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銀の魔導外伝 帰るべき場所  作者: 雪仲 響


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 その夜セリアと二人でポムを引き連れ、襲われた場所に行ってみると荷台だけが街道沿いに放置されてその以外何も残されていなかった。

 動くかどうか馬車を調べてみると、荷台の屋根の布は破れてはいたものの走るには支障はなく何とか使えそうではあった。

 簡易ではあったが落ちていた紐を拾うと馬車とポムを繋いで急いで洞窟まで引っ張っていった。

「何とかこれでサンまで行けそうだよ、ちょっとポムには頑張って貰わないといけないけどね」

「ポムってお馬さんのこと?」

 セリアがポムを見上げながら聞いた。

「うん、草が大好きだからポムってしたんだ、草があればずっと食べてるんだよ」

 二人で笑い合う、セリアの笑顔は愛くるしく陽太はここにきて初めて笑ったように思えた。

「ちょっと荷物を積んでみるから、おばさんと待ってて」

「うん」

 トコトコと母親の方へ小走りに走って行くのを見ていて陽太は好印象を受けて良い子だなと感じていた、まだ自覚はなかったがセリアを見てると自然と顔が和やかになっていた。

 歳は陽太の方が上だろうがそれほど離れてもいないはずだった、友達のいない陽太にはセリアのような歳の近い子との出会いは眩しくもあり新鮮であった、こんな状況でなければ友達になりたいなと思う程だった。

 だが陽太にはやらなければいけない約束がある、オルサが願っていた陽太の魔道士としての成長、その為にもエスタルに行かなければならない。

 陽太は旅の準備を整えると三人でここでの最後の食事をした。

「昼間や明るい内の旅は避けて夜のうちに距離を稼ごうと思うんだ、馬車の日除けもなくなってしまってるから昼間はどこか日陰で休もうと思ってるの、小屋があっても使わないように、また強盗に遭うかもしれないからね」

 サンに入るまでは慎重に行くと二人に伝えると、二人は同意してうなずいた。

「早速だけど、食事が終わったら直ぐにでも行きたいんだ、水も少なくなってきたし早くサンに着きたいんだ、二人は荷台で寝ててよ、僕がポムを引っ張るから」

 三人は食事を済ませると馬車に乗り込んで街道まで出ると、北に進路を取り走り出していった。

 セリアの母親はまだ体調が戻ってきてはいなかったので、荷台で横になりぐったりしていた。

 陽太の隣にはセリアが一緒に座り、暗い街道を見つめていた。

 セリアは陽太のことを気に入ったのかしきりに質問をしてきて、それに陽太も楽しそうに受け答えをしていた。

 人と長話をしたのも久しく、楽しい時間を過ごすことが出来た。

 狩りの事やオルサというすごい魔道士に魔法を教えて貰ったこと、勿論陽太が未来から来た事は言わなかったし、オルサが盗賊の一味だったことも伏せていた。

 陽太はいまだにオルサが盗賊団の中心人物だとは思いたくもなく、命の恩人であり魔道士の師匠でもあり、優しく物知りなおじいさんであったのだ。

「へぇ、じゃあお母さんとタムサで住むんだ」

「うん」

 セリアは十三歳で、ドゥーラントに住んでいたが、父親が亡くなったから母親の故郷のサンに移り住むために旅に出たらしく、運べるだけの家財を乗せて出てきたのに強盗にあってしまったのだ。

 幸いお金は取られていなかったが、それでも折角持ってきた数少ない家財などはなくなってしまったらしい。

「お兄ちゃんは魔道士になってなにをするの?」

「えっ、えっと……」

(そういえば魔道士になれたとして、その後どうしたいのかはっきり考えてなかった、オルサの手伝いが出来ればいいなと漠然としか考えていなかったし、オルサはもういないんだ……)

「ん……と、オルサみたいな魔道士になりたいなと思ってたんだけど、なった後のことは考えてなかった、ははっ」

「あはは、へんなの」

(魔道士になれたらこの世界を冒険したいかな、そうだ旅をするにもお金がいるんだ、何か魔道士で出来る仕事なんてあるのかな)

「あのねセリア、僕が魔道士になったらタムサに遊びに行くからさ、そしたらまた会ってくれるかな?」

「うん待ってる、きっと来てね」

 セリアの返事は気持ち良く、陽太は心の中に沸いてくる甘酸っぱさがとても心地よかった。

 二人で見ている夜更けの星空は、二人の未来の再会への願いが届きそうに近かった。

 夜明けまでは盗賊に会う事もなく、母親の知る避難場所で休憩を取ることが出来て二日が過ぎた。

 三日目の明け方に眼下に大きな壁が見えてきて、広い平地の真っ只中に現れた黒いシルエットを見て三人はやっと着いたんだと胸をなで下ろす。

 この砂漠に検問所はなく、いつの間にかサン国に入っていたのである。

「もう陽が昇ってきたけどこのま町に入るね」

 陽太は手綱を振りポムを走らせる。

 朝日が昇り切っていたが町まで目と鼻の先だったので一気にポムを急かせてタムサに近づいていった。

 近くに来るほど壁は高く幅があり、町すべてが壁で囲まれていた。

 門は開け放たれており、入り口は街道から逸れて町に道が続いている。

 陽太はタムサの町に向かう道に入り、大きな門をくぐると馬車を止めて、

「やっと着いた」

 陽太は長かった砂漠の旅に安堵を浮かべる。

 町は石造りの四角い建物が所狭しと建っていて、大勢の人が軒先の日陰でのんびりとお茶を飲んでいる。

 男も女も強い日差しから体を守るため白い布の服装で全身を隠し、顔だけを覗かせている。

 ゆっくりと町の中心部へと移動しながら建物を眺めているとセリアの母親が、

「ヨータさん、助けてくれて有り難う、私達はここで降りますわ」

「こんな所で?」

 陽太が言葉を返す。

「ええ、一旦親戚の所に行くつもりでしたから、ここからはもうそんなに遠くはないので歩いて行きます、馬車はご恩にあげる物がないので代わりに良ければ使って下さい」

 母親は申し訳なさそうに言った。

「お兄ちゃん、すぐ旅に行くの?」

 セリアが別れを惜しむかのように陽太に聞いてきた。

「ううん、何日かはここで英気を養おうかなって思ってるよ、疲れてるからゆっくり元気になってから出ようかな」

 陽太も直ぐに旅に出たくはなかった。

 疲れが溜まってるのも本当のことだったがもう一つ、陽太もセリアと直ぐには別れたくなかった。

「じゃあね、また明日も会えるの?」

「どうかな、必要な物を買いに行かないといけないから、でも買い物が早く終われば遊べるよ」

「ああっ……じゃあ、じゃあね私も買い物に付いていってあげる、ねぇお母さんいいよね、いいでしょ?」

 目を輝かせて母親に聞く。

「まぁこの子は……、あなたもこの町は初めてでしょう」

「じゃあ、一緒に町を探検しようか、ちゃんと連れて帰るからいいかな?」

 陽太が母親に聞くと、しょうがないわねと言う風に了承してくれた。

「僕は……、じゃあそこの宿屋に泊まることにしよう、そこなら場所も分かりやすいから迷うこともないよね」

 宿屋の前で二人を降ろすと、二人と別れて宿屋にはいり部屋が空いているか店主と話していた時、外で騒ぎが起きた。

 外にいた人々が走り出して自分の家に急いで入って行く。

「また奴らが来たぞおぉ」

「早く家に入りなさい」

 親達が慌ただしく我が子を家に入れながら、やってくる一団に怯えて家の窓からのぞき込んでいた。

「何、なにがあったの?」

 外での騒ぎを宿の店主に聞いてみた。

「また盗賊の奴らが町に来たんだな、これで三度目だ、最近新しい首領に代わってから町の子供をかっさらって親から金を払わせて奪っていくんだ、応じなければ子供は殺されるってわけさ、ちゃんと払えば子供は帰ってくるがこんな所だ、折角貯めたお金がなくなれば例え子供が助かっても一家路頭に迷うことになるだろうさ」

 町が変な奴らに目を付けられたものだと店主は首を振った。

「この町に警備兵とかはいないの?」

 陽太は聞いてみた。

 そんな非道なことをしているなら当然国に伝わってるはずだ、なのに国が対応してないのはおかしいと思った。

「いるさ、いるがこの町はさほど重要ってわけでもない、ここに来ている警備兵達は期間がきたら首都に戻れるからね、それまで何も起きずに変なことに巻き込まれて怪我や死んだりするのは馬鹿らしいと思ってるのさ、だから盗賊達をまともに排除したり壊滅させようとしないから、盗賊の奴らも図に乗って平気で町にやって来やがる、この国は本当どうかしちまった、過去の栄光も忘れて弱小国に成り下がってしまったな」

 店主は陽太に部屋に行って隠れてなと言ってくれた。

 陽太は宿の前を大声を上げながら数騎の盗賊が通り過ぎていくのをみて、何かを感じてはっとする。

(セリア達は……)

 まだ別れて時間が経っていない、まだこの辺りにいたらと陽太は宿の外に出て盗賊の走り去っていった方へと向かって行く。

 町の中は死の町に変わったみたいに通りに人の姿は見受けられなかった、人々は盗賊達が去って行くのを家で静かに待っているようであった。

 陽太は盗賊の通った砂埃を頼りに後を追っていると、道ばたで倒れていたセリアの母親を見つけた。

「おばさん、大丈夫?」

 母親が口を開くと血の筋が流れ出てきた、うっすらと開けた目はうつろで顔色は青ざめていた。

「セ、セリアが……助け……て」

 剣でやられたのか胸が次第に赤く染まってくる、まだ体調が戻っていない母親には今の状態で助かる見込みは低く、息も絶え絶えだった。

「しっかりして、おばさん!」

 口からごぼっと血が吹き出てくるのをどうすることも出来ずにいた。

「これ……を、セリアに……」

 母親が服から震える手で取りだした袋を陽太に差し出した瞬間、力なくだらりと崩れ落ちた。

「おば……さん、おばさん!」

 目の前で人が死んでいくのを初めて見た陽太は衝撃を受けてはいたが、脳裏にはセリアのことが浮かんでいた。

「おばさん、セリアを必ず助けるからね」

 陽太は何か沸々と沸き上がる初めての怒りを感じ始めて、何があろうとも助けるんだという使命感が芽生えていた。

 昔の陽太であれば人に対して暴力的な思考なんて考えもせず、それならば会わないようにと避けていたが、今は何としても、例え相手を殺す事になってでも助けたいと思う様になっていた。

 自分の中にこんなに激昂するだけの性格があったのだと自分でも驚く位、怒りに満ちていた。

(待っててセリア)

 陽太は受け取った袋を大事に胸にしまって盗賊の向かった方へ走っていった。


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