救世主・学園・テンプレ
その頃、救世主こと城山悠斗はどうしているかというと・・・
姫に追われていた。
死に物狂いで逃げる悠斗、それを追いかけ回す第三王女
・・・ババァ
美少女姫とともにセヴァスティカの王都に帰還し、王に謁見しに城に入ったさいに、ターゲット認証された。
気づいた時には遅く、天井には白いシミーズ姿の第三王女が四つん這いで眼をギラギラと光らせていた。
涎をじゅるり、と啜って、第三王女は半ば放心する悠斗の目の前に降り立ったのだ。
悠斗は風の魔法で空中へ後ろ向きに飛んだ、すると第三王女はそれを予期していたかのように人間とは思えない跳躍力で、悠斗の背後の壁に四つん這いで飛び付いた。
ケケケと笑う第三王女。
慌てて振り返る悠斗、思わず風の刃を投げつける。
第三王女はそれを吸収(?)すると、悠斗に投げキッスを放ってきた。悠斗はそれを炎のシールドで回避し、ついでに焼き尽くす。
投げキッスを防ぐことに気をとられていた悠斗の背後に黄色い瞳が浮かんだ。
「だぁりんったら、や~だ~」
悠斗の背中に悪寒が走る。
それにファイアーボムを投げつけて更に遠くへ逃げようとする悠斗。
だが、第三王女は目にも止まらぬスピードで天井まで上りきった。
その身体能力はまるで・・・
かの台所の黒い悪魔
・・・を彷彿とさせる。
「ここよ~、わたしをつ・か・ま・え・て、だぁりんっ~!」
声だけは綺麗だが、そのまのびした猫なで声はそれだけで攻撃力がある。
悠斗は込み上げる吐き気と恐怖で目の前がクラクラした。
出来る限り防御能力をフル活用するが、王女はすばしっこい動きで悠斗に近づく。
もう、終わりだ。
こちらに打つ手は無い、
悠斗は絶望した。
このままでは、俺はババァに総てをうばれてしまう。
どうする
どうすればいい?
目の前には舌なめずりをする王女の姿が。
「逃~が~さ~ないわよ~」
その瞬間、
「<シャイニング・モア>」
少女の声と友に部屋中が光に包まれた・・・悠斗はそのまま意識が遠のいていった。
・・・
・・・・・
「夢か」
悠斗は白い天井を見上げながらぼんやり呟いた。
はは、いくらなんでも夢だろう。
ゴキブリババァ王女に追いかけ回される悪夢。気分は最悪だ。
そういえば、何をしていたんだっけ?
ジローと森を歩いていて、お姫様が悪魔に捕われていて・・・
確か、空からお姫様が落ちてきたような。そうだ、彼女は無事か!?
「大丈夫ですか?」
銀髪碧眼の美少女が悠斗を覗き込んでいた。
間違いない、彼女だ。
彼女が空から降ってきたんだ。それより、あいつはどうした。辺りを見渡すが部屋の中には悠斗とこのお姫様しかいないようだ。
城山悠斗の頭は処理能力のキャパを越える次々おこる事象に対応しきれていない。つまり、混乱していた。
「あ、はい。えっともう一人の男は知らない?」
美少女は「え?」と首を傾げている。
それもそのはず、お姫様の視界には悠斗しか存在しなかった。
無念。
では、悠斗の今いるここはどこなんだろうか。気絶からの「ここはどこ?私は誰?」はテンプレなわけだし。
「じゃあ、ここは何処かな?」
「セヴァスティカ国の城です、あなたの魔法で移転したんですよ?」
魔法を使った記憶は無いが、そうしたのかもしれない。彼女がそう言うのなら、そうなのかもしれない。
悠斗はセーレの移転魔法でとばされたことを知らない。何があったのか、自分に何が起きているのかさえ分かってはいない。
「それに、君はどうして森の中になんていたんだ?」
その問いに王女は深いため息をついた。
「あの・・・第三王女はご存知ですね?」
悠斗は「さっきの」夢じゃないのか、と顔を引き攣らせながら頷いた。
「まさか、あのgok・・・」
「はい、妄想癖があって・・・いつか王子様が白馬に乗って現れると信じているんですよ。ああして、たまに城を抜け出しては男狩りに出かけます。」
「男狩り?」
「私ぐらいしか彼女とまともに会話(と言う名の肉弾戦)が出来ませんから・・・私が第三王女を探しに出かけたというわけです。」
「まともな会話?」
「今までに多くの犠牲者が出ていますからね、ターゲット認定されれば地の果てでも追い掛けてきます。」
と王女は自分の頬に手を添える。
「犠牲者ぁ!?」
地の果てでも、という言葉に悠斗は震え上がる。
「それがかなりすばしっこくて、必死で追い掛けているうちに私は悪魔に捕まってしまって・・・ああ、お礼を申し上げるのが先でしたね。
私はセヴァスティカ第六王女、マリーン・セヴァスティカです。
この度は私と御祖母様を助けて頂き、本当にありがとうございました」
そう言って悠斗の手に自分の手を重ねて微笑む王女。
美少女にそんなことをされて平静でいるはずがない、悠斗は赤くなって首を振った。
「そんな、俺はたいしたこと・・・」
本当に何もしていないことを悠斗は知るよしも無かった。
その後、悠斗は王様と謁見し、お礼の報酬を入手。
ついでに学園に入学し、魔法の腕と知識を磨くことを進められた。
そして編入当日に至る。
転校生を紹介する、教師は抑揚もなく言った。
この学校では転校生は決して珍しくはない。他の学校で優等生だと認められたものがよく編入してくるからだそうだ。
それでも教室の中は関心が高まっていた。
そして悠斗は普通にドアを開けて普通に黒板の前に立った。
「城山悠斗です、よろしくお願いします」
王のはからいで普通クラス、王女のマリーンと同じクラスにしてもらった悠斗。城山悠斗が異世界から来たこともメシアであることも隠さなくてはいけない。そのフォローをマリーンがすることになったわけだ。なんで、お嬢様が普通のクラスにいるのかというと、王女マリーンもその正体を隠しているらしい。勿論護衛はついているが、マリーンは相当な手練れで、城内でも1、2を争う腕前なんだそうだ。
そもそも、兄弟親族の多いセヴァスティカの姫君に王位継承権も無いので悠斗が想像していたよりは気楽なものらしい。
その二人が入るのが貴族や桁外れの魔力持ち以外の普通の生徒が集められた普通のクラスというわけだ。つまり、身分や魔力量によってクラスは分けられているということになる。
それはこの学校の前身である術士学校の時代からだという。Fクラスがずば抜けた力と知識を持つもの達、Pクラスは優秀な者達、あと1組から7組まであるのは普通のクラスということだ。
因に、Fクラスというのはエリート街道が約束されており、卒業と同時に国家公務員になる者が殆どだ。Pクラスは成り上がりだから民間の大企業、もしくは大学へ進学し魔力の研究職につく。
とにかく、マリーン王女と悠斗はその正体を隠す為にも普通のクラスに入ったのだった。
女子達がざわめく、悠斗の何かに驚いていたようだが、すぐに男子は興味を失ったようだ。
黒髪も黒い目も特別珍しいものではない、ただ悠斗がちょっと無自覚のイケメンだったからかもしれない。
悠斗は教師に指示されて、マリーンの横に座った。そして何事も無かったかのように授業が始まった。
興味の無かった筈の男子の一部が悠斗を睨んだのは言うまでもない。
マリーンはその正体を隠しているといっても学年で有名な美少女だ、当然のようにファンクラブが存在する。
休み時間、悠斗の前に数人の男女が現れた。
「私はエルダ・ジークフリート、この子はニーナ・アインフルス」
エルダは長い青い髪をした美女、その横に隠れるようにして悠斗の方を伺っているニーナはピンク色の髪を右サイドでまとめている。
二人ともマリーンには負けず劣らずの美人で、特にエルダは見たことも無いほどしなやかな腰までの髪と深海のような落ち着いた瞳が白い肌に際だっていた。
どことなく神秘的で、一部の生徒には『魅惑の君』と呼ばれている程である。
因みにマリーン王女は『光りの君』だ。
エルダは柔らかく微笑むと悠斗に言った。
「困ったことがあったら何でも言って、私がこのクラスの委員長ですの」
ありがとう、と悠斗も微笑み返して言う。
今度はショートカットの少年のような子が悠斗の机の前に立った。
「僕はシマ・トーイ、よろしくね!」
元気な明るい声、ボーイッシュな女の子のようだ。黄色い髪がピョコピョコと跳ねる。
三人の女の子が自己紹介を終えた所で、一人の男が悠斗に声をかけてきた。
「俺はジグ・ローランドだ、よろしく!」
ジグは170cm後半の身長に適度な筋肉の、どちらかといえばガタイのいいやつだ。
単細胞っぽい明るい男で、オレンジの堅そうな髪がツンツン立っている。
顔はどちらかと言えばイケてる方だが、どことなく頭が残念な雰囲気が漂っている。
「俺はユート、よろしく」
悠斗はジグに右手を差し出した。
この慣れない世界で友達が出来るのは喜ばしいことだ。
三人の女の子に囲まれて、マリーンは警戒するように悠斗の腕を自分で組む。
ライバルが増えないように警戒しているのだろう。
「大丈夫、マリーン、私のタイプじゃないわ」
エルダは冷めた声で言う、悠斗は首を傾げている。
マリーンは顔を赤らめ「そんなんじゃない」と言って慌てているし、ニーナとシマは困った顔をしている。
「ま、負けねぇからな」
悠斗はジグにライバル認定された。
「所で、ユートの属性は何なんだ?」
ジグは悠斗に質問した。
属性とは得意な魔法の種類が持つ特性のことで、悠斗も入学前に基礎知識としてマリーンから学んでいた。
属性は『火』『水』『金』『土』『風』の5つで五大属性といい、これは最も大雑把な分類で、一般的に得意な属性は1つとする。極希に、『風』と『水』を合わせた『氷』属性や、『金』と『水』の『水銀』属性のなどの特殊魔法を駆使するものも存在するが、その基礎となる属性は1つであり、並大抵の訓練では他属性を取得出来るものではないという。
そして、属性によって得意とする攻撃も異なる。『火』『風』は攻撃型の魔法で、『水』『土』は防御型の魔法を得意とし、『金』はバランス型で他属性取得も容易だったり、少し特殊らしい。
更に、五大属性に加え、『光』と『闇』の副属性のどちらかが個人の属性になる。だから基本は五大属性の中の一つが主な属性で、『光』か『闇』のどちらかと、合わせての2つの属性を持つことになる。
ゆえに『光』と『闇』を主属性として持っている人間は極少数である。『光』『闇』の属性を得意とする人間を希少属性と呼ぶ。
悠斗はちょっと考えてから答えた。
「『風』で副属性は『光』だよ。ジグ達は?」
悠斗の属性はまだ分からない。
『風』が主属性で副属性が『光』というのはマリーンとの打ち合わせで決めていたことだった。
それを疑うことなく、ジグは素直に答えてくれた。
「俺は『火』で『闇』だ」
そして、みんなの紹介をしてくれる。
「エルダは『金』で『闇』、シマは『土』と『光』、ニーナは『水』と『闇』、マリーンは『風』で『光』だったな」
本当は悠斗 に属性はない、ないというのは厳密には違う。 だがこの世界での属性ではないことは確かだ。
この世界ではそれは有り得ないことで、必ず5属性のいずれかと光か闇のどちらかになるらしい。
だから宣言した属性以外の魔法は迂闊に使えなくなってしまう、そうすると一番使う属性がよいだろうということになったのだ。どうしてこんなに簡単に属性を人に教えてしまうのかというと、この属性が戦況に大きく影響し、サポートする時も属性との相性がある。誰が何の属性なのかは仲間内では共有する必要がある。
そして授業はというと
魔法関連の授業を除けば、元の世界とあまり変わり無い。
数学、科学、社会、体育・・・
ただひとつ問題なのは
国語
教科書を見せられた瞬間、悠斗は固まった。
「マ、マリーンあのさ・・・この国の文字さっぱり読めない」
セヴァスティカの文字はギリシャ文字に似ているが悠斗の人生では見たことも無い記号だ。
言葉が不思議と通じているので悠斗は授業が始まるまで、まるで気付かなかったのだ。
マリーンはそれを知って焦った。そりゃもう焦った。想定外の事態なのだから仕方ない。
ゼヴァスティカ語を基礎から始めなくてはいけないからだ。
文字が読めない今、授業を受けるのは難しい。
そして休み時間ごとに悠斗の特訓が始まった。
マリーンさんはスパルタでした。まる。
悠斗は涙と共にセヴァスティカ語を習得したのでした。