双子・異変・ドラゴン
森に散策に出たわけだが、
さっぱり何も出ない。
面白くないので魔法の修行をしつつも森の中を進んだ。ダンタリオンのおかげで大分、普通の魔法のコツは掴めてきた。常識的な魔法と自分の特異的な魔法は全く違う。だから、ある程度は学習も必要だろう。
てゆうか、ここ、モンスターの出る森じゃないのかな?おかしいな。うーん、モンスターどころか、野生動物も見当たらない。
何か、いるのか。モンスターが近づかない理由が。
十分日が昇った所で、全身が銀色に輝くドラゴンを見つけた。
胸元のペンダントが熱を帯はじめる。
ババアを助けた時に倒した毒のドラゴンの時以上だ。あつい、火傷しそう。
それにしても堅そうでまずそうである。
よく見ると、そのドラゴンの足元には小さな何かが二つチョロチョロ動き回っていた。
「くっそドラゴン眩しいすぎ、何も見えねぇ」
更に近付くと、ドラゴンがかなり巨大であることが分かった、6~7メートルはある。
足元をチョロチョロしていたのは1、2才くらいの人間の幼児二人だった、おぼつかないあしどりでヨチヨチ歩いている。
子供?
しかもこんな幼児がどうしてこんな所にいるのだろう。危険過ぎる。
『幼女ですらない』
「ああ、幼女ですらなry」
期待してた訳じゃない、俺にだって美少女が現れるチャンスが有るはずだって。
でも、幼児とは・・・
とうなだれている場合じゃない、ドラゴンは何かに苦しむようにのたうち始めた。
さっきまで美しかった体がどんどん色あせ始める。まるで急激に錆びていっているような。
『様子が変だな』
ナスも異変に気が付いたようだ。
「あぶない、っと」
俺は幼児二人を抱え上げた。
ドラゴンの体に危うく押し潰される所だった。
腕の中で二人は何が起こっているのか分からず、泣き出してしまった。
「とーっちゃ、」
「えーん、とーちゃっ」
お父さんを呼んでるんだろうか、大体親はこんな小さい子供をほって置いて何をしているんだろう。
俺は暴れ狂うドラゴンをクロノスフィールドを展開して固定した。空間内を止めることも出来る。
魔方陣なしで時間魔法は制覇した。やったね!レベルがupしました。
幼児二人を地面に下ろすと、二人はまたよちよちとドラゴンの側へ行こうとする。
「とっちゃ!」
「とーちゃっ」
まさか・・・ドラゴンが親という訳じゃないだろう。俺はすぐにダンタリオンに問う。
『ふむ、あれは珍しいドラゴンじゃな、鱗は最高級品として扱われる。
人語もかいするぞ。』
「ドラゴンが子育てすることはあるのか?」
しばらくダンタリオンは考えていたがこうこたえた。
『ありえなくもない』
高等なドラゴンになれば知能は高く、人語を操る奴もいる。子育てという行為も可能ではある。だが、どうしてドラゴンが子供なんか育ててんだよ。
「どうして、狂暴化した」
『普段は温厚な性格のはずじゃ、これは魔力を感じるな』
「最初のドラゴンと同じ?」
『そう考えていいじゃろう、この世界のモンスターは元々ドラゴン以外は存在しない。ドラゴンは自然と調和した存在だったからな、なんらかの理由があるのだろう』
俺は暴れる幼児をセーレを呼び出して押し付け、クロノスフィールドを解除しようとした。
『待つのだ・・・』
声が聞こえた気がした。
まさかと思うけど
「あんたか?」
目の前のメタルドラゴンを見上げる。
クロノスフィールドを持って意識がこちら側にあるということは、このドラゴンただものではない。
『私は今、制御を失っている。
自分の意識が消えかかっていることも分かる。・・・もうもたないだろう。そこでおぬしにたのみがある』
「ああ、何だ」
なんとなくだが、俺には想像がついていた。
『その子達を変わりに育ててはくれないか、すぐ近くの村で捨てられていた子だ。・・・完全なる人間の子では無いから捨てられた。私が見守れるのもここまでだ。』
わかっていてもすぐに頷けない自分がそこにいた。
「・・・」
子供を育てる、なんて簡単に了承出来ることじゃない。犬や猫の子供を貰うのとでは訳が違う。ガキの俺には難しい問題だ。だけど、ここでは状況が違う。
俺が見放せばこの双子はどうなる?ここは俺以外の人間がいない。こんな森の奥で誰かに見つけて貰うというのはかなり難しい、いや不可能だろう。
モンスターに襲われて、彼らは死ぬだろう。
『もはや頼めるのはそなたしかいない、待っておったぞ、偉大なる王よ』
偉大なる王だって?
何か勘違いしていないかこのドラゴン。
確かに俺は魔王(仮)になった。
笑わせるな、俺はただの子供だ。
特別何かが出来たわけじゃない、ただの子供だ。冗談にしてはその言葉が重過ぎて、いつものように笑い飛ばすことが出来なかった。
「だが・・・」
そんな簡単には了承出来ない。
『大丈夫だ、おぬしには多くの手が差し延べられている。多くの者が助けてくれる・・・私はもうその子達を壊すことしか出来ない。見守ることも出来ないのだ』
ここで、断ればこのドラゴンはどうなるだろう。この小さな子供たちはどうなるだろう。本当に俺が了承していいのだろうか。
もやもやしたまま、俺は頷いていた。
「・・・いいだろう」
そう言うしかないと思った。それ以外に答えようがあっただろうか。
「出来る限りのことはするつもりだ、親となって。ただし、グレても文句は言わないでくれよ?絶対に守って見せるから・・・」
止まっているはずのドラゴンの顔が微かに笑った気がした。
『ありがとう、・・・私を殺して皮を剥ぐがいい。私の鎧はここ数千年で最高の強度を誇っている。おぬしの力になるだろう。』
「魔法陣発動、真空魔法」
次の瞬間、バラバラとドラゴンの体は崩れ落ちた。
俺は真っ赤な血を浴びて、暫くそこに立ち尽くしていた。
ドラゴンも生き物だ。
人間と同じ赤い血が流れている。
目の前も真っ赤だ。
銀の鎧もドラゴンの血を反射して真っ赤に染まった。
きっと俺も真っ赤だ。
力も、声も出なくて、
心の底で、小さな影を落とした
なんだよ
どうして、こんな世界にきてしまったんだろうと、始めて思った。
俺は主人公の死に巻き込まれて、偶然死んだばかりだったから魔王の召喚対象となっただけだ。
そうか、全部「神」のせいか。
主人公の代わりに殺されるよりはよっぽどマシかもしれない。
いつも神と運命は人間にとって理不尽だ。
何なんだ
本当のところ魔王が何を考えているのかも分からない。
俺は何のためにここにいるんだろう。
そう考えて、なんだか泣きたい気分だった。だけど脳内は水分不足を起こしたようにカラカラと渇いていた。
泣いている場合でも何でもない。
厨二かよ、ナスの呟く声で我に返った。
「そうだよ、厨二のどこが悪い」
そもそも、これは誰が悪い?
ドラゴンを操っている「奴」。双子を捨てた親なんて知らない。魔王が全て悪いんじゃない。
じゃあ、誰が敵なんだ。
「っわかんねーな」
謎1
悠斗がメシアであること
この「世界」は誰と戦おうとしているのか
謎2
ドラゴンがおかしい
単に操られているというわけではない
謎3
スライムやメタルベアといったモンスターは元々存在しなかった
魔界にもいない
謎4
魔王の本心
和解が目的の魔王なんて聞いたことがない
謎5
魔界汚染の原因
どこから汚染物質が流れ着いているのか
謎6
どうして二人の人間がこの世界に現れたのか
メシア一人ではいけなかったのか
謎7
魔法の存在異議
この世界に魔法はなかったが、魔界には昔からあった。
謎8
この双子は何なのか
ドラゴンは完全なる人間ではない、と言った
最後の謎
俺は一体誰なのか
俺は『水』と『風』の魔法で自分の体を洗うと、ダンタリオンにドラゴンの処理の仕方を聞いた。
「この瓶は」
『それにドラゴンの鎧を入れるんじゃ』
質量的におかしい、まあいい。
俺は瓶の蓋を開けると自然と銀の鎧は液体となって瓶に収まった。もう魔法の不思議さに不思議さを感じなくなった。
「これで金属性が使えるようになったわけだ」
『基本的に金属性の人間はメタルベアと呼ばれるモンスターから金属を集める。
だから、おぬしのドラゴンの鎧は非常に珍しい、大切にしてやってくれ』
言われなくても。
俺は瓶を魔王からもらったクリスタルに重ねて首にかけた。銀の鎖がチャリと音を立てて、ひんやりとした温度が首筋に伝わった。
双子が気になってセーレの所へ行くと、二人ともスヤスヤと寝息を立てていた。
「眠ったのか?」
『眠らせました。ドラゴンだとしても、このこ達の親には変わりありません。あんな光景をまだ幼いこの二人には見せたくなかった』
セーレらしいと思った。
ありがとう、というとセーレはどうしてという顔をする。
「セーレはよいと思ったことをしているだけかもしれないけれど、それは結果的に二人の為にも俺の為にもなったってことだな。」
だって俺はこいつらの親を、育ての親だとしても、殺したのだ。その事実は変えることは出来ない。
空は見たこともないほど澄みわたり、雲は遥か上空にうかぶ。
どこか遠くにきてしまったというのに、あまりに生きてきた世界とおんなじで心の角がじくりと痛んだ。
俺はなんでもないような顔をして、セーレに向き直る。
「所で今度は本当に王都へ転送してくれ」
『はい』
俺は双子を抱えると、セーレは魔法陣を出した。
『子供達に・・・私はいつでも力を貸します』
セーレは綺麗な微笑みを残して、太陽の光の中に霧散した。
次の瞬間、視界にはさっきまでの風景からは想像もつかない都会の真ん中にいた。
「うっわ、これは凄いな」
見る限り現在の日本とあまり変わりは無い。高層ビルが立ち並んでいた。
これで、モンスターも魔法使いも居なければ何も以前の世界とは変わらないかもしれない。
自動車も、ちょっと派手な髪色の人並みも。街並みに見とれていると、双子が腕の中でぐずり始めた。
「おお、どうした?どうした?」
「うぅ・・・ちっこ」
なん、だと!?
俺は近くのちょっとこ洒落たお店に飛び込んだ。
いつもなら声をかけるのを戸惑う美人な三次元のお姉さんだろうが、今はそれどころじゃない。
「スミマセン、お手洗いどこですか?」
「あちらです」
クスクス笑いながらも教えてくれたので、とりあえず走る。
「もうちょっとだ、お前ら我慢するんだぞ!」
ふう、やれやれだぜ。
なんとか用を足すことは出来た。
これからどうしようという不安しかない。
「はあ、これからどうしよ」
目を離した隙にもヨチヨチと歩いて行こうとする。
なんだろう、回りでヒソヒソ声がする。
どこかおかしいのだろうか。ジロジロ見られてるなぁ。そんなに浮いてる?
そして何となく思った。
・・・なんか俺達の姿小汚い。
「仕方ない」
俺はナスに受け取ってもらっていた報酬で自分達の服を買いに向かった。
「キャー、可愛いですねー」
ベビー服のお店にに行くと店員に捕まった。そして色々着せ替えられている双子。
「えっと、オススメ一着ずつ買います」
と言うと店員さんは真剣にどれがいいか悩んでくれていた。ごめんなさい、お金があまり無いんです。
「若いお父さんですね」
苦笑いして返しておいた、ゴメン俺童貞だわww
結果パンダの服に決まった。フードを被ると子パンダだ。
これはいいな、癒されるわ。
こんな俺でも癒される子供って天使。
そして光速で俺の服を買って着る。
この世界の服はちょっとデザインが変わっている。まあ、異世界だしこんなもんか。とにかく黒のパンツと、グレーのジャケットを適当に買った。
グレーのジャケットはあれだ、黒の上下だと完全にかっこつけた魔王みたいで嫌だったからだ。
因みに俺はフツメンだが、スタイルはそこそこだと思う。唯一誇れる部分だからな。
あとは俺の白長袖Tシャツと、双子の上着、よだれかけとタオル、ティッシュ系統、靴と下着、絆創膏、消毒液それらをしまうためのバッグ。
魔法の力で見た目以上の体積が収納可能でした。
これでこの街に溶け込めた。
俺、パンダ双子、黒犬ナスと無彩色集団だが、目立ってはいないはずだ。きっと。
暫く歩くとアイスクリーム屋さんがあった。普通なら欲しがるものだけど、きっと二人は知らないだろう。
まあちょっと季節外れなんだけど。
「あまえら、アイスたべるか?」
「あいしゅ?たべる!」
「たべりゅ!」
何か分からずに言ったらしいが、まあよしとしよう。
俺はベンチに二人を座らせて、ナスを側に置いてアイスを買いに行った。
「バニラ二つ」
小さめのやつだ、お腹壊されても困るからな。
戻って、さっき買っておいたよだれかけとタオルをスタンバイしてから、一つずつ渡してみる。
「まあ、食べてみろって」
恐る恐る口に入れると二人は驚愕の表情を浮かべた。
「うまっ!」
「うまっ」
「そうか良かったな。」
予想通り二人はアイスに夢中でグチャグチャになっていた。
おそるべし幼児、歪み無いです。
これもタオルと濡れティッシュという万全の備えで回避した。
そういや、名前を聞いていなかったな。
「名前は?何て言うんだ」
二人は黙って首を傾げた。
「うん、どうやって呼べばいいんだろう。・・・よし、ルーとミーはどうだ?」
お兄ちゃんの方がルーで「ルーファス」、妹の方がミーで「ミーリア」。
二人は気に入ったようで繰り返した。
「ルー!」
「ミー!」
「次は、住家か・・・」
住む場所は難しい問題だ。身分を証明するものなど持っていないし。何から始めればいいかもわからん。
この世界で俺は存在しない人間だからだ。
よし、そろそろ拠点をなんとかしなくてはいけない。
俺は立ち上がった、ところで警備員っぽい人に声をかけられた。
「ちょっといいですか、身分証明書を見せて下さい」
じろじろと見られる。職務質問だな。
何にも持っていない今、正直に答えるしかない。
「はあ、何ですか?持ってません」
「ちょっと署まで来てもらおう、話を聞くだけですから」
すぐに両脇を固められる。
「ちょ、え?ちいさい子供が・・・ルー、ミー、ナスから離れるんじゃないぞ!」
俺はそれだけ言うと連行されていった。
なんてこった、あんな小さなこどもを街中においていけるか、もし誘拐でもされたら
・・・誘拐?
まるでドラマのような取調室ですた。
「えっと、話って?」
「お前がやったんだろ」
「何をですか」
「惚けても無駄だ!」
駄目だ、話にならん。
「えっとですね、俺はこのせ・・・国に来たばかりで。やったといっても」
・・・不法入国はしてるけどな。
「そのような分かりきった嘘で騙されると思うか!?」
思いません。
ここで魔法で逃げ出せば犯罪者認定。
この街では暮らせない。しばらく我慢することにした
まじ、ないわー
「あのですね、全く心当たりが無いんですね」
だから何の疑いがかかっているのか皆目・・・
「お前があの子達を誘拐したんだろ?」
把握。
「えっと、俺は保護者です。誘拐ってことは通報した親がいるはずですよね?
あの子達を見せたら自分の子供じゃないって分かる筈ですよ」
だって、あのこら捨て子よ?
そう言うと警察官は変な顔をした。
「何を言ってるんだ、モンド夫人は自分の子供だといっているのだから、お前が誘拐犯だろ」
なんですって、てゆーかだれですの?
モンド夫人、どう考えても偽名ですよ、お兄さん。
仮にモンド夫人がそう言ったとして目的は・・・
「全部洗いざらいはけ、お前の組織のこともな」
上司っぽい警察官が言った。口には立派な髭が蓄えられている。ダリだ。サルバドールダリ風。
「組織って、はあ?だから言いましたよね、俺はこの国にきたばかりだって」
「シラをきるな、もう分かっているのだよ。こちらもプロだ君達組織のことを調べさせてもらった」
「えっと、本当に俺の知り合いなんかこの国にいないんで組織も何も・・・」
「最後まで言わない気だな?お前達のやっていること、・・・それは子供を誘拐し、実験体にしている人非人だ。」
ちょ、それを早く言えよ、それはやばい。仮にモンド夫人が自分の子供だと勘違いしているという線を除けば、まず自分の子供を間違える筈なんて無いのだから、真の誘拐犯である確率は高い。
つまり双子が危ないっていうわけだ。
すみません、早速ピンチです。ドラゴンさん!
「双子はそのモンド婦人をお母さんだと言ったんですか?」
また変な顔をされた。
「いいや、合わせてはいない」
ということは二人は保護されていて無事だ。きっとナスがなんとかするだろう、問題はその組織。
俺の無実はどうすれば証明出来るか考えてみよう。
「ん、どうした?」
突然立ち上がった俺に構える警官。
「うんこ」
トイレに行かせて貰ったのはいいが・・・
「ダンタリオン、アンドロマリウス、セーレ・・・」
『困っているようじゃの』
『Hahahahaha!私が来たからには安心だ!正義が悪を成敗してくれる!』
『子供達とあなたの為ならば出し惜しみしません』
こんな時にいて嬉しいのは悪魔。
『まずダンタリオンはルーとミーの様子を映し出してくれ』
すぐに真実の鏡を取り出して見せた。
どうやら双子はピーナッツ・・・じゃなくてモンド夫人に捕まったようだ。
抵抗している。ナスは・・・地面にへばりついていた。
「あいつ・・・」
『クズは使えませんね、全く』
俺の変わりにセーレが舌打ちした。セーレさんって本当は悪魔だったんだと実感。悪い顔してるよ。
「マリウス君、お得意の《正義の監視》使ってみようか」
正義の監視とは眼力の一つで、悪や不正を見抜くという筋肉脳ヒーローらしき能力の一つだ。
マリウスの目から黄色い光線が出た。
キモいです。
『これはっ、この女・・・成敗してくれる!』
「まあまて、俺が知りたいのは組織のことだ」
『そうであったな、すまない。つい熱くなってしまった』
お願いだからもうちょっと静かに話してほしい。
『この女の組織は・・・子供達を集め、魔力を強化する実験を行っているようだ。魔力を集めて何かしているようだが、警察の言ってる誘拐犯はこいつらDA!』
ピーナッツ・・・じゃなくてモンド夫人が黒で確定ですね。もう警察署を出てしまったようだ。車に乗り込むとどこかへ走り去ってしまった。双子をつれて 『組織の場所はここから4キロ東のレンガの建物の中です。準備はいいですか?』
セーレは焦っているようだ、俺はここを動けない。
「ちょっとまて、俺がここを出れば指名手配だ。ダンタリオン、俺に変身出来るやつっているか?」
『そうじゃな・・・バアル殿とアウナスぐらいしか知らんが』
「セーレ、あのクズをここに転送してくれ」
『なんすか?』
うっわ、めっちゃムカつく顔をしているナス。
『死ね』
セーレさんがキレますた。
「・・・ということで、俺に変身して変わりにここでいてくれ」
『はあ?ふっざけんなYO!
これから笑顔動画見るんだよ!俺の時間を過ごす権利は俺にあるんだ!』
『ふざけるな』
セーレさんが気合いでナスを打ち倒しました。
ナスは『逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだっ』と譫言のようにくりかえしていた。まるで男子中学生のように。
俺に変身したナスを魔法で固定して、セーレの転送で俺とダンタリオンとマリウスは赤レンガの建物の前に出た。
『中に移転しましょうか?』
とセーレ。
「まて、顔がばれたら後で狙われる可能性もある」
『これはどうじゃ?』
ダンタリオンが取り出したのは真っ白なお面と真っ白はローブだった。
「めちゃ不気味」
『私たちが白を着るのはどうかと・・・』
マリウスも引き気味だ。でもこれなら正体は隠せる。使わせてもらおう。
「いくぞ」
中は広いホールのようになっていて、埃っぽく、臭いも不衛生そうだ。
天井から様子を伺う。
中は薄暗く、檻のようなものが並べられている。その中にはたくさんの子供達が怯え震えていた。
いったい何人いるのだろう50人は確実にいる。各が啜り泣き、泣きわめく子供がいれば、見張りの男達が殴り飛ばした。
「作戦通り頼むぞ」
俺は風の魔法を使って宙に浮かび、ファイアーボムで屋根に穴をかけた。
結構な大爆発になってしまい、6メートルくらいの穴が開いた。
見張りのもの達が異変に気づき、こちらに魔法を放ってきた。
勿論それはシールドで防御する。
「何者だ!?」
攻撃しても無駄だと分かり、男達は問い掛けてきた。
「我が名はクラウン、《アンノウン》を指揮する者。我等この世界の監視者であり・・・制裁者でもある。」
薄暗い室内に天上から入る光の中に浮かぶ真っ白な仮面の男。
ああ、俺今、超カッコイイ。
「何が目的だ?」
「我等は目的など持たない、制裁の判断を下したまでだ」
ここでマリウスが登場。
『我が名はマキシマム、《アンノウン》の一人、悪に正義の鉄槌を下す。
滅びよ!』
何故かマリウスはピッチピチの白い全身タイツにバッドマンみたいな口だけ出ているのマスクをしている、背中には白いマントで完全にヒーローになりきっている。
悪魔のくせに。
俺はシールドを張って高見の見物。
マキシマムことマリウスと男達の激しい攻防戦が始まった。
これはこっちに注目を集める作戦だ。できるだけ派手に暴れてもらう。
この合間にセーレとダンタリオンには子供の解放に向かってもらった。
無事にルーとミーも見つかったらしく、合図が見えた。
「遊びはここまでだ、マキシマム・・・終わりにしよう」
敵わないと悟った男達が出口に向かう。
残念でした、出しませーん。
あと30秒で警察が来るでしょう。
駆け付けた気配を感じて、俺達は引き上げた。
ルーとミーが無事で何より。
二人の安全を確認すると、ローブとマスクをしまって二人を抱きしめた。
「にっちゃ」
「にっちゃー」
胸の奥がチクりと痛んだ。
お前らに兄ちゃんと呼んでもらえる資格はないのだと、嬉しい気持ちも半分複雑だった。
俺は安心させるように二人をぎゅっと抱きしめた。
「ごめんな、怖かったな。もう大丈夫だから」
隣の建物の屋上から警察の動きを見る。
これだけでは終わらないだろう、それに二人を怖がらせたんだ。
ただではすませられない。
『地獄、お見せしましょう』
呟いたセーレさんが黒い。
だんだん黒くなるセーレさん。
怖いです。
警察署に戻ると、大騒ぎになっていた。
なんせ、大物組織の一部と幹部数人捕まったんだ。どうせ、トカゲのしっぽ切りでいくらでも再生するんだろうけど。
組織なんて所詮そんなものだ。
ナスは俺の姿のまま、鼻をほじりながら長椅子で横になっていた。
『よっ、おかえり』
「よっ、釈放されたのか?」
『バーロー、俺どころじゃないんだとよ。散々弄んでやったわww』
お前がか。
とりあえず、罪は逃れた。
今の内にずらかろう・・・と、腕を捕まれていた。
「君、マヤ・ダーカー氏の知り合いだったんだな。すまなかった・・・ダーカー氏は後で迎えに来てくれるそうだ。」
俺の取り調べをしていた警察だ。
マヤ・ダーカー氏・・・全然知らん。
取りあえず、双子を抱えて待合で椅子に座って待っていた。
「やあ、待たせたね、ジロー君」
黒髪を固めた、二十代後半の背の高い足の長いモデル体型の男が俺に声をかけてきた。
会社員を演じている俳優さながらのイケメソ。いいから話を合わせるんだ、と小声で言われ、仕方なく合わせることにした。
「いえいえ、こちらこそお手間をとらせて。ダーカーさん、警察が信用してくれなくてですね」
「ハハ、この国では身分が重視されるからね、大変だったね。誘拐犯と間違えられるなんて」
「全くですよ、しかし物騒になったものですね。俺のような子供にまで疑いをかけるなんて」
「仕方ないさ、時代だからね。さて僕の家に招待する予定だったね。弟達もつれてきなさい。・・・ポートマン警部、もう宜しいですね」
警察はすんなりと俺と双子を帰してくれた。それよりも闇の組織の方へ心が向いていたようだ。
このマヤ・ダーカーと名乗った男、
見覚えは無いが雰囲気の似た人間は知っている。
ダーカーと一緒に建物を出ると、高級車っぽい黒塗りの車に乗った。
フカフカである、
双子は見たことも無い乗り物に最初は怖がっていたが、今は車酔いでぐったりしている。
「おまえら吐くなよ・・・で、マヤ・ダーカー・・・いや魔王、どういうことか説明してくれるな?」
ダーカーは何をという顔をした。
いやいや、疑問点ありすぎて突っ込み方が分からない。
でもこいつは魔王だ。あの魔王には違いない。俺に接触してくるということは俺の存在をしっている。魔王、もしくは魔王の配下だ。
「その顔は?」
「元魔王だから、顔を知っているものは多い。ちょっと変えたんだ。よく分かったねさすが。」
雰囲気が似てました。
「キャラはどうした」
最初に会った頃のキャラが完全に崩壊している。もっと威厳ある態度で生真面目そうだった。
「こっちが素、魔王は仕事ですから」
なるほど、ビジネス魔王か。
「マジで、で、お金持ち?」
高級車で・・・元いた世界と違って見たことも無い車種だったが、しいて言えばクラウンのようなシンプルなかんじだ。・・・運転手つきなんだから金持ちにはちがいねえ。
「マジ、だって魔王だから。というのは冗談で、ファウストって会社の社長だ」
「どんな会社?」
「契約の仲介サービスといったところだよ。
一般の人から用件の依頼を会社が受けて、用件のレベルに合わせて、会社が契約しているハンターに依頼するってとこ。個人でやっている店より信頼があるからね、依頼が集まりやすいんだ。」
大体分かった。
所謂、ギルドだ。
RPGにはありがちな。
依頼をハンターがこなし、元魔王のマヤ・ダーカーはギルドマスターといった所か。
詳しく聞くと、ハンター職員には正規雇用と非正規雇用の二種類があって、正規雇用は事務仕事も含まれるが月収もあるため安定していることが分かった。
非正規雇用はバイト扱いで依頼をクリアした時のみ報酬が支払われる。
勿論、依頼が減ると優先的に正規雇用のハンターに回るし、非正規に福利厚生など存在しない。
異世界なのにこんなにせちがらい世の中だなんて、夢も希望も無い。
「へえ、それって俺も契約出来るの?」
「正規は20歳以上、非正規でも18歳以上なんだけどね、法律上。君なら実力的には大丈夫だろうけど。でもどうして?」
悪魔を使えばいくらでもお金が手に入ると言いたいのだろう。
「それはあんたも同じだろ?」
元とはいえ魔王だから。
「残念、いち人間なんだな。魔力が膨大なだけのね。だってほら、秘印君に渡したし」
秘印って何だろう。
まあいっか、聞くのも面倒だし。
察するに魔王の証、というところだろう。
「さいですか、俺は戦闘経験を積みたいのと、なんかつまんないじゃん」
本当に楽して生きるなんてつまらない。
ダーカーと話しているうちに、古い屋敷のような所についた。お城まではいかないが、そこそこの広さだ。
玄関ホールが特別広いようだ。
普通に生活していて、めったにお目にかかることのない豪邸。
双子を抱き上げて、ダーカーの後ろに続く。ちょっと腕が筋肉痛になってきた。
執事っぽい人が迎え入れてくれた。ロマンスグレーの感じの良さそうな人だ。
「この子達を書斎へ通してくれ・・・着替えてくる」
「かしこまりました」
玄関から広い階段を上っていく、執事の後に続いて歩く。
メイドさんを探したが、見当たらなかった。
後でそのことを聞くと、掃除は業者に頼んでいるので専属でいるのはこの紳士っぽい執事と運転手と数人だけらしい。
書斎に入ると、外の中世ヨーロッパを基調とした外観からは想像出来ないほどシンプルな部屋だった。
白い壁に床は黒のタイルで黒のソファーとガラスのテーブル、42、いや52型ぐらいはあるTV、あとは本棚とデスクトップ型のPCとノートPCだけが置かれている。
本当にシンプルで、カタログに乗っているようなオシャレな感じだ。
「待たせたね」
いくらかラフなスタイルに着替えたダーカーが現れた。
「それほどでも」
おもむろにダーカーは自分の椅子に座ると、俺にも椅子に座るよう勧めてきた。
「さっきから気になっていたんだけど、その双子はどうしたんだい?」
ダーカーは双子を見て目を細めながら言う。
まだ胸のあたりのもやもやがあったが、なんでもないように答える。
「拾った。上級ドラゴンが育てていたみたいだけど、ドラゴンの様子がおかしくなって、そこに居合わせた俺がこいつらを引き取ったんだよ」
そう言うと再度ダーカーは双子の顔を覗き込んだ。
言葉を一つ一つ発する度にじくじくと胃のあたりが痛んだ。
ダーカーは何も気付いてないようだった。そして、間をおいてダーカーの一言。
「この子達、この世界のものじゃないよ」
「え?」
パチン、
ダーカーが指を鳴らすと、二人はモッフモフの白い子動物になっていた。
ちょ、何してんの?
「僕の魔法じゃない、この子達の本当の姿だよ」
「犬?」
てか何なのこの双子。
犬になっても「にっちゃ?」と人の言葉で喋っている。気持ち悪い。
「わんわん?」と聞くルー
「きつねさん、かな」
とダーカーが答えた。
ああ、犬じゃ無かったのか残念。
「えっと、こいつら何?この世界にはこういうのがいっぱいいるわけ?」
人間の姿はしているけど人間ではない。獣人てやつか?
「いいや、さっき言った通りこの世界のものじゃないよ」
え、じゃあこの子達って・・・いったい
「何?」
謎が一つまた増えた。
「これが何か僕にも分からない。
ただこの世界には無い違和感を感じるだけだよ。僕も神じゃないからね」
「え、魔王って神から分離した存在、とかじゃないわけ?」
これは勝手な俺の妄想だったか。
魔王っていうぐらいだから神に近しい存在だろう。
何でも知ってるもんじゃないのか。
まあ神と同等なら魔界の環境問題なんておきないも同然か。
「普通に考えてみてよ、例え僕が神から生まれたのだとして、人間も神によって作られたわけだよ。君には分かるかい?
それに例え神だと同等だとしても環境問題は解決出来ないんだけどね」
「この世界の神とは会ったことが無いからな。それもそうか、神が干渉出来るならよっぽどのことなんておこらないはずだ。」
この世界の神と関わり無い以前に疑問に思っていたが、神とはどういった定義なのだろう。
この世界の神=今まで生活してきた現実の神ではないのだろうか。
別の存在と捉えるべきなのかもしれない。
それに神が俺達を造ったとはどうも考えられない、あの世界で今まで生きてきたからなのかもしれないけれど。
・・・神だって本当は作られたモノなのではないかと思ってしまう。
無神論的な社会の風潮から俺のような人間はそう少なくないだろう。
魔王はいたけどさ。
「なるほど、それもそうだね。
この世界の神によって君は作られたわけじゃないからね。
僕も同じでこの世界の神から生まれた訳ではなさそうだ。高尚な存在だという意識が無い上、気づいたら魔王をやっていたんだよ。
とにかく僕にもその双子の得体はしれない。僕の筋書きの脅威になりうる存在かも・・・」
「だったら?」
静かにダーカーは首を振った。
俺は『この世界の神』という言葉に引っ掛かりを覚えた。
この世界の神がいるということは元いた世界には干渉出来ないはずだ。
冗談のつもりでこの世界の神は知らないとは言ったが、神は共通の存在では無い可能性が高い。
「それよりも気になるのはドラゴン、
ウチの環境汚染と関係があるか調べてみることにするよ。」
「ああ、そういや人間界と魔界ってどう繋がっているの?
俺の住んでた世界との関係性とちょっと違うよね」
一応、人間界と魔界とは異世界同士になるはずだ。
ダーカーは言われてみれば、と手をポンと叩いた。
「それも調べてみよう」
魔界から人間界への移動は魔法で行われる。
ダーカー曰く、人間界内で移動するのと同じ要領なのだとか。それでも完全に同じ空間に存在するわけでも無いようだ。
いくら人間界を歩き回った所で、魔界には繋がっていないので行けない。
ただし、真夜中の12時丁度に学校の鏡を覗き込む、とか3時33分にどうたらとか、そういう都市伝説の方法でたまに人間界の者が魔界へ迷い込んだりすることもあるらしい。
魔界のものにとって魔法は造作も無いことなのでいくらでも人間界と行き来することが出来たが、魔力を封印されて以来、人間界で召喚を行わない限り現れることが出来なくなってしまった。もちろん、魔力が規格外ならダーカーのように自在に行き来できるのだろうけど。
ちょっと待て、太古の昔に魔力を封印されたんじゃ無かったのか?
訳が分からなくなってきた。
俺も召喚された身だが、それとは訳が違う。
だってほら、俺は幽霊になった訳だから。
次元のレベルが変わってこの世界に適応出来たということだ。
「調べるのは後でもいいけど、
俺がこの国に何も無いのは知ってるだろ?家もお金も戸籍も」
「そうだね、まずはこれを」
取り出してきたのは無数の書類、役所から貰ってきたのだろう。
名前や生年月日を書くところがある。
おれはそれを受け取って事務作業に徹した。
自分のだけじゃなく、双子も書かなくてはいけないので結構な作業量だ。
住所はダーカーの家になっていた。
戸籍上はダーカーの甥っ子になるようだ。
「これを提出すると、住民票と保健証が貰える」
そんなにあっさり貰えるものだろうか、
そこはファウスト社社長の信用なのだろう。
「サンキュー、魔王」
「いえいえ、
ジロー・メフィスト、ルーファス・メフィスト、ミーリア・メフィストか・・・
じゃあイーマ、持っていってくれ」
イーマという執事っぽい人は一礼して書類を持って行った。
玄関で見た人とは違う人のようだった。
配下の悪魔なんだろうか、それともただの人間か。
ルーとミーは戸籍上、俺の弟と妹になる。
本当に俺は大丈夫だろうか、と不安が過ぎる。
俺の本当の使命は魔界の環境問題改善と、その為の人間界と友好条約を結ぶこと。
友好条約というのは難しいだろうから、他に解決方法も考えなくてはいけない。
とにかく今はこの世界を知ることが先決だ。
「お茶をお持ちしました」
今度はさっき見たロマンスグレーの紳士執事だ。
「ありがとう、それと・・・」
マヤ・ダーカーは色々執事に言っているようだ。
俺は眠ってしまった双子に視線を移した。
今は人間の姿に戻っている。遊び飽きたのだろう。
こいつらは一体何なんだろう。
ぼんやりと考えているとダーカーから声がかかった。
「ジロー君、住居だけど・・・」
「ああ、それならなんとかするつもりだ。魔王には世話かけられないからな」
「そうか、では見つかるまでこの家にいればいい。」
ありがたい。いきなり家は買えないからな。そこそこお金が貯まってからだ。
「お世話になります!」
情けない!?
利用できるものは全て使っとけ。
ダーカーは勿論と笑った。
「仕事の方だけど、コンビニやネット、街中に点在する依頼受付で依頼を受け取ることが出来る」
依頼受付では「マヤ・ダーカーの紹介」だと言えば簡単に資格が取れるという。
コンビニとネットは、身分証明書(免許証か保険証)が必要なのでまだ無理だ。
お金は出来るだけ早く手に入れておきたい。
「じゃあ、さっそく行ってくるわ・・・セーレ、子供達をよろしく頼む」
セーレを呼び出して、双子の面倒をお願いしておいた。
すっかり懐いてしまっている。
セーレはきっといいお父さんになりますね。親バカという。
セーレに移転されて、建物の前に現れた。
あまり回りの人は気にしていなかったようだ。
というのも移転魔法を使えるものは少ないが、科学技術を応用して移転する道具があるらしい。
移動できる範囲、場所は限られてくるが。
丁度セーレはそれを理解して出現ポイントに送ってくれたのだった。
地面を見ると青い線で魔法陣が描かれていた。なんか今更だけどファンタジー噛み締めてる。
しばらく歩いていると、ダーカーの言っていた受付のようなものを見つけた。
見た目は映画館のチケットの販売店のようだ、カウンターが歩道に面していて、二人のお姉さんがなにやら書類を整理していた。
「すみません、マヤ・ダーカーの紹介で来ました。パート登録したいんですが」
お姉さんは少し驚いたのか、固まってから笑顔で対応してくれた。
「では、ここにサインお願いします」
紙を出されて確認して見ると、契約書っぽい条文がいくつも並んでいた。
一応目を通しておくが、大体は、
死亡による責任はとれないことや治療費は50%会社が負担すること・・・といったよくある内容だ。
それに名前を書いて出すと、1、2分でカードのようなものを手渡された。
「このカードは契約印証になっております、正規ならシルバー、非正規ならパープルの色です。
更にハンターそれぞれの戦績実績がデータ化されています」
「あの、これ黒いんですが」
「それは年齢による法律上の規定があり、非公式という形をとらせて頂きました。
契約上研修扱いですが、通常通り報酬は支払われます」
なるほど、18才以上だと言っていたような。
そして説明は続いていく。
「ご存知の通り、モンスターは政府の規定したレベル、1~7までとされていますが、
こちらではハンターにもそのレベルのモンスターを倒せるという意味で1~7までのレベルを適用させて頂いています。
始めはレベル1ですが成功するごとにハンターランクは上がり、上のレベルの依頼を受けることも出来ます。
なお、モンスターの討伐が最も多い依頼ですが、内40パーセントは違う依頼も存在します。」
「えっと、報酬はどれぐらいになりますか?」
メインはそこだ、あまり目立ちたくないが、安い依頼ばかりこなしても意味は無い。早く家がほしい。
「モンスター討伐で言いますと、
レベル1で20B、2で50B、3で1000B、4で1万B、5で10万B、6で50万B、7で100万Bが相場です。
他の依頼はレベルに分けてはありますが、報酬はバラバラです」
Bってどんくらいの価値あるのか分かんね。
「20ベルってどれぐらいの物が買えますか?外国から来たばかりなのであまり分からないんですが。」
アイスは一つ1Bだった。
100~300円としても10000~30000という差が生じてくる。
ここはこの土地の感覚を掴むしかない。
「20Bで本2冊、500Bでパソコン一台分という感じです」
「じゃあ、家を建てるにはどれくらい?」
「最低でも30万Bといった所です」
となるとレベル5を3匹かレベル6を一匹だ。
ビギナーは無条件にレベル1から始まるので、結構面倒臭い。
因みにレベルというのは国が独自に指定している、国家の脅威度を図る尺度らしい。
現在発見されているモンスターはレベル7までで、それ以上はいない。正確にはレベル7以上、つまりレベル6より強いやつはみんなレベル7だ。
かつて光竜がいた術の時代には、もっとヤバイのがうようよ存在したらしい、ただし今のようなモンスターもいなかったようだが。
とにかく俺はレベル1のモンスターを倒しに出かけることにした。
依頼書を受け取る。
「イノシシの討伐か・・・」
農村部の畑に最近現れるイノシシとアライグマの駆除依頼だ。
レベル1というだけあって、最初は簡単に思えた。
依頼受付のすぐそばにある移転ポイントからその村へとんだ。
移転魔法は不便だと聞いたが、こういう施設があるなら便利だな。少々お金はとられるけどさ。
「イノシシは、っと」
住人に聞くと夜中によく現れ、最近ではサツマイモ畑を荒らしにくるという。
丁度日もくれる、村の畑の中でイノシシ達を待つことにした。
1時間後
だんだん眠くなってきてうつらうつらとしていると突然地響きが聞こえた。
辺りは真っ暗だ。
ドドドドドドドドドドドドドド
地響きをあげて、どんどんこちらに近付いてきている。
まさかイノシシが現れたのだろうか、俺は立ち上がって震源を探した。
畑の向こうの岡で土煙が上がっているのが暗い中でも見えた。
そして大量の赤い光・・・王蟲・・・じゃないイノシシか?
と思ってる内にどんどんこちらに迫っている、相当な量だ。ヤバくない?
こんなん見たことねぇよ。
「<ぬりかべ>発動」
畑の向こうに壁を作る。
するとドゴッ、ドゴっという激しい打撃音が聞こえてきた。
イノシシ達が全力でぶつかったのだ。相当な衝撃だったのだろう、殆どが失神している。
恨むんなら猪に生まれた己の運命を恨むんだな。
俺は様子を見る為に風の力で中に浮いた。
そして<ファイアーボム>で手当たり次第に打ちまくった。
立っているイノシシがいなくなった所で、解体しようと着地。
うわ・・・
これイノシシ?
イノシシの身長は2メートルほどだ。身長という表現に引っ掛かった方はこのイノシシの死骸を見れば一目瞭然だろう。
つまり、人間と同じような体型をしている。
顔はイノブタで、体はムキムキマッチョに全身毛皮のような姿だ。
ちゃんとメスもいるようだが、マッチョだ。
二足歩行で一直線に壁にぶちあたっていく姿は壮観だった。
「うげえ、皮剥ぐのめんどい」
普通のイノシシよりも人型である分皮を剥ぐのが難しい上、惨殺現場に居合わせたような気分だ。
最悪である。とりあえず、手足、胴体、体に分解してゆっくり剥いでいくことにした。
俺はその日倒した34匹の皮をはぎ、解体した肉は村人に分け、街に戻った頃には真夜中になっていた。
因みにイノシシの肉はドラゴンより美味しくて、豚よりは硬いらしい。
逆にこの形態をどうして食べようと思ったのかが気になるわ。きもちわる!
そうして俺の一日目の依頼はゆるく終った。