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【七転八倒】

 気がつくと、僕は後部座席ごと宙に浮いていた。


 レバーを引いた瞬間、後部座席が飛行ポッドから飛び出していたのだ。


 緊急脱出用のレバーだったのだ。


 おいおいおいおい、リクライニング感覚であんなところにそんなレバーつけるなよ。

 中空でそんなことを考えているヒマもなく、僕は後部座席とともに山吹の近くに落下した。


 ドサリと音がし、僕は座席から投げ出された。


 ゴロゴロゴロと転がり、壁に激突した。

 ダメージは大部分光輪が吸収したようだが、それでも痛いことは痛い。


「うう……」僕はしばらくのあいだ苦痛に顔をしかめ唸っていた。その奥からしだいに「助かった」という感情がこみ上げてきて、それが自然に表情に出た。


 でもそれはあくまで乗り物の外に出られたという意味であって、体の自由を取り戻したわけじゃない。よく考えてみたらちっとも助かってなどいない。


 ふと見ると、ポローニャたちが入っていった制御ドームに続くハッチがすぐ目の前にある。しかも閉じられたと思っていたハッチはほんの少し開いているじゃないか。これはもうこの中に入れといわれているのと同じだ。中に入ってポローニャやルベティカのあとを追うしかない。たとえそこに悪い状況が待っているにせよだ。このままじゃ埒があかない。


 あいかわらず手足は使えないものの、うまい具合に僕は自由に転がることができた。いったん壁から離れ、うまいこと位置を微調整しながらハッチの下まで転がってくる。しかしそこで僕はまたしても新たな困難にぶつかってしまった。


 ハッチの下の部分には段差があって、向こうに転がりこむことができないのだ。


 それより何より、横たわったままだとハッチのサイズに合わず、仮に段差がなかったとしても体がつっかえて中に入れないじゃないか。


 どうしてこのことにさっさと気がつかなかったんだろうか。ちょっとでも希望を抱いた自分がバカみたいに思えてくる。こんな芋虫ゴロゴロ状態じゃまともな行動など何ひとつ起こせやしないのだ。


 さっきの落下のショックで体を縛る光輪が多少なりともダメージを受けていればよかったのだが、光輪は依然として強固に僕を蹂躙し、自由を奪い続けている。ちょっとやそっとのことで破壊できないことはこれではっきりした。


 いつまでこんな簀巻きみたいな状態に甘んじていなきゃいけないっていうんだ。目の前には制御ドームに続く入口があるっていうのに。


 せめてハッチの向こう側がどうなっているか確かめたい気持ちになった。僕は少しだけ開いている扉の隙間にかなりの苦労をして頭をねじ込むと奥を覗いた。


「……何だあれは」


 そこには延々と続いていそうなメタリックな通路があった。その奥から今、うねうねとムチのような細い触手がこっちに向かって伸びてきているのだ。


 あれか、あれが敵なのか。

 そいつは、いかにも生き物然としている。

 あの触手の持ち主こそが屋敷を浸水させ、紗織さんを拉致し、侍従警団を苦しめている(たぶん)敵だというのか。


「気づかれたかな?」


 僕は焦った。とうとう僕の命まで狙われはじめる時がやってきたのかもしれない。


 あわてて体を転がすと、僕は逃げようとした。でもどこに? とりあえずポッドの陰にでも身を隠すしかない。バカか、そんなに簡単にいくもんか。単に転がるだけでも一苦労だっていうのに。


 そうこうしているうちにも触手はこっちに迫ってきているはずだ。このままじゃ捕らえられるのは時間の問題だ。


 それにしてもあの触手、見覚えがあるぞ。転がりながら僕は思い出していた。そうだ、この屋敷で一番最初に僕を襲ってきたあいつの触手にそっくりだ。なんていったっけかな。ヒプノティだ、ヒプノティ。喜三郎のジイサンがそういってた。ジイサンの話によるとやつの肉はとても美味だということだが……クソッ、役に立たない情報だな。ほかにもいってた。あいつの毒にやられると確かヒプノティの意のままにあやつられるとかなんとか。あんなのに捕まって怪物のしもべになるなんて考えただけでもゾッとする。でも今、その危険がはっきりと出てきた。丁重にお断り申し上げたいけれど、怪物にそれを聞く耳はないだろう。


 その時、ものすごい衝撃音があたりに響いた。ここはがらんどうの空間だけにひときわおおきな音となってはるか遠くまで振動が伝わっていったような感じだ。


 通路の奥から伸びてきた触手がハッチをはじき飛ばし、とうとうここまでやって来たのだった。


 なんていう力だ。見た目が触手だからってあなどっちゃいけない。そいつは蛇が鎌首を持ち上げるがごとく、ついに地面に転がっている僕を射程に入れた。先端に目でもついているのかと思われる正確さで、触手はあきらかに僕に狙いを定め、次の瞬間にはもう上から襲いかかってきた。


 僕は触手に巻きつかれ、宙に持ち上げられた。そのまま触手はスルスルッと引っ込み、はからずも自動的に僕はハッチの向こう側の通路のさらにその奥、ポローニャやルベティカたちの消えていった制御ドームに引き込まれていった。



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