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世界

2043年、僕はこの世を去った。

生前お世話になった家族は今頃悲しんでいるだろうか。子供の義務としてあの家に縛られた人生に甘んじたんだ。せめて悲しみの涙の一つも流して欲しい。


「まあ、こういった感情を覚えるという事は人としての機能が正常に働いているってことか」


母さんは優しい人で、僕が嫌いな椎茸を残しても怒ることはなかった。あのクニュ、グニュしてる食感は何度食べても慣れず、母さんは何とか僕の好き嫌いを改善しようとあの手、この手で工夫した料理を作ってくれた。


「確か、椎茸のオーブン焼きは意外と美味かったんだよな」


懐かしい。また食べれるのならと思う。けれど・・・


「父さん…」


[厳格] [峻厳] [過酷] [厳烈] あの人を脳裏に過ぎらせると身体の隅々までがその意味を教えてくれる。


「虐待とは違うといって何度も殴ってきたからなぁ」


たしか、あれは僕が中学二年生の時。


「テメー、最近調子にのってるんじゃねぇーかよ!女子達に好かれてるからって意気がるんじゃねーんだよ!ナメてるとその顔がお天道様になるぞ!アアぁん?」


感情を剥き出しにして僕に詰め寄るこの男。


「あのさ、佐藤、顔が近い。もう少しだけ離れてくれるとありがたいんだけど。それと、感情的だけだと言葉の真意が読み取れないよ。」


佐藤正志。僕と同じクラスの同級生で、たしか仲間内から、まっさんと呼ばれていたはずだ。帰宅部で学校帰りにコンビニで何人かと群がってカツアゲしていたのを見て見ぬ振りしたことがある。俗にいう ・・・


「不良か…」


「アアぁん?! なんだとぉ!なんつって言ったんよ!!」 余計顔が近づく。 佐藤の瞳に僕の顔は………


「ヤニ臭いんじゃねぇーのかぁ?さっきまで、まっさん吸ってたし?って今、俺様も吸ってるか!」と咥えたタバコを上下に揺らしながら話に割り込んできたのはたしか、


「なぁ、オメェよぅ。どうしてこんな目にあってるか理解してるよなぁ?まっさんがどうしてキレてるのかよぉ?!この俺様がブチ切れてるかよぉぁ???赤白中番長!吉田拓也がよぅ?」そういった直後、多分咥えていたタバコを僕の顔に唾を飛ばす要領で飛ばしてきた。 そして、これも多分だけど重心を意識したパンチが僕のこめかみを的確に抉る。一瞬で崩れ落ちるのが分かった。


「あぅ・・」情けない声が口から漏れ、頭の中で謝罪の言葉が幾つか 思い浮かぶ。


「おい立つんだよ!?こんな程度で許してもらえるなんて考えちゃねぇだろうが?」


「ごめん」なぜ自分が謝罪の言葉を言う必要があるのだろうか。理由が解らない。ただ身の危険を感じた以上は仕方ないことだ。ここはプライドの価値に醤油でも付けて朝の登校中、道ですれ違った猫にでもあげればいい。


「あぁ?何がごめんだぁ?何に対しての謝罪なんだぁ?テメーは親にどうやって躾けられたんだよ」今度は起き上がる途中の僕の身体を蹴り上げた。


「っうぅ」再び口から情けな声が漏れたる。


おそらく、吉田も佐藤も僕からごめんに続く言葉を要求しているのだ。例えば、家にかえるのが遅くなってごめんと、母さんに謝ったあことがあるように。


「調子に乗ってごめん。これからは、目立たないように学校生活送るからさ、これぐらいで許してよ」

崩れ落ちた身体を起こしつつ僕は表面上の謝罪を特に感情を乗せないまま言葉に出した。


「へぇ〜、ちゃんと謝れるじゃねぇか。だけどよ、俺たちは謝罪よりも誠意が見せて欲しいだけどよ。」


ニヤニヤしながら佐藤が僕を身体を支え中途半端に起き上がった身体を起こした。

なんだ、この佐藤ってやつは意外に優しい奴なのか身体を起こすのに手を貸してくれるとは。


「ありがとう」意識するでもなく自然に言葉が出た

のは、許されたと安心したから。でもどうにも腑に落ちない。佐藤と吉田はニヤ顔を止めていないからだ。


「あのよ、今月ピンチでさ、悪りいけど貸してくんねいか?今度返すからさ。いいだろ?」そういうと、佐藤は許可なく学生服のポケットに手を突っ込み、どこのブランドだっただろう。母さんに中学祝いのプレゼントで買って貰った財布を抜き取り中から少しばかりのお金を奪った。


「っち。しけた金だよ。吉田さん。やっぱ、こいつの親父からの報酬に期待した方がいいっすよ。」


ん? 何を言ってるんだ。この男?親父からの報酬⁇ 親父?なぜここで親父が出てくる?意味が解らない。これまでの話の流れに違和感は無かった。この二人の不良は、俺の学校生活にムカついていたんだろう?それで因縁を吹っかけてきたはずだ。なのになぜ、親父がここで出てくる……


「なぁ、佐藤。俺のお父さんから何をお願いされたんだ?」 自分の潜在意識の中にこいつらに対する殺意が目覚めたのを確かに感じた。ただそれは表には出さない。出してはいけない。だけど…


「吉田先輩?俺の親父から何を依頼されたんだ?教えてくれよ。先輩。」口調が荒い。心拍数も上がっている。胃が重く、昼間に食べた給食のカレーうどんを吐きそうになる。拳にも力が入る。力の逃げ道が目の前にいる不良に流れていきそうだ。

二人の表情が、心臓の鼓動が僕の何かに刺激を与える。佐藤の顔を見た。吉田の瞳を見た。二人は怯えている。誰に?僕。俺。それとも・・・


「ねぇ。先輩ぃ〜 どうしてそんな怯えた表情をしてるんですかぁ〜 お父さんの事教えて下さいよ〜」


吉田は教えてくれない。佐藤は腰を抜かしている。


「だったらお父さんに直接聞くね!ありがとう先輩 佐藤!」 僕の言葉で二人はホッとしたのかお互いに顔を見合わせ、思い出したかのようにこの場から、俺の前から去ろうとした。


「あっ!ごめん!忘れてたよ。佐藤。先輩。」


僕に背中を見せこの場からそそくさと退場しようとしていた二人がこちらを振り向く。


先輩と吉田の瞳に俺の顔と身体、全てがうつり込む。


そこには…






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