陽太は元の世界に戻れるのか、このままこの世界に居続けなくてはならないのか、何が原因でここに来たのかさえ分からないのではいつ何時、次の瞬間に元の世界に戻ってしまうかも知れないのだ。
そんな不安定な自分の隣にセリアを置いていたら、自分が居なくなった後セリアが生きていく事が出来なくなると思っていた。
(僕はここの人間じゃないんだよ)
そう言いたい気持ちがあるにせよ、いまのセリアはまだ幼く理解しがたいと言葉を飲んだ。
二人はそれ以上話すことなく、日が沈むまで眠りについた。
街道の慣れた暗闇の中を北へと歩み続けていた。
それから数日、相変わらずの砂漠の景色に緑の木々を懐かしく思い始めてきたところに、首都のサンが見えてきた。
サンはタムサよりも堅固な造りで砂漠のオアシスを守るように城が立っていた。
貴重な水が豊富に湧き出る首都はこのオアシスを中心に町が出来上がっていて、町の中には畑があり主食のイモなどが栽培されていた。
そして何より草木が植えられており、サンに入ると緑が高々と育ち木陰が沢山あるおかげで気温が少し低く感じるほど気持ちがよかった。
建物自体はタムサと変わりはなかったが、陽が落ちていたにもかかわらず大勢の人で賑わい、沢山の店が道沿いに建ち並んで物を売っている。
それを横目に陽太達は馬車を進ませて、大きそうな宿屋を探し当てた。
二階建ての四角い石造りの宿屋に馬を預けて部屋を取る。
子供が二人でと店主はいぶかしんだが、陽太にはもう慣れっこで笑顔で対応していた。
「やっと安心して休めるね」
「うん」
「あとで少し町の中を見て回ろうか」
「わあっ」
セリアが喜んだ。
「お金だけはなくさないようにしっかり持っていてね」
数日間一緒に街道を旅している間に、少しは笑顔を取り戻してきたセリアに陽太はほっとしていた。
サンの城から真っ直ぐ広い道が伸びて、その先には町の中心にある水場に突き当たる。
大きなオアシスはここの住民達の憩いの場であり命の源でもある、周囲には沢山の売り子が歩き回り活気ある風景が見て取れた。
ここの水の使用には厳格な決まりがあり、水浴び、洗濯、炊事など直接水の使用が禁止されていて、必ず家に運んでから使用すると云うことだった。
水の汚れで病気の蔓延を防ごうとする決まりだったが、やはり中には隠れて水浴びする輩も出てくるので水場の周囲には兵士が常に見回りを行っていて、捕まると厳しい罰がまっている。
綺麗に称えている水はここでは人々の命を繋ぐ大切なものだった。
陽太とセリアは夜のオアシスを見に行ったり、商店街を歩きながら必要な物から土産物等を見て回った。
「セリアの服を買おうか、いつまでもその服だといけないし替えがいるよね」
「わあい」
服屋に寄って砂漠を旅するのに適した服装に仕立てて貰えるように頼む。
色はセリアの好きな様にと陽太はじっと出来上がるまで後ろで待っていた。
店の奧から出てきた時、セリアは綺麗な赤いゆったりとした砂漠の民族衣装に革のローブを着ていた。
これで多少の暑さはしのげるようになって服のデザインも気に入ったようで、くるくると回って陽太に見せていた。
「よく似合うよ」
その夜は屋台で辛い麺のスープや何かの肉を焼いた串などの食事をして久しぶりにまともな食事にありつけた。
「最近ずっと干し肉ばっかりだったから凄く美味しく感じるね」
「うん、美味しい」
卓を挟んで食事する相手が久しく居なかったから、こうしてご馳走を囲んで食べるのは懐かしかった。
「あそこで果物も売ってたから帰りに買って帰ろう」
沢山の種類の食べ物がそこいらの屋台で売っていて、歩いては食べてを繰り返して夜を満喫していた。
「ぷはあ、食べた食べた」
宿に帰ってきた二人は寝台に倒れ込むとお腹を叩いて笑い合った。
「ねえ、お兄ちゃんの故郷もいっぱい食べ物があった?」
セリアは質問しながら買ってもらった大切な服を脱いで、元の服に着替え始めるのを見て陽太が驚いた。
「わっ、セリアどうして脱ぐのさ」
セリアは気にせず脱いだ服をたたんで元の服を着ているのをみて、陽太が恥ずかしそうにいった。
セリアが着替え終わるのを顔を背けて待っていた。
(僕の故郷か……)
どっちのことを聞きたいのか迷った結果が普通ならこっちの世界だろうと、オルサと過ごしたあの絶壁の家のことを話した。
「山深い所にある崖に立ってる家でね、そこで沢山の動物を狩っていたよ、たまに海まで出ていって貝なんかも捕って食べてたね」
楽しかった出来事を思い出しながらセリアに教えてあげた。
「家の裏には小さいけれど畑もあって色々な野菜を育てて食べてたし、森に行けば動物も沢山いたから食べることには困らなかったよ」
「一度いってみたいな、ヨータの家」
セリアが寝台に寝転がりながら陽太を見て言ってきた。
天井を見つめていた陽太は懐かしい思い出を思い起こしながら、
「そうだね、また帰るときがあればね、もうオルサもいないから戻る事もないだろうけれど……」
と、ちらりとセリアを横に見ると、すやすやとセリアが寝ていた。
「疲れたかな」
セリアに布団を掛けてやると陽太も眠気がやってきて自分の寝台で眠った。




