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【布団】

「立てるか未弥」


「は、はい」


 僕は未弥に手を貸して起こすと自分たちが飛び込んだ部屋を見回した。


 ここは何だ。

 今までの部屋とは少し違う。

 六畳間より広いのに、閉塞感がすごい。

 布団がたくさん積み上げられているのでそのぶん狭苦しく感じる。布団が頭の高さまですし詰めになっている。


「来たっ」


 化け物がこっちに戻ってくる気配があった。

 もう近くまで来ている。すでにそこにいる。もうあれこれ考えてる余裕はない。


「未弥、布団の中に隠れろ!」


「は、はい」


 僕はあわてていたので未弥を強引に押し込むと、続いて未弥と一緒に積み重なった布団の中にもぐり込んだ。そのおかげで僕は未弥の上にのしかかるような感じになってしまった。天地神明にかけてわざとじゃない。ふたりして布団と布団のサンドイッチの具みたいになった。


「い、痛いです」


「ゴメン、ガマンして」


 ほとんど同時に怪物が部屋の前まで来たのがわかった。喉を鳴らすような音が聞こえる。

 こっちは重い布団の中で重なり合いながらじっと息をこらしている。


 僕と未弥の体はぴったりと密着しているので、女の子の柔らかい感触と甘い息づかいが僕を妙に興奮させた。

 それにこの子、中二のくせに何でこんなに胸があるんだ。ぜんぜん気がつかなかった。今そんな状況じゃないはずなのにこれはたまらない。これはマズイ。ああヤバいヤバい、もうダメだ。品のない表現で大変申し訳ないが、僕の一部はとても元気な状態になってしまった。


「……あ」


 未弥の口からちいさな声が漏れた。

 いや違うんだ違うんだこれはそうじゃないんだ。クソ、生死にかかわるかもしれない局面だっていうのに、僕ってやつはどこまでろくでもない野郎なんだ。

 いや、自然の現象なんだからしょうがないさ、それに逆にこういう緊迫した極限状態だからこそよけいに全身の感度が研ぎすまされてこうなってしまうのかもしれない。

 などと理屈をこねたところで未弥がわかってくれるかどうか。


 今、彼女の体はおびえて小刻みに震えているのがはっきりと僕の体に伝わってくる。いざとなると僕はさっき出会ったばかりのこの子を、自分の命にかえても守らなきゃいけないことになるだろう。僕は本気でそう思った。するとなんだか急に元気が出てきた。生きる実感さえ湧いてきたくらいだ。僕は手に持っていた木刀に力をこめた。というかこの期に及んで僕はまだ木刀を離さないでいる。


 ところでおおきな怪物に布団がスシ詰めのこの部屋は狭すぎた。やつは部屋の中に入ってくることさえできず、廊下から太い首と両目だけを動かし、部屋の中を見回しているように思われた。

 やがてあきらめたように、怪物はのそっとこの場から去っていった。ように思えた。たぶん。


 部屋から音と気配が消えた。


(助かったか、助かったのか?)


 布団の中に隠れてるなんてことは誰でも簡単にわかりそうなものなのに、やっぱりそこはしょせん下等動物だ。どうやら危機は脱したようだ。かな?


 僕はそーっと布団から出ようとすると、バサバサバサと積まれた布団が崩れた。転げ出るように僕と未弥は布団まみれの部屋の中で顔を出した。部屋にも廊下にも、もう誰もいない。僕は未弥にそこにいるように無言の合図を送って、自分だけ壊れた障子戸をまたいで廊下の様子をうかがった。


 もうまったくなんの気配も感じられない。怪物はもとの巨大井戸みたいな隠し穴に戻っていったんじゃないだろうか。あそこが巣みたいだったから。


「大丈夫みたいだ」僕は未弥に声をかけた。


 未弥がうつむきかげんに近づいてくる。

 上目づかいに黙って僕を見ている。

 ちょっと気まずい感じだ。


「あの、さっきのは」僕はいいかけた。


「……えっ」


「いや、何でもない」


 布団の中でのことはなかったことにしよう。それが一番だ。


 それより、久しぶりに「部屋」に来たが、残念なことにこの部屋も「駅」じゃないようだった。時刻表も路線図も、木札も見当たらなかったからだ。


(こんなことならおとなしく『荻風』の駅で電車が来るのを待っていればよかったんだ)


 僕は今頃になって後悔しはじめた。つまらない冒険心を沸き立たせたために未弥のやつをより危険な目にあわせてしまった。こうなったら彼女のためにも「駅」をできるだけ早く見つけないといけないな。


「怪物はもういなくなったから、そろそろ行こうか」僕はいった。


「……はい」


 こうしてまた僕たちは廊下をさまよい歩きはじめた。 


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