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prologue 会員制SNS、さまよいあにまる


 じんわりと肌が濡れるほどの湿気を漂わせる湿地帯。所々に突き出たわずかな地面には背の高い南国風の木が生えている。僕は、そんな日本の島の一つとは思えない場所で鋼の剣を構えていた。


「……行きます」

「シャァッ!」


 決心と共に蹴りだした足元で湿地が含んだ水気が音を立てる。遅くも速くも無く、摺り足にも似た歩法で進む僕を待ち構えるのは、正しくトカゲが人の姿となった異形の戦士、リザードマンだ。

 大きな爬虫類の瞳がギョロリと動き、真正面と見せてやや斜め方向へと流れている僕の体をピッタリと捉えている。

 人ならざる強敵との間合いは酷く取りづらい。特に今僕が相手取っているリザードマン先生(、、)の場合は特にそうだ。2mを超える長身が備える腕は人のそれよりも長く、ひょろりとした痩身にそぐわない剛力を秘めている。

 そして何より人型でありながら人間には出来ない動きや攻撃方法を持っている事から、僕たちの様な前衛職にとって最初の大きな壁として立ちふさがるのだ。


「――ふっ!」


 だからこそ僕は邪道ともいえる錯覚系の歩法を使ったのだが、それもまた人間だからこそ通じる物であったのだと思い知らされることになる。

 完全に間合いに入る前に一足に飛び、上段から剣を振り下ろす。が、思いもよらぬ方向からの攻撃が僕の体に直撃する。


「シャア!」

「ぐはっ?!」


 尾撃。僕の持つ剣よりも長い尻尾が腹を強かに打ちすえる。下手に宙に浮いていた事で踏ん張る事も出来ず、そのまま振り抜かれた力強い尻尾によって横に吹き飛ばされる。


「っカナメ!」

「このっ」


 完全に態勢を崩してしまった僕を援護しようと仲間たちが動き出した。

 カナリアは中空に浮き出した光のパネルに指を走らせ、自らが編み出したプログラミングマジックを行使する。


「フリーズブレス!」


 呪文のようなキーワードによって実行されたプログラミングマジックが湿地帯の大気に存在する水分を凍気へと変じ、キラキラと青い薄光を纏う凍気をリザードマンへと殺到させた。

 効果はてきめんだ。攻撃力自体はほとんどないものの、爬虫類であるリザードマン先生の動きを鈍らせる。


「えい、やっ!」


 その隙を突くのは僕と同じく前衛を務めるイサミだ。本来のそれよりも刀身の長い薙刀を一薙ぎし、心なしか小さくなったように見えるリザードマン先生の脚を切り裂いた。

 しかし相手は痛覚が鈍い爬虫類である。多少の傷など物ともしない。危地に陥ったリザードマン先生は暢気に傍観を決め込んでいた僕たちの保護者兼仲間のアイさんへと接近し、構えていた強化ライオットシールドへと剣を叩き付ける。


「ヘルプ! ヘルプですよカナメさーん!」

「……ああもう! この社畜は!」

「今行きます!」

「ほうっておいても良いんじゃないかな!」


 社畜…もとい、アイさんの援護に一足早くカナリアたちが向かうが、相手は白兵戦に長けたリザードマン先生である。常人に毛が生えた程度の“経験値”しか得ていない僕や彼女たちでは身体能力が違い過ぎて援護もままならない。

 唯一対抗できるのが亡くなったお爺ちゃんに武術を学んでいた僕だけなのだが、その結果が先ほどの有り様である。せめて態勢を整うまでと援護に入るも、リザードマン先生の強く鋭い剣撃を必死にいなすのが精いっぱいだ。

 しかもその時、奥の密林から他のリザードマン先生たちが続々と現れるのを視界の隅に捉えてしまう。わざわざ考えなくとも絶体絶命の危機に慌てた僕は、むきになってリザードマン先生に攻撃を加えていた皆へと叫んだ。


「退却! 退却です!」

「これはヤバイ! カナリア!」

「……むう、アイシングフィールド!」

「お先でーす!」

「「おいコラ保護者ぁ!!」」


 真っ先に逃げ出す|保護者≪アイさん≫を追うように僕たちも退却する。リザードマン先生たちを牽制するためにカナリアが繰り出した凍気が効果を成したのか追手はかからず、這う這うの体ではあったものの退却に成功する。

 ああ、拝啓。天国の……いや地獄の、かな? のお爺様と天国のお婆様。一体何の因果か貴方たちの愛した孫は、現実に存在していた魔境で闘いの日々を過ごしております。どうか僕たちの健闘を地の底と空の上から見守っていてください。


    ◆


 ――フヨウ様が入室されました


『おはようございます』

『おはよーフヨウくん。何時もはやいですねえ』

『あはは、毎日が日曜日なので……』

『あらら自虐。でも他の二人は大抵昼過ぎからですから、少しは見習ってほしいものです』

『あーそう言えばそうですね。スズメさんとか夜にしか居ませんしね。スズメなのに……』

『おっと、今のは聞かなかった事にします! スズメさんは怒ると怖いですからね! (ログ残るけどw)』


 ――ブレイバー様が入室されました


『夜泣きスズメって事ですね! あ、おはよ! 管理人さん、フヨウ!』

『おはようございます』

『おはようブレイバーさん。いきなりですねえ』

『はい! スズメが居ない内に何とやらです!』


 ――スズメ様が入室されました


『…………』

『あ』

『あ』

『あ』

『…………』

『……す、スズメ、さん? お、おはようございます」

『おはようスズメさん』

『おはよスズメ!』

『……オハヨウ』

『カタカナ?!』

『ミンナ、フ○ッシー二ナレバイイノニ』

『ナ○汁ブッシャー!』

『ちょっ!? や、止めて下さい! 会員制のSNSと言えどスポンサー的に色々不味いので! 最近の妖精はお金に厳しいんですから!』

『あ、あはは。親しき仲にも礼儀有りでした。ごめんなさい、スズメさん。悪意は無かったのですけれど、不快にさせてしまったようで』

『……べつに良い。フヨウが悪口言うやつじゃないのは解ってるし、夜型人間なのは本当』

『そうだぞスズメ! 生活は規則正しくしないと不健康だからな!』

『ウルサイ、痛ネーム。引き籠りに規則正しいも何もない。後オマエはユ・ル・サ・ン』

『あーあーあー。そこまでそこまでー。珍しく、おっと軽い失言wですけど、朝早くに皆揃ったと言う事で重大発表がありまーす』

『……管理人もキライ。ワタシの味方はフヨウだけ』

『え、えっと。ドンマイ? スズメさん』

『スズメはフヨウには甘いな! で! なんですか管理人さん!』

『あ、はい。実はですね。皆さんがこの“さまよいあにまる”を利用してもうすぐ一年と言う事で、その記念にと、我が社が所持するレジャー施設にご招待させていただこうかと』

『……はい?』

『……は?』

『……ハイ?』

『突然の事で皆さん驚きだと思いますけど、マジ話です。この会員制のSNSのスポンサーの大元がDEクリエイティブだって事は知ってますよね』

『はい。会員手続きする時の説明書に書いてましたね』

『えっ!? フヨウあんな長い説明読んだのかい?! 普通飛ばすよね! まあボクも別口で知ってたけど!』

『……だからオマエは痛ネーム。会員手続きにリアルの個人情報を入れるんだから読むのは当たり前』

『まーまー。そんな事もありますよ! 本題に入るのでそのへんはしょりますけど、このSNSがいわゆる……気にしないで下さいね? 不登校児童を対象に開設された青少年支援部門の一つであるのは御存じですよね。ブレイバーさん?』

『流石にソレくらいは解っていますよ! こう見えてボクも立派な不登校児童ですから! ですから!』

『……二度言うな』

『それで今回のお誘いはその一環で、いわゆるレクリエーションをしませんかって事です』

『……色々言いたい事あるけど、“いわゆる”って所が気になる』

『あーうん。なんかちょっと生臭い感じがするね! DEクリエイティブなんて世界的大企業がボクたちみたいな引き籠りをレジャー?に誘うなんて!』

『管理人さん。二人の言う事もそうなんですけど、どうして管理人さんがそんな誘いをするんですか?』

『あーえっと、隠していた訳じゃないんですけど、わたくしことさまよいアニマルの管理人は、実はDEクリエイティブの社員だったのですよ!』

『えっ?!』

『知ってた!』

『……気づいてた』

『あーまあそうですよねえ。純真無垢なフヨウさんはともかく、意外と聡いwブレイバーさんとか、普通に賢いスズメさんは気づいてましたよねー』

『…………』

『意外と聡いwって! w要らないヨ!』

『……www』

『あ、フヨウさんは褒め言葉ですからね? 落ち込まないで下さいよー。まあそれで意外と驚きが少なく進んじゃいますけど、このさまよいアニマルを初めとしたDEクリエイティブ支援の会員制SNSのいくつかは、こうやってDEクリエイティブの社員が管理人をやって青少年を陰ながら……御免なさい、皆さんには嘘を言いたくないのでハッキリと言いますけど、とある目的があって支援がてら選別をしてるんです』

『……選別。嫌な言葉』

『あーだねえ。ちょっと気に入らないかな。管理人さんの事は好きだけどね!』

『でも選別ってなんの選別なんですか?』

『ごめんなさい。それはちょっとここでは言えないんです。でも世間知らずの子供を騙すような悪意有る物じゃ無いって事だけは確かです。既に数グループが参加して頂いてますけど、嘘偽りなくすこぶるつきで評判が良いですし。と言うか、わたしも早くあそこに行きたいんです!』

『おっと! オトナゲ無い台詞いただきました! ひょっとして肩こりがお悩みなお年頃ですかぁ?』

『……B・B・Awww』

『誰がババアですか! ちょっとスズメさん? 後でお話がありますからね! わたしはピッチピッチの20歳ですから!』

『わあ、大人なんですね管理人さん』

『ボクたちからすれば20歳は十分に……』

『……www』

『コノヤロウ……。わたしの癒しはフヨウさんだけですよ、トホホ……。――コホン! ちょっと脱線が過ぎますので戻しますよ。詳しい事は皆さんのお家の方に書類を送らせて頂きますので、それを読んで確認してください。まあとどのつまりは、ちょっと下心有りな大企業が皆さんをレジャー施設に招待したいって事なんです。いかがでしょうか?』

『……いかがもなにも。いかがわしいのだけれど?』

『うん、いかがわしいね! ASHIKAGAは独自の技術で急成長したグループだけど、それに相応しい悪評も多いしね!』

『そうなんですか?』

『あーそれはちょっと私の口からはなんとも。でも悪貨は良貨を駆逐するって言いますし、ちょっと強引な企業であることは確かですけど、本当に良い会社ですよ! 社の頭が頭なんで基本的にはWINWINな関係がモットーですから』

『社畜っぽい台詞いただきました! でもまあボクは参加しても良いかな? ちょーど家に居づらいところだったから気分転換に良いかも!』

『……ナニソレ。引き籠りらしくない発言ね、痛ネーム。わたしは行かない』

『あーそうなんですかー。まあ書類は送るので、スズメさんはそれを見てからまた御一考をと言う事で、フヨウさんはどうですか?』

『僕は、行ってみようかな? 家に居ても何があるって訳でもないし、僕の事を誰も知らない、見た事のない場所に行ってみたい。情けない話ですけど、そこに皆が居てくれたら心強いし』

『わあ、良かった! これならわたしも遊びに……もとい、仕事に行けますよ!』

『……おい社畜、本音が出てる。……じゃあわたしも行こうかな?』

『www!』

『……なに? モンクあるのか痛ネーム』

『www!』

『まーまーまー! じゃあこれで全員参加って事で! 送った書類のいくつかを記入して送り返して貰う事になりますけど、それ以外の面倒な手続きは全部こっちでやりますから。もちろん御家族にもこちらから連絡させていただきますので』

『…………』

『あーまあそこはお願いします、かな!』

『……ふん。別にしなくても良いのに』

『あはは。大丈夫ですよ。立場上嘘は吐けないですけれど、皆さんの負担にならないように上手く話をしますから』


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