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【一騎打ち】

「そうはいくか!」


 僕は立ち上がると彼女の猛烈な攻撃をことごとく驟斬鬼で防いだ。

 とうとう僕たちは刀同士の激しいつばぜり合いに突入したのだった。


 ちょうど僕が倒れ込んだ部屋は、ほかのそれより相当広い間取りになっていた。単に広いのではなく、ほとんど大広間、大宴会場のようなだだっ広さだった。チャンバラをはじめるのにはなんておあつらえむきなんだろう、と思わせる広大なスペースだった。おそらくこの大広間が碁盤目の中心に位置しているのに違いない。


 やがて僕と紗織さんは刃と刃をひっきりなしにぶつけ合いつつ徐々に大広間の中心に移動していった。


 もちろん僕には剣道やそれに類する武道の心得はない。紗織さんはどうだか知らないけれど、ここまで人間離れしたスキルの持ち主とは思えない。要するに互いの持つ武器にしみこんだ戦士のエナジーに感応しているのだ。第三者からすれば、僕たちはふたりとも超人的な武道の達人に見えたに違いない。自分でも胸のすく立ち回りを演じているのが自覚できた。これが人間の持つ潜在的な能力なのか。驟斬鬼を体の一部として自由自在にあやつる僕じしんが自分でも信じられなかった。


 そうだ、最初から接近戦に持ち込んでりゃいちいち紗織さんの空気砲にふっ飛ばされることもなかったんだ。よくもさんざん痛い思いをさせてくれたな。僕は相手がただヒプノティの毒にやられているだけだという事実も忘れて、しだいに闘争本能のようなものが盛り上がってくるのを抑えることができなくなっていた。


 対して紗織さんはあいかわらず無表情だ。顔色ひとつ変えず剣技を間断なく繰り出し、時には体をくるくる回転させ、時にはジャンプを繰り返し、華麗なパフォーマンスを惜しげもなく披露してくる。そしてそれは僕もまったく同じだった。


「紗織さん、なぜだ。なぜ僕ばっかり狙うんだ」斬り合いながら僕は聞く。


「……」彼女は何も答えない。


(そうだ、きっとこれはさっきの魔女の命令が、すっかり彼女の脳を乗っ取ってしまったのに違いない)


 どうしよう。このままどちらかが死ぬまで斬り合うのか。

 考えてみれば皮肉な話だ。もし屋敷の中で紗織さんが危険な目にあっていたら助け出すくらいの気持ちで潜入したのに、今はどうだ、よりにもよって殺し合っているじゃないか。

 もちろん僕に紗織さんを斬ろうなどという気持ちはみじんもない。あたりまえだけれど。しかし相手は違う。完全に人格と感情が消えている。僕を殺める気満々だ。

 

 こうなれば多少のショックを彼女に与えて、目をさまさせるしかないのかもしれない。何の根拠もなく、僕はそう考えた。


 ちょっと強引で危険な試みだったが、僕は驟斬鬼の与えてくるパワーを最大限に利用し、相手のわずかな隙をついてブン、とおもいきり切っ先を紗織さんの目前で斜めに降り下ろした。


 一瞬、紗織さんがひるんだ。

 彼女の長い髪が一部、パラリと宙に舞った。


 ヒヤリとして僕は動きを止めた。紗織さんはギロリと僕をにらみつけると、またしてもすごい勢いで僕に斬りかかってきた。


 あまりの攻勢に防戦一方となった僕はしだいにジリジリと後退していき、大広間の片隅に追いつめられていった。相手は殺意満々だが、こっちはそういうわけにはいかない。その差が出たか。


 不意に紗織さんは飛びのくようにうしろに跳躍した。僕と距離を取ったのだ。剣技では互角と踏んだか、この距離の取りかたは明らかに空気砲をしかけてくる前ぶれにしか思えなかった。


 果たして紗織さんは風切を頭上に掲げた。こうなると僕は圧倒的に不利だ。しかもこの距離からだと絶対に逃げられない。


 まるで空気のかたまりが目に見えるようだった。


 僕は背後の障子戸とともに勢いよく吹き飛ばされ、大広間に続くちいさな何部屋かを一気に突き抜けた。相手は連続的に空気砲を発射してくるので、僕の体は決して畳の上に落ちることなく、碁盤目を形成する部屋から部屋へと、もてあそばれるように何度も何度もはじき飛ばされていった。


 まったく手も足も出ないまま、いいようにオモチャにされた僕はとうとう廊下に飛び出て漆喰の壁に背中を強打した。


 あまりの衝撃に壁はもろくも崩れさり、僕は穴の開いた向こう側に転がり落ちた。


 そこもまた廊下だった。どうやら別エリアのようだった。それが証拠に水に濡れた跡がまったくない。

 ルベティカのいった通りだった。インフラ制御はエリア毎にされていると。リスク分散は本当だったのだ。僕が壁を崩して転がり込んだここは、洪水とは無縁の場所だった。ふつうにちゃんと電気も点いている。


 でもあれだけの水圧に耐えた壁が、どうして僕がぶつかったくらいで壊れたりしたんだろう。

 いや違う。おそらくあの水没の圧に耐える限界点をほとんど越えていたところに紗織さんの空気砲がダメ押しの衝撃を与えたのに違いない。そんなことを考えているうち、僕の意識は朦朧となってきた。


 僕は意識を懸命に現実に元に戻そうとした。クソ、しっかりしろ。何度も何度も気を失うな。この屋敷に来てからというもの、いったい何べん失神したら気がすむっていうんだ。ここで気絶したら命は助からないぞ。


 ……って、これはなんだ?


 僕のかたわらに、何やら変な物体が転がっている。


 自分がぶつかって破壊した壁の漆喰の瓦礫に混じっているが、明らかにぜんぜん別のものだ。


 それは包帯のようなものでぐるぐる巻きにされた、ミイラみたいな姿をしている何かのかたまりだった。そいつが複数体、壁の中から僕と一緒にゴロリと出てきたのだった。


(これは……!)


 僕はあっと声を上げそうになった。


 どう見たって人間だ。その中のひとつが赤ん坊のおくるみのように顔だけ出していたからだ。


「未弥!」




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