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死にました

注意


※ノンハーレム

※深刻な美少女不足

つまり主人公恋愛フラグなし。

※健全GL的な表現あり

※草はえてる

※聖書の引用とか天使とか悪魔とかわかるひとにはネタ元わかる。

※悪魔と幼児とほのぼの暮らしてるだけの自由人の主人公

※5年たったのに完結してない

※そもそも書いてたの4年前なのでネタがもう古い


以上を踏まえた上でどうぞ。

Since 2012~




1月13日午後6時過ぎ、まだ寒さは深まるばかりのころ、薄暗い道路で交通事故が発生した。


俺にとっては一生で一番重大な事件だったが、世間からすればただの「よくある交通事故」でしかない。例え誰かが死んでようと、結局は他人事だ。ひっそりと新聞の三面記事に乗ったが、忘れ去られるのも時間の問題だった。


自分の顔がTVの画面の上で四角に切り取られた姿を思い浮かべるのは容易なことだった。


なんともいえないクリアーな映像。

夕方のニュースで、ちょっと美人なアナウンサーが無機質に俺の死を全国に伝えていた。


微かに胃のあたりがムカムカした。

死んでからもそういった感覚があることに驚いた。


ダイニングテーブルでうなだれる母の頭、黒く縁取られた俺の顔。

俺、死んだんだ。


こんな簡単でいいのかな、理不尽だな世の中って。様々な考えは浮かんだが、自分が死んだことを自覚出来るのはおかしな事だ。まるで、自分のことなのに他人事のような気がする。夢でもみているんだろうか。


死んじゃったんだ。


じわじわと、理解は始めていてもどうしても認識はできていないアンバランスさがある。不安定になっていることは自分でもわかる。


何故だろう。

体が羽のように軽い。





てゆーかさ、最悪じゃね?

俺死ぬとき「ぷぎゃっ」つっちゃったよ。

漫画かよ。俺だけは無いと思ってた。


人間いつ死ぬか分からないといっても、それが今日だとは誰も思わない。試してみたらいい。1本の横線を引いた紙を渡して、『この線が人生全体だとして、あなたは今どれぐらいにいますか?』と印をつけさせればいい。そしたら15才なら4分の1以下に、40才でも半分ぐらいに印をつけるだろう。俺が死んだ日の朝に同じことをしていても、間違いなく線の4分の1までいかない部分に今の自分のいる位置を記しただろう。


誰もが明日死ぬなんて思って、生きてる訳じゃないんだ。勿論、余命を宣告された重病人は別だが。


それはさておき、俺はどうやって死んだのかというと、トラックとコンクリートの壁に挟まれた、自転車走行中に。そりゃ潰れるような声も出るわな。


トラックは飲酒運転だったか、居眠り運転だったか忘れたが、もうどうでもいいことだ。


これが因果、運命、宿命、さだめ、何でもいいけれどこれが現実だし非常にもどかしいけれど自分の力ではどうにもならないことがある。


達観してんな、俺。


ユラユラと揺れる視界・・・ああ、これって妄想じゃなくて現実なんだと実感させられるのは、やはり俺自身の遺影を目にした時だ。


嫌に思考がはっきりしているのは、生きているからじゃないことは明確で、これは夢なのだと何度も考えを改めたが、


夢だと自覚出来る夢など存在しないことはとっくの昔に知っていたことだった。


そうか、死ぬってこうゆうことか。


生きることから開放されるんだ。

こんなに頭がすっきりしていたことが、今まであっただろうか。


勿論俺は死にたくて死んだ訳じゃない。不慮の事故ってやつだ。


だけど、生きていることは苦しい。稀にだって「死にたい」と思ってしまうほどに。生きていく辛さ以上に死ぬことは恐ろしい。


その恐怖が自分を生に留め、生きていれば些細なことで「生きていたくなる」。


俺はそれを強引に奪われてしまったのだけど。


まあ、楽しくない学校生活から逃げられることだけは御の字だろうか。そもそも、俺は学校が嫌いだった。引きこもりたくても学校を休むのは怖くて出来なかったわけだ。主に母親がキレたらヤバイ。


現に無遅刻無欠席で成績優秀として優等生賞なんてものをもらったしな。

あのだだっ広い体育館の壇上に呼ばれ、校長から直々に頂いたわけだ。


てゆーか、なにそれ

優等生とかマジハズいんですけど




とりま、それ以外は普通の目立たない高校生だった。当たり前だ。学校行きたくない、て思うぐらい普通のことだ。俺は学校に行くことができたというだけで。


因みに噂では俺は首席で高校入学したことになっている。地元ではちょっと名の知れた私立の進学校だ。



噂では、というのは近所のおばちゃん情報なのであてにならないが、すべり止めに受けた別の私立の高校の校長は家まできて「是非我が校にきてくれ」と両親に頼んだことは伝説。



やべぇ、マジ俺天才?



というのは冗談で本当に俺は地味で目立たない男だった。


全国模試1位という成績も既に過去のこと。過去の栄光にすがるしかない可哀想なやつなんだ、わかってくれ。


残念なことに自覚のないイケメン気質とかタラシ気質は持ち合わせていない。


加えて言うなら、近所に家は無いので世話焼きの美形の幼なじみもいないし、高校は漫画のように頻繁に謎の転校生なんて来る訳が無い。


妹はいたが、みなが憧れるような『こんな可愛いはずがない』と言えるレベルのものでもなく、どちらかと言えばジャイ子系だった。でもジャイ子の方が可愛いと思う。つまりピザ&腐女子。


本当に俺自体は顔にも内面的にも特徴は無かった。で、高校入った直後に勉強は捨てた。


五つ神童、十で天才、二十歳過ぎればただの人という言葉が表す通り、俺は見事に平均以下に成り下がった。


自分で神童や天才までは思ったことは無かったが、そこそこできる子だったんだ。本当に。悲しいことだけどね。


はっきりいって、中学までの勉強なんて考えれば解ける問題ばかりだ。高校からの成績こそが努力次第で変わる。授業さえ受けとけば実力テストで満点なんてチョロいもんだった。満点とれば間違いなく全国1位だ。ビバゆとり!


どうせ就職氷河期、今勉強して必要な脳細胞を失いたくなかった。仕事をするに必要なのは機転と記憶力(顔と名前)、あとは要領のよさだと思う。

それに超がつくほどの学歴は必要ない。


…勉強が必要ない、ということじゃないぞ。断じてな。


今時、ネームバリューばかりの大企業に入った所で安定しているとは限らない。


普段は目に見えない所に落とし穴はある。


とりあえずは安定感のある中小企業に入社、そして揺るぎ無い信頼を得、もう俺でないと会社が回らないというとこまでこぎつける。究極の安定感だ。ドヤァ。


これが今後の予定だったがそういう訳にもいかなかった。いかなくなった。




だって俺死んだんだもの。




まあ、俺の成績がガタオチになった盛大な言い訳は置いておいて


(結果俺は後ろから5本の指に入る伝説となった、担任が泣いていたのも無理はない、

俺はそう二次元の世界で生きると決めたのだから、キリッ。

そしてガタオチがガチムチに見えたやつ、そいつは末期の兄貴だ、ホモは帰りたまえ)



今目の前にはTV画面がある。状況から推測するに、俺は意識だけの存在



----つまり幽霊なのだ。



母親は俯いたままダイニングテーブルから動かない。リビングには窓のカーテンの隙間から赤い光がTVの画面の上まで伸びていた。妹は学校で、父は会社だろうか。こんな時に母を一人にするなんてな。


ニュースでまだやっているということは、俺が死んでから数日も経っていないんだろう。


家族、実の親ならば子供の死ってのは小さくないはずだ。できれば、これ以上力ない母の小さな背中を見てはいたくない。


当たり前の日常に、俺はそこにはいない。


自分が死んだことよりも、こうして誰かが悲しんでいることが辛い。もちろん、死んでしまって失ったものは多い。だけど俺は全然大丈夫、大丈夫だからと言っても多分、母には聞こえないんだろう。


ああ


まじ残念だわ、こうなった以上二次元(漫画50%アニメ10%小説5%残りその他)のことはふっきれた。死んじまったもんはしょうがねーんだ。



これがきっと小五ロリ----悟りというものであろう。




どこか遠くで


「ハァハァ、ロリロリたん萌え萌え・・・くんかくんかグフフフフフフいい匂いだにゃぁ」


という地縛霊の声が聞こえた。


隣の家の幼女のパンツが干されている物干しでその変態さを晒しているようだ。


幽霊だからって、見えないからってないわ。



そうか悟れないと俺もああなっていたのか。



恐ろしい。



だが俺はこの世界に未練はない。


なぜならばおれは小五ロリという力を得た真のオタク(笑)だからな・・・あーフィギア欲しい。スト○○ク○ッ○ーズのフィギア今日発売だったな。ヤフオク出てないかな。ああ、可愛いよ、リ○ネちゃん。この上なく可愛い。


買えないフィギアは置いておいて、



問題は雁首、新聞やニュースで出ている顔の写真のことだ。




・・・何だよこれ




こういうのは遺族が提供するらしいが・・・誰だよこれってくらいフォトショでいじられてる。


フォトショとは画像編集ソフトだ。何これ俺テライケメン。しかし悲しいかな、技術が追いついていない、プリクラ写真のようにどこか不自然だ。

TVで出た写真はもっとひどかった。

文化祭の全身タイツ(顔出てない)


どんなけ俺の顔見せたくないの!?


俺そんなに顔崩れてるっけ!?

いくら死んだやつだからって酷くない?




間違いなく妹の仕業だ。いやマジでその写真のせいでシリアスな空気台なしだからね。


因みにこの事故で死んだのは俺だけじゃない。



1月13日午後6時20分頃、自転車で下校していた16才の少年2人にトラックが突っ込んだ。


居眠り運転だった。二人は同じ学校の生徒だったが、違いに面識は無かった。

と、ニュースでは報道されていた。


嘘付け、俺はコイツを知っている。



そう、学校では誰にでも知れた存在だった。つまりモテるやつだ。


しかし漫画のように女を侍らせているわけでも、勉強スポーツが人並み外れである・・・というチートな設定は無かった。


スポーツはある程度できた、鈍感ではあったが。


ハーレム持ってて、更に俺のことを友達だなんて勘違いしてるならば、間違いなく生かしてはおけない、


社会的に。




多くの野郎どもはひがんだが、誰も手出しはしなかったし出来なかった。むしろ男子からもその人当たりの良さで人気はあった。


それが現実だ。

しかし女子達の視線の先にコイツがいたことを俺は知っている・・・当然だ。




誰が見てもわかることだ。


自分のまわりを分析する、そして自分の立ち居地を再確認し、地味に上手く立ち回り損をしないことは重要だ。そうやってのらりくらりといろいろなものをかわしてきた。主に委員会役員とか実行委員会とかめんどくさそうなことを。人間観察と言えばどこかしらイタいのはなぜだろう。


で、肝心の女子達の視線の先のコイツの名前は・・・城山悠斗


これが俺と同じようにして死んだ男の名前だ。

これを主人公とでも呼ぼう。俺が想像する主人公像そのものなんだ。


顔、頭、運動、どれをとっても文句の付けどころがない。しかも男子の友人も多い憎めないやつだ。


これ以上に素質を持った奴はいない。


一緒に死んだのも気分は悪いが運命だ、きっとこいつとは何処かで出会う、そんな気がしていた。



ていうか、リア充氏ね!

イケメン爆発しろ!



城山は主人公と例えたが、

主人公も一緒に死んだら意味なくね?


そうだな、

死んだ人間が主人公って意味わからん。

もう俺も死んでるし意味分からん。



しかし、何故か死んだはずの俺はこうして意識の固まりとして実在(?)しているのだから、そもそも主人公らしい見た目と能力を持った城山が死ぬわけない。





俺はそのthe主人公城山を探しに事故現場、俺達が死んだ場所に行く。


幽霊になると便利なもので、思っただけで移動が出来るようだ。普通は移動はしない上に、生きていた時の習慣を繰り返していたりする。


だから壁をすりぬけたりはしない。

普通にドア開けて出入りするし、乗り物に乗って移動したりしている。


というのも幽霊になって初めて知ったことだ。みんな死んだって自覚はないんだろうな。



幽霊になると当然幽霊が見えるのでいつも以上に人口密度がすごくなる街中。でも幽霊と幽霊がお互いにすり抜けたりもするし、幽霊同士ってコミュニケーションとらないのかしらん。


俺は事故現場の道路に面している倉庫のような建物の前まできた。

そこにはうずくまるようにして座り込んでいる城山の姿があった。


よしよし、落ち込んでいるようだね。声でもかけるか。


「おーい」


返事は無い。まるでしかばねのようだ。

俺の声は聞こえないのだろうか。こまったな。

しばらく俺は幽霊、城山を観察することにした。どうやら自分の状況が理解出来ず、呆然自失としている。先程からうずくまっまま動こうとしない。人間絶望したらこうなるんだろうか。


脳裏に母の背中が浮かぶ。


目が覚めて気づいたら実は幽霊になってましたー、って普通そうなるわな。大抵はそうだろうし、俺のようなお気楽者は少ないだろう。




でも死ぬのって本当に辛いんだ。

少しだけ事故の瞬間を思い出す。



こうして楽観的でいられるのも、もう『死ぬ』ことはないからだ。

二度と同じ体験はしたくない。


俺の場合圧死だったわけだし、死ぬほど痛いし苦しかった。


まあ、死んじゃったんだけど。


あ、これヤバイと気付いた時には遅く、

逃げることも出来なかった。


息も出来ないし、全身に激痛が走って、もう頭では何も考えられなくて、走馬灯なんて浮かばない、



ただ『イタイ』という言葉でいっぱいだった。



全身血まみれだったのだろうけど自分の体は見えなかったので確認出来ない。感覚なんてものはない。何がどうなっているのかも分からない。


体が金縛りにあったように全く動かないのだ。最後に見えたのは道路の黒い水溜まりと、誰かの手。ピクリ、と動いた気がした。肘から下の部分がアスファルトに書かれた白い線の上に、そこから飛び散る血飛沫か、夕日か、コントラストを描いていた。


視界が真っ赤に染まったかと思うと次の瞬間には暗転していた。



ああ、嫌なことを思いだしてしまった。



俺は城山に意識を戻す、相も変わらず動く気配もない城山のすぐ側の、何もない所が光だした。


ん、なんだこれ?


真っ白な兎がいた。


道行く人は当然、城山や俺の存在には気がつかない、兎の姿も見えていないようだ。



『シロヤマ、ユウト』



白い兎が喋った。

城山はゆっくりと顔を上げて、さらに視界に入った白い兎に驚いていた。



これは神の使いだったりして、城山は異世界転生しちゃったりして、と馬鹿なことを考えていると城山の姿は消えていた。しゃべる白兎も姿を消していた。



えええええ、

俺はおいてけぼり?



城山くんどこにいったの?俺どうすればいいの。


俺は最強の小五ロリの力を使い新世界への入口を発見した・・・わけない。

そんな簡単に異世界行けてたまるか。ライトノベルじゃあるまいし。




それは唐突に現れた。




見た感じ死神、という髑髏に黒マントの団体が現れたかと思うと俺をかつぎあげた。え、なにこれ。


そいつらを見た瞬間、

ああ、俺は地獄に堕ちるのだという考えが過ぎった。


なるほど、死とは救いなのだな。

地獄では死ぬような致命傷を負わされても死ぬことはない。死ねぬことこそが地獄なのだ。

俺は死んだ時の苦しみを思い出して身震いした、あの痛みが永遠に続くなんて気が触れてしまうに違いない。


城山くんは天国にいったんだな、天使の白いウサギにつれられて。俺と違って素直でイイヤツだったんだろう。


そんなことを考えている間にも死に神達は俺を運んでいく。



「そぉおおぉぉおいぃ!!!!」

という意味不明な掛け声とともに俺は基本カラーが黒の世界についていた。

途中異次元空間のようなものを通った。ぐにゃぐにゃしてて気持ち悪かったです。


怖い、とか、やめて、

とか叫ぶ隙さえ与えない、数秒間の出来事だったわけだ。


俺は多分仏教徒だから死に神なんて伝説的な生物がお目にかかれるとは妄想でも及ばなかったわ。死に神がチートなのはJK、俺は大人しく運ばれることにした。地獄は怖いけれど、どうしようもない。どうしようもないことは、流れに身を任せるしかない。


その世界というのも想像していたものとは違った。


見事な暗黒世界、地面はくろっぽくしめっていて木も草も花でさえ黒ずんでいる上に、空気さえも淀んでいた。

川などまるでドブのようだ。

そう全体がドブにさらしたようなドブ色だ、そしてどこかしら臭い。


地獄というかんじでも、閻魔様のいる冥界というイメージとも違う。


ドブのえげつない匂いに酔った俺は気づけば気を失っていた。




頬に冷たい感触がして、俺は薄目を開けて倒れたまま辺りを確認すると、黒い大理石の上に倒れていることが分かった。

どうやら辺りに死に神たちはいないようだ。


辺りも薄暗い。建物のなかだということは分かるが、まるで広間のように広い部屋だ。天井なんて暗くてどこまであるか見えないし。柱ごとに蝋燭の火が灯っていて、ぼんやりとだが内装は見える。


あれだ、日本人は夜目があんまり効かないんだよ。


それにしても、ここはどこなんだろう。そしてこの悪趣味な暗い部屋はなんなんだろう。と、体を起こさずに考える。


「ん、んん?・・・イケメンにはドブ色がお似合いだ、しね。・・・うわマジくせーなこの部屋、ほのかにスルメ臭い」


『やっと目覚めたか』




重々しい声が前方斜め上から聞こえた。


解せぬ




――――――魔王だった。





いや、魔王に違いない。前方5メートル先に大理石の階段があり、その壇上には玉座に座る異形のものがいた。


なにかの骨で出来た巨大な玉座、長く編み込まれた黒髪、紫色の瞳、ツノとキバ、深く刻まれた眉間のシワ、長い黒い髭、ホリはドイツ人並に深い。無駄にいかつい肩飾りのついた黒い鎧、厨二病かこいつは。魔王だとしたら存在自体が厨二だ。

異世界?これが異世界なの。



「だが、断る!」



『・・・まだ何も言っておらんぞ、少年』



しかし、解せぬ。




異世界にいく場合は神様が現れて、

「ゴメンミスった、マジごめん。死ぬはずじゃなかったの」って言われて魔法の世界に転生され、ついでにチートな能力を手にいれられるはずだ。携帯小説で俺は読んだんだ。フラグ回収しそこねたからかね。

もしかして、the主人公城山がその役目をやってるのかも。ならば、俺は巻き込まれ脇役といったところか。


だって目の前にいるのは魔王だもの。なんだよ、魔王って。諸悪の根元か。ラスボスか。



「何、てかあんた誰?」

『魔王』


それは分かっています。

自分で自分を魔王と言っちゃうあたりいただけないな。いたい子かもよ。


「で?」


でっていう。


『私がお前を召喚した』

「マジで!?」


あの死に神達は召喚だったの?

てっきり地獄に召されたかと思ったよ。こんなゲームとかラノベ的なことあるの?もう全部馬鹿らしくてやってらんねぇよ。


それよりも召喚とはどういう意味なのだろう。魔王がわざわざ世界最弱の平凡オタクを召喚する意味が分からない。


『私はもう歳だ・・・簡単に言ってしまえばこの職業マジあきた、てかマジ臭いこの世界、ほんのりスルメの香り』


「ふむ、俺に魔王になれ、と」


『ご名答・・・あわよくば勇者とかめんどくさいやつと戦って欲しいんだけど。てかいい加減起きんしゃい』


俺は仕方なく立ち上がった。だって床がひんやりして気持ちいいんだもの。


なんか凄い威厳無い台詞の魔王だけど大丈夫なのこれ?見た目は威厳の固まりだけど。


「それ、俺になんかメリットあるの?」

『・・・魔王だぞ、魔王になれるんだぞ』


信じられないといったふうな魔王。

なんだそれは、おれは魔王になってあげる立場だクソが。ていうか、魔王ってなんだよ。本気でこいつ魔王なの?魔王ってなんだっけ、悪魔の王様ってことか?何回魔王っていったよ、ふつうに生きてて魔王って単語ほぼ使わないよ?


「いやだって勇者とかいるならさ、俺最終的に死んじゃうし。」


普通勇者は魔王を倒すために存在する。死んでから死んでもどうってことないが、カマかけてみる。


『うむ、確かに死ねと言っているのと同義だな。まあ勇者と戦う必要はない、冗談だ・・・とりあえず聞きたいことは無いか?』


冗談ってどこまで冗談だったんだろう。勇者を倒す云々のくだりか。とりあえず、ここは何処なのか聞こう。


「てか、ここって魔界ってやつだよね?」


『ああ、勇者たちの住む世界とは違うな。成る程、魔王が治めるから魔界か。面白いことを言う。』


ククッと魔王が笑う。

今まで無表情だったからか、妙な違和感があった。確かに魔界呼ばわりは失礼かもしれないが、魔王は俺の王でもなんでもない。俺がどんな対応をしようが、死んでいるんだし敬意を払う必要を感じなかった。


それにこの世界は俺からすれば異界だ、魔王が治めるならば魔界と呼べばいい。しかし、勇者の世界とは違う、か。


「勇者って誰だ?」


『昔私の子を倒した男がいた。我々を倒すほどの魔力を持った人間を勇者と呼んでいる。今の勇者の世界にはいないらしいが』


至って普通に返答がある。

俺の偉そうな態度に、全く気負うことのない魔王の器の広さに感心する。自分が身分のあるものなら、こんな失礼なガキすぐに殺してしまうだろう。


「ふうん、俺幽霊なんだけど?」


幽霊だけど臭いや温度を感じるし、そもそも霊体って何なの。手足はあるし、少し違和感、窮屈な衣服を脱いだような感覚はある。


『問題ない。まだ、不完全だがすぐになじむだろう。』


不完全、てなんだよ。まあ、実体はあるようだしよしとするか。魔王が問題ないというんだから問題ない。それより気になることがある。


「ここ臭いよな」

『ああ牛乳拭いた雑巾並にな』

「俺ここに住むの無理」


いくら魔王になれたとしても

(こんな厨二になりたくはない)

じゃなくて、


この世界はちょっと考え物だ。

どこもかしこも、まるでゴミ溜め。


川の水は黒く濁り、藻や油のようなものが浮いていて下水のような臭いをはなつ。空は厚い雲に覆われていた。


『その解決のためにお前を呼んだ、お前には勇者の住む人間界へ行ってもらう・・・本来の目的は和解だ。』


「は?」


いやいや、は?


普通魔王って侵略とか支配とか世界征服とかじゃねーの?それってゲームの世界だけ?この魔王、何考えてるんだろう。


『もちろんこんな世界だ・・・何分住みにくくてな。臭いし。国民もみな困っておるんだ。昔はこんな世界じゃ無かった、緑豊かにして農業の盛んな国であった。だが十数年前からこういう状態だ。太陽の光は厚い雲に覆われ、食物は育たない。』


「ふぅん、成る程。人間に支援を願いたいと?」


『ああ、人間界の者の力を借りることが出来ればこの世界は救われるかもしれん。侵略する気なんて無い、領土が増えた所で統治が難しくなるだけだからな』


てっきり、目的は人間界侵略か、勇者の殺害なんて思った俺が恥ずかしい。環境問題の解決のために人間と和解したい魔王だなんて初めて聞きましたけど。


人間に助けを求める悪魔って・・・魔界は魔界でなにかしら事情があるようだ。


「でもそれは難しいだろうな」


人間側から見ればわざわざ敵を助けるようなことはしないだろう。


それに


「人間にどうにか出来なかった場合どうするんだ?」


『入植を希望している』


普通に考えて難しいだろう、

それよりも環境汚染の状況と人間界との関係性でもこちらの動き方は変わって来る。


「じゃあ、人間界と魔界はどういう関係だ?」


『ああ、我が国の一部のものが人間界で盗賊のような行動をとっているから、敵と見なされても致し方ないだろう。

深刻な食料不足に暴動は悪化する一方だ』


ゆえに人間からみれば魔は敵だ。


魔界イコール悪というのは人間からの見解でしかない。悪い国なんてものは無いのかもしれない。


俺個人としては、知ったこっちゃないけど。


「それ以前に自力でどうにかすることは出来無かったのか?」


誰かを頼ったり、奪ったり、捨てる前に問題を解決する方が先だろう。


故郷が住めなくなったからって簡単に捨て去るのは目茶苦茶な話だ。


『ああ、もちろん試みた。

だが、我が国の技術力科学力は非常に低い、人間のような高度な文明も築けない。文盲率が高く、殆どの国民は話すことが出来ても文字を書いたり読んだりすることは出来ないからだ。

我々が見たことも無いゴミを処理する力や知識は無い。我々の使う魔法では解決出来ないのだ。

太古に我々の魔力の殆どは封じられているから大した魔法は使えない。現状は維持出来てもどんどん環境破壊は進む。』



魔界に高度な技術力科学力はない、

ということは「汚染」はおきない筈だ。


有害物質となるゴミ等を排出することは不可能だからだ。高度産業や技術工業とは無縁の世界だったらしい。


分かりやすく言うと自動車が無いのだから排気ガスも当然出ないということだ。


ただ人間界や他の世界から機械等を入手している、もしくは略奪しているといならば話は別だ。


「ちょっとまて・・・どうして魔界で汚染がおこるんだ?今の話じゃ原因は何になるんだ?もしくは人間界の機械や技術を使っているのか?」


なにも無くて、汚染が起きるはずがない。


『いや、私の知る限りでは無い・・・まず人間のものは使いこなせないだろうからな。

人間の持っている自動車や機械などは無い。汚染元はというと、分からないんだ。どこからか流れ着いているのは事実だ。それがどこからなのかは調査中だ。』


「まあ、なんとなく想像ついたけど。で、何故「俺」が召喚されたんだ」


ここ一番大事。武道の心得も、天才的な頭脳も持たない平凡がなぜ選抜されたんだ。


『一応我等と人間の世界は敵同士だ、私が言っても戦争に成り兼ねんからな。そこで中立的立場として異世界の存在を呼び寄せただけだ。

ついでに引退したかった。

お前が召喚対象になったのはその時エネルギーが最も高い状態、死んですぐだったからだ。』


肉体を持った状態だと次元レベルが違うために召喚することは出来ないのだという。成る程、俺でなくても良かったわけだ。


偶然というか、安直にラッキーと考えていいのだろうか。これから起こる出来事を想像して不安になる。口だけ偉そうなこと言ってても、ここは通用しない世界なんじゃないのか。俺のような凡人は簡単に死んでしまうんじゃないだろうか。


どうしてこの魔王は「俺を」無条件に信じるのだろうか。逆に魔王が嘘をついている可能性だってある。だが、俺を騙すメリットもないから信じてもいいかもしれない。


「そこで、俺が協力する利点は?」


『魔王の秘印を授けよう、全ての悪魔に協力を仰ぐことが出来る。

下級悪魔なら命令には絶対逆らえない。

魔王の力は勇者を凌駕する、魔力の封印さえ解けば最強だ。』


「それだけ?」


『デーモンの力が無償で使えるんだ、まず不可能というものが無くなる。金も女も知識もな』


悪魔と一概に言っても多種多様だ。

元々神的存在が零落したものが多い。通常悪魔を召喚した場合、対価というものを奪われる。大抵が体の一部、命、魂、寿命といったところだ。

そう考えればお得とも言える。


「じゃあ参考程度に聞くけど人間の魔法ってどんなもんなの?」


それを基準に能力付加してもらおうという魂胆だ。


『一応基礎にあるのは錬金術だ。

科学と同じように発達してきたからな、殆どの人間は大した魔力は持っていない。火・水・風・土・金に合わせて光か闇の能力を持っている。

大抵の人間が2つしか属性が持て無いわけだ・・・因みに我は無属性と闇だ。

得意属性以外に近似した能力は使うことも出来るが、微々たるものだ』


「察するに科学も適度に発達しているってわけか」


全員が全員同じように魔法を使える訳ではない、だから魔法によって誰もが便利な生活を手に入れられるわけではない。


「んで、テレポートの魔法は無いの?」


『ああ、無いこともない・・・使えるのはごく一部だ。しかも魔法陣を用意する必要がある分、5Km以内なら歩いていった方が確実に早い。

それに人間界は移動手段が豊富だ、不便は無い。』


「不便な魔法だな」

魔法ってもっと「魔法的」だと思ってた。魔法で食べ物をぱっとだしたり、空を飛んだり。


『基本的な魔法以外は存在しない』


「あらら、時間止めたり、瞬間移動したり、未来予知したり、何も無いとこから何か作り出したり・・・って出来ないわけだ」


魔法っていうよりは超能力か。


『ああ、出来ないな。無いことになっているんだから。我も未来予知はさすがにできないがな』


「ってことは出来るの?時間操ったりと創造したりとか」


『ああ、それも付加価値にならんか?』


なにそれ、

最初っから魔王チートじゃないか。

なんで倒されたし、魔王の子。


ああ、勇者の話は冗談だったか。でも万が一例の城山が勇者として鉢合わせしない、とは言いきれない。


「そんなに強くてどうして人間を恐れる?」


『我々は人間とは根本的に違う。戦争があればまず、勝てない・・・戦いにおいて重要なのは何だと思う?』


JK


「経験と智力だろ」


戦略というやつだ。


有名な話だが、古事記の英雄どもは誰ひとりとして正々堂々と勝負していない。


特にヤマトタケル、女装して油断させて殺したり、友人となって剣を木刀とすり替えておいて手合わせした上で殺したり、正々堂々とした武士道など存在しない。相手を討伐することに意味があって、方法なんてなんでもいいわけだ。


やられた側である出雲の民などからすれば極悪非道の極みだろうな。つまり、戦争に礼儀も何もない。


あるのは味方側の考える正義をまっとうすること。作戦と勝率だ。


勝った方が正義。正義と正義のぶつかり合う結果が戦争だ。


たがいに自分の言い分が正しいと思っている限り、話し合いでは解決しないからこそ、戦わなくてはならないという悲しい結果が生まれてしまう。


『そこで、人間界へ行って戦いかたと共に魔法の扱い方に慣れてもらいたい。まずはここからだ』


「ああ、これは引き受けるしか無いな、俺は死んでしまっているわけだし・・・拒否権なんて最初から無いんだろう?」


偉そうな口をきいてたのは、混乱する自分に言い聞かせ、奮い起たせるためだ。あくまで、魔王が主導権を持っている。というか、よく殺されなかったな。


『ああ、すまないな。私も姿を変えて見守ることとしよう』


魔王は微苦笑して見せた。

その本当にすまなそうな顔に戸惑う。


何故、俺にそんな重要なものを託せるのだろうか。この魔王、本当に大丈夫?

俺だったらもっとカリスマ性あるやつ選ぶよ。


「じゃあとりあえずは世界に順応することが第一だな」


魔王が指差した方向に黒い渦が出来る。


『ここを通れば自然と実体化するし、人間界の何処かに繋がっているはずだ・・・魔力はさっきの通りだが君の世界のRPGゲームと似た世界になっているはずだから大丈夫だろう』


オタクでよかった。無駄にそういう知識はある。マジ助かった。


『これは、お守りだ。何かあればこれで連絡がとれる。』


ペンダントトップには水晶のような球体がついている。正確には球ではなく、正八面体らしい。(魔王曰く)


サイズは親指の爪ぐらいで、特別大きい訳ではない。


「これなに?」


『色々な機能があるが、とりあえずは通信機能がメインだ。相手の属性、魔力量なんかも分かったりする』


「へぇ」


魔法のアイテム兼監視用ってわけか。

まあいい、これから向かうのはモンスターと戦う世界だ。異世界だ。


まあ、魔界も俺にとっては異世界には違いないのだが。


「よっしゃ、魔法の世界かwktkしてきたww」




黒い渦に近付くと、ずるりと自然に体が引き込まれた。多分外から見れば俺はぐにゃりとゆがんでいるような状態のはずだ。


意識がぐいっと引き込まれる感じ。これはテレポート系の魔法と違うのだろうかとぼんやり考える。


『頼んだぞ・・・』


最後にそんな台詞が頭の中で響いた。



これからどうなるんだろう、という不安よりもフラグ何本へし折れるか楽しみだった。


それにモンスターに魔法の夢のような世界だ。




あー、wktkしてきた!

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